旅人に「安心」をもたらす宿【カンボジア Sambor village hotel】
みなさんこんにちは。今回私たちは世界一周を行う中で、隠岐島前にある絶景のホテル「Entô」の青山社長とのご縁から、2023年5月20日から5月23日の間、カンボジアのコンポントム州にある「Sambor village hotel」に滞在させていただきました。大変素敵なご縁をいただき、ありがとうございます!
本文では滞在を通じて得た気づきと学びを、ホテルの宿泊者としての視点から、実体験と共にお話させていただきます。
共に訪問したメンバーも同様にレポートをまとめていますので、ご興味がある方はこちらもご覧ください。
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ホテルの所在地であるコンポントムへは、アンコールワットが有名な都市、シェムリアップからバス(ハイエースの様なミニバンバス)にて向かいました。
コンポントムはカンボジアの首都であるプノンペンに向かう道の途中に位置しています。プノンペン行きのバスは満員でしたが、コンポントムで途中下車したのは私たちのみでした。
コンポントムの中心部は一つマーケットがあり、数軒のホテルが目につくものの、こじんまりしているという第一印象を持ちました。声をかけてくるタクシー運転手の数も少なく、外国人観光客も見ない、あくまでも都市間を結ぶ道の中継地だと感じました。
ホテルに向かうまでは街の中心部から約700mの距離があり、高い気温の中、砂埃が舞う道中で印象に残るものはありませんでした。それよりも見知らぬ土地での警戒心が完全に頭を支配していました。開いているのかも分からない商店や、こちらを見てくる現地の人(らしき人)に対し、本当にここを楽しめるだろうかという不安と疑念を抱いていたのを覚えています。
早くホテルに辿り着きたい一心で、重い荷物を持って足早に歩みを進めると、大きな川が見えてきます。
その川沿いに「Sambor village hotel」はありました。門には1人のスタッフさんが立っており、こちらに気づくと荷物を中に運び入れてくれました。続いて門をくぐると、クラクションの音が頻繁に聞こえ、砂埃が舞う世界から、鳥や虫の声と豊かな自然が広がる世界へと環境が一変しました。砂漠の中でオアシスを見つけるような感覚に近いのかも知れません。
入口から道を進むと、レストランと受付を兼ねた建物があり、チェックインを行いました。手続きのために椅子に座ると、すぐにウェルカムドリンクを出してくれました。高い気温の中、汗をかきながら歩いて疲れた身体に、生姜と柑橘系の果物果汁が合わさった、清涼感のある飲み物が染み入ります。まさに「今こういうものが欲しかった!」という気持ちを分かってくれている気遣いを感じました。
チェックインを済ませ、一息ついた後、部屋へと移動しました。Villa形式のホテルは、自然の中に小さな戸建てが数軒あり、本当に小さな村のようでした。
部屋のドアを開けると、中は冷房が効いており、清潔でどこか暖かみのある空間になっていました。明かりは全て暖色かつ間接照明で、窓とガラス張りのドアからは自然光が入り込んでいたため、暖かい印象を抱いたのかもしれません。ベッドに寝転び、目を瞑ると、鳥や虫たちの鳴き声が遠くに聞こえます。空間の安心感と、無事に到着したことへの安堵から、私は緊張を完全に解くことができました。
その後、しばしの休憩を経て少し余裕が生まれたため、ホテルの敷地内を散策しました。建物間にはコンクリートの通路があり、スタッフさんのまめな清掃により裸足でも移動できる綺麗さが保たれていました。配線やガスタンクなどは蔓や竹でカモフラージュされており、目につかないような配慮が随所で感じられます。
敷地内には蚊などの虫もいましたが、自然の中に虫はいるものだと納得感があり、ストレスは感じませんでした。敷地内は音楽も流れておらず、より自然の中にいるという感覚に浸ることができます。
そこには、以前はBGMを流していたものの、庭の生き物たちの声が日常の些細な変化を教えてくれることから、撤去したという背景がありました。毎日聞こえる鳥の囀りが変化した日には、蛇が巣を狙っている事件があったり、細部に目を向けると、毎日必ず変化があります。
「庭の生き物たちも大事なホテルのスタッフ」と、吉川さんが仰っていたのが印象的でした。
散策の後、プールにて涼むことにしました。プールには地元の方が家族で来ており、幼い子ども達が遊んでいました。ホテルの敷地内では安心して子どもを遊ばせることができるため、地元の方もよく訪れるようです。
街中に一つでも安心して子どもが遊ぶことができる空間があるのは、カンボジアにおいて非常に価値があるように感じます。首都のプノンペンも子どもを一人で遊ばせることができない治安であることから、事実、私たちのような異邦人が一緒に入っても、子ども達とすぐに打ち解けて遊ぶことができました。
その後はご飯の時間。メニューにはカンボジアの家庭で親しまれるような料理が並び、なんと日本食まで用意されていました。
大いに迷った上で注文しようとすると、スタッフさんが「最初はぜひこれを食べてほしい」とおすすめを教えてくれました。また、「これを頼むならこっちも一緒に」といった感じで、結局全てのメインメニューを決めてくれました。笑
僕はクメール料理を頼む際、当たり外れを覚悟することが多いです。名前や写真では、どんな料理か想像がつかないことも多いですからね。その点、好みを聞いた上でおすすめしてくれるスタイルは、とてもありがたく感じました。ましてや、「めちゃくちゃ美味しいからぜひ食べて」と気持ちを込めて言われると、ワクワクせざるを得ませんでした。(その分期待も高まりますが)
その後、続々と料理が運ばれてきましたが、どれも格別の美味しさでした。
特に美味しかったものは「プラホック」という魚を発酵させて作った調味料です。
こちらはカンボジアの郷土料理であり、各家庭によって味が異なるようです。私はよく隠岐での生活の中で地域の方の家にお邪魔していたのですが、各家庭によって味が異なるこじょうゆみそ(島の万能調味料)を彷彿とさせる料理でした。まさかホテルでめちゃくちゃ美味しいカンボジアの家庭料理が食べられるとは思っていなかったので、ほっこりとした気持ちで満たされたことが印象的でした。
と、ここまでは体験(体感)したことを書いてきましたが、その中で一つの漠然とした問いが生まれました。
・旅を続ける中でどこか常に緊張感を持っていたこと
・ずっとクラクションの音や沢山の人の話し声が聞こえる環境が続いていたこと
・人工物に囲まれ、自然が織りなす目に優しい風景が身近に無かったこと(目に留める余裕がなかったのかもしれません)
・人が生み出すなんとも言えない生活臭に疲れ切っていたこと
・外食や量販店で購入した食べ物で食事を済ませる日々が続き、安心する味のご飯が食べられていなかったこと
・外の暑い環境や効きすぎたエアコン、南京虫やダニが出て不潔かもしれないというに疲れ、外の環境も屋内の環境も楽しめていなかったこと
そんな旅を行う中で緊張していた五感が、ホテルに着いた途端に一気に安心する感覚を得ることができました。一度安心感を得ると、それまで気になっていた些細な事柄も受け止める余裕が生まれてきました。
静かな環境に身を置くことで、小さな鳥や虫の声、草木が揺れる音に耳を傾けることができます。自然に目を向けることで、今まで気にもとめなかった些細な変化に目を凝らすことができます。家庭の味を食べられるからこそ、外食や地域の素材に魅力を感じることができます。外の暑さがあるからこそ、プールが最高に気持ちいいです。何より清潔感は、体験する事柄に対する不安がなくなる大きな要因です。
これらの安心感はどのように生み出されているのか。それが宿泊者、そして旅人としてホテルに訪れた際に生まれた大きな問いでした。この漠然とした問いに対し、吉川さんが要素を噛み砕いた上で説明して下さいました。
初めにお話しして下さったのは、「スタッフが安心して働ける環境でなければ安心感のある場は生まれない」という内容でした。
スタッフが安心して働くからこそ、スタッフの長所がお客さんに伝わる。事実として、スタッフのパフォーマンスはめちゃくちゃ良い。この考えに至るまで、様々な過程があったと吉川さんは仰いました。
コロナ禍が始まった2020年にホテルの経営を引き継いだ吉川さん。ホテル業界が大打撃を受ける中で、スタッフの言っていることの9割がわからないという、窮地に立っていました。
当時のスタッフは9人。日本の企業では当たり前のように感じる、最低限の人員で最大限の結果を出すという考えでホテルを回していたところ、スタッフは皆ゾンビのような顔をして働くようになってしまったそうです(現在のスタッフさん達の眩しい笑顔からは考えられません)
全員頑張っているのに全員幸せにならない。一対一で代表としてスタッフと話をしても解決しない。そんな状況を打破したのが「サバーイ」というカンボジアの言葉(考え方)でした。「サバーイ」は、幸せや嬉しい、喜びといった意味合いが合わさった言葉であり、心の中に「サバーイ」を持つことは、カンボジアの文化として根付いています。
そんな「サバーイ」を生むには人との触れ合いや会話が重要でした。カンボジアは冗談を言う習慣もあり、ホテルのスタッフを朝晩一人ずつにしたり、一対一で代表との面談を行なっても、「サバーイ」は生まれません。(冗談を言う相手がいなかったり、冗談を言えない雰囲気の代表と一対一だと、それどころじゃない気持ちはとてもわかります)「サバーイ」が生まれない環境に安心感は生まれず、皆ペースを崩していき、辛くなってしまった。コロナ禍が長引き、意識をホテル内の改善に向ける時間に多くの時間をかけることで、その結論は導き出されました。
途中にはホテル前の川が氾濫し、ホテルが水浸しになったり(スタッフは小船で出勤)、マネージャーが働きすぎて倒れてしまったり、経営者としての在り方を模索したり、様々な問題や課題が発生したそうです。しかし、スタッフと一緒に話し、考え、問題を乗り越えてきたことで、「サバーイ」を持てる環境が形成されていきました。
スタッフの中に安心感が生まれ、
という共通認識が生まれたことで、自身の長所を活かした、素晴らしいパフォーマンスが発揮される。一人一人が主体性を持つことで、宿の隅々まで手入れが行き渡り、宿泊者が求めるものに応えたいという気持ちが伝わるホテルになる。コロナ禍にひたすら内に指を向け続け、小さな積み重ねと大きな壁を経て、スタッフが楽しく働ける環境が出来る。
今では庭の生き物達ですら、BGM担当や掃除担当としてチームに組み込まれている。私が全身で感じた安心は、「サバーイ」からなるスタッフの安心感と、主体性から生まれていたものでした。
安心した宿に泊まると、自分が今何を大事にしたいかが見えてきます。それは外部からの危険信号にかき消され、旅の中では埋もれがちな感性では無いでしょうか。事実、私たちはホテルで安心感を得たことによって、より学ぶ意欲や興味関心の幅が広がり、様々な体験に体験に繋げる事ができました。
実はホテルの滞在中に、投網で魚取りにチャレンジしたり、吉川さんがコンポントムに魅力を感じたきっかけとなったサンボープレイクック遺跡で大冒険をしたり、地元女子学生達と街歩きをしたりなど、話しきれないほどの楽しい出来事があったりしています。笑
外に出ると、ホテルで感じた安心感がコンポントムの街中にも広がっていき、街の見え方が最初と全く変わっていくのが驚きでした。
今回はホテルで感じた安心感と素晴らしさ、そしてその背景に着目して文章を書かせていただきましたが、記事をご覧になって下さった方がホテルに訪れる際の、一番ベーシックな内容になっているかと思います。
今まで知らなかったけど、行ってみたいなと感じた方。とりあえず思い立って行ってみると、想像以上の安心感と気遣いに包まれ、自分が想像もつかない出会いや発見があるかもしれませんよ!
以上、カンボジア、コンポントムにある最高に安心できるホテル「Sambor village hotel」のレポートでした。
改めまして、吉川さん、本当に素敵な滞在をありがとうございました。
また大事な人を連れて訪れさせていただきます。読んでいただきありがとうございました!