サーキュラー視察レポート①八女流さん視察から考える林業の役割について
2023年のサーキュラートークにも登壇してくれましたH&Aブラザーズの半田満さんから、八女の山奥、山間で山の営みから地域の循環を生み出そうという活動をしている人たちがいるという話を聞いた瞬間から「これは何か面白そうな予感がする!」とワクワクした興味が湧き、くるめサーキュラーエコノミーのメンバーと福岡県産業資源循環協会筑後支部の皆さまにも同行いただき、八女流さんを訪問して地域循環について考えました。
八女流さんの所在する上陽町・星野村とは?
八女市街地から東に12kmほど行った山間にある上陽町と星野村、そこが八女流さんの拠点です。久留米市街地からだと車で約一時間かかりますが、矢部川水系の星野川沿いにドライブすると、季節を感じられる風景が気持ちよく、小旅行のような感覚で訪れることができます。
八女流さんの製材所がある星野村は昔から星とお茶と焼き物で栄えてきた山里。室町時代に隣町の黒木町に中国から持ち込まれたお茶は、急峻な山と清流があり、寒暖差のある星野村でも広く栽培され、明治時代には京都から玉露の栽培技術などを取り入れ、良質なお茶づくりが熱心に研究開発されてきました。現在では農林水産大臣賞を連続で受賞するなど品質にこだわりを持った玉露「星野茶」として認識される存在にもなり、最高級玉露の産地としては日本一と言われています。
またお茶づくりと共に栄えたのが焼き物。江戸時代に久留米藩の御用窯として発展し、主にはお茶に使う茶器などで名器が生産されてきました。藩の後ろ盾もあり長く続いてきた星野焼でしたが明治維新により幕府が解体されると経営難により明治時代に途絶えてしまいます。1969年、そんな星野焼の復活を目指して一人の陶芸家が小石原から移住し開業。以降、研究の末、お茶を注ぐと陽の光でキラキラと輝いて見える「夕日焼」という星野焼の特徴の再現にも成功し、現在では3つの窯元が大切に星野村の伝統を支えています。
そんなクラフトマンシップに溢れる八女市が八女流さんの拠点です。
八女市の林業の歴史的背景
八女流がある八女市は福岡県下最大の森林面積を誇り、その豊かな山々と矢部川水系がもたらす肥沃な土壌で営まれる林業がお茶栽培と共に大切な地域事業の一つとなっています。
八女杉の林業の起源は江戸時代にまで遡ります。隣接する久留米藩と柳川藩の御用林として始まりましたが、その際に真っ直ぐ強く早く育ちやすい「杉」を植林することとなりました。土壌との相性もあったようですが、前述の通りクラフトマンシップ旺盛で研究熱心な八女の人たちの気質もあり、品種の開発改良が盛んに行われて、八女で生み出された杉の品種はなんと20種類以上にのぼるそうです!より早く強く真っ直ぐに成長して、建材として使い勝手の良い良質な杉が八女で育てられるようになり、大きな地域事業となりました。ちなみに綺麗に木目がつまっていて中心はほのかに赤く色付いているのが八女杉の特徴です。
実は九州ではその温暖な気候と肥沃な土壌、豊かな水脈を背景にしてたくさんの杉の産地があります。有名なのは「日田杉」「小国杉」「屋久杉」などでしょうか。宮崎の「飫肥杉(おびすぎ)」という昔から船などに使われてきた杉もあります。
天領で大規模に育てられる「日田杉」、なだらかな丘陵地で生産、搬出しやすいことにより広く一般に親しまれる「小国杉」と比べると、藩の御用林である「八女杉」は、その急峻な地形から良質である一方で搬出の難しさなども相まって、大量生産に向いておらず流通の限界もあり、その良さを広く認知してもらうのが難しかったようで、地元にしか良い杉が行き渡らず、地域外の人からは八女杉は良いものが手に入らないということで敬遠されてきたようです。
そんな八女杉ですが、明治時代になると酒樽や桶などの側面に使われる樽丸や桶板、造船の素材として広く使われるようになりました。また大正時代に入ると電気需要が増え、木材電柱の製造に転換。早く真っ直ぐに育つ八女杉が多く使われるようになり、事業が拡大していきますが、戦後になると電柱はコンクリートに取って代わり、木材電柱の需要は激減します。また海外からの安い輸入建材が台頭してくるとさらに事業環境が厳しくなっていきます。
現在ではコロナによるウッドショックなどで国内木材が比較的安価に取引できるということで見直されてきておりますが、まだまだ厳しい状況が続いているのが現状のようです。
国内林業が抱える共通課題
少しマクロ的な視点で考えてみたいと思います。
国内林業が共通して抱える課題がいくつかありますが、最も大きなものとしては経営の難しさが挙げられると思います。想像に難くなく、素材としての木が木材になるまでにはそれなりの年月が必要になります。気候や地形などにもよると思いますが、材料になるまで平均して約50年かかると言われており、極端にいうとその間はお金になりません。さらにはようやく材料となった木材も、多くの場合は流通価格が管理されており、やはり安価な価格で取引されます。そんな事業には希望はない!と言って人が離れていくし、新しい就労者も集まらない。高齢化が進み後継者もおらず、体力的な限界も相まって廃業していく人が増えているようです。そうすると山の環境も荒れていき、鳥獣の集まる森になり人里への被害につながります。
また土地の所有者事情もあります。長期間の所有と管理が必要となる林業においては所有者が相続によって変わることが多く発生し、所有者が地元にいないというケースが多発しています。遠方に住んでいる所有者と現場調整をしなければならないことも多くあり、時間がかかったり、連絡が取れなくなったりという運営の難しさもあるようです。
そんな中のウッドショックで輸入木材が手に入りにくくなり、国内木材が注目を浴びるのですが、上記のような課題を抱えている林業ですからその技術力も含めて低下している現状があり、せっかくの需要にも限定的にしか応えられなくなっているというのが実態だと言われています。
八女流さんの活動
そんな時代背景の中、八女流は2019年に地域商社として創業します。「森は地域の宝もの」をコンセプトに事業展開している株式会社トビムシさんが前身となる八女・流域資本株式会社を設立し、今は福岡県八女森林組合と「地域に面白いコンテンツを」をテーマにしている面白法人カヤックさんとの三社出資による合同事業として、地域事業を新たな視点で活性化しようと運営されています。
主な事業内容は八女杉を加工製材し、工務店やオーナーに直販する木材加工事業、内装の木質化のための木材調達を支援するコーディネート事業、木や森のことを知ってもらうためのイベントなどを運営するマーケティング事業、移住者などを受け入れる八女里山賃貸住宅のプロパティマネジメントを行う不動産事業など、八女杉に関係する様々な取り組みを展開されています。
八女流さんを取りまく環境と課題
先述の通り、国内の林業が抱える課題はもちろんのこと、八女林業が抱える独特な課題としては、その地形による生産量の少なさ、難しさがあります。日田や小国のような大規模生産大規模取引ではなく、どうしても小規模生産の小規模取引というビジネスモデルになってしまいます。その結果慣例的にも個人住宅など1軒ごとの受注となることが多く、様々な種類の異なる部材を少数ずつ生産しないといけなくなり、多品種少量にたいおうするので、製造側ときては効率としては悪く、生産性が高いとは言えないところがあります。
また木材に共通した課題だと思うのですが、良い木材は木の外側にある辺材にあり、角材や板材を切り出すのに向いています。芯の部分には「節」と呼ばれる枝の元のような部分が多くあり、穴が空いていたり、凸凹していたりするので良い木材とはされないのが一般的です。それを木材として利用しようとすると、穴を埋める加工が必要になり、その手間がかかるのにも関わらず、良しとされず安くしか売れないという矛盾のようなことが発生します。なのでひどい時は使われないで廃棄されるかもしくはチップにされるかということになるようです。
もう一つ、花粉症対策で杉を切る必要があると福岡県からは催促されていますが、一方で住宅業界が建築コスト増で家が立たなくなってきているため、切り出したとしても出し先がない。そんな状況が八女流さんの周りで起きているのが現状です。
八女流さんの様々なアプローチ
現在のままの製材取引だけでは先細りが起き、持続可能な事業環境が作れない!ということを懸念して、さまざまなビジネスモデルの見直しに取り組まれています。
ブランドをつくる
やはり八女の杉を認知してもらうためにはブランディングが大切!ということで「八女熟杉」という名前をつけてプロモーションしています。熟杉のネーミングの由来は熟練した職人が中低温でじっくり時間をかけて乾燥させる熟成工程を経るため。丁寧な仕事が温かみのある八女熟杉を作り上げているのです。直販する
これまで工務店や市場に卸すなどをメインにしてきた八女流さんでしたが、いわゆるエンドユーザー(生活者)と直接つながる直販を始めました。床材に使われているパーツを自分で組み合わせて作るテーブルやスツールを商品化したり、最近では自宅のDIYリノベにも対応する「リノベいたー」という商品もオンラインでの販売を開始しました。これまで業者に頼っていた販売でしたが、独自の販路を作る挑戦をされています。伝統工芸品とコラボする
直販と同じくBtoC事業を広げるために八女エリアの職人とコラボして八女熟杉をプロモーションしています。八女の名産品には仏壇があり、八女仏壇を作る職人がいます。その仏壇を八女流さんの仕立てる八女熟杉を使って作るなどのコラボレーションで地域とのつながりも作っています。製品をつくる
八女熟杉を使った製品も様々産み出されています。その一つ「もくわくプロジェクト」では重ねると棚やテーブルとしても使える木製の木枠を八女熟杉で制作。また全国8ヵ所の産地と共同でもくわくプロジェクトを行うことで産地ごとの違いを知ってもらうと共に、森林保全の啓蒙を行っています。価値をあげていく
やはり林業の未来を考えると、木材の価格を上げていく必要性があります。安い単価ではなかなか事業の継続は難しく、人材の確保もままなりません。いろんな取り組みをする中で、価値を高めて認めていただけるための活動を通して、価値が価格に転化されることを目指しています。それが「提案力x熟練の技xつながり」として取り組まれています。山主さんと生活者をつなげる
製材業者としての八女流さんは流通工程の中で考えると杉の生産者と最終利用者との中間にいる立場です。どんな業界でもそうですがなかなか生産者と利用者は距離がありお互いを知り合うことが難しかったりするので、木に触れるイベントなどを開催することで生産者、利用者の両方が交われる場づくりなどを行っています。
八女流さんの今後
八女流さんが目指しているのはコトづくりができる製材所。単なる製材ではなく、しっかりとした地域との接点を持ち、地域の価値を高めていくコトづくり事業を行う企業にしていきたい、と代表の峯野さんは言われます。そのためには確かな技術力と提案力が必要、これからもどんどん地域と繋がりを深めて自然と社会との循環を加速させていこうという明確なビジョンをお持ちでした!そんな八女流さんのこれからがとっても楽しみです!
サーキュラーのメガネをかけてみる
八女流さんの取り組みについてサーキュラーエコノミーという視点で見ていきたいと思います。
八女流さんが必死で八女杉の事業を守っているのはなんででしょうか?もちろん仕事としてとか、生きていくためにということもあると思いますが、具体的に星野村や上陽町など川上の山や森林が荒れるとどうなるか。大雨により土砂災害が頻発します。その土砂は星野川を荒らし、中下流域に住む人たちにも水害を引き起こします。実際に2012年には大きな水害が起こり、大量の流木が下流まで流れたり、死傷者が12名となる甚大な被害がありました。森を守っていなかったならもっと酷かったかもしれません。
更に言うと、もし木がない山や荒れた山で大雨が降れば土砂崩れが起きやすくなったり、雨が地表を流れて川を伝って海にまで運ばれます。下流では多くの水が集まって大きな水害を起こします。
森を守ることが上流域の人たちの生活や生業のためだけでなく、下流域の人たちのためにもとても大切なことだと言われています。八女流さん達の取り組みは星野川や矢部川の流域に関わる全ての皆さんに関係します。
そんな八女流さんが地域に出ていき、イベントやプロダクトを通して八女熟杉を広めることで、その良さを認知されて、また八女杉が植林され、育ち、プロダクトになり、また地域の人に使ってもらうという循環が生まれて行きます。それが理想的な流れですね!
また無駄のない利用をプロダクトを通して実現することで、収入も増えてしっかりと稼げる事業になることで従事者も増えて、さらなる活用に繋げれる好循環も生み出されます。従事者が増えるということは、関係する人が増えるということで、それだけでソーシャルインパクトはグンと増します。
地域でこの事業を守るということは、持続可能な循環を地域で産み出すためにはマストな取り組みなんですね!
おわりに
八女の山奥の星野村、上陽町の会社というと、昔からある地元の会社で地域を守っていくために先祖代々継承してきた山をなんとか活かせないか、というストーリーを期待するところですが、八女流さんは違いました。なんなら外から移住してきた人が山、川、海という環境のつながり全体を捉えて山の役割を捉え直し、環境問題の改善と社会経済を両立させる可能性を見出して取り組んでいる、極めてサーキュラーな会社でした。
地域はみんなで自治するという概念があると思いますが、もちろん自治もとても大切だと思いますが、域外との関わりもとても大切で、特に何かの課題を解決していくためには地元だけじゃない見方、広い視野や繋がりが大切だと感じます。
八女流さんが星野村から山と川と海の関係性を元に課題を解決していくことに地域で生きていく者として、一緒にかかわっていきたいなーと感じました!
【参考文献・Website】
八女流HP https://yameryu.jp
星野村観光ナビ https://www.hoshinofurusato.jp
福岡県八女森林組合 https://jfyame.or.jp
ReQreate
「八女林業地域における林業生産構造の変貌と課題」1990発表 著:九州大学 岡森昭則