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出所追究vol.1|「人々のつながりの希薄化」的な文言が、国の資料に登場したのはいつ?
福祉の分野、特に地域福祉界隈では「人と人のつながりが大事」というフレーズをよく使い、よく聞きます。
似た言葉で「人々のつながりが希薄化している」というフレーズも使うし、耳にします。
とある社会福祉協議会の職員から「昭和30年代には、国の資料に『人々のつながりが希薄化している』という言葉が登場している」という話を聞き、その話の正誤、正しい場合は出典を特定したいと思い、記事にしました。
※社会学や社会医学の分野でさんざん調べつくされているかもしれませんが、出典を知りたがる私の性質からくる個人的メモなので、予めご了承ください。
昭和39年の厚生白書で登場していた
「昭和30年代」をヒントに、とりあえず昭和39年(1964年)の厚生白書を見てみたら、ありました。
以下、該当部分の前後を抜粋します。
「人々のつながりが希薄」的な表現の部分は太字にしました。
第1部 厚生行政の背景
第3章 都市化過程とその諸問題
第4節 都市社会の問題
1 都市社会の特徴
(1) 地域への無関心
都会人は、移動性が高いことや、近隣との協同活動の必要が日常ほとんどないことなどから、地縁的な結びつきがきわめて薄いといわれている。昭和35年の国勢調査において、東京在住者のうち1年前の常住地が東京以外の道府県だったものは、約60万人であり、大阪府では30万人であって、総人口の約6%をしめている。
総理府では実施した「自治意識に関する世論調査」によれば、東京都区では、その区で生まれたものと、他で生まれたがその区に20年以上に住んでいるものとの合計は32.6%で、全国平均64.1%の約半分であり、6大都市では47.1%とやはり低い。大都市においては、地域の住民が参加する地区組織活動が不活発であることは、よく指摘されるところであるが、都市生活者の地域への関心の程度を示すものとして、総理府の世論調査による自治意識の程度をみると、東京都区の住民では、区長の名を知らないものが6割をこえており、町村の場合の一割強と比べて大きな差を示している。
多くの雇用労働者にとって、住居のある地域社会は夜間と休日を過ごす場所に過ぎず、日常の生活の場は職場となっている。人間関係にしても、交際や、助力はほとんど職場の知人に求めており、親類や学校の友人との交際は加わっても、地域の隣人に求めるのは火急の場合の援助ぐらいになっているのが実態であろう。
婦人についても家庭の主婦が、家事労働力の合理化から、職を求めたり、パート・タイムのアルバイトをしたり趣味のグループに参加したりする傾向が強まっているが、このことが、同様に近隣社会との結びつきを弱めることになると思われる。
都会におけるこのような地域社会の結びつきの弱まりと、家族の機能の縮小とが、都会人の生活における職場のしめる位置を高める結果となっている。厚生行政の推進をはかるにあたっては、このような人間関係の変化を考慮に入れる必要があろう。
伝統的な地域社会の結びつきが復活することは困難であり、必ずしも適当でないのであろうが、都会人が地域社会に関する関心を高め、その積極的な参加により、都市の諸問題を解決することが都市社会の今後の大きな課題である。生活環境施設のような、共同消費のしめる位置が高まる時期にあって、特にこのような住民参加の重要性は強まるであろう。
引用したのは白書のごく一部の抜粋ですが、
地縁的な結びつきがきわめて薄いといわれている。
大都市においては、地域の住民が参加する地区組織活動が不活発である
近隣社会との結びつきを弱めることになる
都会におけるこのような地域社会の結びつきの弱まり
伝統的な地域社会の結びつきが復活することは困難
こんな文言を確認できました。
この年の白書は「都市化によって起きていること」がいくつか書かれています。昭和39年といえば東京五輪、高度経済成長期真っ只中。この時すでにこういった文言が国の白書で使われていた、ということは、思っていたよりもずいぶん前から「人々のつながりの希薄化」が叫ばれていたのだな~と思いました。
本筋から少し逸れますが、4段落目「婦人についても・・・」の部分がなかなか衝撃的でした。4段落目に書かれていることは、
「女性が家庭を離れて働いたり趣味に時間を使うことで、近隣社会との結びつきを弱まる」
ってことですよね? 当時の厚生官僚は「男は外で働き、女は家や地域を守る」という価値観を持っていたではないかと。そういう時代だった、といえばそれまでですが、今これを書いたら大問題だな(笑)
見方を変えると、当時は日中に家に誰かがいて、その人たちによって近隣社会の結びつきが維持されていた、ってことになるのかな?
これは個人的には合点がいきます。
私が子どものころ(1990年代)は、両親と祖父母と同居でした。家事全般は祖母、祖父は趣味(尺八、古文書の勉強)をしつつ、自治会の会合に行ってた記憶があります。両親はフルタイムで働きに出ていました。やや拡大解釈ですが、「女は家や地域を守る」ことについては合致するな~と。
今は核家族化が進んで、昔と比較すると昼間は家に人がいない、という世帯が多いと思われます。
今ほど女性が働きに出ていなかった時代、家にいるのは女性だった。のであれば、「家に誰かがいる時間」と「近隣社会との結びつき」に正の相関関係があるかもしれません。
初っ端から昭和39年まで遡りました。
今回引用した文章の中に「昭和35年の国勢調査で、地方から東京と大阪に人が流れ込んでいる」的な文があるので、次回は昭和36年の厚生白書をあたってみようと思います。
出所追究は、主にまちづくり界隈で見聞きする言葉やフレーズの出所(出典・初出時期・起源・語源など)を追究していくシリーズです。