「この人」 VS 「楽しんで」

この人

2駅隣。いつもは使わない沿線の駅近くに行ってみたいカフェがあった。

外観もすてき。思ったより小さな店舗だったけど、時間もずれていたので店内は空いていた。1杯だけコーヒーを飲んで、そのあとの用事へ向かう。

お店はすてきだったけど、どうしても気になることがあった。
それは、至近距離で「この人」と呼ばれたこと。

お会計の金額が間違えてたので違いますと伝えて、それを店員さん同士で確認してたんだけど、こじんまりとしたレジ越し、目の前で「この人」と言われた。

「この人」と言ったとき、あの店員さんは私のことを一切見ていなかった。
それどころか、私が目の前にいることにすら気づいていない様子にも見えた。
あの瞬間、私は透明になっていたのだろうか?
今になって不安になってくる。

キッチンの奥で店員さん二人で話しているなら、問題ない。
「この人じゃなくて、これさっきの人のオーダーじゃない?」
もしくは、もう少しヒソヒソと言ってくれていたら。

こんな近くで堂々と「この人」と言われると、なんとも言えない気持ちになった。

楽しんで

近所に週2回だけ開く、焼き菓子屋さんがある。
近いっちゃ近いのだがあまりそこは行かないエリアなのと、そんなに甘いものが得意ではないので、そこを通るタイミング&お店の開店日&まだお品物があるという、小さな奇跡が重なった日のみに訪問が叶う。

先日はこの奇跡が起こり、久しぶりに寄ることができた。
私がこのチーズケーキにしますとラスト一個を指さすと、店員さんはごく自然な様子で「うぁ!うれしい」と言った。一瞬、聞き間違いかなと思ったけど、ぜったいそう言ってた。

お金を支払い紙包みを受け取ると、微笑みながら「楽しんで」と言って渡してくれた。

言われたことがないフレーズだったので、なんだかどぎまぎしてしまった。でも、すごくいいなと思った。自分がつくったものを送り出している、その様子が優しかった。

この人 VS 楽しんで

「この人」と言われたあとの帰り道、どこからともなく「楽しんで」と言ってくれた店員さんが浮かんで来た。
味とか値段とか無頓着なので厳密にはよくわからないんだけど、やっぱりまた行こうと思えるのは「楽しんで」のお店だなぁとしみじみと思う。

チーズケーキを選んだあとの「うわぁ!うれしい」は、まるで店員さんがチーズケーキの声を代弁しているようにも聞こえた。あんなかたちでお客さんを幸せにする人もいるのだ。こりゃまいった、なんてすごいんだ。

私はチーズケーキも作っていないし、バリスタでもなければ、カフェアートもできない。
でも、「楽しんで」のエッセンスをどこかで活かしてみたいと目論んでいる。披露できるならいつかどこかで。


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アルパカ
はりきってコーヒーを飲ませていただきます!