【大西克直さんインタビュー前編】行ってみる。会ってみる。友達になる。やってみる。ー自分の足で考えたからこそ、彼らと共にできること|ALiveRallyインタビュー#14
フィリピン・V-ACT
ー 国際協力「してあげる」感覚への疑問
ーー 今日はインタビューだけど、いつも通りかっちゃんと呼ばせてもらいます。今日はよろしくお願いします!
A. よろしくー!
ーー かっちゃんはAIU入学後、V-ACTに入ったんだよね。まずは読者の皆さん向けに、V-ACTについてサクッと教えてください。
A. V-ACTはフィリピンを対象とした国際協力系のサークルです。現地の人たちと直接関係を持ちながら、彼らと一緒にできることってなんだろうっていうのを考えてアクションしていく団体だったかな。
ーー VーACTに入ったのって、かっちゃんが大学1年生の時でしょ。
A. そうそう。だから、7年、8年前とかなの。まだこんな髭とか生えてないくらいの時期(笑)。 説明会でドキュメンタリーを観たのがきっかけで、V-ACTに入ったんだよね。
ーー ほうほう。
A. そのドキュメンタリーはゴミ山でものを拾って暮らす女の子にフィーチャーしたものだったんだけど、生まれる場所によって機会が全然均等じゃないっていうのを痛感して…学校に行けてるのとかってめちゃくちゃ、もうそれだけで、すごい幸せでありがたいことなんだっていうのを感じたかな。
ーー で、それを自分の目で実際に見に行ってみたいって思うようになったんだね。
A. そうそう。それで初めは本当、国際協力の団体っぽかった。
でも、2年生になって自分たちがV-ACTを動かしていく代になったタイミングで、国際協力って、すげえ上から目線じゃね みたいに思って…、ボランティアっていうことに対して、懐疑的になったんだよね。してあげる感覚ってちょっと違うよなみたいなこととか、 あとはそもそもボランティアって持続可能性低くね みたいなこととか。そういう疑問をみんなで持ち出して、いや、俺らって本当に国際協力団体とか言っていいんだっけ?みたいな議論をその時よくしてたの。それは後々いろんなことをするうえで大事にしていた感覚かもしれない。
ーー それが今に繋がってるところでもあるのか。
A. そうだね、とにかくフェアに見るようになったというか。だから、俺が今やってるコーヒーも、「彼らを支援する」みたいな感覚では全くなくて。彼らと一緒にやって、彼らも笑顔になるし、俺らも笑顔になる形ってなんだろうっていうのを考えている。そういう感覚は、さとやまコーヒーのブランド思想の根っこにもなってるかな。
ーー 上から目線で支援してあげるんじゃなくて、Win-Winで持続的な関係をつくってるってことだよね。
A. そうそう。V-ACTでの経験を経て、ボランティアからソーシャルビジネスに関心が移ったんだよね。ボランティアはそれをハッピーに「してあげる」みたいなスタンス。それに対して、与える・与えられるの関係じゃなくお互いに利益を得ながら持続可能的にやっていくのがソーシャルビジネスという手段だなって思う。
シンガポール・留学
ー ビジネスを学んだ留学前半
ーー なるほど、それが留学前か。2年生の冬からシンガポールに留学したんだよね。留学先ではビジネスをがっつり勉強したって感じ?
A. うん、マジで死ぬかと思うぐらいの感じで。留学前半のセメスターは、マネジメントとかリーダーシップとかファイナンスとか、ビジネス系のことを中心に勉強していたよ。
ーー 「前半のセメスターは」ということは、後半はビジネスから離れたってこと?
A. うん、どうしてもノウハウの勉強だなっていう風に思ったんだよね。でも、どうやってやるかを頭で理解するより、自分でやった方が早いじゃん。ビジネスっていうのを大学で勉強するのはちょっと違うなっていう風に思い始めて。
ーー なるほど。
A. むしろ、自分が何をやりたいのかが決まって、初めて身になる学問だなって思った。自分はどうしてビジネスをやりたくて、じゃあどうやって人を幸せにしたいのっていう問いに自分なりの答えを持てるようになった時に、そのためのノウハウとしてビジネスを勉強したいなと思ったんだよね。
ーー 学校で学べるビジネスのノウハウは、あくまで手段だと。
A. ビジネス云々の前に、そのソーシャルビジネスがつまり誰かを幸せにするためのビジネスだとしたら、幸せってなんだっけみたいなことを、考えたいって思い始めて。
フィジー・夏休み
ー 幸せって、なんだっけ?
A. それで幸せの国に行きたいと思って、フィジーに行くことを決めた。
ーー おお、かなりの大転換が起きたんだね!どうしてフィジー?
A. 幸せな国って言われているなかで、フィジーだけあんまり情報がなかったの。どれだけ調べても「みんな明るい」とか「人がいい」とか「主観的な幸せが1位です」みたいな、そういうことしか書いてなくて。なんだこの不思議な国と思って、服だけ詰めて、ビーサンで行ったみたいな感じだね。夏休み中の3ヶ月ぐらい。
ーー まじか。いやいないね、留学中にそんな1つの国にまる3ヶ月も行ける人。
A. どうしても向こうの暮らしを知りたかったんだよね。文化人類学のフィールドワークのちっちゃい版みたいに、できるだけ長く滞在してその土地の人になるからこそ見えてくるものみたいなものに、少しでも近づきたかった。だからできるだけ長い間フィジーにいようって決めたの。
ーー かっちゃんがいた地域って、どんな場所だったの?
A. そうだな、俺がいたのは貧困地域だったから…割とボロボロだった。
俺がいたのは、コンクリの床にトタンの壁つけたみたいな感じのおうち。トイレもなかったから、隣のおじいちゃんちでトイレとシャワー使ってた。
ーー えええ!
A. でもそのトイレもまじで汚かったし…シャワーもちょろちょろっていう感じで、お湯も出なかったからめっちゃ寒かった。
ーー うわあ。ちょっとキツそう。
A. 衛生面とか環境はよくなかったなと思ってる。でも、めっちゃみんないい人で明るくて笑顔で、みんなやっぱり幸せそうだった。
ーー うんうん。
A. それで思ったのが、 実は自分の置かれている環境に幸福度っていうのは関係ないのではっていうことで。だって、お金があってもなくても、どんな家に住んでいても、幸せな人はいる。ある人のことを外部の人が幸せにするって、無理じゃね。逆に、不幸にするのもね。だから幸せにするとか、 幸せかどうかの議論って、あ、けっこう不毛なのかもしれないみたいなのをちょっと感じた。
ーー じゃあ、それまでソーシャルビジネスを通してみんなで幸せになりたいみたいな感じで考えていたと思うんだけど、その考え方は変わったの。
A. そうだね。「ソーシャルビジネスで誰かを幸せにしたい」って思ってたけど、別にそれはソーシャルビジネスでやる領域じゃないよなと思い始めた。幸せとはこうで、これをやることで幸せを増やすみたいなのって結構ナンセンスで、全然別のロジックで幸せになってる人もいるっていうのをフィジーに行って知ったんだよね。それで、留学の後半はビジネスよりも、社会学系の授業を取っていたよ。
エチオピア・現在
ー さとやまコーヒーとダイレクトトレード
ーー なるほどなあ。
留学が終わって日本に帰ってきたあとは、どんなことしてたの?
A. フィジーから帰ってきた、シンガポールの留学も終わった。めっちゃ座学したから、ちょっともう手を動かしたい。何しようかなって思っていた時に、「おいしいコーヒーの真実」っていうコーヒーのドキュメンタリー映画を見て、コーヒーと経済格差について知ったんだよね。
ーー あら、映画がきっかけだったのか!
A. だからフィジーとの繋がりというよりも、自分の好きなコーヒーを通してもっといい社会に寄与できる可能性みたいなものがあるんだったらやろうって思って、それで一旦コーヒーの業界に入るって決めたの。
ーー そうだったんだ。
A. で、めちゃくちゃコーヒーの修行して、そのあと秋田の農家さんとかを色々見ているときに、みんなが生産っていうところにもっと関心を持てたりとか、消費者も一緒に生産してる感覚を持てたりとかしたら、めっちゃサステナブルじゃねみたいなことを思ったんだよね。
ーー なるほど。それで今はコーヒー生産地のエチオピアに行ったりしてるんだよね!
A. そうそう。コーヒーって俺めっちゃ好きで、その生産現場を見れたことに超ワクワクして。
ーー エチオピアって、どんなところなの?
A. エチオピアね、本当に大好き。めっちゃいいところだよ。いろんな民族がいっぱいいて、それがもう単純に面白い。んで、それぞれの文化に誇りを持ってるっていう感覚がちょっといいんだよ。
ーー 現地で感じたことってたくさんあると思うんだけど、その中でもどういうことが印象に残ってる?
A. アボカドとかバナナも育てていて朝ごはんに出してくれてたんだけど、究極の地産地消だなって思って、それが印象的だった。それから、コーヒーの種のにおいを嗅いだらめっちゃフルーティーだったこととか。
ーー うわ〜、嗅いでみたい!
かっちゃんの、エチオピアでのいちばん大きな学びって何だった?
A. やっぱり、コーヒー生産の現場の全望を見れたこと。元々火山地帯で土が真っ赤でミネラルがいっぱいあるからおいしいコーヒーが育つことを知れたのは面白かったし、森林栽培っていう少ない環境負荷で品質のいいコーヒーを作れる栽培方法をやっていることにも超感動したし。
ーー 現地の農場に行ったからこそ、クリアになったことがたくさんあるんだね。
A. そうだね。そこで、ダイレクトトレードっていう道が見えたみたいな感じかな。誰も損しない循環を作るために実際にやるべきことが見えたというか。
ーー ダイレクトトレードって、あまり聞いたことなかったかも。
A. ダイレクトトレードにすると、コーヒーがコーヒー以上になるんだよね。
ーー ほう。
A. 誇らしくコーヒーを飲めたりとか、この人たちからコーヒー買ってるんだなっていうストーリーも感じられたりとか。
ーー 感情的な付加価値がつくのか。
A. そう。ダイレクトトレードの何がいいって、どこにどんなお金行ってるか全部わかるんだよね。あなたが買ったコーヒーにはこういうインパクトがありますよっていうのを示せる。
ーー なるほど。
A. あと単純に、生産から倍煎、販売まで品質管理をしっかりできるから、単純にめちゃくちゃ美味しいコーヒーを飲む幸福感も味わえる。
ーー 全工程で丁寧に品質管理してるからこそのクオリティ。
A. そして何より売り上げが生産者にも還元されてるっていうこと。
今、生産者にはね、多分普通の7倍ぐらい払っているんだよ。その分ちゃんと美味しいコーヒーを作ろうねって言えるし、彼らもどんな人がどうやって自分のコーヒーを飲んでいるのかがわかるっていうのは、やっぱりやりがいになると思うんだ。
ーー 生産者も消費者も幸せになれるんだね。
A. 高いから確かな品質だし、その自分の1杯が未来を作れるわけじゃん。このコーヒーを飲んだら、美味しい上に世界までちょっと良くなるんだから、飲み手も高いお金を払ってハッピーっていう状態で。
ーー さとやまコーヒーを飲んだら、世界がちょっと良くなる。素敵です!
A. さとやまコーヒーでやってきたことは、「もっていた偏見を捨てて、友達から日本初上陸の豆を仕入れた」みたいなことなんだよね。
A.1年生のV-ACTの頃から感じていたのは「この人たちはこう困っているだろうから自分はこういう支援をします」みたいに、遠い国の知らない人たちのことをあたかもよく知っているように語るのって気持ちが悪いってことで。実際にその土地を訪ねて現地の人と友達になって初めて、それまでは”ただの偏見”だったものを、”自分だけの偏見”(perspective)として新たに獲得しなおすことができるんだよ。
ーー その結果、みんながハッピーになれる対等なビジネスを、納得感をもってできるようになったっていうことなんだね。
A. 行ってみて、会ってみて、やってみて。そうやって”足で考えた”からこそ、いろんなことがちゃんと腹落ちした状態でビジネスができているっていうことは、今、胸を張って言える!
(後編につづきます! )
Interviewer: Shojiro Matsunaga
Writer: Hana Oishi
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