【万能初歩杯】2020年に出会った韓国音楽部門別大賞〔選定編〕
災難な年、2020年を僕は(現役の形ではないですが)軍隊に服務しながら過ごしました。今年出会えた音楽の多くは部隊に出退勤する間に接しました。普通の現役兵士は出退勤などできませんので、すごく恵まれた服務でしたね。それでも一時期ピークな仕事量と共に、パンデミックによる休暇制限措置が相次ぎ、ほぼ一年丸々とメンタルが崩壊しそうな状態でしたが、それでも多からず、少なからずの音楽と共に凌いでいきました。そして、その音楽もやはり極端な状態の環境で咲かせたものでしょう。
世界を行き来できない状況の中でもむしろK-Popは韓国音楽初のビルボードチャート1位を達成して、その歴史に新たな記録を残しました。伝統フュージョン音楽は韓国を超え、日本を含んだ海外にまで知られていきました。そして、テレビ番組の人気と伴い、トロットは再び国民ジャンルへと帰還し、また90年代歌謡への復古の流れも人気を得ました。
しかし、そんないいニュースの裏では、公演界が崩れていき、音楽界内外で暴力と搾取などのニュースが聞こえてきます。芸術人たちの生計が常に危うい状況に置かれ、制度の根本的な問題が現れました。切なく世を去ったミュージシャンもいて、解決の見込みがないジェンダー問題に常に声を出し続ける動きもありました。
このような2020年の情動の中、勝手ながら、今年度出会えた韓国音楽のごく一部を共有しようと思います。浮かべたくない一年ですが、僕らに会ってくれた音楽との記憶まで忘れたくはない故、自分の狭い経験と趣味だけが反映された不完全なリストですが、今の韓国音楽を知る断面的なガイドになれたらうれしいです。
※対象期間:2019.12.~2020.11.
※候補編はココで
※前年度の結果は、韓国音楽への参考ガイドの目的で、個人の感想や韓国大衆音楽賞、その他音楽批評媒体などを参照して任意に決めました。今後も修正していく予定です。
-General Field-
【Best Album of 2020】
추다혜차지스(CHUDAHYE CHAGIS), 《오늘밤 당산나무 아래서(Underneath the Dangsan Tree Tonight)》
ファンクと、「グッ」と呼ばれる伝統巫歌を合わせた独特なコンセプトのアルバム。〈undo〉で、まるでフリースタイルラップをするように唱をするチュ・ダヒェと、その間に挟み込んでくるバンド「チャジス」の強烈なジャムは、期待を膨らませながらアルバムの砲門を開く。続く曲〈비나수+ (Binasoo+)〉では、巫女の鐘音とサイケデリックな演奏と共に巫歌を歌う。そこで、「ソウル特別市の西大門区延禧洞のログ・スタジオへ」、「グッド・パッケージであり」などの歌詞は、その歌の背景が遠い昔ではなく、今ここで我らが住む現代であることを表す。〈사는새 (Soul Birds)〉ではサックス奏者のキム・オキ(Kim Oki)が参加して忘れられないハイライトを迎え、以後〈리츄얼댄스 (Ritual Dance)〉ではFunkadelicを連想させるループと共にジャズ・ヒップホップのようなバイブで、〈에허리쑹거야 (Eheori-Ssunggeoya)〉ではレゲーで、〈차지S차지 (CHAGI's CHAGI)〉では(直接創作した歌詞と共に)ファンキーでロックンロールらしい音で、ダンサーブルなリズムを続けていく。そして最後に、収録曲をダブで再解釈した〈복Dub (Bok Dub)〉で、様々なジャンルと共にしたフュージョンの旅路に強力な終止符を打つ。
アルバムの中心軸で輝くのは、西道民謡唱法をブラックミュージックのグルーブで昇華させるチュ・ダヒェのボーカルだ。西道民謡は他地域の民謡に比べて装飾音(̪シギムセ)を使って、泣いたり患うような下降旋律進行が多く、この特徴を楽譜に写しにくくて、器楽伴奏より、ジャングのようなリズム楽器だけで伴奏する場合が多いと言われる(参照)。にもかかわらず、本作では本格的なバンド合奏が行われ、かといってチュ・ダヒェの唱法が妥協して負けている感じでもない。いや、むしろそれをグルービーに発展させて、東西洋ジャンル間の融合の試しを完成形に導く一の功績者になる。
バンドの面々も見てみよう。フロントパースンのチュ・ダヒェは、海外でも注目されたフュージョンバンド、”씽씽(SsingSsing)”出身(※ちなみに、解体したSsingSsingのメンバーは本バンドを含め、各自”이날치 (LEENALCHI)”、”오방신과 (OBSG)”などのフュージョンバンドに分かれて、みな現在、注目すべき活動を行っている)。また本作をチュ・ダヒェと共同プロデュースしたギターリスト、イ・シムンを含め、ベースのキム・ジェホ、ドラムのキム・ダビンは、Windy City, CADEJO, Kim Oki Fuckingmadness, NST & Soul Sauce などのバンド活動をしてきた、まさにスーパーバンドである。そして、彼らの経歴が、韓国ではまだマイナーな感じのブラックミュージックバンド中心と言うことで、韓国ファンクの名作、Asoto Unionの《Sound Renovates a Structure》(2003)の系譜を継承するとも言える。本作は素晴らしい伝統フュージョン音楽であると同時に、素晴らしいブラックミュージックバンドの音盤でもあるのだ。
2020年には”이날치 (LEENALCHI)”《수궁가 (SUGUNGGA)》(水宮歌)トラックらの人気を含め、シム・ウニョン(JAMBINAIメンバー)、오방신과(OBSG)、악단광칠(ADG7)、고래야(Coreyah)、경기시나위오케스트라(Gyeonggi Sinawi Orchestra)、TRESBONBON などのアーティストとバンドから、多くの良質なフュージョン音盤と出会えることができた。東洋と西洋、伝統と現代、各ジャンル間の境界を崩す試みが相次ぐ中で、本作の試しと完成は2020年を堂々と代表するだけでなく、韓国大衆音楽史にも重要に残るだろうと望んでみる。そのような賛辞のもとには、我らの世代が今まで経験したことのない、全世界が止まった災難の状況で、音楽を通じて時間と空間を行き渡りながら慰めを与える、魔法のようなぬくもりが存在する。
※参照:カン・イルグォンのレビュー、パク・スジンのレビュー、coloringCYANのレビュー、韓国民族文化大百科事典「西道民謡」
2019 : XXX, 《SECOND LANGUAGE》
2018 : 공중도둑(Mid-Air Thief), 《무너지기(Crumbling)》
2017 : 히피는 집시였다(Hippy was Gipsy), 《나무(Tree)》
2016 : 이민휘(Minwhee Lee), 《빌린 입(Borrowed Tongue)》
2015 : E SENS, 《The Anecdote》
【Best Track of 2020】
이랑(Lang Lee), 〈환란의 세대(The Generation of Tribulation)〉
巨大な壁に四方が塞がったような悲しみ、絶望、無力感。もういっそ、その壁に頭ぶつけてくだばりたいという気持ち。この曲を聴くときには、常に感傷的になりがちだ。真心と捻りの間を目を瞑って爆走する、スリルのある圧倒的な感情に浸って涙を流したりもした。導入部で歌われた仁川空港と成田空港での別れの物語は、僕にもお馴染みの空間で、またそこに行けるか、一度渡ったらまた戻れるかわからない、本当の意味での『お別れの場所』になってしまった。
キーボードとチェロで上げた緊張感は、考えが否定的に墜落するところになるとむしろ軽快なリズムのピアノに変わる。そして、ハイライトの輪唱では、ボーカルとコーラスの境界がなくなり、和合と崩壊、歓喜と絶叫の間の何かを、ただただ叫ぶ。このような矛盾は、例えばキーボードとチェロが古風的に奏でられる同時に鋭くダブリングされた声が拍子を意図的に無視して作り出す奇妙な瞬間などにも見えて、そこでもう何もかもをあきらめたような感情が浮かんできた。
2020年。全地球が患難の真ん中に置かれた年の我らは、日常を失って、無気力が襲ってくる。このような災いを前にしてきてしまう神経症への責任はひたすら個人に背負わされる実情だ。しかし、特に若い女性から増えてきている自殺率の統計は、これが普遍的な問題であることを再確認させる。本曲の再登場もやはり個人の問題にされやすい無力感と自殺の問題を、『患難の世代』と言うキーワードを持ち込むことで、これを再び全地球的災いと関わらせるところで適時性を保つ。また、2000年代後半~2010年代前半に流行ったインディーバンド・リバイバルの流れのもとにあった青春の敗北主義と、また2010年代中・後半にヒップホップジャンルを中心に可視化されてきた精神病素材のように、すでに大衆音楽の中で存在してきた普遍的な感覚を本曲も代表し、個人が破片化された時代に共有される問題意識を前面に表す。
「また誰かが死んだみたいに泣いた」という初めの歌詞に戻ってみよう。5分以上続く混乱な騒動の根源には、大切な人を想う涙がある。僕らの絶望は、一番人間的な希望から始まって、とにかくこの死にそうな感情のインスピレーションは、ちゃんと「ともに集まって歌う」曲として、世に出た。患難の世代である我々は、いつも塞がり、絶望する。共に。
※以前のレビュー
2019 : Lim Kim, 〈민족요(MINJOKYO) (ENTRANCE)〉
2018 : KIRARA, 〈Wish〉
2017 : Jvcki Wai, 〈Anarchy〉
2016 : 이민휘(Minwhee Lee), 〈빌린 입(Borrowed Tongue)〉
2015 : f(x), 〈4 Walls〉
【Best Musician of 2020】
방탄소년단 (BTS)
率直に、ビルボードの話からしてみよう。ミュージックビデオの新たな時代を開いたと評価される、あの伝説のPSY〈강남스타일(GANGNAM STYLE)〉すら届かなかった、ビルボードシングルチャート1位の壁を、今年彼らが二度もぶち抜いた。〈Dynamite〉は英米ポップ界で流行っているディスコ・リバイバルの代表走者としてK-Popグループが立ったというところで、〈Life Goes On〉は韓国語トラック最初のシングルチャート1位と言うところで意義を探せる。ビルボードは彼らが達成した一つの結果に過ぎない。ツアーは止まったが、二枚のレギュラー音盤と、シングルなどを常にヒットさせた。彼らの魅力的なパフォーマンスは、世界に行けない時点でも、オンラインを通じて常に世界のラブコールを受けた。
BTSを含めたK-Pop談論のもとには、まずそのファンダムの凄まじい人気と影響力があって、ファンダムと共に行う達成は直に国内外の大衆音楽談論をリアルタイムにアップデートさせる。K-Popという、相当特殊な環境の音楽産業は、すでに世界を対象にポップ、ビジュアル、ファッション、サブカルチャーなどを超え、人種、ジェンダー、政治の領域にまで多様なレイヤーで展開され、受容されている。その中心に、様々なアーティストが立っているが、その数えきれない脈絡の代表として、BTSの存在感は今でも日に日に大きくなっていっている。
2019 : 김오키(Kim Oki)
2018 : 방탄소년단(BTS)
2017 : Red Velvet
2016 : 박재범(Jay Park)
2015 : BIGBANG
【Best Rookie of 2020】
과나 (gwana)
歌とラップで料理レシピを紹介するユーチューバ―、gwana。映像ごとに見せる創意的なレシピも逸品だが、それをコンテンツ化する音楽的アイデアもただものではない。直観的に没入させるライミング、ボーカルを多彩に駆使して各キャラを構成する演技力に、何よりラップを中心にバラード、トロットからアンビエント、メタルに至るまで様々なジャンルに挑む姿も。音楽の以前にユーチューバーなのでプロの音楽人ではないと思われるだろうが、今年にはもう映像に使った音源を正式に発表して、CM音楽まで制作した様子などから、「プロのミュージシャン」という境界すらも考え直される。いろんな方面での才能に驚かされながらも、幅広い視聴者に親しく近づく、YouTube時代の万能クリエイター。
2019 : sogumm
2018 : Jclef
2017 : 히피는 집시였다(Hippy was Gipsy)
2016 : JUSTHIS
2015 : 공중도덕(Mid-Air Thief)
【Best Video of 2020】
달의하루(Dareharu), "염라(Karma)"
別れの傷と死への衝動が擬人化して争い、歌詞とリズムに合わせて映像が交差し、反転を繰り返す。レトロ・アニメーション制作者の”람다람”(RDR)のビデオは、確固たるキャラクター構成と独特な仏教的背景を通じて物語を進ませ、このコンセプトがDareharuの次の曲にまで拡張し、アーティストの世界観を確立させる。日本で人気を得ている、ずとまよ、ヨルシカ、YOASOBIなどに代表される「ポスト・ボカロ」的な命脈をつなげるトラックと、それに似合う感性のアニメーションなのだが、RDR特有のデフォルメなタッチは、そこにポップな感覚を吹き込んで、サブカルを楽しむ人たちだけでなく、ほかのリスナーたちにまで伝播される。その映像美と共に、「ハル、ハヤン、ミタ」という明確なキャラクター、そして意味深長なストーリーは、同人音楽界特有の活発なカバー曲活動に繋がり、ファンたちの様々な二次創作などを通じて世界観が自ら拡張されるなど、色んな分野で新鮮な活力を作ったミュージックビデオである。
2019 : 이달의 소녀(LOONA), "Butterfly"
2018 : Mommy Son, "소년점프(Mommy Jump)"
2017 : 혁오(HYUKOH), "TOMBOY"
2016 : XXX, "승무원(FIght Attendent)"
2015 : f(x), "4 Walls"
-Genre Field-
【Best Rock/Metal Album of 2020】
Various Artists, 《We, Do It Together》
2010年代半ばから韓国にも吹き始めた、フェミニズム・リブートの流れは、文学をはじめ様々な文化界に渡って展開されている。大衆音楽も例外ではない。様々なアーティストたちが女性としての経験を表現・共有し、差別撤廃などのための社会運動にも参加する姿を見れる。本作は「最初の女性ロックコンピレーションアルバム」というコンセプトのもと、インディー音楽シーンを輝かせているアーティストたちが参加した。AIRY、Ego Function Error、hyangni、Amado Lee Jaram Band、Adios Audio、Drinking Boys and Girls Choir、チョン・ミジ、DABDA、ファン・ボリョン、cacophony、Tierpark、Billy Carterまで。インディーロックのファンなら絶対に逃がせない、スーパーコンピレーションアルバムだ。
その多様な面々らしく、本作の音は、ロック音楽ならではの様々なサブジャンルが多彩に具現される。サイケデリック、パンク、フォークロックから、電子音楽、アートポップの領域に至るまで。話されるメッセージもそれぞれだ。ただ自分が存在することを叫んだり(〈나는 깜빡 (In My Flickers)〉、〈사적인 복수 (Secret Revenge)〉)、不平等な司法を風刺し(〈판 (Uneven Playing Field)〉)、また「今日も生存した」女性たちへ慰めの言葉を贈る(〈Good Night〉、〈숨 (Respiration)〉)。女性という理由だけで拒まれる経験や(〈I've Never Invited Her〉)、抑圧と暴力で苦しむ様子も描かれ(〈무궁화 (The Rose of Sharon)〉, 〈소녀 (Girl)〉)、女性に対して現存する地獄のこの社会で闘争し続けることを誓う(〈Hell〉)。それぞれの生活と芸術観が違うように、各トラックで発話されるメッセージを任意に統一するのは無礼なことなのかもしれない。それにもかかわらず、本作を貫通するキーワードを捉えるとすれば、それは「存在」だと思う。そこに女性が存在することを知らせ、共に存在し続けることを応援するために。
多彩な音楽を詰めた、この「コンピレーション」という形態にも注目してみたい。《Our Nation 1》(1996)、《1999/2000/2001/2002 大韓民国》(1999~2002)のように、インディーズやジャンルの不毛の地だった韓国大衆音楽シーンに、その存在を現してきた。そして、《우리노래전시회(我が歌展示会)》(1984)、《젠트리피케이션 (Gentrification)》(2016)のように、抵抗の声を集めたりもした。このごとく、コンピレーションアルバムは当代の民衆・アンダードッグ精神を代表する目印になってきた。そして現在、フェミニズムが再び声を上げている時期に、「韓国初の女性ロックコンピレーション」というタイトルを持つ本作は、インディー音楽シーンを輝かせているミュージシャンたちを集めることである種の代表性を確保した。その代表性が有効な理由は、やはり彼女らの音楽が今、ここのインディー音楽を支えてきたからだろう。
余談に、本作の参加陣すべてが女性であるわけではない。これは言い換えてみると、その声を支持するところに、誰しも参加できるという証明でもあるだろう。だからこそ自分も慎重にこの文を作成するのであって、少なくともその声に耳を傾けるところから、「我ら」は、共にやりこなせるはずだから。
2019 : 잠비나이(JAMBINAI), 《온다(ONDA)》
2018 : Dark Mirror Ov Tragedy, 《The Lord Ov Shadows》
2017 : 실리카겔(Silica Gel), 《SiO2.nH2O》
2016 : 잠비나이(JAMBINAI), 《은서(A Hermitage)》
2015 : 전자양(Electron Sheep), 《소음의 왕(King Of Noise)》
【Best Rock/Metal Track of 2020】
실리카겔(Silica Gel), 〈Kyo181〉
「Kyo、愛してみた?」曲全体的にひたすら、ある存在『Kyo』を呼んで、質問をし続ける。その謎を解こうとするほど、僕らはさらに、恍惚で危うく煌めく迷宮に陥るようだ。得体を知れない『Kyo』という存在のように、曲を構成する楽器とボーカルもまた分厚く歪曲され、直観的に曲に追いつける要素を探しにくく、まるで夢中を彷徨う気分になる。が、繰り返される曲の構造をカギに、だんだん曲と親しくなっていく。そして出会うハイライトと、弛緩された演奏の後、次のハイライトに向かう間、ミュージックビデオを通じて現る反転は、まぶしいギターの登場と共に恐怖と快感が混ざった感情を揺さぶる。いつの間にか僕も魔法のごとく呼んでしまうその名、『Kyo』。ボーカルのキム・ハンジュによると、『Kyo』は特定の人物ではなく、自分の気持ちを絶叫したい仮想のポイントだと言われる。それでも『Kyo』に声をかけてみる。反復と変奏、時には時間を逆行する装置などを通じて、繰り返される『今日』をまぶしくしてくれる誰かになれるよう望みつつ。
2019 : 잠비나이(JAMBINAI), 〈온다(ONDA)〉
2018 : 데카당(Decadent), 〈토마토 살인사건(Tomato Homicide)〉
2017 : 실리카겔(Silica Gel), 〈NEO SOUL〉
2016 : 단편선과 선원들(Danpyunsun and the Sailors), 〈이상한 목(The Strange Throat)〉
2015 : 전자양(Electron Sheep), 〈멸망이라는 이름의 파도(The Wave Named The End)〉
【Best Folk/Country Album of 2020】
문소문(moonsomoon), 《붉은 눈(Red Eyes)》
「噂を聞いた。赤い瞳を持った女がある日、現れたと」。一度見ると忘れられない赤い瞳。物語はこう始まる。今年出会ったイントロの中で一番没入感があった〈moonsomoon.net〉は、実験的なBGMと共に物語りを詠むナレーションが、これから展開されるすべての曲にファンタジー小説のような世界観を明確に付与する。すごく魅惑的で異質な瞳を持ったことで、人々の迫害を受けて亡くなった『赤い瞳』。彼女の正体は何なのか。それを探すために自然にアルバムをミステリーを解くように読解するようになる。誰かは噂を聞いて彼女にあこがれ、皆が平等であると盲信する息苦しい世界の引き金になろう彼女から、赤い光を授けに旅立つ。そして、「噂はどこにもなく、どこにでもある」という、意味深な冗談の書かれた遺書。
呼吸までも繊細に統制してパトスを引き上げるすごい技量のボーカルと、それに似合う映画的なプロデュースで《和 (Harmony)》(2018)、《夢 (Dream)》(2019)などの印象的な作品と共に注目されているアーティスト、cacophony。そして《이유도 없이 나는 섬으로 가네 (Drifting to an Island for Reason I Don't Know)》(2017)で知られたフォークバンド”Doma”のギターリスト、geonu。この二人が合わさったチームは、フォークに基盤するが、ジャンルに構わず様々な展開と実験を試す。〈쉿(Hush)〉ではハーフのような弦楽器の使用で幻想童話のようなムードを作り出し、〈안녕(Hello)〉、〈붉은 눈(Red Eyes)〉などではブルージーなギターが宗教的な感想を促す。ところどころ散らばっていたノイズと歪曲は、曲名のごとく〈Entropy〉で集約され『赤い瞳』の烙印の押された世界を代弁し、〈내 유언은 썰렁한 농담(My Will is a Corny Joke)〉での絶叫は、コーラスとオーケストラが加わって、本作の一番劇的な場面を完成させる。
『赤い瞳』を持っているだけで憎悪の対象になる女の人。この世界は差別と排除、嫌悪が蔓延な現実の比喩でもある。世界を想像させる詩的な歌詞と、断片的な噂に感情を与えるcacophonyのボーカル、geonuの愁いを感じつつ夢幻的なギターの音。そう形成された本作は、音楽を聴いて幻想の世界を積極的に思い浮かばせる、今年出会った唯一無二の韓国アルバムだった。おとぎ話を通じて教訓を得ていた幼少年期のごとく、今、ここの世界の真実までも再び考え直させる、物語の力。
※ moonsomoon.netに接続してパズルを解けば、ボーナストラックを聴けます。
2019 : 백현진(Bek Hyunjin), 《가볍고 수많은(Light, Many)》
2018 : 공중도둑(Mid-Air Thief), 《무너지기(Crumbling)》
2017 : 김목인(Kim Mok In), 《콜라보 씨의 일일(A Day in the Life of Mr. X)》
2016 : 이민휘(Minwhee Lee), 《빌린 입(Borrowed Tongue)》
2015 : 김사월(Kim Sawol), 《수잔(Suzanne)》
【Best Folk/Country Track of 2020】
이랑(Lang Lee), 〈환란의 세대(The Generation of Tribulation)〉
(【Best Track of 2020】のコメントで代替します。)
2019 : 신승은(Shin Seungeun), 〈잘못된 걸 잘못됐다(Wrong Is Wrong)〉
2018 : 공중도둑(Mid-Air Thief), 〈쇠사슬(These Chain)〉
2017 : 김목인(Kim Mok In), 〈계약서(Paper)〉
2016 : 이민휘(Minwhee Lee), 〈빌린 입(Borrowed Tongue)〉
2015 : 공중도둑(Mid-Air Thief), 〈늪지대(Swamp)〉
【Best Electronic Album of 2020】
아슬(Aseul), 《Slow Dance》
霧が落ちた都市の日曜日の朝は感傷に浸たるに十分な景色だ。Aseul特有のローファイな質感で送り出す楽しげなメロディーは、まるで昔の思い出が詰まったVHSを流すように、メロディーが含んだ気分を過去のものにして、現在の感情というフィルターをもう一枚被せる。本作の《Slow Dance》というタイトルは、(表現する情緒の意味で)だるいダンスポップを詰め込んだ音楽を示しもしたり、ほど懐かしく再生される思い出のスローモーション、それに囚われ無気力な今の状態まで修飾するのかもしれない。
澄んでかすかに広がる音の質感が一貫していて、全体的にドリームポップと呼べるようなムードが続くが、その霧の裏で響くジャンルは様々だ。〈Bye Bye Summer〉の場合はハウスが基になっていて、次のトラック〈Paradise〉ではフューチャーベースらしきサンプル運用の下でジャングルビートが鳴る。また遅きリズムに乗るグルーブはオルタナティブR&Bと呼んでもいいだろうし、最後のトラック〈말해봐요 (Tell Me)〉はアコースティックギターが中心になったフォークポップである。素晴らしいほど一貫した景色を提示しながらも、このようにいろんな試しは一つ一つの話に耳を澄まさせる。
Aseulの安定に発展していく音楽は海外にまでどんどん知れ渡っていく。夢のような景色と現実に基盤する感情の共存。明るいメロディーに隠せない悲しみ。プロデューサー、DJ、ボーカリストとして各領域を調和させて、ある一人の経験を夢のような世界に構成して提示する。憂鬱が全身を浸しても、突く痛みは少しでも散らばるような。
2019 : Rainbow99, 《동두천(Dongducheon)》
2018 : KIRARA, 《Sarah》
2017 : IDIOTAPE, 《Dystopian》
2016 : KIRARA, 《moves》
2015 : Trampauline, 《MARGINAL》
【Best Electronic Track of 2020】
Omega Sapien, 〈Happycore〉
題名通りハッピーコアジャンルのトラックで、チップマンク技法で歪めたボーカルサンプルと、分厚く勇壮に鳴り響くベースが徐々に緊張感を上げるや、激しいジャングルリズムと明るいキーボードが乗って、吹き荒れるレーブの上で、ジャンル名ごと借りた「幸せ」という主題のラップがもっとエネルギエチックに乗りだして、エレクトロニカとラップそれぞれのジャンルの特徴を全部活かす興味深い曲になった。溢れ出すエネルギーと共に「Power、Fame、これらはあなたの幸せの全部ではありません!」と説破する姿は、一見キッチでも、Omega Sapienのしっかりとしたパフォーマンスはそれに何かしらの説得力をもたらす。このよう、ラップが中心になっていても、電子音楽のベストに上げた理由はある。まず、本曲のジャンルや脈絡において、ハードコア・テクノ、ハイパーポップなどで現る海外サブカルチャー電子音楽シーンの流れの中に位置することができると判断した。そして、トロット界の異端児、李博士の〈オレは宇宙のファンタジー〉にまで遡る、ハッピーコアジャンルが韓国のレフトフィールド音楽史で欠かせない破格的な影響を継承すると見込んだからだ。電子音楽からヒップホップ、さらにK-Popにまで至る批評も詰め込められないほど、本曲の存在感は大きい。
2019 : TENGGER, 〈Kyrie〉
2018 : KIRARA, 〈Wish〉
2017 : CIFIKA, 〈My Ego〉
2016 : Hitchhiker, 〈텐달라($10)〉
2015 : Flash Flood Darlings, 〈별(Byeol)〉
【Best Rap/Hip-Hop Album of 2020】
Deepflow, 《FOUNDER》
最近、ラッパー・プロデューサーそしてVismajor Company(VMC)の代表であるDeepflowは、ほかのラッパーたちやヒップホップコミュニティーなどで批判の対象になっている。それは、彼の前作《양화 (YANGHWA)》(2015)で強く表した、韓国ヒップホップシーンを支えるアンダーグラウンド精神を、《Show Me The Money》を含んだ放送出演などによって自ら裏切ったとのことだ。正直自分は、彼に向かう批判にあまり説得力を感じないのだが、《양화 (YANGHWA)》の収録曲〈잘 어울려 (Lookin' Good)〉でディスをされた当事者が反発に出て、シーンの談論だけでなく、事実関係などまで複雑に絡んでしまった。
それにもかかわらず、自分はDeepflowの復帰作《FOUNDER》を2020年を代表するヒップホップアルバムに選定する。それは、彼の一途な音楽の色彩が今でも輝くからである。B級映画OSTのごとくある露骨な雰囲気と感情を誘導しながらも有機的に流れる、ファンク・ロックとジャズ・ヒップホップを行き渡る編曲。ラップが進行するにつれて景色が目の前に広がるような素晴らしいストーリーテリング。ギャング映画みたいなコンセプトが成功的だったわけには、Deepflowのしっかりと均衡を保ったパフォーマンスと、〈품질보증 (Quality Control)〉, 〈Harvest〉などで適所に活用するフィーチャーリングなどがある。
ストーリーテリングは単純な成功談で終わらない。劇的なハイライトを前半部に詰め込んだにもかかわらず、後半部でも緊張感が維持される理由は、会社(VMC)設立以降の運営などに関した現実的な話が現在進行形でつながるからだ。話者がつまずく地点すら重要に演出されるところで、本作は《양화 (YANGHWA)》の続編であることを露骨に表す。このような状況らの告白は、もしかすると「変節者」という批判に対するみすぼらしい弁明かもしれない。しかし、それに説得力を付与する固有の芸術性は、弁明以前にアーティストとしての「目的」ということで、逆説的だ。確実なのは本作が、韓国ヒップホップジャンルが共有する「シーン」という背景に、アーティストのペルソナをどう位置させるのかを見せる成功的な事例だということだ。ラップゲームは続く。
2019 : XXX, 《SECOND LANGUAGE》
2018 : XXX, 《LANGUAGE》
2017 : TFO, 《ㅂㅂ》
2016 : JUSTHIS, 《2 MANY HOMES 4 1 KID》
2015 : E SENS, 《The Anecdote》
【Best Rap/Hip-Hop Track of 2020】
Deepflow, 〈대중문화예술기획업(Music Business License)〉
韓国ヒップホップのレーベル文化は独自のジャンルシーンを豊かにするのに重要な役割を果たしてきた。そしてクルー文化とも奇妙に絡み合って、いわゆるキャラクターゲームのような消費方式が定着したともいえるだろう。VMC代表のDeepflowが語る、レーベル誕生話は、ファンキーなリズムのバンド形式プロダクションが素晴らしいストーリーテリングに躍動感を与えて、音楽市場が形成される現場の雰囲気を生き生きと伝える。クールで力強いジャンル的なイメージと違って、「大衆文化芸術企画業」の資格を得るための制度は厳しく、コミックな対比を形成する。ヒップホップ文化にかけられたゲームのような幻想を、経験談を通じてはがしながらも、それをまたアルバムの大きなストーリーに包摂して、再び一つのギミックを作り出す、ジャンル内部的に興味深い曲である。また、音楽人が音楽を通じて直接音楽産業の話をするという点で、大衆音楽全般的にも意味のある話に残ると思う。
2019 : XXX, 〈Bougie〉
2018 : XXX, 〈간주곡(Ganju Gok)〉
2017 : Jvcki Wai, 〈Anarchy〉
2016 : JUSTHIS, 〈씹새끼(Motherfucker Pt. 2)〉
2015 : Keith Ape, 〈잊지마(It G Ma)〉
【Best R&B/Soul Album of 2020】
A.TRAIN, 《PAINGREEN》
話者はコンパスをなくして彷徨う(〈NAKED ODYSSEY〉)。彼があてもなく川を渡ろうとする(〈CROSS THE RIVER〉)理由は徐々に表れる。話者が愛した人が遠くへ去ったのだ。その過程が前半部に渡って描かれる。互いに思わず与えた傷(〈HURT〉)もしくはわがまま(〈우리가 불 속에 놓고 온 것들 (THE THINGS WE LEFT IN THE FIRE)〉)のせいだっただろうか。「彼女」は、話者を残して、一人で遠く逝ってしまう(〈CARRIER〉)。二人でいた家には一人だけが残り(〈추모 (A HOUSE IS NOT A HOME)〉)、そうやって話者がコンパスをなくした状況が明らかになる(〈PLEASE SOMEONE〉)。話者が自殺しようとする状況は緊迫に描かれ、その矛盾的な描写はいかにも衝撃的だ(〈SWEET SIDE〉、〈집에 가자 (GOING HOME)〉)。〈SWEET SIDE〉はタイトルから「suicide」をひねったもので、〈집에 가자 (GOING HOME)〉は緊迫なプロダクションと銃を装填するようなサンプル、以前トラック名との対比などが、単純な帰宅を歌うような歌詞を全然違う方向に読解させる。そうやって、死の間際に置かれた時点で、急に話者の視点が変わり、意味深な慰めを残す(〈견딜 만큼만 (AS MUCH AS YOU CAN BEAR)〉)。〈CORK / art nouveau〉では相手に、コンパスは壊れてないと伝える。話者はどこに行って、だれと会ったのだろうか。〈그래 그렇게 (ROUND AROUND AROUND)〉で話者が送ったのは、あなたなのか、彼自身なのか。
本作の音はオルタナティブR&Bを土台に、エレクトロニカを駆使したり、アンビエント、ロック、北欧のフォークに至るまで様々なジャンルから持ち込んで作られる。特に代表曲〈HURT〉で、上記した色んなジャンルの音が調和する姿は、本作の早いハイライトを作り上げる。また、ピアノ・オルガンなどを使ったミニマルなソウルから、オーケストレーションの駆使に至るまで、小から大まで色んなスケールが使われていて、感情起伏によっては一曲内でも千変万化に適用される。〈추모 (A HOUSE IS NOT A HOME)〉、〈PLEASE SOMEONE〉と共に、特に〈견딜 만큼만 (AS MUCH AS YOU CAN BEAR)〉での、ピアノから始まってだんだんオーケストレーションとコーラスを積んでスケールを増した後、またあっという間にローファイに沈潜する展開から、色んな感情が交差する。作品全体に引かれるアンビエントな質感は時に暗い緊迫感を形成したり(〈SWEET SIDE〉)、日差しのまぶしい幻想的な場所を描写したりもする(〈그래 그렇게 (ROUND AROUND AROUND)〉)。
聴いていると胸が痛む。淡々な声、力を失った声、息を吐き出す声、その一つ一つに計り知れない感情の重みを感じる。Frank Ocean、James Blake、The Weekndなどの名前を呼名はできるだろうが、本作のジャンル運用はそれらをも変奏する。そう作り上げた固有の領域だからこそ、おそらくきわめて比喩的であろう告白が、いかにも真実に伝わるようだ。
※参照:キム・ヒョジンのレビュー。
2019 : 서사무엘(Samuel Seo), 《The Misfit》
2018 : Jclef, 《flaw, flaw》
2017 : 히피는 집시였다(Hippy was Gipsy), 《나무(Tree)》
2016 : 서사무엘(Samuel Seo), 《Ego Expand (100%)》
2015 : 서사무엘(Samuel Seo), 《Framework》
【Best R&B/Soul Track of 2020】
진보(JINBO), 〈DON'T THINK TOO MUCH〉
フットワーク・ビートとシンスが楽しく鳴り、浮遊する雰囲気の上でJINBOのソウルフルなボーカルが入る。フットワーク特有の空間感覚をやさしくポップにトッピングする様々な楽器とサンプルが神秘で楽し気な質感を作り出す。それと共に、浮遊して疾走するビートに明確な道を開けるボーカルのメロディーが、エレトロニックとR&Bの境界の真ん中を走っていき、ブレークのところで、アンビエントな質感の上でトロットポップらしきメロディーが登場し、ストーリーも反転させる装置まで、実に驚く展開だ。Frank Ocean、The Weeknd、Miguelなどで代表される、エレクトロニカとR&Bの境界をなくしたオルタナティブR&Bは、もう「代案」という単語が有効でないくらい主流になった。そんな中、プロデューサー・ボーカリスト・エンジニアの全分野で優れた彼は、このようオルタナティブ・R&Bの文法も自分のものへと体化させる。
2019 : Jclef, 〈mama, see〉
2018 : Jclef, 〈지구 멸망 한 시간 전〉
2017 : 히피는 집시였다(Hippy was Gipsy), 〈한국화(Korean Flower)〉
2016 : jeebanoff, 〈삼선동 사거리(sungbook-gu kids)〉
2015 : DEAN, 〈풀어(Pour Up)〉
【Best Pop Album of 2020】
조동익(jo dongik), 《푸른 베개(blue pillow)》
80年代の重要なデュオ'어떤날(Someday)'のメンバーをはじめ、キム・グァンソク、ジャン・ピルスンなどの音楽をプロデュースしながら、韓国大衆音楽史を貫通して、自分の音の土壌を整えた音楽家、ジョ・ドンイク。彼のソロアルバム《동경(憧憬)》(1994)からおよそ26年ぶりに帰ってきた理由は、彼の兄弟で、韓国インディー音楽の星のような存在だった、故ジョ・ドンジン(1947~2017)歌手を追慕するためである。それに加えて、同じく2020年に、音楽家であって彼の姉妹のジョ・ドンヒ歌手もまた《슬픔은 아름다움의 그림자 (Sadness is the shadow of beauty)》で戻ってきて、本作と共に今年の重要な音盤として残る。
ジョ・ドンイクなりのアンビエント・スローコアと呼ぶべきだろうか。曇った空間の中で遅く広がる旋律は自然の音と混ざったためか、一抹の暖かさを感じる。ピアノと弦楽器の音の周りで光るグリッチがその音楽の正体性を知らせるようで、技巧が輝いたりはしなりが、発される音の一つ一つが胸に濃い痕跡を残す。序盤の3曲を含め、歌詞のないトラックが多く、特にアルバム同名のトラック〈푸른 베개 (blue pillow)〉の場合、そのランニングタイムが10分に至るのだが、それでもその旋律には聴者を導く力がある。アルバム全体を一曲のごとくつなぐ装置のためででもあり、我らが追慕する存在がそれくらい重たく近づいてくるからでもあるだろう。
〈푸른 베개 (blue pillow)〉の最後に帰ってきた家には、自分に贈る花(〈내가 내게 선사하는 꽃 (flower to myself)〉)だけが残っている。少しの間だけ咲いて、すぐに散るよう願う、悲しみの花。雨が降るような自然音と違って、ジャン・ピルスンの声は電子音に歪められている。〈그 겨울 얼어붙은 멜로디로 (frozen tunes from that winter)〉の始めと終わりには緊迫感を増すサンプルを通して、彼らが星に旅立った瞬間を描く。ジョ・ドンヒが代わりに詠む、ジョ・ドンジンとキム・ナムヒ夫婦の話があるジョ・ドンイクの日記(〈Farewell. Jdj, Knh (1972)〉)は一番切ない記憶だ。悲しみは果たして去るだろうか。アルバム序盤にしばらく鳴っていた旋律が繰り返される〈날개 II (wings II)〉で「塩のごとく溶けるように」と叫ぶジョ・ドンイクの声は、本作で感情が一番高揚される地点だ。翼を失ったからこそもっと高める声。それが、空に届くよう願いながら。
本作の追慕が完結されなかったということを、ジョ・ドンヒのアルバムが出てからようやくわかった。互いに大事な存在で、特別な共同体だったからこそ、もっと大きいはずの空席。本作のアンビエントな自然の音は広すぎたし、遅い旋律はすなわち悲しみの重さだった。だからこそ、自分は本作の音に対して軽々しく「気に入った」と言い難い。ただ彼が、いや、彼らが提供する記憶の場所に、気持ちだけでも参加したい。そして僕も、時間のほこりをはたいて、記憶すべき顔が浮かんでくる。
2019 : 카코포니(cacophony), 《夢(Dream)》
2018 : 이진아(Lee Jin Ah), 《진아식당(Jinah Restaurent) Full Course》
2017 : 아이유(IU), 《Palette》
2016 : 조동진(Jo Dong-jin), 《나무가 되어(As a Tree)》
2015 : 이채언루트(Echae en Route), 《Madeline》
【Best Pop Track of 2020】
달의하루(Dareharu), 〈너로피어오라(Flowering)〉
Dareharuはずっと真夜中でいいのに。、ヨルシカ、YOASOBIなどで代表されるポスト・ボーカロイド感性のポップロックを導入し、そこにブラックミュージックジャンルの文法を融合して、韓国同人音楽界に新鮮な活力を吹き込んだ。彼らの二番目の発表曲である本曲は、オリエンタルポップらしい古風的な唱法と、マンブル・シンイングラップのようにトレンディーなパフォーマンスを調和させて固有性を確保し、韓国語歌詞の味を生かす。また、全体的な展開において過剰と節制を行き来して物語の起承転結と感情の高低を確然と表す。例えば、ブリッジで弾む絢爛な演奏が崩れる途端に恐怖のような緊張を呼び起こすように。大切な関係が途絶えて生きる動力をなくし、永遠のブラックアウトに取り残されたような人生の暗い瞬間。その感情を、仏教世界観と共にサブカルの文法を通じて物語に昇華し、死を引用することで逆説的に完全なものになれない人々の人生を慰める。独自的な世界観と音楽の波及は同人音楽界に重たい足跡を残し、流行り出しているレトロ式ミュージックビデオの完成度の高い代表作でもあって、人間関係と死の問題を考察した曲として、本曲を今年を代表する韓国ポップトラックとして選定した。しかし、そう言った修飾語よりも、喪失の悲しみと苦痛を絢爛に隠す音と、断絶の不安の中で揺らぐ歌詞に慰められた、その時間が何よりも大切に感じられる。R.I.P. ampstyle.
2019 : Lim Kim, 〈민족요(MINJOKYO) (ENTRANCE)〉
2018 : 이진아(Lee Jin Ah), 〈RUN〉
2017 : ADOY, 〈Grace〉
2016 : 검정치마(The Black Skirts), 〈EVERYTHING〉
2015 : IU, 〈스물셋(Twenty-three)〉
【Best K-Pop Album of 2020】
Red Velvet, 《'The ReVe Festival' Finale》
Red Velvetは、K-Pop界で確実に独歩的な位置にある。それに対して色んな分析があるだろうけど、まだK-Popジャンルにそこまで馴染めてない僕にとっては、単純に彼女らから感じられる「音楽的完成度」という言葉でしか説明できそうにない。それで合ってる話だとは思う。メンバーたちの優れたボーカル力量と共に、エレクトロニカとR&Bをそれぞれ親しげな形態で駆使しつつ、ジャンルが与える快感を逃さず、それらを融合しながら進化していく。例えば、〈Russian Roulette〉(2016)で見せたシンセサイザーの運用が、当時のダンスポップ傾向をどう変奏するのか。K-Pop史の中で絶対に欠かせない名盤として位置づけられた《Perfect Velvet》(2017)では、オルタナティブR&BがK-Popにどう定着するのかを見られる。そして結論的に、本作もまたRed Velvetの長所をちゃんと反映しただけでなく、果敢な試しまで見れる作品である。
2019年にかけて展開されたRed Velvetの『The ReVe Festival』プロジェクトは素晴らしかった。おそらく19年度のK-Popトラックの中で一番論争的だったであろう〈짐살라빔 (Zimzalabim)〉を含める《'The ReVe Festival' Day 1》では、ロックサウンドを積極的に融合してうきうきと楽しい姿を見せて、《'The ReVe Festival' Day 2》では、もっとグルービーでジャジーな曲で夏のときめきを描いた。そして、年末年始をヒットした〈Psycho〉を筆頭としてプロジェクトを集大成した本作は、陰惨なメロディーとイメージを前面に出すことで、皆の予想を裏切って、プロジェクトのストーリーを大きく覆す。それは、彼女らのキャリアーで時々見せてきたアンキャニー(uncanny)な瞬間たちが爆発する現場でもあった。
フェスティバルは成功的だった。「Day 1」ではロックサウンドなどの実験を試し、「Day 2」では彼女らのボーカル力量を生かしてジャンル的に押してなめらかな結果物を得て、最後に至ってはコンセプトの融合と共に、プロジェクト全体を再読解させるストーリーを付与するという、最高のフィナーレを迎えた。半年以上にかけた祭りは、その終わりからおよそ1年が経った今でも、忘れられない思い出として記憶される。
2019 : 이달의 소녀(LOONA), 《[X X]》
2018 : 방탄소년단(BTS), 《LOVE YOURSELF 轉 'Tear'》
2017 : Red Velvet, 《Perfect Velvet》
2016 : 방탄소년단(BTS), 《WINGS》
2015 : f(x), 《4 Walls》
【Best K-Pop Track of 2020】
cignature, 〈눈누난나(Nun Nu Nan Na)〉
若々しさ、乱雑さ、ハイパーさ。本曲を説明する言葉は多いだろうが、僕には意外と「適材適所」という言葉が浮かんだ。今年デビューした新鋭アイドルグループ”cignature”のデビューシングルとして発表され、デビューEP《Listen and Speak》にも収録された本曲は、過剰なシンセサイザー音がうるさく鳴り響き、強くダンピングされたベースとリズムパートもまたパターンを各様に変えながら大きな落差を形成する。ボーカルもチャントとスタッカート、機械音などを使って陽的なエネルギーをいっぱい発散する。そこで本曲が優れたところは、すべてのパートの自己主張が強いにもかかわらず、それらがとてもうまく調和するという点である。例えば、「JAVIS 私を助けて (mayday mayday)」の、2音節ラップを勝手に飛ばしちゃうようなボーカルが、うるさく鳴るリズムパートになんて完璧にくっつくのか注目してみよう。また、「特別にもっと、くらっともっと」のプレ・フック(pre-hook)で突然登場するサイレンみたいなシンス音が割と自然に緊張感と疾走感を吹き入れる場面も要注目。そうやって雰囲気が高潮されてフック(hook)を迎えると、ディストーションされたベースが入ることで落差にもっとスリルを与える場面も。興を抑えられないくらい発散するK-Popトラックは常に存在したし、近来には「ハイパーポップ」と命名されたスタイルの下で意図的に過剰な音を追求する試しも増えている。その中、過剰なエネルギーを思う存分発散しつつも、音楽的に完璧に統制するタイミングの美学に、惚れざるを得なかった。
2019 : 이달의 소녀(LOONA), 〈Butterfly〉
2018 : BLACKPINK, 〈뚜두뚜두(DDU-DU DDU-DU)〉
2017 : Red Velvet, 〈피카부(Peek-A-Boo)〉
2016 : Red Velvet, 〈러시안 룰렛(Russian Roulette)〉
2015 : f(x), 〈4 Walls〉
【Best Jazz/Fusion Album of 2020】
추다혜차지스(CHUDAHYE CHAGIS), 《오늘밤 당산나무 아래서(Underneath the Dangsan Tree Tonight)》
(【Best Album of 2020】のコメントで代替します。)
2019 : 김오키(Kim Oki), 《스피릿선발대(Spirit Advance Unit)》
2018 : Near East Quartet, 《Near East Quartet》
2017 : 한승석(Han Seung Seok), 정재일(Jung Jae Il), 《끝내 바다에(And There, The Sea at Last)》
2016 : 박지하(Park Jiha), 《Communion》
2015 : 나희경(Heekyung Na), 《Flowing》
【Best Jazz/Fusion Track of 2020】
추다혜차지스(CHUDAHYE CHAGIS), 〈사는새(Soul Birds)〉
巫歌とファンクなどを融合したアルバム、《오늘밤 당산나무 아래서(Underneath the Dangsan Tree Tonight)》のハイライトを占めるトラックで、「ジェジュ・セドリム」という巫歌を基に、韓国のシャーマニズム音楽とブラックミュージックの霊的な接近が効果的に出会う。西道民謡唱法特有の揺れがブルージーな演奏に合わせてグルーブを作り出し、俗世を脱出したいという欲望を、色んな鳥の名前を呼名しながら、それらに投影する。そして「フォルチュク フォルチャン」と叫ぶと、集まった鳥が飛んでいくように演奏のエネルギーが高まる。何よりも、客演で参加したキム・オキのサックス演奏が圧巻で、彼のジャンルがSun Raなどで代表されるスピリチュアル・ジャズと呼ばれるよう、呼吸ができないほど高潮される演奏はいかに霊的な合一をこなすような感じだ。巫歌、ファンク、ジャズ。各ジャンルの歴史の中で投影されてきた霊的なエネルギーが出会って作り出す渦巻は、なかなか忘れられない経験になるだろう。
※参照:coloringCYANのレビュー、キム・ドハンのレビュー。
2019 : 김오키(Kim Oki), 〈나는 한국인이 아니다(I'm Not Korean)〉
2018 : AASSA, 〈하나가 되자(Reunification)〉
2017 : 한승석(Han Seung Seok), 정재일(Jung Jae Il), 〈저 물결 끝내 바다에(and there, the sea at last)〉
2016 : 박지하(Park Jiha), 〈All Souls' Day〉
2015 : The NEQ, 〈Crow And Egret〉
【付録:Monthly Best Album】
DEC : 진보(JINBO), 《DON'T THINK TOO MUCH》 (R&B)
JAN : 혁오(HYUKOH), 《사랑으로(through love)》 (Rock)
FEB : 새소년(SE SO NEON), 《비적응(Nonadaptation)》 (Rock)
MAR : BLNK, 《FLAME》 (Hip-Hop)
APR : Deepflow, 《FOUNDER》 (Hip-Hop)
MAY : 추다혜차지스(CHUDAHYE CHAGIS), 《오늘밤 당산나무 아래서(Underneath the Dangsan Tree Tonight)》(Fusion)
JUN : DABDA, 《But, All the Shining Things Are》 (Rock)
JUL : 경기시나위오케스트라(Gyeonggi Sinawi Orchestra), 《新, 시나위(Neo Sinawi)》(Traditional)
AUG : 장명선(Jang Myung Sun), 《나의 유령 자매에게 : 이리 와, 내가 모든 슬픔을 삼켰어(Dear My Ghost Sibling : Come, I Swallowed All Sorrows)》(Electronic)
SEP : 김사월(Kim Sawol), 《헤븐(Heaven)》 (Folk)
OCT : 문소문(moonsomoon), 《붉은 눈(Red Eyes)》 (Folk)
NOV : Various Artists, 《We, Do It Together》 (Rock)