元気なうちに遺影を撮っておくこと (バケットリスト1)
昨年の暮れから今年の秋、現在にかけて予想もしなかったことが次々と起こった。黄色いベスト運動や交通ストによる壊滅的な営業妨害、生活破壊、友人の死、スタッフの死、愛犬の死、近親の入院と手術、仕事のキーとなる人物の引退、自分自身の体調不良、断酒、仕事の大きな転機、新しい事業の発足、などなど。
そんなこともあって自分の死についても考え始めた。半年後に終わりが来るとしたら、それまでどうやって過ごそう?一年後なら?五年後なら?
そこでバケットリストを作ろうと思い立った。五十代後半。人生の後半戦を走っているところだし、あと数年後に死ぬと仮定して(あくまでも仮定よ!)何をしたいか、何をせねばならないかを書き出してみよう。
縁起でもないけど。
ー 会いたい人に会う。
ー 行きたいところへ行く。
ー やりたいことをやる。
でもね、自分の犬の最期を看取ったところ、最期の半年は何も出来ないことがわかったの。
容貌が衰える。
うちの犬は、それはそれは綺麗な犬だったのに、癌が悪化してから頬は膨れ、右側の歯は全部抜け、毛並みは赤茶けて汚くなり、目には白濁した脂がたまり、鼻は乾いて崩れかかり、絶えずよだれを流し続けた。ひどい悪臭を放つようになって最期にはボロ雑巾のようになって死んでいった。
人間だって最期は悲惨な容貌になって死んでいく。『ペレアスとメリザンド』のメリザンドや、『椿姫』のマルグリットが病床で美しく死んでいくのは物語だから、オペラだからであって、実際は悲惨な姿で、醜い顔で死んでいく。そんなときに「会いたい人に会う」なんて出来っこない。会いたい人に会うのは死ぬ半年前までに済ませておかなくっちゃ。
それだから、死ぬ前にやることリストの最初は「元気なうちに遺影を撮っておくこと」
自分が選ぶ遺影のベスト5 (敬称略)
寺山修司
山口小夜子
浅利慶太
川島なお美
内田裕也
その人の最盛期の輝きがあり、若すぎず、その人らしさが溢れているもの。
遺影にぶっさいくな写真なんか使われた日には化けて出たくなる。
だけど考えてみたら私、白塗りした舞台写真は何万枚あっても、普通の肌のオフ写真では、まともなポートレイトがない。時期が離れすぎていてもいけないし(上のは25年前の写真)、解像度が低すぎてもいけない。あとはパスポートやIDカードの正面を向いた写真。とても遺影には使えない。
これはいけない。遺影になるような写真を撮らなくちゃ。
というわけで、一年に一度はポートレイトをきちんと撮っておこう。いつ死んでもいいように準備をしよう。……そう決意した9月の終わり。
バケットリストは続きます。
有科珠々