『草原の神々』訳 ⑩
第10章
広太郎が鉱山に戻らなかった理由は、ヤグルマギク(学名:Centaurea cyanus)――正確にはその花冠のためだった。
丸田下級伍長の遺体を浅い峡谷まで引きずり運ぶと、広太郎はその遺体の隣に座り込み、長い間その死に顔をじっと見つめていた。正広は無言のまま、いら立ちを隠せずシャベルの柄で広太郎の脇腹を何度かつついたが、彼はまるで微動だにしなかった。
まるで石像のように動かずにいるうち、彼の脚に登ったアリが肩を伝い、首筋を駆け抜け、頬にたどり着いたとき、ようやく広太郎は身じろぎし、その虫を払い落とした。
彼の視線は、なおも丸田の死に顔を凝視しており、ふとその輪郭が鋭くなるのを見た気がした。
「牢に入りたいのか?」正広がようやく口を開いた。
「それとも、またロシア人たちが哀れんでくれるとでも思ってるのか?」
広太郎は顔を上げ、友人の正広を見た。
「すぐ戻る。」――そう言って、広太郎は立ち上がった。
丸田の遺体に向かって深く二度礼をし、手を合わせて静かに二回打ち鳴らした後、もう一度深くお辞儀をした。
「掘れよ。」――正広はシャベルを地面に投げつけ、ぶっきらぼうに言った。
「ただ…」――広太郎が口を開きかけたが、言葉に詰まった。「ただ、ちょっと見ていただけだ。」
本当は、丸田の顔をしっかり記憶に焼き付け、夜にバラックでノートにその顔を描こうと考えていたのだが、そのことを正広に話す気にはなれなかった。
掘り終えると、広太郎はすでに冷たく硬くなりかけた遺体を浅い墓穴に滑り込ませ、体を起こしてほんの数秒間、亡骸の上に立った。彼の視線は木々の梢から雲を見上げ、それから再び地面に降り、峡谷全体に散らばる無数の小さな墓の盛り土に注がれた。
仲間の一人の墓の中に立ちながら、広太郎は突然、自分も死者になったような気分を味わった。彼はいつも、病気は人をより良くするものであり、浄化の機会として与えられるものだと信じていたが、今では、病気だけでなく死もまた人を良くするのだと感じていた。この新しい感覚をまだ明確に言葉にすることはできなかったが、松の静寂や雲、墓、そして峡谷の砂が、どこか説明のつかない方法でその正しさを教えてくれるようだった。
「まだ時間かかるのか?さっさと埋めろよ。」――正広が言った。
広太郎は何も言わず、墓穴から這い上がった。
「おい、どこ行くんだ?」――正広は広太郎の後ろ姿を見つめながら叫んだ。「誰がそいつを埋めるんだよ?」
しかし、広太郎は振り返りもしなかった。神道の伝統では、死者に何らかの供物を捧げるべきだったが、彼のポケットには何も入っていなかった。彼は墓の間をゆっくりと歩きながら、何か見つけようとし、そしてここに浅い土と砂の下に横たわる人々の顔を思い浮かべていた。小さな塚の上では、ヤグルマギクの花が揺れていた。
「Centaurea cyanus」――広太郎は小声でつぶやいた。
「何だって?」
正広の声が広太郎を苛立たせたが、それでも彼は答えた。
「花だよ。」
「花だってことぐらい分かる。そんなことより、鉱山に戻るつもりなのか、それともあいつらがここに来て俺たちを半殺しにするのを待つ気か?」
広太郎はその言葉を無視し、花に身を屈めた。
「聞いてるのか?」
「待て!」――広太郎はヤグルマギクの一本を摘み取り、勢いよく立ち上がった。
一瞬の間、彼は黙ったまま摘み取った花をじっと見つめていた。それから振り返り、正広に興奮した声で言った。
「見てくれ!」――彼は青い花を見せながら叫んだ。「花冠が4つもあるんだ!」
「頭おかしくなったのか?」――正広は首を振った。「花冠って何の話だ?」
「この植物の花冠は、普通ひとつだけのはずなんだ。分かるか?ひとつだけだ!なのに、ここには4つもある。待て!」
広太郎は別の墓の方へ駆け寄った。
「ここには5つもある!いや、こんなことはあり得ない。絶対におかしい…」
「お前、一体何をブツブツ言ってるんだよ?さっさとその遺体を埋めちまえ!」
「待て、待てってば…」
広太郎は墓から墓へと駆け回り、狂ったようにヤグルマギクを摘み取っていた。
「3つ、5つ、2つ、4つ…」――彼はブツブツと呟きながら、摘んだ花を墓の間に投げ捨てていた。「一体これは…これはどういうことだ?」
「いい加減にしろよ!」――正広が怒りの声を上げた。
「何だよ?」――広太郎は急に立ち止まり、友人の方を見上げた。まるで正広が日本語ではなく、広太郎が全く理解できない未知の言語で話し始めたかのような顔をしていた。
「だから、俺が言ってるのは――」
「黙れ!」――広太郎は叫び、何かを悟ったような顔をした。「分かったかもしれない。ここには全部で23人が埋まっている。この20の墓は、うちの鉱山で働いていた者たちのものだ。つまり、他の2つの鉱山では同じ期間に、戦俘はたった3人しか死んでいない。計算できるか?3対20だ。それに、これだ!」
広太郎は正広に、かなり傷んだヤグルマギクを差し出した。
「これは突然変異だ。」――広太郎の顔にはぼんやりとした表情が浮かび、それが彼を本当に狂人のように見せていた。「分かるか?」
「分からない。」
「僕が思うに、原因はうちの鉱山にある。ガスじゃない。」――広太郎は振り返ると、何の説明もなしに峡谷の斜面をよじ登り始めた。
「どこ行くんだ?」――正広は戸惑いながら尋ねた。
「他の鉱山の花を調べなきゃ…絶対に…もしそっちに突然変異がないなら、この鉱山は閉鎖すべきだ…ここには何か深刻な問題がある…」
「それで、丸田はどうするんだ?」
広太郎は峡谷の端で足を止め、少しの間ためらった後、焦った様子で手を振った。
「そんな時間はない。自分で埋めろ。」
正広は広太郎を見送ると、開かれたままの墓に戻り、シャベルを手に取りながら立ち尽くしていた。しかし、次の瞬間、彼は苛立ちを爆発させ、シャベルを地面に投げつけた。シャベルは墓穴に転がり落ち、丸田の頭に軽く当たった。
その瞬間、正広は友人の広太郎に対してこれ以上ないほどの憎しみを感じていた。彼は広太郎が摘んだ花すらも嫌悪し、峡谷を10分間歩き回っては、散らばった花々を踏みつけて地面に埋めようとした。
少し気が済むと、正広は再び丸田下級伍長の遺体のそばに戻り、墓穴からシャベルを拾い上げ、遺体を土で覆い始めた。乾いた土の層の下に彼の顔が次第に消えていく様子を見ながら、正広は自分が広太郎を埋めているところを想像し、心が少し軽くなった。
「ラテン語なんか学びやがって。」――正広は歯の間から呟いた。「それで金を出したのは誰だ?大学に行くべきだったのは誰だったんだ?」
広太郎が同志社大学で学ぶことを父親である岩谷氏が決めたときのことを思い出していた。その大学は長崎出身のキリスト教徒に対して寛容な教授たちで知られていた。
正広はそれを知ると、「自分はそんな金は一切受け取らない」と宣言した。しかし、岩谷氏はただ肩をすくめるだけだった。彼は広太郎の将来に大いに期待をかけ、「タバコの天才」としての成功を見越していたのだ。
正広に残された選択肢はごくわずかだった――軍学校か、教育学部に進むこと。これらの学校だけが完全な国の支援を受けられた。出発前、正広は父から旅費だけは受け取ることを渋々了承した。
有名な高松の海軍提督、河野通有がかつてモンゴルの船を捕獲したという話を思い出した正広は、海軍士官学校・江田島分校に入学することを決意した。その時、彼は駅のホームで杖を投げ捨てた。
広島では、安宿に一泊した。その宿の親切な女中が彼を誘惑し、正広は生まれて初めて妨げられることなく女性の胸をじっくり観察することができた。その女中は優しく接してくれたが、それでも彼にこう言った。「海軍学校に入るなんて無理ですよ。」
「足を引きずる水兵なんていないんだから。」――彼女は笑いながらそう言ったが、正広は怒らなかった。
士官学校では、彼の足の不自由さはすぐに見抜かれた。彼は入学書類を提出し、医療審査までの短期間だけ仮入隊として新兵小隊に編入された。しかし、全員で入浴するシャワー室で体を洗った数時間後、新しい仲間の誰かが彼の身体的欠陥について上官に報告したのだ。
「お前たちには関係ないだろう!」――正広は歯を食いしばりながら、整列した列の横を歩いていた。
右側からは容赦ない小突きや拳が次々に飛んできた。小隊長は彼の後ろで大声で怒鳴っていた。
「頭を下げるな! 本気で叩け!」
将来の士官候補生たちは、このおかしな嘘つきを楽しそうに殴りつけた。正広は、殴られながらもほとんど足を引きずらずに列の端まで歩き続けた。彼は何とか堂々と歩き通すところまで行けたはずだったが、突然なぜか父親のことを思い出し、涙を流し始めてしまった。
その後、広島の宿の女中がくれたお金で東京の教育学部にたどり着いたが、入学試験を受ける前に顔中のあざと腫れ上がった鼻のせいで一度断られた。それでも彼は粘り強く交渉し、最終的には試験を受けることを許された。
彼は1年以上、江田島の士官学校の訓練場でのことを夢に見続けた。列に並んだ将来の士官候補生たちと、自分の上を軽々と歩いて通り抜けていく父親の姿が思い浮かんだのだ。しかし、東京で2年生になった頃、彼は歓楽街の芸者との激しい恋愛にのめり込み、その夢は徐々に彼を苦しめなくなった。
正広は、あの広太郎を怖がらせた「絹の紐」のようなものを恐れてはいなかった。
「やめろ!動くな!誰に言ってると思ってるんだ、直立しろ!」――レンカが叫んでいた。
ペーチカは首を目一杯伸ばして、レンカが誰に怒鳴っているのか見ようとした。しかし、レンカはその「獲物」を背中で隠していた。他の少年たちも周囲にいた――二人はまだ熟していないサンザシの実をちぎり、三人はレンカに怒鳴られている少年を押さえつけ、さらに五人ほどが草の上に横たわっていた。
ペーチカは偶然その光景を目にした。最初は茂みの陰からラズグリャエフカに向かおうとしたが、結局、ちょっとした「見物」をするために留まることにした。昨日の駅での喧嘩の後、レンカの目の前には出ない方が良いことは分かっていたが、それでも楽しみを逃すことができなかったのだ。レンカは、ヴァレルカやペーチカがそばにいないとき、暇を持て余して仲間たちをいじめ始めるのだ。
「月か?それとも太陽か?」――レンカは、今日運の悪い少年に向かって怒鳴った。
「月…」――その不幸な少年が泣きそうな声で答えた。ペーチカは嬉しそうに微笑んだ。
彼はこの「問い」が何を意味しているかをよく知っていた。
「ソビエトの国のために!」――レンカは誇らしげに宣言すると、相手の額にいくつかデコピンを食らわせた。「月か?太陽か?」
「太陽…」――今度は涙声で少年が答えた。
「太った日本兵のためにだ!」――レンカはまた少年の額を数回、鋭く叩いた。
「目をつぶったぞ!目をつぶった!怯えた罰だ!」――とレンカは叫んだ。
ペーチカは茂みから顔を出して、他人の不幸を楽しもうとしたが、その瞬間、背後で何かがザワザワと音を立てた。
「みんな!ヒトラーを見つけたぞ!」――後ろから別の少年が叫んだ。「ここだ!ここにいるぞ!」
ペーチカはその場から逃れようと必死に抵抗したが、すでに遅かった。
少年たちは全員でペーチカにのしかかり、なぜか彼のシャツを脱がそうとしていた。引っ張り合いの中で、右耳がひどく裂けてしまったが、ペーチカはその痛みを全く感じなかった。
もっと痛かったのは口の中だ。彼は歯で誰かの袖をしっかりと噛みついていたが、その袖が激しく引っ張られ、ちぎれそうでちぎれない。ペーチカは、「今にも歯が全部抜けて袖にくっついて飛び出してしまう」と思った。袖がちぎれないのが悔しくて仕方なかった。
なぜ袖をちぎりたかったのか、なぜ誰かの手を噛むという発想がなかったのか、それはペーチカ自身にも分からなかった。ただひたすら歯をますます強く食いしばり続けていた。
まるでそれが状況を少しでも変えるかのように。
「こいつをこっちに持ってこい!」――と、誰かがしゃがれ声で叫んだ。その声は、ペーチカには見えない袖の向こうから聞こえてきた。
ペーチカは全力で黙ったまま抵抗し、狂ったように手足を動かして彼らに掴まれまいとしたが、結局、シャツを脱がされてしまった。
耳たぶから流れ出した血が地面の埃にポタポタと落ちた。顔を地面に押しつけられていたペーチカは、鼻先に見えるその黒い滴を見て、ほんの一瞬、「雨が降ってきたのか」と思った。
それでも彼は歯を食いしばり続け、脚を激しく動かして抵抗した。息遣いに耳を傾けながら、誰かに当たったり当たらなかったりしつつ、バランスを崩してはまた耳を澄ませた。しかし聞こえてくるのは自分と相手の荒い息だけだった。
音は何もない。言葉もない。
まるで森そのものが手を何本も生やし、無言でペーチカを地面に押さえつけているかのようだった。埃にできた5コペイカ硬貨ほどの大きさの黒い染みに向かって。
突然、シャツに続いてズボンまで脱がされそうになった。
これだけは絶対に許せない。何があってもダメだ。
ペーチカは驚く暇もなく、何のために彼らがそんなことをしているのか考える間もなく、本能的に脚が正しい判断を下した。それまで誰かを蹴る際には、相手を本当に傷つけて怒らせないように手加減していた。しかし、ここに来て彼の脚はまるで対空機関砲のように動き始めた。
相手を完全に無力化するために。
次の瞬間、誰かが悲鳴をあげた。ペーチカはついに命中したことを悟った。しかも、その直前に「何かがパキッと音を立てた」ように感じた。
まるで森の中で足元の枝が折れるような音だった。ただ、乾いたパキッという音ではなく、もっと鈍い音。
「もう終わりだな、お前は、変わり者め!」――誰かが彼の頭上で低い声で呟いた。「よし、やっちまえ、みんなでヒトラーを片付けるぞ!」
この「鈍い音」に関しては、戦争前、アンナ・ニコラエヴナ先生が学校で語った話をペーチカは思い出していた。それは、負傷したアフリカのライオンが追っ手から逃れるために竹林に隠れるという話だった。そして、無謀なハンターがその竹林を追いかけて入ったとき、聞く最後の音がこの「鈍い音」だというのだ。
ペーチカはライオンも竹林も一度も見たことがなかったので、その授業中、ラズグリャエフカの草原に巨大なタルバガン(モンゴルマーモット)が牙を剥き出しにして隠れている光景を想像していた。そして、そのタルバガンが草むらから飛び出して、指のない猟師のエフィムおじさんに襲いかかる場面を思い浮かべたのだ。賢いヴァレルカは授業中、すぐに先生に質問を始めた。「もしライオンが竹林の近くにいなかったらどうするんですか?」――しかし、興奮しすぎて鼻血を出してしまい、アンナ・ニコラエヴナ先生に口を閉じるよう命じられた。
ペーチカにとっての教訓は、ライオンがどんなに傷ついても、竹林に隠れるかどうかは関係なく、最後まで戦うということだった。それは、小さなザバイカルのタルバガンにすら当てはまるのだ。
「アントンの脚を折りやがった!」――後ろから誰かが叫んだ。「膝を横に曲げたぞ!」
たくさんの手がペーチカを地面から持ち上げ、大きな木の方へと引きずっていった。そのとき彼は、何とかズボンだけは死守できたことにほっとしていた。
もしペーチカが、その騒動を上空から、たとえば彼を運んでいた松の高さくらいから見下ろせたとしたら――まるで蜘蛛が自分の細い糸の上で揺れながら見ているかのように――下に見えるのは、まるで収容所で見た「人間タコ」か、あるいはアルチョム爺さんが持ち帰ったモンゴルの神像のような、多腕の巨大な存在だっただろう。
そして、さらに高いところ、空中でじっとしているヒバリたちのいる場所まで昇ることができたなら、彼はそこから一人一人の少年たちを識別することすらできなかっただろう。ただ、そこにアントンがいることは分かっていたはずだ――そのアントンは脚を折られてしまい、これでは駅に郵便を取りに行くことができず、彼の家族は飢えるだろう。だが、アントン自身の姿はもう見えなかっただろう。
ジーマも見えなかっただろう――彼の父親は部隊を指揮していたが、陣地を守れなかったために罰として1カ月間の懲罰部隊送りとなった。その罰の中で生き延び、さらには名誉勲章を推薦されるも、「なぜ士官が兵士の勲章を持っているのか」という疑念を避けるために断った。
あるいは、「チェレパ」と呼ばれるミーシャ・チェレパノフも見えなかっただろう――彼の父親はクルスクの戦線で我々の戦車に轢かれて死んだのだ。
他にも、母親が最初はアリョーナおばさんのように収容所の警備兵たちのところに通っていたが、やがてやめたサーニャ。そして、昨夏ペーチカと二日間アルグン川の島で釣りをしたゲンカ――ラズグリャエフカの他の少年たちにはそのことを話さなかった――それからレンカ・コズィリやパーシャ、他の全員も見えなかっただろう。
しかし、ペーチカは蜘蛛でもヒバリでもなかった。だから彼は、地面からわずか半メートルのところで、多くの少年たちに宙吊りにされていた。地面には黄色い松葉が敷き詰められており、彼はそこに自分の足で立ちたいと強く願っていた。彼はまだ抵抗を続けていたが、その力は次第に弱まっていった。
「手を縛れ!」――彼の頭上で誰かが息を切らしながら叫んだ。「後ろ手にしろ!後ろ手だ!」
ペーチカは自分の肘に何本もの手が鋏のように食い込むのを感じた。それらの手が彼の手のひらをひねり上げ、背中側でベルトを使ってきつく縛り上げた。
「ほら、こうやるんだ。」――息を切らせながら誰かが言った。「さあ、今度は暴れてみろよ!持ち上げろ、みんな!」
ペーチカは、背中で縛られた手のまま、空へ、空へと押し上げられていった。しかし、空とペーチカの頭の間には、太い松の枝が立ちはだかっていた。その枝の上には、少年たちの誰かが座っていた。
ペーチカはその少年を見て、誰だか分からないことに驚いた。初めて見る顔のように感じたが、それが初めてでないことも分かっていた。なぜなら、その鼻も、頬にある楕円形のほくろも、曲がった耳もよく知っているものだったからだ。ただ、それらが別々にバラバラになり、まるで誰かがそれを分解して混ぜたようで、今は誰のものか分からなくなっていたのだ。
ペーチカは、自分が知っている顔を識別できなくなっていることに驚いていたが、その次の瞬間、驚きではなく、息苦しさで咳き込み、窒息しかけた。その少年がペーチカの首に縄の輪をかけ、強く引いたのだ。下から押し上げる者たちを助けるつもりだったのか、あるいはペーチカが松の枝と彼を見上げる他の少年たちの顔の間に引っかかってしまうのを恐れていたのか、どちらかのようだった。
こうして、ペーチカは本物の蜘蛛のようになった。目をぎょろりと見開き、声もなく口を大きく開けて、縄の「糸」で揺れながら、自分の狼の子がどうなるのだろうと考えていた。ダリヤ婆さんがその子犬がただの犬ではなく狼の子だと気づいたとき、自分はもう彼女を助けられないのだと思うと、胸が痛んだ。
やがて視界が暗くなり始め、周囲の木々がぼやけて流れていき、足元の少年たちの姿は、最初は草に、次に波に、最後には光の点に溶けていった。ペーチカはその光の点を数えようとし、「数えること」にしがみつこうとした――1つ、2つ、3つの光、4つ、5つ…しかし、それはもう光ではなく、アリョーナおばさんの顔に向けて放たれた5杯目のおかゆのスプーンだった…7つ、8つ、9つ、そして飛び散るしぶき…10…それはまたアジンツォフ中尉のタバコの箱の中の10本目のタバコ…11…25…再び11、8…とても多くの…石割り場の近くのたくさんの兵士たち…そして、年老いた日本人…。
ペーチカは最後の力を振り絞り、弦のように体を伸ばした。
そのとき、ちょうど膝をついて警備兵に頭を下げていたあの日本人が、突然顔を上げ、ペーチカの目をじっと見つめて微笑んだ。そして立ち上がると、近くの茂みからそのまま歩み出し、ラズグリャエフカの少年たちが「ヒトラー」を吊るそうとしていたその広場へと足を踏み入れた。
日本人は背負っていた袋を地面に放り投げた。袋からは青い花の束がこぼれ落ちた。それらはひもでしっかりと束ねられていた。彼は頭上に両手を掲げ、それを狂ったように振り回しながら、自分の言葉で甲高い声を上げて叫び始めた。
その突然の登場に、ペーチカが数え始めた光の点の中にいたはずのミーシャ・チェーレプ(ペーチカには分からなかったが、それは彼だった)が驚いて手を震わせ、持っていた縄の端を放してしまった。縄の輪は枝に一度だけ巻き付けられていただけだったため、ペーチカの体重で「シュッ」と音を立てて滑り、彼は鈍い呻き声を上げながら、固まったように立ち尽くす少年たちの足元に崩れ落ちた。
その直後、バランスを失ったミーシャも地面に叩きつけられた。ペーチカよりずっと高い位置から落ちた彼は、背中を激しく打ちつけて呼吸ができなくなり、ペーチカと同じように目を大きく見開いて互いに見つめ合い、喉を押さえて口を必死に開けていたが、どちらも息をすることができなかった。
その時、茂みから突然飛び出してきた日本人は、彼の登場による効果が薄れる前にさらに何かをしなければならないことに気づいたようだった。
彼はすばやく少年たちに背を向け、大きく前屈みになると、自分の尻を両手で叩きながら、何度も何度も同じ言葉を叫び始めた。
「ケツ! ケツだよ! ケツがどうした!」
少年たちの中の誰かが吹き出した。別の誰かが地面から石を拾い上げ、さらに別の誰かが松ぼっくりをその日本人に投げつけた。一方で、ペーチカは突然、黄色い松の針の上にオートミールを吐き出し、ようやく息ができるようになった。ミーシャもまた同じく、ようやく呼吸を取り戻した。
その間も、日本人の間抜けな男は奇妙な芸を続けていた。今度は正面を向き、足を広げて軽くしゃがみ込み、膝に手をついてバカみたいな顔を作り、大声で何か叫んだ。その姿はあまりにも滑稽で、少年たちは日本語が一言も分からないにもかかわらず、腹を抱えて笑い転げた。
彼の馬鹿げた声と、次々と素早く変わる信じられないような表情だけで、彼らは笑い続けた。頬を膨らませたり、目をぎょろぎょろさせたり、まるで目玉が飛び出してぶつかり合いそうなほど寄り目をしたり、口を歪ませたり、舌を信じられないほど長く突き出したり――ラズグリャエフカの少年たちは、こういうことに詳しいはずなのに、その長さに感嘆するばかりだった。
ついには片足を高く上げ、その姿勢のまま長い間立っていた。そして突然、その足を力強く地面に叩きつけ、まるで彼にとって異質なソビエトの地面に穴を開けようとしているかのようだった。
少年たちは一瞬静かになったが、すぐに状況を察し、「ショー」が終わったことを理解すると、口笛を吹いたり、野次を飛ばしたりしながら石を投げ始めた。日本人は横向きになりながら茂みに向かって後退し、頭を両手で覆いながら防御していたが、それでも石が当たり続けた。ときどき、彼は手の隙間から顔を覗かせて微笑み、何かをぶつぶつと呟いていた。しかし、少年たちが投げる石は、綺麗な弧を描いて彼に向かい、肩や肘、腹に当たった。
ついに日本人は耐えられなくなり、くるりと向きを変えて走り出した。ただし、その走り方はとてもぎこちなく、片方の足に体重をかけたり、もう片方に体重を移したり、あるいは突然その場で回転し始めたりして、まるで奇妙で狂った熊のようだった。
少年たちもじっとしていられず、すぐに彼を追いかけて追いついた。四方八方から彼を取り囲み、飛びかかり、蹴りつけ、石を投げ続けた。少年たちは大いに楽しんでいた。こうした遊びは滅多にないもので、もし護送を逃れた日本人捕虜が現れたとしても、普通はすぐに逃げ出す。彼のようにその場で回ったり、笑ったり、変な顔をしたり、呟いたりすることはなかったからだ。
数分後、広場にはペーチカだけが残されていた。
ミーシャ・チェレパノフでさえ、自分の怪我を忘れて他の少年たちと一緒に駆け去ってしまった。ペーチカという獲物は、もう彼らにとって興味を失っていたのだ。彼らはすでに知っていた――ペーチカが「ヒトラー」役としては役立たずである一方、日本人は本物だった。ファシストで関東軍の悪党だったのだ。ただし、滑稽な奴ではあったが。
ペーチカは少し咳をして喉の痛みを確かめ、それから乾いてざらざらした唾を飲み込むと、口を大きく開けて何度か欠伸をした。喉の痛みは消えなかったが、なぜか聴覚が戻ってきたようだった。ラズグリャエフカの少年たちの叫び声は、収容所の方に向かって遠ざかっていった。どうやら日本人は家に帰ることにしたらしい。
ペーチカは自分が吊るされそうになった松の木まで這い寄り、アンナ・ニコラエヴナ先生の学校で新年に紙飛行機を飾るように、まるで自分も飾られる寸前だった木に背を預けて腰を下ろした。そして目を閉じた。瞼の裏には火のような光が爆発し、砲兵隊がすぐ隣で砲撃を続けているかのようだった。しかし、音は全く聞こえなかった――砲声も、叫び声も。一切の静寂が辺りを包んでいた。
静寂といえば、以前ヴァレルカと一緒にあった出来事をペーチカは思い出した。イグナートおじさんが駅から新聞と一緒に「パルチザンの案内」という本を持ち帰ったときのことだ。その本は1942年に「若い衛兵」出版所で印刷されたものだった。ペーチカはその本を荷馬車の上で目にすると、郵便物が仕分けられるのを待つことすらせず、静かにそれをこっそりとダリヤ婆さんの干し草小屋へと持ち込んだ。
そこで、彼の「司令部」でペーチカは長い間、鼻をすすりながら額に皺を寄せ、頭を掻きながら「仲間と連絡を取る方法」と題された第117図の手信号を一生懸命覚えた。そして突然、干し草の山から飛び降りるとヴァレルカを探しに走り出した。
「重要なのは静寂を保つことだ。」――ペーチカはまるでパルチザンのような声で言った。ヴァレルカは全身で、そしてその貧相な体全体で「死ぬまで静寂を守る準備ができている」と言わんばかりの姿勢を見せた。
「まずは歩き方を習得しよう。」――ペーチカは言った。
ヴァレルカは「自分はもう歩ける」と伝えようか一瞬迷ったが、ペーチカはその言葉を遮った。
「音を立てずに。」
ヴァレルカは少し不思議に思っていた。ペーチカが本を使って彼に教えようとしているのは奇妙だったからだ。なぜなら、本や紙に印刷されたもの全般は、ヴァレルカにとってずっと馴染み深いものだったからだ。しかし、この日はペーチカがまるで別人のようだった。
「ほら、ここだよ、ここを読め!」――ペーチカは熱くなりながら、汚れた人差し指で本を指し示して言った。「お前、文盲なのか?『草の上を歩くときは、固い地面を歩くようにしろ』って書いてあるだろ。読めないのか?」
「読めるよ。」――ヴァレルカは、さらに驚きながら答えた。「でも、ここに描かれている絵は全然違うことを示してる。」
「どこが違うんだよ?」――ペーチカは怒鳴りながら立ち上がった。「どこだ?ここか?それともここか?」
ペーチカはヴァレルカの頭を本で軽く叩き、次にお尻を叩くと、ラズグリャエフカをパルチザンのようにこっそり抜け出してきた二人が腰を下ろしていた水際の方へ走っていった。
季節はもう秋に近づいていて、太陽は透き通った青空を温めるのではなく、まるでそれを貫くように光を投げかけていた。その光は、痩せた肩にすくめられたヴァレルカの頭、閑散とした岸辺、黄色くなり始めた茂みやその間に張られた虹色の蜘蛛の巣、そして怒り狂ったペーチカの背中を斜めに滑るように照らした。しかし、その光は濃い水面の下には届かず、そこに隠されたものは次の夏まで永遠に見えないままだった。
「お前、なんでそんなに賢いんだよ?」――ペーチカは怒鳴った。「僕の頭の上で賢そうな顔しやがって!」
「僕は賢くなんかないよ。」――ヴァレルカは静かな声で答えた。「ただ、君の本にはそう描かれているだけだよ。草の上を歩くときは足全体で、固い地面を歩くときはつま先で、だって。」
ペーチカは勢いよく本を開き、115番の図を探し出した。確認すると、ヴァレルカが正しいことを言っているのは明らかだった。
「でも『地面』じゃなくて『地盤』だ!」――ペーチカは、もはや怒鳴る権利を守るためだけに叫んだ。
「うん、『地盤』ね。」――ヴァレルカはため息をつきながら同意した。
ヴァレルカにとって、草の上をどう歩くべきかや、固い地盤をどう歩くべきかは実際のところどうでもよかった。ただ彼は正確さを愛していただけであり、絵の方が言葉よりも信頼できると思っていた。それに、どのみち彼はペーチカより本を扱うのが得意だったのだ。
「次は鼻の付け根をこすれ。」――ペーチカが言った。「こすってみろ。そうすればくしゃみをしなくて済む。偵察ではこれが一番大事なんだ。」
ヴァレルカは何も言わずに小さな剥がれた鼻を掴み、涙が溢れ出すまで必死にこすり続けた。
「どうだ?」――ペーチカが尋ねた。「くしゃみしたくなったか?」
「ならない。」――ヴァレルカは泣かないように全力で答えた。
「ほら見ろ。やっぱり本に書いてあることは正しいんだよ。」
しかし、ヴァレルカはうっかり「こする前からくしゃみしたいなんて思ってなかった」と認めてしまった。
「なんでくしゃみしたくなかったんだよ?じゃあ試しにくしゃみしたくなれよ!何か嗅いでみろ。」
ペーチカは天に向かって意味ありげに指を掲げた。
ヴァレルカは草や埃、石、果ては岸辺に散らばっているもの全て――割れたオールの欠片や古い網までも――を嗅ぎ始めた。
「どうだ?」――ペーチカがイライラしながら聞いた。「くしゃみしたくなったか?」
「いや、ならないよ。」
ヴァレルカは、ペーチカの役に立てないことが恥ずかしく、それが彼をひどく苦しめていた。
「家に帰ろうか?」――ヴァレルカが提案した。「ここには嗅ぐものなんて何もないよ。棒切ればっかりだ。家なら何か見つかるかも。」
「ここに嗅ぐものがないって?!?」――ペーチカは怒りを露わにして反問した。「じゃあ、これは何だ?」
彼は足元から砂を一掴み拾い上げ、鼻を大きく広げて嗅いだ。
「お前、本当は嗅ぎたくないんだろ、この卑怯者!」
しかし、ヴァレルカは本当に嗅ぎたかった。ペーチカは彼がどれほど嗅ぎたがっていたかを想像すらできなかった。ヴァレルカはペーチカのためなら何でもやりたかった――ただし、その瞬間に他の少年たちが彼を遊びに誘わない限り――だが、鼻で砂を吸い込むのは本当に怖かった。
なぜなら、前日に母親が古いカーテンから新しいシャツを縫ってくれて、まだ一度も鼻血で汚していなかったからだ。彼はそのシャツをできるだけ長くきれいに保てば、鼻血がもっと長い間出ないで済む、いや、もしかしたら完全に止まるのではないかと思い込んでいた。
しかし、そんな馬鹿げたことをペーチカに話す勇気はなかったので、大きな目でペーチカをじっと見つめながら、まだ清潔なひまわり柄の裾をいじっていた。それはいつも窓越しに母親が仕事から帰ってくるのを見張っている時の癖だった。
「何を目を見開いてるんだよ?」――ペーチカは彼に怒鳴った。「こうやるんだよ!俺が生きてるうちに学べ!」
ペーチカは顔を砂に突っ込み、鼻で勢いよく吸い込むと、目をぎゅっと閉じてくしゃみを始めた。ペーチカがくしゃみをする間、ヴァレルカは家にある古い時計を思い出していた。その時計には片目の剥げたカッコウがいて、決められた回数を鳴き終わっても止まらず、時には一日の時間をはるかに超える数を数え続けたものだった。
くしゃみの合間にペーチカは鼻の付け根を必死でこすったが、それでも止まらず、苛立ちながら足を踏み鳴らし、息が苦しくなって声を上げ、涙に覆われた視界の向こうにヴァレルカがぼやけて見えた。ペーチカは天を仰ぎ、頭上を南に飛んでいく鶴が彼らを不思議そうに見下ろしているのを感じた。
ペーチカは目を開けたが、すぐにまた目を閉じた。目の前に突然現れたものを見たくなかったのだ。暗闇の中で目を閉じたまま、ペーチカはどうしてこんなことになったのペーチカは、明らかに森の中で一人取り残されたままうたた寝をしてしまい、どれくらいの時間ここにいたのかは分からなかった。しかし、目の前に現れたこれは一体何なのか?
ペーチカは慎重に片目を開けてみたが、それは消えることはなかった。それどころか、それは微笑み、青い夕闇の中でぼやけながら広がり、細い目をした薄いパンケーキのような形になった。
「どこかに行けよ」とペーチカは言いたかったが、代わりに喉がかすれたような音を出し、咳き込むばかりだった。「このクソやろう、日本野郎め…」
彼は結局それを口にすることはなかった。ただ、自分の寄りかかった松の木のそばで咳き込んでいただけだった。
「ハラダ・トリボギー」と、日本人が微笑みながら言った。
「どこかに行け」とペーチカはかすれた声で答えた。
「霧と風の中…」
「どこかに行け!」
ペーチカはついにその言葉を絞り出したが、日本人はただ微笑み続けていた。
彼は年老いていた。ペーチカには、それが今やはっきりと見えていた。突然やってきた闇の中でも、その姿ははっきりしていた。少なくとも50歳以上には見えた。
「何の用だ?」とペーチカは喉を押さえながらかすれ声で尋ねた。
日本人は慎重にペーチカの手を引っ張った。ペーチカは抵抗しようとしたが、そのための力は残っていなかった。
奇妙なほどの無関心さで、彼は「この日本人は今から自分を絞め殺すのだろう」と思った。戦前に足の悪いルケリヤおばさんが、夫のパイロットを殺したように――彼女は夫が眠っている間に近づき、斧で首を切り落としたのだ。それは村中の噂だった。もっとも、この日本人は斧を持っていなかったが、ペーチカは彼が斧なしでも何とかやり遂げるだろうと思った。ラズグリャエフカの女性たちは、ルケリヤおばさんが夫を殺したのは嫉妬のためだとささやいていた。
「近づくなよ」とペーチカは小声で頼んだ。「聞いてるのかよ?」
だが、日本人は引き下がらなかった。
足の悪いルケリヤおばさんが夫を地下室に突き落とした話がペーチカの頭をよぎった。あの話を聞いてから、ペーチカは夜になるたびに、なぜ嫉妬心というものがそんなに恐ろしい力を持つのかを考えた。どうして、それだけで簡単に人の首をはねてしまえるのか。ペーチカは、地下室でジャガイモのそばに横たわる首のない飛行士を想像し続けた。帽子も、空も、飛行隊も、飛行機もなく、ルケリヤおばさんがそのすべてを彼の短く刈られたボクシングヘアスタイルと一緒に切り取ってしまったかのようだった。
それ以来、ペーチカは夜になると暗闇の中で目を見開き、毛布の下でゴソゴソと動き回り、絶対に地下室の飛行士のような格好で寝ないように努力していた。本当のところ、飛行士がどんな姿勢で横たわっていたのかは分からなかったが、時々、自分には分かっているような気がしていた。眠りにつく前には必ず片膝を曲げ、手をお腹の上に置かないようにしていた。
ペーチカは今、自分の足を見下ろし、右膝を素早く曲げた。
「ハラダ・トリボギー」と、日本人は再び言いながら、ペーチカの頭を持ち上げ、首の擦り傷に慎重に触れた。
「もう終わりだ」とペーチカは心の中で呟いた。
「さようなら、スターリン同志、母さん。そして、ユーラおじさんとヴィーチャおじさん、さようなら。それにアジンツォフ中尉も。」彼は目を閉じた。
日本人はペーチカの裸の肩を触り、手のひらで胸を撫でた後、彼を前に倒し、鼻先が膝に触れるほど深く押し倒した。息をするのがまた苦しくなった。
「霧と風の中…」と、日本人はペーチカの後頭部の上で呟いた。するとペーチカは突然、背中にナイフを突き刺されたような鋭い痛みで飛び上がった。
彼はそれまで、自分の背中に傷があることを知らなかった。おそらく、地面に倒れたときに枝で引っ掻いたのだろう。
「痛えよ!」とペーチカは叫び、日本人の手を振り払って体を起こした。「バカか、お前!?」
日本人は何かを呟きながら、ペーチカの目の前に手を突き出した。その手には血がついていた。暗闇の中ではほとんど黒く見えた。
「だから何だよ?」とペーチカは言った。「お前の勝手じゃねえ!どうせお前らなんか全員やっつけるんだからな!どこかに行けよ!」
日本人は急に立ち上がり、草原の向こう端へ走った。そして、地面から何かを拾い上げると、素早く戻ってきて、再びペーチカの前にしゃがみ込んだ。彼の手には最初に投げ捨てた荷物の袋と、ペーチカのシャツが握られていた。
「なんてこった…」とペーチカは苦々しくつぶやいた。「ズタズタにしやがって。こんなボロ切れになっちまったよ。ダリヤ婆さんに殺される…」
日本人は荷物を脇に置き、シャツから布を一枚ビリっと大きな音を立てて引き裂いた。
「てめえ!」とペーチカは叫んだ。「まだ着られたのに!母さんが繕ってくれたのに!この…」
ペーチカは日本人から自分の大切なシャツを取り返そうと身を乗り出したが、すぐにうめき声を上げて背中を押さえた。傷口から血が出ていると知ってから、痛みがより強く感じられた。
「シャツを返せよ、クソ野郎…」とペーチカは涙を堪えながら頼んだ。
しかし日本人はシャツを細かく裂き続けた。
「くたばれ、満州のクソ野郎!」とペーチカはついに涙を流した。
彼は自分のシャツが無惨に切り裂かれていくのを目の当たりにして、全身を襲う深い哀しみに包まれて泣きじゃくった。これほど悲しいことは今までになかった。ペーチカにとって、そのシャツは母が夜、空っぽの食卓に座り込んで動かない様子や、意地悪なポタピハ婆さんにいじめられるヴァレルカ、さらにそのポタピハ婆さん自身が孫たちを養えずに苦しむ姿、どれよりも哀れに感じられた。
もちろんペーチカは、そんな自分自身や、みんなを含めた不幸を思えば、それらも十分悲しかった。捕まえられ、追い詰められ、「ヒトラー」だとされる自分の運命に涙する理由もあった。しかし、この暗い森の中で、この暗い瞬間には、シャツの方が何よりも哀れだった。
彼は泣き続けた。止まることができなかった。日本人がまるで彼を嘲笑うかのように、長い布を引き裂き続けるのを見て、なおさら泣いた。
「そんなにたくさんどうするんだよ?」と、涙で声を震わせながらペーチカは言った。「病院でも開くつもりかよ?お前なんか衛生兵もどきのバカ野郎だ!」
日本人は何も答えなかった。自分の言葉でも、変なロシア語でも。ただ、裂いた布切れを小さな包帯のようにして、隣に置いた鞄の横の草の上に並べるだけで、ペーチカに目もくれなかった。
涙を流し疲れたペーチカはすっかり力を失い、日本人が彼の体を包帯で巻き始めても、もう抵抗する力はなかった。ただ、静かに日本人をののしり、痛みに耐えながらうめいた。
「この細目の悪党ども、誰一人として容赦しないんだな。よそのシャツまで手を出しやがって……。ハルハ川ではジューコフ元帥にこっぴどくやられたのがまだ足りないのか。それに、ハサン湖の高地で戦ったマーリン中尉と彼の国境警備隊もお前らを散々叩きのめしてやったじゃないか。あの無名高地を覚えてるか?この関東の悪党め。お前もそこら辺で捕まったんだろうが……痛てて!おい、何してんだ、この野郎!くそっ、ひどいぞ……。お前はどこで捕虜になったんだ?ハルハ川か、ハサン湖か?聞いてるのか、この敵め!」
「ハルハ川……」と、その日本人はうがいをするような声で答えた。ペーチカの背中に身をかがめ、歯で結び目を固く締めながら。
「喋り方を覚えろよ」と、疲れた声でペーチカは言った。「喋ることもまともにできないくせに、人のシャツを裂くなんて。」
「シャツ、よい。」と、日本人がようやく立ち上がりながら言った。
「どこがよいんだ、馬鹿野郎。ハルハ川でお前らを叩きのめしたんだぜ。それが『よい』ってか?」
「よい」と、日本人は繰り返した。
「そりゃあ当然だ。あれはジューコフ元帥がやったんだ。世界一の元帥だよ。」
「よい」と再び日本人は言って、にっこりと笑った。
ペーチカは、ジューコフ元帥のことを思い出したからなのか、あるいは寒さに凍えていたせいなのか、とうとう怒りを鎮め、涙で濡れた顔を拭き、胸をきつく巻きつけた包帯を触って確かめた。
「お前、できるじゃないか……衛生兵だったのか?」と、彼は足を立てようとしながら尋ねた。その瞬間、ほんの一瞬だけ心臓が高鳴り、自分がまるで戦場の野戦病院にいる本物の負傷兵のように想像した。
しかし、日本人はペーチカの前に膝をついて座り、彼のシャツから裂いた布切れを急いで鞄にしまっていた。
「おい、何してるんだ?」とペーチカが言った。「それは僕の包帯だぞ!」
ペーチカは日本人を押しのけようとしたが、自分でバランスを崩し、松ぼっくりが散らばった草地にどすんと尻もちをついた。
「こいつめ、ほんと調子に乗りやがって。」
しかし日本人は耳を貸さなかった。ただ冷静に鞄を結び始め、立ち去る準備を進めていた。
「見てろよ、この野郎!」ペーチカは力なく叫びながら拳を振り上げた。
「お前なんか見つけてやるからな。この包帯のこと、アジンツォフ中尉に報告して……お前、どうなるか分かるよな?お前なんか撃たれるぞ!俺のシャツを裂きやがって、一枚も残さないなんて……俺、ダリヤ婆さんになんて説明すればいいんだよ?シャツがどこに消えたのかって!」
日本人はとうとう鞄を結び終わり、それについた木のゴミを払い落とし始めた。
「綺麗にしていくつもりか、泥棒野郎が」とペーチカは文句を言い続けた。
「几帳面だな、この敵め。」
その瞬間、しゃがんでいる日本人の背後に、もう一人の細い目をした顔が現れた。
「もうおしまいだ!」とペーチカは叫んだ。「四方八方から出てきやがる!吸血鬼どもめ!生きては捕まらないぞ!」
この新しい日本人の姿は、ペーチカにしか見えなかった。膝をついている最初の日本人は、すでに自分たち以外に誰かがいることに気づいていないようだった。
ペーチカの叫び声にはもう慣れているのか、全く注意を払っていなかった。ペーチカは闇から現れ、いや、むしろその闇から作られたかのようなその日本人の手に棒を見た。
新しい日本人は音もなく、膝をついている日本人の後ろに立ち止まった。その丸い白い顔が、膝をついている日本人の丸い白い顔と、森の上に浮かぶ満月の間にすっぽりとはまり込んだ。
新しい日本人は棒を振り上げたが、ペーチカは口をぽかんと開けたまま、それら三つの白い円を見つめた。その三つの円はまるで、冬にヴァレルカと一緒に作った雪だるまのように見えた。その雪だるまは、後でダリヤ婆さんが桶の柄で壊してしまったのだ。
ペーチカはまるで魔法にかかったように、月と二人の日本人を見つめ、次に何が起こるのかを待っていた。不思議と冬や雪、ターニャ・ザハロワの赤く染まった頬や冷たい唇、ぎゅっと閉じられた瞳、そして凍えたのか恐怖からなのか震えていた自分の荒れた手を思い出していた。
突然、棒を持った日本人が蛇のようにシューッと音を立て、ペーチカの目の前にいた日本人の頭を全力で叩いた。不意を突かれた日本人はその場で回転し、何とかしてこの突然降りかかった災難から逃れようとしたようだが、代わりに勢いよく別の日本人の膝に頭をぶつけ、二人とも草地に倒れ込み、互いに殴り合いを始めた。奇妙な「雪だるま」からは、まるであのパイロットの頭のように、残ったのは頭部だけになってしまった。
「やれ!」とペーチカは叫んだ。自分でも誰に向かって言っているのかよく分からないまま。「やっちまえ!」
一方で、ペーチカは鞄を持った日本人が、自分のボロボロになったシャツの仕返しを受けるのを望んでいたが、もう一方では、彼があの乱暴な少年たちからペーチカを救い、さらに戻ってきて彼の傷を手当てしてくれたことを思い出していた。しかし結局のところ、どちらの日本人も敵であり、どちらが勝っても、労農赤軍にとっては良いことしかないと彼は思った。
「もっとやれ!」とペーチカは叫び、背を向けたまま両足で蹴りつけようとした。「日本人をやっつけろ!やるぞ!」
彼は長い間、関東軍への攻撃を心待ちにしていたので、今こそその時が来たと思い込み、座ったまま足で一方の灰色の背中を蹴ったり、もう一方を蹴ったりしていた。
「見つけたぞ!」突然、誰かの大きなロシア語の声が響いた。
「やっぱり、あいつが見つけると思った。二人目の日本人を捕まえて正解だったな。」
月明かりに照らされた草地に、肩に自動小銃をかけた二人の影が現れた。ペーチカは、彼らが最近収容所の門の近くで会った警備兵であり、怒ったソコロフ上等兵が脱走した日本人を捕まえるために送り出した二人であることを、何となく察した。
ペーチカはとても喜び、彼らの元へ駆け寄ろうとしたが、その前に二人が彼の方へ駆け寄ってきた。
「おじさんたち!」ペーチカは手を差し伸べながら言った。
しかし、彼らはペーチカに目もくれず、自動小銃を降ろし、二人の日本人を銃床で叩き始めた。
「おじさんたち!」とペーチカはもう一度繰り返したが、兵士たちは彼を無視していた。
「くらえ、このクズが」と若い兵士が言いながら、自動小銃の銃床をペーチカの「日本人」の肩や頭に振り下ろしていた。
「こうやるんだ」と白髪の兵士が、逃亡した医者の脇腹を銃床で狙いながら、彼に同調した。
棒を持っていた日本人は、ゆっくりと草地を這いながら横にずれていった。一方で、ペーチカの「日本人」は、激しい打撃を受けながらも両腕で頭を守り続けていた。それでも彼は目を閉じず、なぜかずっとペーチカを見つめていた。警備兵たちは、まるで川で洗濯をしている女性たちのように、彼を叩き続けたが、日本人はただじっとペーチカを見つめ、何かを待っているかのようだった。ペーチカにはそれが何なのか分からなかった。
なぜなら、もし自分だったら、とっくに立ち上がって逃げ出しているはずだったからだ。
「もういいだろう」と白髪の兵士が言い、二人の警備兵はついに手を止めた。
月明かりに照らされた中で、彼らは自動小銃に体を預け、まるで収容所で馬跳び遊びをした後のように重く息をしていた。一方で、棒を持っていた日本人は、草地を這いながら何かを探していた。
ペーチカは体を少し動かし、立ち上がろうとした。その時、偶然にも草むらの中で棒を手に触れた。彼は一瞬迷ったが、そっとそれを自分の方に引き寄せ、背後に隠した。そして振り返ることなく、その棒をできるだけ奥のイラクサの茂みに押し込んだ。