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【連載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(99)

前話

 除け者四人でお茶会をする。
「この後、遺跡に行くかい?」
 クルトが言うと二つ返事で私は了承する。
「形残ってるの?」
 ケーキにフォークを指しながらヴィルヘルムが聞く。
「さぁね。でも、見に行く価値はあるよ。例え、跡地でも」
「じゃ、行きましょ」
 アールグレイをさっさと飲み干すと立ち上がる。まだ、ふらつく。クルトがすっと背中に手を入れる。
「本調子じゃないんだから、一人で歩かないの」
「はいはい。じゃ、みんなで遺跡ツアーよ」
「お菓子ツアーがいい」
「じゃ、フリーデもらっていくわね」
「だめー」
 フリーデの手をつかんで引き止める。
「じゃ、ヴィーも参加」
「はぁい」
 こうしてみる分には素直な弟なのにね。
「エミーリエ。それは後」
 クルトが言って私はうなずく。
「そのツーといえばカーってやめてよ。こっちは聞こえないんだから」
 ヴィルヘルムが抗議する。
「ふふん。ヴィーはフリーデとツーカーがないからやきもち焼いたのね。これはこれで苦労するのよ。ね。クルト」
「そうそう。ようやく慣れたんだ。じゃ、行くよ」
 ぞろぞろと外へ出る。牧草地の中を歩く。かなり外れたところにその遺跡はあった。ボロボロに崩れた遺跡。
「なんだと思う?」
 クルトが面白そうに聞く。
「パン屋さん」
 
 ずべっ。

 クルトとヴィルヘルムがずっこける。
「今、パンがどーしても食べたいの。パンしか浮かばないわ」
「つわりですか。姉上」
「私はパンの耳よ」
 あらぬ方向からお姉様の声が聞こえてきた。振り返って手と手を取る。
「妊婦の運命ですわね」
「ええ。わかっていてよ。シュテファン。明日の朝はパンの耳を用意して頂戴」
「また脱線する」
 クルトがあきれて言う。
「いいかい。ここは裁判所だったんだ。魔皇帝は法整備にも力を入れたんだ。決して恐怖政治を施行しなかった。魔とは逆方向なんだよ」
「だけど、僕の手は血で汚れている」
 ヴィルヘルムがつらそうに言う。
「若気の至り、って言ってたわよ。おじい様」
「若気の至りって。それで人の命が贖えますか?」
 きっとヴィルヘルムが見る。
「あなた、まだおこちゃまよ。その年で若気の至りの意味が分かったら神様も遺跡もいらないわよ。もっと年を取って経験してわかるの。決めつけるのはよくないわよ」
「お、おこちゃまって」
「でしょ。悔しかったらフリーデとややこを作るのね」
「あ、姉上!」
「エミーリエ様!」
 二人が真っ赤になって叫ぶ。
「ふふん。あなたの人生はこれからよ。過去にとらわれない事。そして私たちを信じて。見捨てないから。ひとりにしないから」
「そうよ。私たちはあなたのために生まれてきたの」
「カロリーネ姉上」
 まだ、背が高くないヴィルヘルムがカロリーネお姉様を見上げる。
「ま。子供が生まれたら子守として雇ってあげる。命の大切さがとてもよくわかるわよ」
 お母様。今のカロリーネお姉様はエレオノーラお母様の瞳の色をしていた。ヴィルヘルムにもそれがわかっている。食い入るようにカロリーネお姉様を見ている。発言は姉としてだけど。
「はぁ。わかりました。お願いですから三つ子とか五つ子で産まないでください。僕の体は一つなんですから」
 少し、陰っていたヴィルヘルムの瞳に光がまた戻った。この揺り戻しを何回も経験して大人になっていくのね。
「そうだね」
 クルトが私の手を握る。
「この先にも戦勝碑があるんだ。行く?」
「行く行く~」
 陛下にくっつくキアラのように私はクルトにべったり甘える。
「そこの戦勝碑はそっちの先じゃないよ。兄上」
 そう言ってヴィルヘルムが歩き出す。戦勝碑。それは自分が人を殺して戦った証。その証に自ら足をヴィルヘルムは向けた。何かがヴィルヘルムの中で起こったみたい。さすがはエレオノーラお母様だわ。
 クルトとにっこり笑いあってヴィルヘルムの後をゆっくりと追いかけたのだった。


あとがき
今日は駅からでなく、家から更新できます。ちと、予定時間より遅れていますが。でも、無事起きられて、さらにこれも99。明日で100です。そのうち終わりそうな勢いです。そのあとはユメと訳あり、ですな。ほとんど読まない人がいる中、たまにスキを押してくれる貴重な方々には感謝しかありません。長期連載になればなるほどスキが消えていく。最初の頃はもう少しあったんですけどね。かといって訳ありも正式ナンバーうてばひかれる番号135からが単発なので。ここは微調整しよう。また、読みたいお話などあればリクエストください。サーコは移動しますが、他の物語はここで更新します。帰ったら星降りしますのでお楽しみに。

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