つばさ121号郡山駅オーバーラン事象について考察する
【概況】
3月6日7時30分頃、郡山駅にてつばさ121号(L66編成)が所定停止位置に止まりきれず、ホームから約500m(その後の報道で520m)行き過ぎて停車した。このため、8時38分から退行運転を開始し、8時51分頃に郡山駅12番線ホームの所定停止位置に到着した。しかし、郡山駅に進入する際にポイントの通過制限速度(その後の報道で80㎞/h)を上回るかなりの高速(その後の報道で145㎞/h)でポイント上を走行したため、9時40分頃に東京方の2カ所のポイント(下記図中の通過線とホーム側へ振り分けるポイントAと、ホーム⑪番線と⑫番線へ振り分けるポイントB)の異常の有無について点検が終了し安全の確認が取れるまで、東北新幹線は東京駅~盛岡駅の間で運転を見合わせた。
【影響】
この事象により、ポイント通過時の揺れによって乗客1人が頸椎ねんざなどのけがをしている。東北新幹線は9時50分まで運転を再開するまで2時間20分掛かり、当該のつばさ121号は郡山駅にて運転打ち切りとなり、乗客のうち山形・新庄駅方面はつばさ123号へ、仙台駅方面はやまびこ293号へ、それぞれ後続となる列車に移乗する形でそれぞれの目的地へ向かった。当該車両は後に山形新幹線車両センターに回送された他、30本の列車が一部区間および全区間の運休、やまびこ・つばさ132号の東京駅到着153分遅れを最高に、16本の列車で特急料金払い戻し対象となる120分以上遅れを出した。福島駅や盛岡駅にて折り返し運転となった一部の“つばさ号”や”こまち号“は、在来線のホームにて発着が行われるなど異例の対応が取られている。一方、山形駅以北の利用者救済のため山形駅から臨時のつばさ121号が新庄駅まで運転されている。
報道発表によれば32,500人への影響とされていたが、折しも“たびキュン早割パス”の利用期間内でもあり、この日の発売実績で10万枚以上とも噂されており、少なく見積もって早割パス購入者の半数が東北新幹線を利用したと想定しても5万人以上に影響があったのは明らかであると推測される。予定変更による指定券の変更や払戻し等の手続きのため、東京駅や仙台駅のみどりの窓口では長蛇の列となった。(特例で使用開始前の切符であれば無手数料で払い戻しも応じていた模様である。)
つばさ121号郡山所定停車位置退行完了時点での各列車在線位置及び遅延時間一覧は、下記表をダウンロードしてください。無料です。
【考察】
当該列車の乗客の話によれば、つばさ121号が郡山駅到着直前に車内アナウンスに於いて「雪のために減速出来ず…」や列車停止後のアナウンスに於いて「停車の際ブレーキが効かなかったため…」との情報があったことから、ブレーキが効かず減速しづらい状況で12番線ホームに進入したものと推測できる。
つばさ121号は、やまびこ51号続行となるこの日の2番列車であったが、10両編成のやまびこ51号に比べて7両編成のつばさ121号ではどうしても制動上不利である。しかしこうなった状況は今回が初めてはない。新聞記事によると、昨年度の冬シーズンである2022年12月18日22時4分頃、郡山駅12番線で全く同様の事象が発生していたのである。つばさ159号7両のみの単独編成がホームから160m行き過ぎて停車し、逆走にて所定停止位置に停車。客扱いの上22時36分に運転を再開している。この時は遅れが30分程度で、上下5本の新幹線に最大35分の遅れと1,800人への影響に留まったことから今回のような大きなニュースにはなっていなかった。
この事象以降昨シーズンは、早朝と夜遅くに単独運転するつばさ121号および160号に於いては、東京方に回送となるE2系10両編成を連結して東京駅~福島駅間は制動力を確保していたのである。
更に過去を遡ると、2014年2月5日6時14分頃、新花巻駅2番線でもはやて102号(E5+E6系17両編成)が約300m行き過ぎて停車し、退行の後6時40分に所定停止位置に到着している。この時は2本の列車に最大25分の遅れ、約700名に影響している。この時は根本的な対策は取られず、ブレーキ性能低下の際に制動力をアップさせるスイッチ投入のみで凌いでいたものと推測される。
【疑問】
① 今回は回送E2系10両編成を連結していなかった。それは何故なのか。2023年秋にE3系車両の耐雪ブレーキの改修を済ませたものの実際降雪時の動作検証をしないまま車両運用を行い、今年は暖冬で気象状況の変化を甘く見ていたのではないだろうか。果たして当日の夜、つばさ160号の運転状況を確認しに行ったら、予想通りE2系(J70編成)とE3系(L55編成)の17両編成となっていた。明日3月7日のつばさ121号もこの編成で運転されるのは間違いない。
② つばさ121号は逸走してホームから500mも離れた下り本線上に停車する形となった。新白河駅~郡山駅間には後続となる、約8分後に郡山駅を通過するはやぶさ・こまち1号が接近していたはずである。にも拘わらず当該運転士や車掌は後続列車への送電を停止(すなわち非常ブレーキを動作)させる“保護接地スイッチ”を何故取り扱わなかったのか。車内の乗客の情報からも列車停止後、車内が停電したとの話はない事からもスイッチを扱っていないことは明らかである。つばさ121号が所定停止位置を行き過ぎた時点で、下り通過線上には停止信号が現示されるものの、高速走行中である後続の列車追突の危険性を失念していたのではないだろうか。
③ 郡山駅進入の際ポイント通過により、「列車が左右にガタガタと揺れ地震かと思った」、「脱線してもう死ぬかと思った」との乗客のコメントや「体感で100km/hくらいの速さで通過した」とのコメントにもあった通り、実際にはどのくらいの速度で進入していたのか、ポイントの通過制限速度は幾らであったのかは不明であるが、非常に危険な状況であり脱線しなかったのは運が良かったとしか思えない状況である。
特に②および③の疑問はお客様の安全に関わる重大な事象と考えるが、如何であろうか。JR東日本に於かれましては、今回の事象に対する対応の妥当性を含めた調査結果の公表と対策についてきちんと明らかにして頂きたいと切に願うばかりである。