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「無貌の神」「まほり」感想

「無貌の神」恒川光太郎

タイトルにもなっている「無貌の神」を含め、全6編の短編が収載されている。
本著の説明には「大人のための暗黒童話」と記載されているが、言い得て妙だ。
6編全て、奇想で奔放。この一冊で色んな世界を旅することができる。読書って楽しい!と思えるような本。
獣と人間の話、死神と人間の話、神と人間の話…こう挙げると陳腐になってしまうが、全て質量を伴った重厚な物語となっており、異界の感触をしっかりと確かめることができる。


「まほり」高田大介

端的に言うと、全く新しいホラー小説だ。
ホラー小説でよくある「異形」「呪い」「惨殺」「ジャンプスケア」などの要素が一切登場しない。本作は「前代未聞の民俗学ミステリー」を名乗っており、まさにその通りだと頷ける内容だ。
主人公は、「某州の某町で、二重丸が描かれた紙がいたるところに貼られている」という都市伝説じみた話を聞き、興味を惹かれる。土俗的な因習を解き明かすために、膨大な古文書と格闘し、その道のプロにも話を聞き、フィールドワークも徹底的にこなしていく。健全で、理知的で、智慧のある若者の姿は、読んでいて爽快感がある。
本作には、意図的に読者を怖がらせようとしているパートは存在しない。読者がおいてけぼりを喰らわぬよう、必要部分は丁寧に描写するとともに、エンタメ色も強かったりする。しかし、それでもしっかり怖い。今までに読んだことのないホラー小説だ。
ホラー小説に食傷気味の人でも、ホラー小説が初めての人でも、またとない経験ができる一冊。

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