大映通り商店街 日本で唯一、八百屋さんが営む旅行会社
(編集 : 3回生 田中萌々花)
今日は、ちょっと進路のことでモヤモヤしていたわたしが出会った「大映通り商店街」の珍しいお店のお話を書こうと思います。
「自己分析?そんなのせんでええんちゃう。」
「それよりも、商店街のおっちゃんと最近こんなことあって〜って会話しとる方がよっぽど自分のこと知れるんちゃう。おっちゃんに相談したらええやん。」
最近、わたしの心に響いた言葉。
吉本興業元社長の大崎洋さんが講演してくださった時の言葉。
同級生が、
「最近就活が始まって、自己分析をしなさいとよく言われますが、大崎さんは自分を知るって何だと思いますか?」
という質問をした時の答えだった。
もちろん自分史やモチベーショングラフを書いてみたり、SWOT分析をしたり、自己分析ツールを使ったり。やっていく中で自分自身を整理することはできるけど、最終的にそれで自分が大切にしたい軸は何かって、わたしは明確には分からなかった。
ノートとシャーペンを持って机に向かっていても、道標までは見つからない。
何だかモヤモヤするなぁ。
そんな時の大崎さんの言葉だったので、すごく心に刺さった。
わたしの大好きな京都の商店街、いつも他愛のない日常会話のような、温かい心と笑顔をくれる。確かに商店街で人生の先輩たちとお話している方が、よっぽど自分のことも分かるのかも。
わたしにとって一番身近でお世話になっている「大映通り商店街」の入り口で、大崎さんの言葉を思い出していた。
「日本のハリウッド」とも呼ばれる映画の街・太秦にある大映通り商店街、その名の由来は、かつて近くに存在した大映京都撮影所にちなむもの。その当時は撮影の合間などに映画スターや俳優さんが商店街を訪れていたそうで、今でも多くの映画にまつわるエピソードが語り継がれる唯一無二の商店街。
実は全体が映画のコンセプトになっていて、道の両端にはこんなオレンジのラインが。
実はこれ、映画フィルムのイメージ。なんだか大映通り商店街の歴史が、一つのフィルムになって繋がっているみたい。
街灯も、こんな可愛らしいカメラのモチーフ。
なんだかここを歩いていると毎回フィルム映画のワンシーンに入り込んだような、自分が映画の主人公になったような気分になる。
それでは今日は、大映通り商店街でのワンシーンをお届けしよう。
太秦広隆寺の方から大映通り商店街を進み、3分ほど歩くと青果店「八百文(やおぶん)」がある。
この日は日差しが強く、店主のお父さんが汗を拭いながら道路に打ち水をしていた。
八百文は、80歳近くになる狩谷さんご夫婦が営業している昔ながらの八百屋さん。
わたしは商店街の八百屋さんに並ぶ野菜の不揃いさや、果物の熟し方がひとつずつ全く違うのが好き。
「このきゅうりは育ち過ぎたわ〜。」「このすももは熟しすぎてるから、ジャムにするのがええよ。」
毎日違う、今日のお野菜情報。この“買い話”が楽しいんだよなぁ。
それはともかく、実はここ、ただの八百屋さんではない。八百屋さんでありながら旅行会社でもあるのだ。
八百文は、90年ほど続く八百屋さん。しかしご主人が40歳を過ぎた頃から、野菜や果物を売っているだけでは経営も難しいことから何か始めようと思ったことがきっかけだった。
元々旅が好きなご主人。そしてどうせやるなら、ワクワクすることがしたい、人に喜んでもらえるようなことがしたい、そんな思いで始めようとしたのが旅行会社だった。
旅行会社を立ち上げるには、「旅行業務取扱管理者」という国家資格がいる。この資格、かなり難しい。私も将来、観光や旅行に携わるお仕事がしたいので総合旅行業務取扱管理者の資格取得に向けて勉強中なのだが、並大抵の努力では取ることはできないことを実感している。しかしながら、ご主人は40歳を超えたあたりから、お店を営業しながら猛勉強を始めたそうだ。そして念願の資格取得。個人の旅行会社を開業した。奥さんによると、ご主人はとても努力家で真面目なんだそう。
このひとつひとつ、丁寧に書かれた手書きの時刻表や掲示を見ていると、その丁寧さと旅への愛情が伝わってくる。
「旅行会社をやるには、まず自分が旅好きでないとね。」
普段寡黙なご主人が、笑顔でそう言った。旅行会社を始めた頃のことを思い出して、ご夫婦が色々な旅先の思い出話をしてくれた。お二人で添乗業務をすることもあったそう。
奥さんは、方向音痴なのでよくご主人に怒られていたと笑いながら話してくれた。
ご主人は、人のお世話をするんだから自分が楽しんでいる暇はないけどね、それでもお客さんの笑顔がやりがいだと語っていた。
80歳近くになるのでもうそんなに動き回れないが、楽しかったなぁと語るお二人の笑顔が眩しくて、わたしもこんな風に歳を取ってもキラキラした笑顔でいられるだろうかと考えてしまった。
「進路、就活。」という言葉が頭をよぎり、大崎洋さんが講演してくださった時の言葉を思い出す。
「自己分析?そんなのせんでええんちゃう。」
「それよりも、商店街のおっちゃんと最近こんなことあって〜って会話しとる方がよっぽど自分のこと知れるんちゃう。おっちゃんに相談したらええやん。」
「今、就活が始まっていて、自分って何がしたいんだろうとモヤモヤしているのですが、、、。」
気付いたら、狩谷さんご夫婦に話していた。
「そんな頭でっかちなことばかり言っててもね、行動せんとね。千差万別なんだから。人生なんて、八百屋さんやりながら旅行会社やっているように何が起こるかは分からないからね。きっとあなたが悩んでいるのは、色々頑張っていて可能性が広がってるからでしょ。それは幸せなことだね、悩めるほど選択肢も希望もあるんだから。でも今決めることは何もないんだから、精一杯可能性を広げておきなさい。行動した分だけ、いろんな景色が見れて人生豊かになるわ。」
「とりあえず、最近の若者は元気がないから頑張ってよ!」
奥さんの言葉はパワフルで、一つ一つの言葉に重みがあった。
ご主人は温かな笑顔のままゆっくりと腰を上げて、もう一度乾いた道路に水まきをした。
本当の意味で自分を知るって、人と交流した時、物事を成し遂げた時、見たかった景色を見に行った時、会いたい人に会った時、ふと心が惹かれるものに出会った時、毎日の色々な瞬間に、自分がどんな感情になっているのかに敏感になることなんだろうな。何か行動した時の自分の感情に、素直に敏感になること。自己分析ってそういうことなのかも。
「ありがとうございます。なんだか頑張れそうな気がします!」
今日ご夫婦と話せて本当に良かった。
商店街には、人生の先輩がたくさんいる。それぞれ山あり谷ありの人生のストーリーと共に、お店を営んでいる。そんなストーリーに触れられることが楽しいし、時には今日のように、自分の悩みの答えが見えてくることがある。
やっぱり商店街って素敵な場所だなぁ。
わたしは、八百文で今日のおすすめのりんごを一つ買った。ご主人が、真っ赤に熟していて美味しそうなのを選んでくれた。
「頑張ってね。」と言いながら、りんごを渡してくれた手が温かくて優しかった。
「頑張ります!暑いので、お体にはお気をつけて。また来ます!」
そう言って、お店をあとにした。
気付けば京都へ来てから2年半が経ち、あと1年半で卒業。
つまり、わたしの人生の中の“学生生活”がもうすぐ終わる。悩みは尽きないけど、そんな時こそ、また商店街を歩こう。
大映通り商店街にある、この「スキップロード」の使い方は正確にはわかっていないけど、今は少し心がスッキリして、スキップしたい気分。
買うことよりもお話がメイン、今日はそんな日だった。
自己分析に、紙とペンはいらない。残り少ない大学生活も大好きな京都をたくさん歩いて、色んな人や場所と出会って、たくさんの感情に出会おう。
狩谷さんご夫婦のいつまでたってもキラキラした瞳とパワフルな心と優しさを、今日の日記に書き留めた。
ぜひ皆さんにも、大映通り商店街に足を運んでみてほしい。もちろん旅行の相談があれば、八百文が営む「京都フルーツ観光」へ。
それではまた明日も、新しい出会いを探して商店街をあるこっと。