1R1分34秒 町屋良平 (感想)
ボクシングを題材とした作品だが、主人公はタイトルを勝ち取れるような選手ではなく、どちらかといえば、そういったことからは程遠い、プロになってから間もない3敗1分の無名選手。負けを引きずり、タイトル獲得から次の試合に勝つことに。描いていた夢のハードルも徐々に低くなっていく。ボクシングをなぜやっているのか、目指しているものは何なのか曖昧になっていく。試合に負け、トレーナーに捨てられて、代わりについたウメキチと共に新たなトレーニングに励み、次の試合に挑むまでの経過を描く。
文章は純文学らしく、殆どが"僕"の一人称視点で心理描写が多い。自身の内面と向き合うような自問自答が多く、思考のまとまりがない部分、文章の始まりと終わりが噛み合っていない部分が散見される。それは壊れていく自身の内面を表しているのか、単に文章がおかしいだけなのか、おそらくは前者だろうが、それ故に若干の読み辛さがある。ひらがな、改行、句読点の欠落なども原因の一つか。
登場人物のひとりの"友達"が良い役割を果たしている。"僕"の内面を吐き出すことができる唯一の場所としてのiPhoneで撮影される映画。それを経由して振り返る過去の破壊された記憶の自分。天才かもしれない"友達"への嫉妬。
この本のタイトルである「1R1分34秒」は一体なぜこの時間なのか、なぜこれをタイトルにしたのか、最後まで読んでも不明。