しょせん小さな女の子だから

しょせん小さな女の子だから

 
 目を覚ましたら

  わたしは絵を描くの。
  あまりモノを持っていないから暇だし、
  没頭するって楽しいしね。

 日が沈んで暗かったから

  気ままな絵。
  でも、できれば風を表現したいから、
  空に雲はきっと描くわ。

 寂しくなって泣いた

  「風を見るなら雲だろ」。
  そう教えてくれた人がいるから。
  うす茶色のロングコートをなびかせながら。

 でもそれを

  でもわたしはしょせん小さな女の子だから、
  精一杯に背伸びをして、
  雲へ届かない手を伸ばすだけ。

 ママには言えなかった
  
  自分でも小さな手の先に、
  その人の笑顔が逆光になって、
  重なって眩しかった。

 ある日の通学路で

  人生ってなに?
  そう聞いたこともあった。
  「メリーゴーランドさ」、だって。

 猫が轢かれて死んでいた

  「おなじところをぐるぐる回るだけ。
  楽しいだろ?それでいいのさ」、だって。
  それなら簡単でいいけど。
 
 死体は歴然とそこにあるのに

  でもわたしはしょせん小さな女の子だけど、
  人生の辛さは知っているわ。
  恋に破れたら心が張り裂けるの。

 誰も知らないふりをした

  だからそんな時は風を見るの。
  いつかあの風に乗ってあの向こうまで、
  そう確実に夢想しながら。

 おぞましい世界だね

  今のわたしの目標は、
  描いたこの絵にリボンを付けて、
  あの人のもとまで届けること。

 そう声を掛けたけれど

  でもわたしはしょせん小さな女の子だから、
  ウソでもホントでも上手だなって、
  褒めてくれるだけだろうな。

 猫は動かなかった

  紙に描いたこの風は、
  わたしからあなたへの。
  しょせん小さな女の子だけど。

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