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ルシア・ベルリン

小説教室では時々推薦図書という時間があり、みんなに読んでほしい本(短編)を持ってくるのだが、今回は先生が持って来られた。それがルシア・ベルリンの「喪の仕事」という短編だった。

非常に短い作品で読むのは数分もあればできる。が、短いのに恐ろしく深いのだ。その深さに驚愕した。

わたしはこの作家のことを全く知らなかったのでまずネットで調べたのだが、アラスカ生まれで3回の結婚と離婚。さまざまな職業につきながら4人の子どもを1人で育て、なおかつアルコール依存症という波瀾万丈さ。「喪の仕事」も恐らくは自身の体験を元に書いているようだし、これはぜひ他の作品も読みたい、と思い本を買った。

買ったタイミングでなんとこのルシア・ベルリン作品の翻訳を手がけた岸本佐知子さんと作家の中島京子さんの対談がzoom視聴できるイベントを見かけてすぐ申し込んだ。

なんだろう。不思議な力でこの作家に導かれているようなこの流れ。

しかし作品には圧倒されっぱなしだった。「掃除婦のための手引き書」には24の短編が入っているが、全てがずっしりとした重さを持ち、とにかく深い。

今日そのzoomイベントだったのだが、岸本さんによるとルシアは幼い頃に祖父に性的な虐待に近いものを受け、それはルシアの母親も恐らく受けていただろうという。そうなのか、と衝撃を受けた。そういう目で見ると腑に落ちる表現がいくつもあってなるほど、と思った。

中島さんは惨めなものも惨めらしく書いていなくて、そこが逆にすごいのだというようなことを話しておられたが、それもよくわかる。中島さんが最初に取り上げていた「さあ土曜日だ」という作品は刑務所の囚人の話なのだが、神をどんなに深く信じているかを公言する囚人が実は家族を殴った罪で服役しているとか、歪みきった人々が登場する。その人々が「文章教室」に入ってすごい作品を次々に生み出す。

自分を切り株に例えると、というテーマに主人公の「おれ」は

「おれの切り株は焼け野原に1本だけ残った切り株だった。真っ黒に枯れて風が吹くと炭のかけらがぽろぽろ崩れ落ちる」

短いけれどとても胸を打つ詩を書く。中島さんはこの「切り株」というテーマもすごいと言っておられた。わたしもそう思う。

救いのなさを徹底的に描いている点もすごい。例えば祖父から性的な悪戯をされた時、そこから救ってくれる叔父が出てくるのだが、彼は飲酒運転でひき逃げ事故を起こしてしまう。いわゆる「安定した人」は1人も出てこない。

こう書くと非常に暗い小説だと思うかもしれないが、いわゆる読むのもつらいようなものではないのだ。それどころか中毒性というか読み始めたら最後までぐいぐいと引っ張っていかれる。読後感も悪くない。というかジーンと痺れるような余韻が長く残るのだ。

小説でありながら詩でもあり、時にはどんどん言葉が飛んでいく。でもそれが心地よくさえあるところもすごいと思う。

ルシア・ベルリンは死後ブレイクした作家でアメリカでベストセラーになったのは2015年だったそうだ。日本でも今売れているという。

完全に蛇足だが、今回zoomイベントで質問を書いたら取り上げてもらえた。こういう体験初めてだったので嬉しかった。



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