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100年以上続く家業を継がない僕が、親の仕事について考えること

僕の両親は、滋賀県長浜市で設備屋「株式会社小幡温水おばたおんすい」を営んでいます。創業は明治45(1912)年、2025年で113年を迎えました。

曽祖父が創業した会社で、父が3代目、長男である僕が継ぐのであれば4代目にあたります。

地元の人からは「お父さんの会社はどうするん?継がへんの?」と質問されることが多い中、継ぐ気配がないまま26歳を迎えました。

滋賀県長浜市は琵琶湖が身近にあり、自然豊かな街。
人口11万人の程よい田舎です。

僕は今、設備屋とは全然違う広報や文章を書く仕事をしています。

長男の僕も弟も継ぐつもりはないし、両親からは「好きな仕事をすればいい」と言ってもらっていますが、「父の代で会社は終わり。自分は好きに生きるわ」と言うのも何となく寂しい気持ちもある。

家業を潰したくない気持ちと自分には継げないという気持ち。両方の気持ちが織り混ざっている今日この頃です。

両親と僕と従業員さん

家業のことをぼんやり考えていると、「今自分が大事にしたいと思うことと両親が大事にしていることは同じだ」ということに気が付きました。

先祖代々引き継がれてきた“核”となる部分が明確になったことで、ちょっぴり生きやすくなる気がしてきました。

仕事は違えど、両親の影響を受けている人が多いのではないか。両親の仕事を知ることが、生き方を見直す機会になるのではないか。

僕自身、最近結婚し「生き方」や「家族」について考える機会が増えてきました。両親が作ってくれた温かい家族を作るにはどうすれば良いかも考えています。

そこで、自分のアイデンティティである家業について記事にすることにしました。

記事を読んで生き方について考え直したり、ご両親と話すきっかけになったりしたら嬉しいです。


「継がない」ではなく「継げない」と思った

高3の冬までは両親がどんな仕事をしているのか正直知りませんでした。「小幡温水という名のもと、自営業で色々やっている」ぐらいの感覚。

僕の地元では親が自営業をしている友達が多いこともあり、“自営業”という仕事だと思っていたぐらいです。

小幡温水の歴史

小さい頃から「好きな仕事をすればいいよ」と両親から言われていたこともあり、自分の意志で「小幡温水は継がない」と思っていました。

しかし、高校受験を早めに終えた高3の冬に初めて小幡温水でアルバイトをしたことで、印象がガラッと変わります。

  • 雨が降っていてもカッパを着て外で作業

  • 極寒の中、給湯器の取り替え

  • 家の地下に潜り込み、配管の点検

  • 足の踏み場もないぐらいの部屋の片付け

  • 排泄物によって詰まったトイレの改修

部屋の大掃除のご依頼(※写真掲載許可済)

給湯器が壊れたりお湯が出なくなったり、お客さんにとって水回りの修理は一刻を争う事態のため、すぐに駆けつけて対応しなければいけません。

特に今年のような大雪の場合、水回りのトラブルが頻発します。夜一緒にテレビを見ている時にお客さんから電話がかかり、「今から見に行きますね」と作業着に着替える姿を何度も目撃しました。

実家の窓から見た景色。かなり降ったそうです

「この仕事は簡単に継ぐことはできない」

両親が何十年とやってきた現場の仕事を体験したことで、ようやく家業の偉大さを知ることができました。

両親が築き上げてきた信頼を目の当たりに

お客さんの家の修理についていくと、お客さんから「あんたのとこのお父さんとお母さんはいい人やね。人が良いのが一番」と言われる機会が増えました。二、三回だけでなく何度も。

家のお困りごとがあった際に、小幡温水が最初に浮かぶ。詳しいことはよく分からないが、小幡さんに連絡をすれば何とかしてくれるだろう。

地元の人たちから声をかけてもらえるのは、目の前の人を大事にし続けた結果だと思います。

数人をたどれば出会いたい人にすぐ出会える。
人と人との距離が近い街です。

地域の大人に初めて会う時でも「小幡温水の息子です」と言えば、「おお、そうかそうか」と心を開いて歓迎してくれました。僕が何かをやったわけではないのに、息子であるだけで受け入れてもらえる。

アルバイト期間を通じて、両親が一つずつ着実に信頼を積み重ねてきたことを目の当たりにしました。

100年以上続けてきた「目の前の人を大事にする姿勢」

小幡温水が取り組んでいる事業は専門性が高く、「今日から継ぎます」と言ってすぐに継げるものではありません。

しかも、両親や従業員さん、パートさんは全員50代以上。社内に若手がいるわけではないため、次の世代に業務を引き継ぐのは難しい状況です。

このまま会社を終わらせるのか、僕が引き継ぐのか、他の人に事業承継するのか。僕自身が継ぐ可能性はほぼないと考えているものの、正直、まだ答えは出ていません。

そこで、現時点での親の気持ちを聞いてみました。

「会社の今後のことで何か考えていることはある?」

う〜ん。身体が元気なうちはあと10年ぐらい続けようと思っているけど、誰かに継いでもらうべきかは分からんのが正直なところ。息子2人には好きな仕事をしてほしいし

「おれも会社をどうにかしたいと思ってるけど、継ぐのは現実的ではなさそう」

「お互い今すぐに答えは出んと思う。またゆっくり話そう」

僕のことを第一に考え、尊重してくれる両親には頭が上がりません。

今の僕にできそうなことは、両親が大事にしてきた「目の前の人を大事にする」という姿勢を僕も意識すること。

自分も「人との関わりを大事にしたい」と両親に伝えたところ、「愛想良く接することが大事。どんな仕事であっても人とのご縁を大事にしなさい」と言ってくれました。

親の仕事を知ると見え方が変わる

僕は高3の冬に両親と一緒に仕事をしてから、両親や曽祖父、祖父に対するリスペクトの気持ちが増しました。しかも、100年以上もお客さんから必要とされてきたという事実。

ここまで繋いできてくれてありがとう、と心から感謝するようになりました。

子どもにとって一番身近な仕事は両親の仕事。「両親と同じ仕事を目指したい」と思う人がいれば、「両親とは別の仕事をしたい」と思う人もいるでしょう。

仕事を選ぶ際の参考材料になっている人も多いと思います。

自営業家庭でもサラリーマン家庭でも、親の仕事を知るのは、自分の人生と向き合うきっかけになります。

「どんな仕事をしているか具体的に聞かせてほしい」と言ってみることが、スタート。

僕のように、両親とは全く違う仕事をしていたとしても、「根底にある大事にしたい価値観は同じだ」と気付くかもしれません。

家業や両親の仕事と向き合うことは、自分の人生と向き合うことと同じ。両親が元気に仕事を続けているうちに、今後もたくさん話を聞かせてもらおうと思います。


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おばた わたる
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