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経団連が高等専門学校卒業生の処遇改善を提言

少子化により日本の教育界は大きな転換点を迎えています。推計によると、2035年~2040年にかけて18歳人口が急激に減少し、大学の学部入学者数は2割超減少する見通しです。

このような人口動態の大幅な変化に対応するためにも、高等教育機関の改革が急務となってきています。

岸田内閣は「新しい資本主義」の実現に向けて、「人的資本の最大化」を重要な柱に策定しました。具体的には、リスキリング(学び直し)支援、職務給制度の導入、成長分野への労働移動の円滑化といった三位一体の労働市場改革の推進です。

経済界が示す新たな評価

こうした時代背景のもとで、経団連は2040年に向けた国家ビジョン「FUTURE DESIGN 2040」を2024年12月に公表。教育改革を施策の柱のひとつに位置づけました。

2025年2月18日には、経団連から『2040 年を見据えた教育改革 ~個の主体性を活かし持続可能な未来を築く~』と題する提言書が公開されました。

この中でわたしたちが注目した点は、「高専卒業生の処遇改善」を明確に提言している点です。

経済界が特定の教育機関に注目し、待遇改善を求めるのは異例であり、専門技術教育や高専教育を取り巻く環境の変化がうかがえます。

産業構造とスキル需要の変化

近年、日本の雇用構造では大きな変化が見られています。OECD諸国の多くでは、過去20年間で高スキル職(例えば、専門職や技術職)に就く人の割合が増える一方で、中スキル職(事務職など)の割合が減少する傾向が見られます。

これは、技術革新や自動化により中スキルのルーティン業務が減り、高度なスキルを要する職種が求められるようになったためです。

しかし、近年の日本では高スキルの仕事に就く人があまり増えず、中スキルのノンルーティン業務を担う雇用が増えているのが特徴です。

日本の未来の労働市場で高スキルの人材を増やしていくために、教育機関と産業界が協力し、時代に合ったスキルを学生に提供することが必要不可欠となるのです。

専門技術教育への期待と産業界のニーズ

AIや自動化の台頭により従来のホワイトカラー職の一部が縮小する可能性が高まる一方で、産業界は専門技術を持つ人材を強く求めています。

産業界は確かな専門技術を持つ人材をこれまで以上に求めており、このような状況の中で、高等専門学校(高専)や専門学校の果たす役割がますます重要になっていくことが提言書の中に言及されています。

高専では、半導体、数理・データサイエンス・AI、IoT、ロボティクスといった先端技術分野に対応したカリキュラムの開発が進められています。加えて、STEAM教育やPBLなど社会実装教育を重視し、多面的な知識や実践的な技能を身につける教育を行っています。

特に北海道から沖縄まで58校、地方に点在する高専には、地域産業を支える人材供給源としての役割が期待され、企業との連携を通じた地域課題の解決にも貢献することが求められています。

高専生が起業に挑戦し、地域活性化や新たな産業の創出に寄与することも奨励されています。高専の教育は、単なる専門技術の習得にとどまらず、創造性や社会課題解決の視点を持つソーシャルドクターとしての人材育成へとシフトしつつあります。

処遇改善とジョブ型雇用への転換

一方で、現在の高専卒業生の待遇には課題が残っています。

経団連の提言では、ジョブ型雇用の導入を進めることで、高専卒業生の処遇を見直すべきと指摘されています。

高い技術力を持ち即戦力として活躍できる高専卒業生に対する処遇を、大学卒業者と同等以上に引き上げることの検討について言及がありました。

企業がジョブ型採用を進めるためには、卒業生が持つ専門技術やスキルを適正に評価し、それに応じた処遇を行う仕組みを整備する必要があります。

高い専門技術を持つ人材が即戦力として活躍できるように、企業に対しては、職務内容に基づいた給与体系を整備するための変革が求められます。

また、人手不足が深刻な業種では、政府の奨学金支給や企業との連携・協働による高専人材育成への支援が必要です。例えば、優秀な学生の発掘や認知度向上を目的としたコンテストへの協力が、企業と高専の関係強化の一環として提案されています。

今後、企業や行政、高専がどのようにこの提言を具体的に実行に移していくかが注目されます。


参考文献

経団連は2024年12月4日、高等専門学校(高専)の人材育成について議論する委員会を開催。

国立高専機構の谷口功理事長は、モデルコアカリキュラム(MCC)導入やリベラルアーツ・最新技術教育の充実を強調し、高専卒の初任給引き上げを要請しました。

神山まるごと高専の田中義崇パートナーは、起業家育成を目的とする独自カリキュラムや奨学金制度を紹介し、企業版ふるさと納税活用を提案。産業界との連携強化を通じた高専卒の待遇改善に言及しました。

日本経済団体連合会. (2025年1月16日). 高等専門学校における人材育成の取り組み. 週刊 経団連タイムス, (3667). https://www.keidanren.or.jp/policy/2025/0116.html


日本経済団体連合会. (2025年2月18日). 2040年を見据えた教育改革 ~個の主体性を活かし持続可能な未来を築く~. https://www.keidanren.or.jp/policy/2025/014_honbun.pdf

日本経済団体連合会. (2025年2月18日). 2040年を見据えた教育改革 ~個の主体性を活かし持続可能な未来を築く~(概要版).

https://www.keidanren.or.jp/policy/2025/014_gaiyo.pdf

日本経済団体連合会. (2024年12月9日). FUTURE DESIGN 2040「成長と分配の好循環」~公正・公平で持続可能な社会を目指して~. https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/082.html

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