勝手に落ち込み、勝手に泣く
日付が変わって昨日の朝、一昨日の寝落ち明けでシャワーを浴びようと思ったら、パートナーからLINEが飛んできた。
「今から病院行って、それから書店に寄るね」
マジかよ。というわけで、人生史上最速でシャワーを終わらせ、ヒゲもそらずに、タクシーを呼んで、「今、光の速さで向かってるから帰らんでよ笑」とLINEを飛ばした。パートナーの職場以外で会うこと、向き合ってゆっくり話すことは、もう3カ月くらいなかった。光の速さは無理なので、タクシーを呼んだ。タクシーに乗るときはたいてい急いでいるときだが、あんなに「早く着いてくれ」と思ったことはなかったな。
タクシーが書店前に到着すると、ニヤニヤしながらこちらを見ているパートナーの顔が車内から見えた。それからはあまり覚えていない。「久しぶり」と握手はした。ここ数カ月の、仕事に超集中するようになった、いろいろの流れを聞いて、「お疲れさま」と頭ぽんぽんもした。正直に言います、触れたかった。店主が普通に同じ空間にいるのにね。あと、自撮りのツーショットも撮った。シャッターを切った後の、写真に残せなかった、クシャっとなる笑顔がとても、とてもかわいかったことも覚えている。
店主が気を利かせて、二人きりにしてくれた。正直、私はハグしたかった。まぁ、ハグは無理でも、「私たちの未来をどう考えてる?」と、今書きながら「めんどくせーな」と自分でも思うことを聞こうとはしていた。すると、お客さんがやってきた。本当に申し訳ないけれど、「早く帰ってくれ」と思った。書店の手伝い、失格である。
お客さんが探している本をいっしょに探している間、パートナーは「じゃあ、行くね」と言って、車に乗り込んだ。私は店の引き戸まで近づいた。引き戸越し、車のドア越しにこっちを見てくれた笑顔が素敵で、そして切なくなった。あー。ハグしたかった(何回言うんだよ)。それ以上にパートナーが今、私のことをどう思っているのかが聞けなくて、落ち込んだ。そして私のことをどう思っているのかをLINEで聞いたら、「その手の話は直接」と返されて、直接「もう終わりにした方がいいね」と言われたらどうしようとメンタルブレイク。涙がこぼれながら、しかし、こぼれているのがバレない程度のコンディションを維持して、行きつけのカフェに。
ルイボスティーを飲み、ミナミちゃんとのLINEを通して、メンタルを整えようとする私。「物事って悪い方に考えれば考えるほどその通りに…」「本当にアルプラさんはよく頑張ってると思います」などの名言を連発され、バニラアイスが目からの汁で涙味になることに。事情を知っているカフェのマスターからは「やっぱり会って話した方がいいよね」、居合わせたハイパーウルトライケメンからは「アルプラさんの気持ちはわかりますけど、男らしさ見せた方がいいっすよ。ただ応援するのがいいっすよ」とアドバイスをもらう。
それでも家までの帰り道、ちょくちょく涙が止まらない。前日に死亡ひき逃げ事件があった道を歩きながら亡くなった方に思いをはせたにしても、泣き過ぎである。私はこんなにパートナーのことが好きで、好きで仕方なかったのか。ハグできなかったことが悲しかったのか、「ちゃんとあなたのことを考えているよ」と直接伝えてもらえなかったことがきつかったのか、またしばらく会えそうにないことがつらかったのか。たぶん全部なのだろう。
目元がまったく乾きそうにない中、パートナーからLINEが届いた。
「会えてよかった。光の速さで来てくれてありがとう。あなたの気持ちは伝わっているつもりだし、充分過ぎるほど丁寧。ありがとうね」
あー。泣ける。泣けるが、なんだか涙の属性が変わった気がする。パートナーはたぶん何も変わっていないのかなと思った。たぶん私のことが嫌になったとかではなく、今は仕事と家族に超集中したくて、私(との未来)のことを考えられない、見通せないから、中途半端な言葉をかけたくないのだろう。私の家ではなく書店に「寄るね」と伝え、自撮りツーショットで照れながらピースしてくれたのが、パートナーなりの精一杯だったのだろう。それなのに、「仕事をがんばりたい。だからごめん。少しそっとしておいてね」という言葉を少し前にくれていたのに、それを忘れて、私は一人で勝手に落ち込み、勝手に泣いていたのだ。だからこう返した。
「あなたがそうしているように、私も目の前のことをがんばるね。会えてよかった。今日、書店に来てくれて本当にありがとう」
やっぱり好き、とは書かなかった。なんだか野暮だよね。あっちはもうわかっているだろうから。負担にはなりたくない、好きだから。「友達でも趣味でも仕事でも依存分散してハッピーにやっていけるといいな」という、十年来の友人、佐藤さんの言葉を噛み締めながら、カフェのマスターやハイパーウルトライケメンとラジコン走らせるかと思った深夜25時24分。