外用薬における分子量の違いによる影響はあるのか?-500Dalton rule-
いつき博士です。
アレルギー患者教育向けサイトを運営しております。
『タクロリムスとステロイドの違い』
の勉強をしており
メーカーから良い文献があることを教えて頂きました。
本文献では
他の製剤の特性なども記載されているため
とても勉強になりました。
1.そもそも皮膚の構造とは?
人間の皮膚には多くの機能があります。
外から体内へのあらゆる化合物の侵入は
主に表皮の角層によって防がれます。
表皮の厚さはわずか数マイクロメートルだが
効果的にバリアを形成しています。
バリア機能へ浸透しなければ
一般的には何も起こらないと言われています。
アトピー性皮膚炎の治療を行う上で
バリア機能を通過するには
分子量が重要なファクターになるのか?
を考えていきます。
2.皮膚科治療でよく使用される外用薬の分子量は?
皮膚科治療では
さまざまな活性分子が
個々の皮膚病変の局所治療に利用されています。
よく使用される外用薬リストは下記の通りです。
ご覧頂くとわかるように
ほとんどの薬は分子量が500Dalton以下です。
※Dalton=質量の単位
分子量が500Dalton以上の薬剤もありますが
二量体であり、それぞれの分子量は500Dalton以下です。
実際に経皮吸収薬に
使用される薬物の分子量は
500Daltonを下回り、350Daltonです。
※要約にも記載がありますが
ほとんどのアレルゲンも500Dalton以下です。
3.分子量の大きい薬剤はあるのか?
分子量の大きい薬剤として
皮膚科領域においてはシクロスポリンがあります。
シクロスポリンは
ステロイドの反応が良好な皮膚疾患において
非常に有効であることが知られています。
ただ、シクロスポリンの外用薬として
乾癬、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎に
効果がないことが判明しています。
一方で、シクロスポリンの注射での治療は
乾癬に有効であることがわかっています。1)
シクロスポリンの分子量は
1202Daltonで最も大きいです。2)
以上の2つの情報から
1202Daltonの分子量では
皮膚への浸透が十分でない可能性が考えられます。
また、タクロリムス、アスコマイシンも
分子量が822/811Daltonと大きいです。
4.皮膚構造による違いは?
こちらがこの文献のKeyとなるメッセージです。
一般の皮膚(NS)では
500Dalton付近で吸収率が低下します。
バリア機能が弱いアトピー患者(AD)は
800Dalton付近で吸収率が低下します。
粘膜では
1200Dalton付近で吸収率が低下します。
以上の結果から
皮膚の構造上で浸透する分子量が異なります。
すなわち
タクロリムスは分子量が大きいので
アトピーでない正常な皮膚からは吸収されず
作用しないとされています。
5.考察
タクロリムスは分子量が大きいため
正常な皮膚からは薬剤として吸収しにくく
バリア機能が低下している病変局所から
薬剤として吸収されます。
結果、皮膚炎が軽快すると吸収が低下し
副作用も生じにくいと考えられますね。
文献の一部に記載がありましたが
皮膚への吸収率は【分子量】という一つの要因だけでなく
親水性、親油性など様々な条件があるので
そこについては議論が必要ですね。
元文献を読み込むことで
新たな示唆も得られるので
とても勉強になりました。
[参考文献]
The 500 Dalton rule for the skin penetration of chemical compounds and drugs