【ネタバレなし】RPG嫌いによるペルソナ5感想
僕の友人で、バル・ベルデ在住のロドリゴ・ハンプトンクルックソン氏からペルソナ5に関する長文が届いたので、彼の許可を得て全文翻訳し、ここに転載したいと思う。
【ネタバレなし】RPG嫌いによるペルソナ5感想
やあ、アロハ天狗。ロドリゴだ。
僕は先ほどペルソナ5 をクリアしたので、感想を書く。
ネットを見渡すと、シリーズファンやRPGファンの立場からのレビューがやはり多いので、僕は別の立場からこのゲームについて語りたい。
僕はRPGが嫌いだ。
より正確に言うなら、RPGを楽しむ才能がまるでない。
僕は人生のそれなりの割合をゲームに放り込んできた類の人種だが、同時にアクションゲームの敬虔な信奉者でもある。
理想のゲームとは即ち、ボタンを押せばサイボーグ戦士の握るスーパーマシンガンから銃弾が即座に発射され、宇宙地下ロシアデーモンが血飛沫をあげなら大爆発するゲーム(BGMはヘヴィメタル)であり、例えば魂斗羅やDOOM(2016)こそがその理想を体現したゲームだろう。
そして僕はRPGが嫌いだった。
コマンド戦闘の直感的でなく曖昧なところ、軟弱そうな少年少女が有耶無耶のうちに遊び半分恋愛半分でセカイを救うところ、遅い移動速度、無闇に長いプレイ時間、その全てが僕の理想の反対だからだ。
喰わず嫌いではないことを言い訳させてもらうなら、僕はこれまで何度もRPGの高評価タイトルに挑戦し、そして挫折してきた。
ドラゴンクエストⅢ、ファイナルファンタジー4、ファイナルファンタジー7、ポケットモンスター、ロマンシング・サガ2、世界樹の迷宮…そして、おお、神よ!あのゼノブレイドすら、僕は未だに中盤で積んでいるのだ!
最後まで楽しんでクリアしたゲームといえば、クロノ・トリガー、ライブアライブ、スーパーマリオRPG、メタルマックス2といったマスターピース・クラシックくらいのもので、ゼノギアスやグランディアなどはクリアこそしたものの、途中で楽しさよりも義務感の方が上回ってしまった有様だ。
僕が致命的にRPGに向いていない人種ということは、これで十分わかっていただけたと思う。
(更に正確に言えば、僕が苦手なのはいわゆるJRPGで、例えばThe WitcherやDragon Age、Mass Effectなどのシリーズや言わずもがなのSkyrimなどは十二分に楽しめた)
さて、前置きが長くなったがペルソナ5 だ。前述の理由を経て、ペルソナシリーズについても好評は良く目にしてきたものの、敬して遠ざく態度をとっていたが、それにつけても最新作の5は評判の高さが目に付く。
決定打は、『んじゃめな本舗』のゲーム放談2016総評での絶賛だった。http://www.nt.sakura.ne.jp/~denjin/ndjamena/game/best19b.htm
(余談ではあるが、彼らのゲーム放談は日本で最も信頼できるゲームレビューの一つだ)
そうして僕は全く懲りずに、気の迷いで、またもや更なる失敗を繰り返すべく、ペルソナ5 を買ってしまった。
有り体に言えば、どうかしていた。
このゲームの裏面には「全てのRPGファンに贈る」との文言がある。つまり僕はこのゲームの客ですらなかったわけだ!
そしてプレイを始めて、つい先ほど本編をクリアしたままの流れで、僕はこの文章を書いている。
このゲームはコマンド戦闘で、軟弱そうな少年少女が遊び半分恋愛半分でセカイを救い、無闇に長いプレイ時間のJRPGだ。予想に違わず、僕の理想には全く反したゲームだ。
にも関わらず、僕はこのゲームに完全に惚れ込んでしまった。
この世には一人の人間の些細な趣味嗜好などをねじ伏せてしまう、圧倒的な完成度というものがある。それをペルソナ5 は備えていたのだ。
戦闘は爽快でありながら緊張感があり、シナリオは極めて巧みにプレイヤーを引き込む傍ら自由度も高く、キャラクターはメイン・サブいずれも魅力的で、システムは派手な見た目でありながら洗練されておりストレスが皆無。なんてことだ、欠点がまるでない。
(注)ペルソナ5 はps4 のシェア機能を強制オフにするなどネタバレについてかなり神経質に扱われているゲームだ。僕も個別の内容、特にキャラクターやシナリオについては、公式サイトやゲームメディアでオープンにされている情報以下にのみ留めるよう気を使うが、語りすぎていると感じたら指摘してほしい。
ここからはゲームの内容について具体的に語っていこう。
まずゲームそのもののコンセプトとして、学園ジュブナイルかつダンジョンRPGかつ怪盗物という三つの要素を聞いたとき、それらがどのように両立しうるのが僕は疑問に思ったが、その心配は杞憂だった。
それぞれの要素は単なる表層の修飾に留まらずゲームプレイの中核まで入り込み、それぞれの要素が複雑かつ明快にリンクしている。
プレイヤーは鮮やかな日常を送る学生かつ、迷宮を深く巡る探索者かつ、世間を騒がす怪盗であり、それらはシナリオとシステムの両面からプレイヤー自身がしっかりと納得できるように構築されている。
戦闘システムは驚くほどに成功しており、無敵の爽快感と一瞬でやられる緊張感を見事に両立させている。一見、このゲームの戦闘は極めて一般的なJRPGスタイルだ。”たたかう”、”ぼうぎょ”、そして属性攻撃やステータスアップなどの”まほう”…そして敵味方が向かい合って順番に行動する。
しかしながら、二つのシステムがこのゲームの戦闘展開を極めてスピード感あるものにしている。まず一つ目のキモが、敵の弱点属性で攻撃すると敵がダウンし、即座の再行動が可能となる『1more』だ。
さらにシステムを決定づけるのは、同一ターン中に全ての敵をダウンさせると敵を包囲制圧する『ホールドアップ』だ。こうなると事実上の戦闘終了で、あとは敵を仲間にするか、トドメをさすか、世間話をしてからカツアゲして逃すかは君の自由だ。
実際の戦闘に即して説明しよう。敵とエンカウント。それなりの強敵が五体だ。しかし君は敵の弱点の風属性の攻撃が使えるので、風攻撃→1more→風攻撃→更に1moreの繰り返しで敵を五体ともダウンさせ、ホールドアップ→全滅という流れで、敵に行動すらさせることなく鮮やかに勝利することができる。
これだけなら、一方的にこちらが有利な戦闘となるだけだが、このゲームは敵の攻撃のダメージがかなり高く、律儀に正面から殴り合いをしているとあっという間にパーティが半壊してしまうので、弱点を突くと有利、と同時に弱点をつけないと不利、ということでもある。
そして更に恐ろしいことに、弱点→1moreのシステムは敵にも適用されるので(!)、油断をすると格下相手でもあっという間にゲームオーバーのリスクがあるので(強敵なら猶更だ)、爽快でありながらも決して気が抜けない。
更に、敵とのエンカウントは簡単なステルスアクションの体裁をとっており、敵の不意を打って戦闘に突入することで、第一ターンの先制を取ることができる(これがいかに重要かは、上述のシステムと合わせればすぐにわかるだろう)。
このステルスは極めてシンプルで難易度も低いが、操作感が実に心地よく、僕は最後まで敵の背後を取る楽しさに飽きることがなかったし、怪盗としてのゲーム性に実にマッチしていて、とても好きだ。
そう、怪盗なのだ!
主人公と仲間は世間を翻弄する怪盗団として、悪人の心理世界に侵入し、心の歪みのコア=オタカラを奪い取ることとなる。シナリオはこの行為に対し、揺るぎないモチベーションを与えてくれる。
ゲーム進行は時間によって管理され、さまざまな活動を行うことで日数が進んでいくが、ダンジョンの攻略はシナリオ上明確に動機づけられ、プレイヤーにフェアに提示されたデッドラインまでであれば、いつ行っても自由だ。
この試みは冒険的であるが、初めと終わりをキッチリと定めることで一本道のシナリオとしての統制を取りつつ、中間の進行はプレイヤーに一任することで、プレイヤーに対して、自分の判断で自由に行動しているという印象を与えることに成功している。
例えば心理世界はかなり広大なダンジョンとなっており、一度の侵入で踏破しきるのは困難なので、大体は複数回に分けたアタックが必要となっている。
君は無理をせず、ほどほどの消耗で撤退し、次回のアタックに備えてもよいし、あらゆる消費アイテムを使い切り、ダンジョンの最奥部まで進行してもよい。(プレイすればわかるが、このゲームで最も重要な資源は”時間”なのでその価値は十分ある)
ダンジョンの最奥部まで到達した後には何をするか?ただボスを倒して終わりだろうか。おお!怪盗の醍醐味たるや予告状!
シナリオについては前述の理由で深くは語れない。僕は様々なゲームをプレイしてきて、これより評価しているシナリオのゲームも確かにあるが、今作が自分がプレイした中で最高品質のものであったことは間違いない。
シナリオの内容でなく構造について語ると、想像よりも一話完結(厳密には異なるが)の要素がグッと強かったことに驚かされた。
(雑な例えで恐縮だが、漫画『ワンピース』の、○○島編と、メインストーリーラインの関係性をイメージしてほしい)
とある大仕掛けによって、ゲーム全体を貫くメインシナリオへの関心は強烈に保たれながら、それぞれのエピソードごとの危機と解決のカタルシスが比較的短いスパンで楽しめる。
また、クライマックスはいささか唐突だったことは否定しきれないが、それでも十分すぎるほど盛り上がり、また、プレイヤーのそれまでの行いにしっかりと報いてくれるエンディングは深く充実感があるものだった。
だが、このゲームのシナリオを真に魅力的にしているものは、その巧みに構成されたプロットよりも、むしろキャラクターとの交流だろう。先に述べた通り、このゲームは限られた時間の中でプレイヤーに自由な行動を許している。
では、その時間をプレイヤーは何に使うか。大きく分けるとそれは3つで「ダンジョン攻略」(言わずもがなだ)、『バイトや勉強や遊び』(これは人間性をアップさせる)、そして『キャラクターとの交流』だ。
このゲームには様々な仲間が登場する。それは怪盗団のメンバーとして戦闘に参加する主要メンバーだけでなく、武器の提供や戦術の指導、日常生活のサポートなど、様々な要素で彼らを後方支援する市井の人々も含まれている。
時に思わぬ人物も仲間となるので、序盤は仲間が増えていくプロセスだけでも楽しい。そして次第に彼らと交流を深めていくことになるが、これは端的に言って最高だ。
仲間との交流を深めることはそれ自体メリットがあり、関連する属性の経験値ブーストや、様々なスキルの獲得が可能だ。
このスキルは単純なステータスアップどころではなく、いずれも代替不可能な強烈なユニーク効果を持った特殊スキル(戦闘補助から日常生活の手助けまで)であり、なおかつ協力者のシナリオ上の役割にぴったりと合致しているため、話上の納得感も高い。
プレイヤーの高校生としての日常が、怪盗としての能力に直結していくわけだ。
しかし、恐らくそんなメリットがなくても君は協力者との交流に時間を費やしたいと思うだろう。
協力者との交流はそれぞれ独自で魅力的なサブストーリーラインを持ち、彼らと絆を深める行為はそれ自体が十分すぎるほどのご褒美だ。また、更に嬉しいことに、異性のキャラクターとはロマンスも可能だ。僕が誰を気に入ったか?それは今は関係ないだろう。(双葉だ)
さて、シナリオ、戦闘システム、キャラクターとの交流・・いずれも素晴らしいが、それだけでは、僕のような絶望的にRPG耐性のない飽き性がおよそ100時間のプレイ時間中、ずっと惹きつけられるようなことは決してなかっただろう。
このゲームの最大の強み、それはゲームとしての基礎体力の高さにある。
上述したシステムはいずれもただのアイデアだ。こうしたシステムを備えたゲームを作ろうと妄想するだけなら僕でもできる。だがこのゲームの恐るべき点は、それぞれのシステムが徹底的に練りこまれていると感じさせることだ。
例えばメニュー画面を開こう。スタイリッシュなアニメーションでメニューが展開するにも関わらず、レスポンスは最高でキビキビとカーソルを操作するだけで既に小気味良い。
ゲーム情報の全般が、洒落たスタイルでありながら極めて視認性が高い。
マップ移動の際は、ちょったした演出が入り、ただでさえ短いロード時間が更に気にならない。戦闘の際は、敵の弱点を所持しているかどうかが1ボタンで瞬時に検索可能だ。セーブロードは素早く、町並みは通行人の会話まで楽しい。
こうした心遣いがゲームの隅々にまで満ちている。僕はこのゲームをプレイして、ストレスを感じた箇所は本当に数える程度しかない。100時間のプレイ時間を要するJRPGでだ!
僕が真にペルソナ5を愛するのは恐らくそうした箇所だ。革新的な新システムや魅力的なキャラクターなど目立つ部分ももちろんそうだが、一見気にならないところまで、このゲームには隅から隅まで、製作者の誇り高い思いが詰め込まれている。
僕はこのRPGやこのシリーズには全くの門外漢だ。だからどこまでがシリーズのお約束で、どこからが今回の新要素なのかも知らない。
だが、おそらくは、RPGというジャンルやこのシリーズが培ってきたもの・ファンからのフィードバック、それらに対する強い敬意があったのだろう。そう思わせる完成度だ。
世の中には多少の欠点があってもなお、圧倒的な面白さをもったゲームが多数存在する。僕が愛するゲームの大半もそうしたものだ。だが本当に稀に、”完璧な”ゲームというものがある。
そのゲームの試みがすべて達成されており、およそ欠点というものがないゲーム.例えば、Portal、時のオカリナ、ガンスターヒーローズ、Half-Life、スーパーマリオギャラクシー2・・・その意味で”完璧”と呼べる新たなゲームの一つが、ペルソナ5だ。
このゲームは僕のゲームではない。車もドラム缶も爆発しないし、ゾンビの首は吹飛ばない。戦闘はガチガチのコマンド戦闘で、貧弱な体系の高校生が恋愛や遊び半分で世界を救う、典型的なJRPGだ。(おまけにアニメパートまで存在する!)
だが、僕はこのゲームに本当に惚れ込み、愛し、尊敬してしまった。
願わくば、僕のようなJRPG食わず嫌いをしている君がこれを読んで、僕のように全く懲りずに、気の迷いで、またもや更なる失敗を繰り返すべく、ペルソナ5 を買ってしまってほしい。
おそらく君のゲームライブラリに、血と銃弾と金属とゾンビで満ちたゲームライブラリにはきっと馴染まないだろうが、それでも愛すべきゲームが一つ新たに加わるはずだ。
ありがとう。
バル・ベルデで 夕日を見ながら 尊敬と友情を込めて ロドリゴ
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