【連載小説:ロマンス・ファンタジー小説(オマージュ)】あなただけを見つめている……。 第二部 次代の姫 第十八話 終わりつつある親子の時間
前話
「ひめー。もう、十分散歩しただろ。ちーも疲れたって言ってるぞ」
「やー。ひーちゃん、ここにいるー」
ここという表現にやや違和感を步夢は持った。
「ひめちゃん。ここって、この場所じゃないわね。この世界って言った?」
「この……せかい? まま、せかいってなぁに?」
「うーん、説明が難しいわね。このまわりの場所だけじゃなくて、昨日までいたししょーの国とかいろんなものがあつまっているのを世界というのよ。ひめちゃんは、今、とっても大事な時期にきているの。しばらく、パパとママと楽しいことして遊びましょ。思い出つくろ。おじいちゃんに話を聞くのはその後でいいわ」
「むー……」
「おじいちゃんの話を聞けば、おそらくもう行くしかない。此の地の思い出を作ろ」
步夢の真剣なまなざしに当騎も理解する。離れる時が近づいてきた。この世界の思い出を。
「そうだ。パパのじぃじとばぁばに会わなくていいの?」
「勘当息子何でね。それにあっちは通常だぞ。姫夏を連れて帰ったら、いつ産んだ!! と言われるぞ」
「あ。そっか。処女受胎は通用しないか」
早熟すぎる吉野家では最低年齢十歳で嫁に行ったとある。己もそれに連なることとなっている。吉野家だから内緒に出来るのだ。
「じゃ。帰って。ひめちゃんと遊ぶ遊園地を探しましょう。どこがいいかなぁ? 大きなネズミさんがいい? いろんなお話のお家があるところがいい? パパと三人でいっぱい考えよう」
「ひーちゃん。それがいい! ままとぱぱいっしょがいい!」
恐らく、姫夏は別れの時を感じて不安になっている。それを吹き飛ばすぐらい遊ぼう。思い出を作ろう。心にこの家族が宿るように。
「むー。また涙が」
ちょんちょん、と当騎が拭う。
「今ならお母さんが産んでないのに産んだ気になったって言ったのわかる気がする。この子は正真正銘私の子だわ……ってこの年でなにほざいているのかしらね」
「俺もそれは同じだ。この年で何ほざいてんのかね、と言うぐらいに課程を飛ばしている。もうデートもごろにゃんも吹っ飛んでる」
「よね。老けたわね。私たち」
「精神年齢が上がったと言うんだ」
「負け惜しみ」
「なにー」
痴話げんかになりそうになったそのとき姫夏がだめ! と強く言った。
「ままぱぱいっしょ!」
「はい。ひめちゃんの言う通りね。パパごめんね」
「俺こそ。ママごめんな」
にっこり笑い合う。
「ひめちゃんがいたら夫婦げんかも吹っ飛んじゃうわね」
「そうだな」
三人と一匹で暗い道を歩いて帰ると日史が仁王立ちしていた。
「どこまで行ってるの。もう、晩ご飯だよ」
「みーのご飯ー」
どうやら「ひふみ」と言えないらしく最後のみーを取ったらしい。
「はい。ひめちゃんにはスペシャルな夕ご飯だよ」
「ひめちゃんだけに甘いー」
「親はつべこべ言わない。さ、食べるよ」
日史に続いて步夢達も屋敷に帰っていった。
夕食後、一家は当主の部屋に戻った。沙夜は離れに行き、離れに住んでいた日史は加奈子と一緒に敷地内にある別宅で新婚生活を送っている。式はまだ挙げていないが、もう親も了承済みとか。順調なカップルがうらやましい。
「ひめちゃん。どんな所に遊びに行きたい?」
パソコンの画面に様々なテーマパークが写っている。
「ちーといっしょ」
眠たげな目をしながら姫夏は答える。
「ワンちゃんと一緒のホテルかー。いいねぇ。ちーも行こう」
「ぴぎ!」
嬉しそうに千輝も鳴く。
「あら。ひめちゃん。ねちゃった」
「疲れるさ。帰国だけでも疲れるのにその後長い散歩行くんだから」
当騎が服を着替えさせてベッドの真ん中に寝かす。ベビールームもベビーベッドもあるが、姫夏は一家でねるこのベッドが大好きだ。
「いい夢みてね」
步夢はちゅっと姫夏の額にキスすると、着替えに隣室へいく。その間は当騎が姫夏と千輝の様子を見ている。步夢はすぐ出てきてパジャマを着ていた。それを見ると軽く手を上げて今度はパパ、当騎のお着替えタイムだ。戻ってくるとお休みのキスを二人でしてそのまま両脇のベッドに滑り込むとあっという間に二人も寝付いた。
翌朝。千輝のぴぎぴぎという声で目が覚めると姫夏も目が覚めていた。が、当騎はいない。
「ひめちゃん。パパは?」
「あっち」
書斎を指さす。と通じるドアから当騎が飛び出てきた。
「よし。予約取った。明日から行くぞ!」
「って、明日!」
「そう。うちのコネ使わせてもらった。ちゅーことで明日からしばらくお前は室井步夢」
「籍いれたの?」
「いや」
ほっ。步夢は一応安心した。もう結婚なんて夢も希望もない。デートはしたい。日史と加奈子は別のようだが。
「形だけ。で、ひめの服買いに行くぞー。可愛い服買おうなー。ひめ」
抱き上げて高い高いをする。
「綺麗なママも見れるぞ」
「って、私、こっちにはショートカット用の服しかないわよ!」
「じゃ、ママの分も服買いに行く。なー。ひめ」
当騎の突撃バカンスに巻き込まれて、右往左往する步夢だ。ドキドキもする。当騎の室井性を名乗るのは初だ。本当に結婚しちゃったみたい。
一人ではにかんでいると、当騎がめざとく見る。
「いっそ。籍、本当に入れるか?」
「え?」
「入れたいんだろう?」
「ま、まぁ」
どぎまぎしていると姫夏が步夢に手を伸ばす。そのまま、受け取る。
「この世界から離れる前に入れよう。ってそれが二年後だったらな」
「当騎……」
「順番入れ違いだけど、こんな俺でよかったら結婚してください」
「はい」
步夢は少し涙ぐんで答えた。その一瞬後、当騎はドアを開け放した。どたっと派手な音がする。
「ちょっと! 覗いてたの?!」
「好奇心があって。どうなるか、と」
と日史。
「まさかプロポーズとはな……」
と征一。
「おめでとう」
とは素直な暖。
「やっぱり、お嫁に行くの?」
さみしそうな母、沙夜。
「形だけ。名前を書くのにそう書くだけ。当騎のコネらしいから。そうでないとまずいの」
步夢が恥ずかしそうに顔を真っ赤にして説明する。
「でも、最終的には嫁に行くのだろう?」
「お父さんまで! 籍は吉野家になるわよ。本当に入れるときは。それに、今は十八歳になるまで日本では入れられないのよ。姫夏があと三年こちらにいれられたらいれる、ってぐらいなの! もう。朝ご飯できてるの? 日史!」
「まだ。幼児食作ってたらぞろぞろ行列が出来てたから」
「そんなのについて行かない!」
「はいはい。お味噌汁の具なにがいい?」
「生わかめ!」
「はいはい。みんなも持ち場に戻る」
日史が言うと皆散らばるが、暖が持ち場って? と征一に聞いて無理矢理剣道場に連行されていった。
新しい家族の時間。残された時間と考えれば短いが、新たな冒険だと思うとまた前へ進みたくなる。長いバカンスの幕開けだ。
「水着も買うぞ」
「スクール水着じゃダメ?」
「ダメ! ひらひらしたやつしかダメなの」
ビキニを要求されずほっとした步夢。意地悪げに企んでいる当騎の足を思いっきり踏む。
「ビキニは着ません!!」
「ちっ」
こうして姫夏の暑い夏がまた始まった。
あとがき
もう吹っ切りました。第二部は子育ての話、と。いちゃいちゃしてくれないー。切な甘がテーマのこのシリーズ、いつしかてぃ先生の子育て教室の如く妙な豆知識ばかりになっている。脂肪分は5パーセントまでとか。ヨーグルトクリームのケーキとか。ああ。子供もいないのになんでこんな事を調べてるんだ? 育児日記では足りない情報をさくさくと掘り出しているのでした。これも続けます。第三部が止まっているので第三部がしばらくでないけれど作品はあまたあるのでどこでもなんでもでるのででした。では。長々とここまで読んでくださってありがとうございました。
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