『ブレードランナー』をみてわかった気になるな、小説『電気羊』はエモくて泣ける!~柴崎 友香 × 豊崎 由美、フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』『流れよわが涙、と警官は言った』(早川書房)を読む~
今起きている現実をあなた向けにカスタマイズします(By Twitter)
柴崎さんが今回ディックを取り上げたのは、現在がディック的な社会になっているのではないかと思ったから。柴崎さんは2012年頃からTwitterを始めたそうですが、2014年頃、朝、Twittterをあけると「今起きている現実をあなた向けにカスタマイズします」という文言が目に飛び込んできます。この文言を読んで、柴崎さんは、「まさにディック的な世界」と感じました。
SNS上でそれぞれが、自分向けにカスタマイズされた世界にいる現在。ディックを読み直すチャンスです。
ケモノ馬鹿小説『電気羊』
映画「ブレードランナー」が有名すぎて、映画を見たことにより小説を読んだ気になっている人も多い『アンドロイドは電気羊の夢をみるか』。柴崎さんと豊崎さんが口を揃えていったのは「映画と小説は全く違う」。もちろん、映画と小説は表現できることも違うし、テイストが異なることも多いのですが、『ブレードランナー』と『電気羊』は乖離の大きさが目立ちます。どちらも良い作品なので、映画を観た人はぜひ小説も読んでください。
小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』には、映画のような格好いいサンフランシスコの街も、格好いいハリソン・フォードのようなヒーローも出てきません。主人公はくたびれたアンドロイド・ハンターで、本物の動物を飼いたいと願いながらも、かなわず「電気羊」を飼っている男。
豊崎さんは、何年かぶりに読み返し、「こんなに『ケモノ馬鹿』小説だったのか」とびっくり。そして、意外にもエモく、泣ける小説との感想を持ちました。SF作家と称されていますが、ディックは人間を書く、ヒューマニズムの小説家と、豊崎さん。ディックが想像するサイエンスの部分は、例えば『電気羊』では出てくる動物のカタログが紙だったりと、決して優れているわけではない、でも、書かれている人間の部分がしっかりとしており、だからこそ、現在でも読み継がれているのだと分析します。
柴崎さんが感じたのは、「人間はアンドロイドにも感情を持ってほしいと思っている」という点。柴崎さんが思い出したのは「Aiboのお葬式」。初代Aiboの部品が無くなり修理不能となったAiboのお葬式を出す、これは人間が自分の好きなものには感情を持っていてほしいという気持ちの表れではないかといいます。
対談の後半は、『流れよわが涙、と警官は言った』について。こちらも聴きどころ満載。柴崎さんが、商社の役員の人から「君は芥川賞を受賞したそうだが、人生経験が足りなさそうなので、自分のところに経験を聴きにきなさい」といわれたというエピソードは抱腹絶倒。豊崎さんは「アンドロイドでは!」と驚きます。
対談が行われた2022年7月25日はコロナの第七波が顕著になった時期。お二人ともマスクをしての対談となりました。暑い中、ありがとうございました。
対談はアーカイブ視聴が可能です。
【記事を書いた人:くるくる】