5-3. プログラムされた細胞死【ミトコンドリア】
あらかじめ死ぬことを決定づけられている。
今回はミトコンドリアのもう1つの役割である「アポトーシス」について説明します。
ミトコンドリアには主に2つの役割があると前回説明しました。
ミトコンドリアの主な役割は
・ATP産生
・アポトーシスの調整
です。
ATP産生は前回書いたように、生命活動に必要なエネルギー源を産生する働きであり、いわば細胞の「生」を司ります。
一方、アポトーシスの調整とはタイトル通り「プログラムされた細胞死」であり、その名の通り細胞の「死」を司ります。
このようにミトコンドリアは2つの、一見相反する働きを有しています。一体プログラムされた細胞死というのはどうゆうことでしょうか。今回はこの「アポトーシス」について書いていこうと思います。
◎アポトーシスとは?
では早速ですが、プログラムされた細胞死、アポトーシスとは一体何なのでしょうか。
一番身近で分かりやすい例は「オタマジャクシ」です。
カエルの幼体であるオタマジャクシは魚のような形態をしています。しかしカエルに成長する過程で「尻尾」がだんだん消失していきますよね。これが代表的なアポトーシスです。ほかにも水掻きがなくなったり、体内での器官形成など、発生の過程で重要な役割を持ちます。
先ほどからこのアポトーシスを「プログラムされた細胞死」といっていますが、これはどうゆう意味でしょうか。これは細胞死が「遺伝子」によって決定づけられていることからきています。オタマジャクシなどは正常な成長過程では尻尾は消失されるように、遺伝子情報として書き込まれた状態です。つまりプログラムされた状態にあるというわけです。
このほかにもウイルスに侵された細胞や、がん化した細胞を処理する働きもあります。
通常、細胞は分裂し増殖します。発生の過程で細胞分裂は成長に欠かせないことではありますが、一生、永遠に細胞が増え続けると身体は正常な状態を保つことができなくなります。こういった場合、周りの細胞の状況を無視して細胞が増えることで、周囲の組織を圧迫、破壊、機能障害を引き起こします。これが一般的な「がん」です。
またウイルスに侵された細胞がそのままの状態でいることや、増殖することは生体にとって好ましくありません。
このように生体の健康、完全性を保つためにアポトーシスは存在します。
「死」を司るということは、「生」を保つということに繋がるのです。
ここまでの話をまとめると、
・正常な発生のためのプログラムされた細胞死
・生体に対して脅威となる細胞を処理する
この2つがアポトーシスが起こる理由です。
◎ミトコンドリアのアポトーシス調整
ここまでアポトーシスについて説明してきましたが、ATPを産生するミトコンドリアがどうしてアポトーシスと関係があるのでしょうか。
アポトーシスというのは様々な経路で起こります。東京から京都までの道が一本だけだと、その道が通れなくなったら往復できませんもんね。生体は想像しているより複雑で、様々なたんぱく質や器官、外因的、内因的要因の相互作用によって成り立っています。
そしてアポトーシスはそれ単体で機能することはおそらくほぼありません。何らかの物質によりアポトーシスが誘発されます。その1つに「シトクロムc」があります。
シトクロムcはミトコンドリアの内膜に弱く結合しているヘムたんぱく質の1つで、シトクロムcファミリーに属しています。このシトクロムcはアポトーシスを誘発させるタンパク質です。
まずアポトーシス促進性タンパク質のBax、Bad、Bikなどがミトコンドリア膜の表面に作用します。するとミトコンドリアの膜電位を低下させ、「シトクロムc」の放出を促進させます。このシトクロムcがdATPの存在下でApaf-1と複合体を形成し、さらに活性化させます。このApaf-1がCreaved Caspase-9などと結合し、タンパク質分解性の活性型Caspaseとなります。これにより、カスパーゼカスケードが開始されアポトーシスが起こります。
急に専門的な用語が並びましたがなんとなく分かりましたか?この経路ではミトコンドリアのシトクロムcが重要となります。このようにミトコンドリアはアポトーシス調整因子としての役割もあります。
以上がミトコンドリアの主な役割2つです。ちょっとだけミトコンドリアが何なのか分かりましたか?でももっともっとミトコンドリアは奥が深いです。ここにあげた2つは表面的なことです。また今後もっと専門的なことも書いていこうと思います。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
また読んでいただけるとうれしいです。