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イルカと西の島に引きよせられて運命的な出会いを果たした二人の、その後のリアル


ミサ子さん。当時26歳。私の職場の先輩だった。ダイビングが好きで、旅行が好き。楽しいことがすき。仕事もそつなくこなせる。おっとりしていて、とてもかわいい。けれど、こだわりや芯がしっかりあって、自分の意見はしっかり言える。周囲に流されない。そんな彼女と一緒にいるのが、すごく楽しかった。

ある日、ミサ子さんは「イルカを見に行きたい」と西の島へ出かけた。片道数時間、島を一つ経由しての長旅だ。SNSにはかわいらしいイルカと、楽しそうな様子の投稿があがった。数日間の旅行を楽しんで、帰ってきた彼女の白かった肌は、日焼けで少し赤みを帯びていた。そして、イルカの写真を添えて土産話を聞かせてくれた。

「実は、プロポーズみたいなことされたんだよね。」

西の島に行く途中で、経由した島に宿泊した。その島の港で、船を待っていると、いきなりある男性に話しかけられ、一言二言、言葉を交わした後、「俺、君と結婚する!お願い、付き合って!」と突然、告げられ、あまりの必死さに、連絡先を交換し、やり取りをしているというのだ。ドラマみたいな出会い方だな。と思った直後、想像を膨らまそうとしたところで彼の容姿がきになり、尋ねると、「普通かな」とのこと。より一層気になった。彼は島在住の消防士であり、24歳。ミサ子さんに一目ぼれしたらしい。ミサ子さんの反応としては可でもなく、不可でもなく、まんざらでもないけど興味もなさそうな感じだった。

1ヶ月後、報告があった。付き合うことにした、と。必然だとおもった。二人は時間を見つけては、船に乗ってお互いの元を行き来し、愛を育んだ。人前でデレデレしたり惚気ないミサ子さんだったが、きっと彼のことが本当に好きだったと思う。

数ヶ月後、彼はミサ子さんとの時間を作るため仕事を辞めて島を出て、ミサ子さんが暮らしているマンションで一緒に暮らし始めた。

いつもうるさい。けど、寝顔はかわいい。自分がお風呂に入っていると、私のことも入れようとして、無理やり抱えられてお風呂に連行されるの。好きだなって思うこともあるけど、どうなんだろう。よく分からない。と、幸せそうに話していた。

しばらくして、彼に会う機会があった。ミサ子さんの車で迎えに来てくれた彼は、色黒で、島男の名残こそはあったものの、想像よりも、都会的な容姿をしていた。標準語を話し、聞き上手で、なによりミサ子さんのことが好きなのが伝わってきた。ミサ子さんも、楽しそうだった。

ある日、ミサ子さんと地元の花火大会へ出かけた。待ち合わせ、電車に乗り込んだが、終始落ち込んだ様子で、小さいため息も聞こえた。知り合って数年、今までそんなことは一度もなかった彼女だ。理由がわからず、心配になった。しかし、その原因が彼だと気づくのに時間はかからなかった。彼女が気にしているスマートフォンの画面には、操作することを許さないほど、彼からの着信画面が途切れることなく表示されていた。

「ちょっと話してくる。」

コンビニで、ミサ子さんの分と自分のチューハイとビール缶を買った。外に出ると、コンビニの外の人混みの中で、言い争っているミサ子さんが見えた。まだ買うものに迷っているふりをして、コンビニの中で電話が終わるのを待った。

「なんかさ、束縛がすごいんだよね。」

私が女友達と一緒に遊んだり、旅行に行ったりすることも許せないみたいで。こうやって家を空けると、狂ったみたいに連絡してくるの。電話に出るんだけど、必ず怒って帰って来いって言われて、ほんとに辛い。

泣きそうな顔で怒っているミサ子さんと、最寄り駅から花火大会の会場まで歩いた。

ミサ子さんは何度も同じ話を繰り返した。彼が、徐々に外出を嫌がるようになったこと。異常なまでに自分の時間を奪おうとすること。

これって、おかしいよね。やっぱりあの人がおかしいよね。

残念ながら彼に話を訊くことはできない。絶対に気持ちはわからないけれど、そうですね、と頷くしかなかった。

花火が始まった。周りは家族連れやカップルばかりだ。女二人、無言で花火を見つめた。彼からの着信は、間隔が空きながらも、しばらく止まなかった。



その後も、ミサ子さんと彼との関係性は変わらず、ミサ子さんが職場から異動となり、必然的に顔を合わせる機会が減っていった。

数か月後心配になってミサ子さんと会う約束をした。

だか、約束の時間になっても彼女は現れず、心配になって電話しても繋がらない。

1時間ほどして、彼女から電話があった。

今朝、警察に駆け込んで、彼との仲介してもらっているとのことだった。

私が知らなかった数か月間、彼の行動はよりエスカレートし、ミサ子さんに暴力を振るうようになっていた。ミサ子さんはそれでも、耐えていたが、私と遊ぶことを知った彼が怒り、手に負えなくなってしまった様子だった。


無事に別れましたと報告があったのは、それから1ヶ月後のこと。


交際期間は1年弱。


なんとも後味の悪い、あっけない、二人の最後だ。


ミサ子さんは彼のことを信じていたと思う。運命としか言えない出会いを、絶対に結婚すると言ってくれた彼の情熱を、信じていたと思う。

その情熱がまさか、自分を傷つけるものになるなんて、想像もしていなかった分、ものすごく、傷ついたと思う。



どんな素敵な出会い方をしても、運命を感じたとしても、

自分なりの条件を決めて、見合った相手に決めたとしても、

共に過ごす時間を幸せで、楽しいものにできなければ、台無しだ。興ざめだ。

シンデレラや白雪姫や人魚姫がどうなったかなんて、誰にもわからないし、興味もないだろう。



出会い方なんで、本当はどうだっていいのかもしれない。


だけど、運命を信じたくなるのは、どうしてなんだろう。


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