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アメリカンドッグが食べたい。

 唐突に思い出した。
 初めての海外旅行。行き先はニューヨーク。
 帰国子女だった会社の同僚に、今度帰るから、一緒に来る? と言われて着いて行った。
 ロングアイランド、ポートワシントン。

 到着して三日目。

「ちょっと用事あるから行ってくる。夕方5時にクィーンズ・ビレッジ集合」

 と言われ、どこ? それ。
 英語もしゃべれないし、スマホもない時代。

 ロングアイランドから電車を乗り継いで、マンハッタン、そこから自由の女神、そしてクィーンズに僕は向かった。
 地下鉄の乗り方さえ知らなかったのに、一人ぼっちで。

 道すがら、今はもうない紀伊国屋書店で村上春樹の英語版を買ったり、グラウンド・ゼロまで歩いたり、NASDAQのビルを見上げたり、タイムズスクエアで写真を撮ったりした。
 一人ぼっちでも案外、やれるもんだ。

 この日の僕はとにかく「アメリカンドッグの屋台のおっさんに道を訊く」を徹底した。めちゃくちゃ優しい、というイメージだけがあった。映画で観たんだろう。
 行きたい場所を言う、それしかできなかったけれど、迷うことはなかった。

 初めてのニューヨークは楽しすぎて、待ち合わせ場所に着いたのは、約束のちょうど二時間後。
 孤独でもやれるものだ。(アメリカンドッグの屋台のおっさんさえいればね)

 僕は一生道に迷わない。(アメリカンドッグの屋台のおっさんさえいればね)

 何度も繰り返すが、道案内なら「アメリカンドッグの屋台のおっさん」。
 おかげで、一日に9個のアメリカンドッグを食べるはめにはなったけれど。

 なるほど。
 川崎にはケバブの屋台しかないから、僕は道に迷いっぱなしなのか。
 ケバブは割と好きだ。一日に12個くらいまでは食べれそうではある。
 しかし、ケバブの屋台のおっさんは道を知らない。
 僕の道案内役として相応しくない。

 とにもかくにも。
 僕の行き先を教えてくれるのは、アメリカンドッグの屋台のおっさん。
 あっち行ってから、こっちー、と言ってくれるのは。
 アメリカンドッグの屋台のおっさんでないとダメなのだ。

 さて。 
 ここで訊きたいことがある。

 僕はこの先、どこに行けばいい?

 訊く相手が相手が今はいない。街を歩き回っても、アメリカンドッグの屋台のおっさんがいない。いないのだ。トルコ人しかいないのだ。たまに、ネパール人もいる。ケバブ無関係。なぜいるの。ただ、お前も違うんだ。
「ケバブ屋のおっさん、お前じゃねんだわ!」

 というわけで。

 誰に尋ねればいいのか分からないので、あなたに訊いてみる。

「僕はこの先、どこへ行けばいい?」

野良犬募金よりは有効に使わせて頂きます。