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日記|2025.1.4~1.10
2025/1/4(土)
立川のいつも通っている美容室へ、金髪のリタッチに向かう。雑誌の美術館特集を読んでいると、東京都庭園美術館が目に留まる。閑静な雰囲気、クラシカルな邸宅、広々とした空間と緑に惹かれる思いがする。綺麗になった生え際に満足して、グリーンスプリングスに向かう。Rojiura Curry SAMURAIでチキンと野菜のスープカレー。久しぶりのスープカレーは体中に染み込むような旨味と温かさがあってほっとする。
食べながら、待ち時間に読んでいた村上春樹の『職業としての小説家』で「小説家は他の専門的な仕事をしている人よりも寛容である」という話のことを考えていた。小説はずっと書き続けられる人は少なく、少し書いてから離脱してしまう人が多いこと。それから、小説のフィールドはゼロサムゲームではない、つまり誰かの作品が売れたら他の誰かが作品が売れなくなるわけではないから新参者にも寛容である、ということ。
大学の国際政治学の講義ぶりに、ゼロサムゲームという言葉を思い出したが、改めて好きな概念だと思った。インディーズのバンドやリトルプレスが好きなのも同じ理由で、反対の過度な商業主義への嫌悪感からきているかもしれない。誰も脱落しない世界の方がずっと好きだ。
2025/1/5(日)
読書会のために阿佐ヶ谷に向かう。時間まで高架下をぶらぶらとしていると、カレーとチャイのお店や冷凍食品だけ集めた自販機コーナーがあって興味深い。読書会では高瀬隼子さんの『新しい恋愛』の話をしたけれど、いつも話すたびに、煮詰めると「人を条件で選びたくない」という話をしている気がしてくる。最近は日記や創作論の方が惹かれるし、そちらを選んだ方が良かったのか。打ち上げは愛媛の宇和島のお店で郷土料理と日本酒・焼酎が美味しかったし、何より、ウイスキーやジン、ニッチな映画の話ができて、ああここが私の居場所なのだと感じる。
半年ほど前に主宰Pさんと知り合って、読書会に参加させてもらってから人間関係が広がった。特にPさんといつも遊びに誘ってくれるAさんには、頭が上がらないなと思う。ところでAさんに『飯沼一家に謝罪します』観ましたかと聞かれて、見ていないと言うと、「憧憬さん好きだと思う!うちで見ますか?」と声をかけてくれた。飯沼家の4人が亡くなった原因が、民俗学者の行った儀式の責任を問う内容。『ゆきゆきて神軍』のような精神を感じて気になってしまう。「憧憬さん好きだと思う」の嬉しさが沁みて、最近の孤独感に対する解像度が少し上がった。誰かと一緒にいたいのではなく、理解されたいということの方が、近い感情だと気が付いた。それにしても、Aさんは人を喜ばせる天才。
2025/1/6(月)
仕事始め。ランチに足をのばしてMさんと焼肉。迷ったら頼むことにしている、ハラミの定食を注文する。年末年始のあれこれや、今年の展望など、色々話しているなかで、私がもうすぐ家の2回目の更新、引っ越すなら幡ヶ谷が気になっているけれど、何も具体的なことは考えていないし、そもそも今の中央線暮らしから離れたくないと言うと、Mさんが物件を色々調べて見せてくれた。うーん、思ったより心が動かなくて、想像以上に中央線への愛着を感じる。雨が降り出した帰り道、Mさんが買ってくれたビニール傘を一緒にさして歩くひととき、透明なキャンディーのよう。
2025/1/7(火)
お行儀よく人間関係に悩み、朝の中央線に乗りながらChatGPTに相談しているなかで、読書会で聞いた『青野くんに触りたいから死にたい』のフレーズを思い出す。今まで感じていた苦しい思いが実は自分の課題ではなく、人の課題であったこと。自分に課題を押し付けてきていた人に、課題をお返ししますということ。課題の切り分け。「私は自分の課題と人の課題を分離して考えることができる、かっこいい人間である」と半分独り言のようにつぶやく。
ChatGPTの返答を読みながら、今までの様々な悩みの中核のような気がしてハッとする。通勤の電車内で誰にも言えてなかった、心の奥底の思いや自分の課題に形を与えたということで、一気に視界が開けた感じで生活に光を感じる。ChatGPT-4oを使う前は、AIにこんな深い感情を抱く日が来るなんで、思ってもみなかった。
2025/1/8(水)
進めているプロジェクトの大事な社外打ち合せ。朝から緊張してそわそわしていたが、事前準備は念入りにしておいたし、大事なこともいくつか決まって特に問題なく終わって良かった。その後は放心してあまり覚えてないが、ランチに食べた旬のぶり丼は、脂がのって今まで食べたぶりのなかでいちばん美味しかった。平日だと気力が足りなくて、思うように本が読めないのがもどかしい。本や映画に触れていないと、自分が自分の形を保てていないような気がして気持ちが悪い。
2025/1/9(木)
年明けから私が異動して、最近同じチームになったRさんが声をかけてくれてランチをする。今週2回目の焼肉、ハラミを注文。Rさんとは趣味は違えど、人が好きで社交的な部分が通じ合うのか、何を話していても楽しい。私とは違う世界の方なのかなと思っていたが、大学時代は飲み会とか怖くてサークルとか入らなかったという話を聞いて、陰のような部分を見た気がする。俄然Rさんへの興味が深まるのを感じる。
今度Rさんの知り合いがやっている、スパイス料理やお酒のイベントに一緒に行く約束をした。その後、Rさんが事前に私のことを文化人だと聞いてました、と言われて、身の丈に合わないかもという思いと嬉しさがミルフィーユのように重層的に積み重なっていく思いがする。
2025/1/10(金)
今日頑張れば三連休だという思いと、今日は頑張れないよという思いが、天使と悪魔の追いかけっこのように、忙しなく頭のなかをぐるぐるとしている。段々疲れてきたので、ランチにお決まりの金子半之助に天ぷらをチャージしにいく。
天ぷらが出てくる前に自由にいただける、いか柚子と高菜明太子の壺が絶品で、実はてんぷらより壺を楽しみにきている気がしてくる。揚げたての天ぷらがやってくると、いかのかき揚げはおろし入りの天つゆ、かしわ天は塩、など調味料でも楽しんで満足。オフィスに戻って、22時まで猛烈に働いて気力を使い切った。
帰った後は、1週間の打ち上げに辛ラーメンでプデチゲを作る。打ち上げは辛ラーメンを選びがちだが、普段の我慢がスパイスになって、いっそう辛く感じるのを喜んでいる。