2時間弱でカミュの人生を語りつくす!~中条省平 × 鹿島茂、中条省平『カミュ伝』(集英社インターナショナル)を読む~
Absurdité(不条理)がキーワード
カミュの生涯を理解するためのキーワードは”Absurdité”(不条理)”。Absurditéはフランス語で不条理という意味ですが、フランス語では、日本語の「不条理」という言葉がもつ、哲学的かつ文語体のようなな響きとは異なり、日常的に使う言葉で、中条先生によると「(日本語での)ナンセンス」に近い。どこか笑ってしまうような響きがあります。
そして、カミュの人生もAbsurditéに満ちています。貧しい子ども時代、僥倖が重なりリセに進学するも結核になり、パリに行き、女性関係は華やか、文壇で成功するも、演劇に惹かれ、最後には自動車事故で死亡、長くはないのに波乱万丈に満ちた人生を、全容が一読で見渡せるよう、コンパクトにまとめた本書。
対談では2時間弱で、母親、恩師ジャック・グルニエ、結核、共産党、サルトルとの出会いと別離、女性関係、演劇、ガリマールとの関係など、様々な視点から「ぐっと凝縮した」カミュの生涯を語っていきます。
三島由紀夫は慧眼
対談はどこから聞いても面白いので、アーカイブを聴いていただきたいのですが、ここでは、ポイントをちょっとだけピックアップ。
カミュの考えを一言でいうと、「(運命は)向こうからやってくるもの」と考えている。その意味で、三島由紀夫はカミュをよく理解しており、中条さんは、新書の中で、日本人では三島由紀夫と内田樹のカミュについての論評を取り上げています。中条さんは鹿島さんに「三島由紀夫とカミュについて書いて欲しい」とリクエスト。
「カミュはカサノバ的で、女性に理想をもっておらず、結婚してはいけない男」と鹿島さん。もう一つ、鹿島さんがカミュの理解の補助線として提示したのが、モーリス・バレスのこと。『自我礼拝』の著者で、フランス右翼思想の始祖のような人ですが、鹿島さんはカミュはバレスを読んでいたのではないかと推理します。ちなみに鹿島さんはバレスについて書かれた本の書評をしています。
あとはぜひアーカイブをお聞きください。2時間でカミュの生涯がわかります。
なお、フランスでは、カミュとカザレスの書簡がベストセラーになっているのですが、中条さんは翻訳に取り組む予定はないそうです。「書簡集は膨大で、かつ緻密が注釈がないと理解させることができない。若手の研究者の翻訳を応援したい」とのことです。誰か訳してくれないかな。
【記事を書いた人:くるくる】