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#1 忙しい毎日に京都散歩とコーヒーを 〜哲学の道とBotanic Coffee Kyoto〜
こんにちは、京都外国語大学、ALKOTTO所属2年の剱物真桜です。
11月に入り、京都の三方を囲む山々の色がほんのり紅く色づいてくるのと同時に、わたしたちがメインで取り組んでいるENJOY KYOTO紙面の本格的な取材・編集作業が始動しました。おかげでスケジュール帳も真っ黒、忙しくも充実した毎日です。
わたしは忙しい日々を送っているほうがむしろ充実感を感じるタイプですが、そうは言っても息を抜く時間は必要です。そんな時、ふらっと近場に出かけるだけでリラックスできるのが京都の魅力のひとつであるとも思っています。わたしの地元である神奈川県川崎市では、遊びに行くとなるとやはり東京・横浜などの大都市や繁華街。息抜きできる場所はもちろんありますが、今と比べると気軽に行ける距離ではなかったし、高い建物が立ち並ぶ首都圏の空はやはり狭いです。地元やその近くの都市もわくわくするものや場所が溢れていて大好きだけれど、わたしはやっぱり、同じく繁華街でもある京都のまちの、不思議な解放感が好きなのです。
息抜きしたいとき、わたしはよく京都のまちをふらっと散策したり、知り合いと会って話したりするのですが、そんなとき必ず側にいるのが、一杯のコーヒー。昔からよくカフェオレのような甘いコーヒーを飲んでいたのですが、その甘さに飽きたのか、中学を卒業するころぐらいにはすでにブラックコーヒーを飲むようになっていて、高校ではよく眠気覚ましのために水筒にコーヒーを入れて学校へ持参していました。
コーヒー好きだったわたしが京都へ来て驚いたことのひとつが、喫茶店やカフェの多さ。じつは京都市はコーヒーの消費額が全国第1位で、意外にも京都市民はコーヒーが大好きなのです。『京都 喫茶店クロニクル』(淡交社)の著者、田中慶一さんによると、戦前から続く喫茶店の多さが京都の特徴であり、それが京都の人々がコーヒー好きであることの土壌になっているのではないか、とのこと。
今や観光には欠かせなくなっているカフェ巡り、喫茶店巡りですが、若者が最近カフェや喫茶店を好む理由と、京都の人々がそれらをよく利用する理由は大きく異なると思っています。けれども京都で喫茶店が愛され続けている理由をわたしはまだ知りません。そんなことをふんわりと考えながら、コーヒーをお供にして京都をふらっと歩いてみる。それがわたしなりの息抜きの仕方でもあるのです。
10月の終わりごろ、今より少し時間に余裕があって、とあるご縁で知り合いになった外大卒の先輩と気になっていたカフェで少しお話してきました。
目的地は京都河原町駅よりバスで北東へ20分ほど移動し、「宮ノ前町」で下車して徒歩すぐの「Botanic Coffee Kyoto」。待ち合わせまで時間があったので、近くにある哲学の道を散歩してみました。
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哲学の道は南禅寺から銀閣寺までを結ぶ遊歩道で、明治初期に完成した琵琶湖疎水の分線沿いに約2㎞伸びています。この道の近辺には京都大学があることもあり、昔から多くの文化人・学者が住んでいたそうで、哲学者で京都大学の教授だった西田幾多郎は毎朝この道を歩き、思考にふけっていたのだとか。実際に歩いてみると周囲の雑音のなさに驚きます。水の音、鳥の音、葉擦れの音…自然が生む音はいくつもあるのに、私たちはそれをうるさいとは思わないことが不思議ですよね。
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目的地のカフェは哲学の道沿いにある大豊神社の直ぐ近くにありました。大豊神社は887年に藤原淑子が宇多天皇の病気平癒のために勅願して建てられた神社です。「狛ねずみ」「狛へび」などといった珍しい動物がいるのも特徴のひとつ。春は桜並木が有名な哲学の道ですが紅葉も美しく、大豊神社の周辺でももみじが色づき始めていました。昼下がりの低い太陽から光が当たると一層哀愁が漂い、秋の始まり、一日の終わりを感じさせます。
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ちょっと興味深かったのが、大豊神社の前に架かる橋の名前。神社の読み方は「おおとよじんじゃ」で間違いないのですが、なぜか橋の名前は「おうとよばし」と記されていたこと。この「おお」と「おう」の違いには何か深い意味があるのでしょうか?でも周囲の人に訊いても意外とその意味を知る人がいなかったので、そもそも特に意味はなかったりするのかもしれません。京都は歩いていると道端に深い歴史を持つものが急に現れたりするので、わたしもついつい、そういうものを気にしながら歩く癖がついてしまいました。
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さて、待ち合わせの時間になり、先輩と「Botanic Coffee Kyoto」に入店。カフェは半地下になっており、入り口付近のテラス席では秋の心地よい風を感じることができます。このお店の人気は透かし皿でいただくスコーンのセットと銅板で焼いたホットケーキ。わたしはホットカフェラテとスコーンのセットをいただきました。
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マーマレードにイチゴのジャム、ホイップクリームがついたスコーンのセット。紅茶かブラックコーヒーを頂いてもよかったのですが、ふわふわに泡立ったミルクの乗った優しい味の温かいカフェラテが飲みたい気分でした。
「カフェラテのカップはフランスのヴィンテージです。このグラスも可愛いですよね…」と嬉しそうにお話してくださった店員さん。カトラリーにコーヒーカップ、アヒルの口から水が注がれる変わった形のピッチャーも西欧のアンティーク、ヴィンテージものなのだそう。カップには持ち手がなく、まるで茶碗に入ったお抹茶を飲むようにしてカフェラテを飲んだのが不思議な体験でした。
楽しくおしゃべりしていると時間が過ぎるのは早いもので、あっという間に日が落ちてしまいました。秋はすぐに夜がやってくるし、昼間はぽかぽか温かいのに日が落ちた瞬間に肌寒くなります。テラス席で「だんだん寒くなってきましたね」とお話していると、店員さんが「よかったら中も席が空いてますから、入ってください」と言ってくださり、飲み物を出してくださいました。店員さんのお気づかいと優しい灯りの照らす店内のインテリア、温かい飲み物に身も心もほっとします。
時刻は18時、あまりの居心地のよさに長々と居座ってしまい、辺りはもう真っ暗になりました。会計を済ませた後、出口まで店員さんがお見送りしてくださいました。
「もう真っ暗ですね。寒いからお気をつけて…あ!月めっちゃ綺麗じゃないですか?」
見上げてみると、快晴の夜空に三日月がにっこり。哲学の道付近の閑静な住宅街は灯りが少なく、その分夜空の星や月が綺麗に見えました。
忙しかったり悩みがあったり、手元のスマートフォンに集中していたり、現代社会の日常はなんとなくうつむきがち。そんな時に何気なく空を見上げると、不思議と空気がすっと胸に入ってきて、呼吸が楽になります。ふと三日月を見て「綺麗ですね」と、その広い京都の夜空の美しさに気づかせてくれた店員さん。本当に素敵な方でした。
面白い発見、美味しいコーヒーに軽食、素敵な思い出ができるから、コーヒーをお供に京都を歩くのが大好きです。もう少し哲学の道のもみじが紅くなったら、店員さんお気に入りのカップでいただくコーヒーと、他愛もない会話をめあてに足を運んでみたいと思います。
本来の京都は人混みに流され体力を使うのではなく、広い空と古き良き町にふっと力が抜ける場所。そこに美味しいコーヒーがあるなら最高です。みなさんもぜひ、哲学の道と素敵な店員さんの待つカフェで癒されてみてはいかがでしょうか。