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【千字掌編】窓辺にて……。(土曜日の夜には……。#04)
星蘭は億ションの最上階から夜景を見ていた。大伯父が身よりのない星蘭にとんでもない遺産を残してくれた。有り余る資産。相続税を払っても十分生きて行けた。
土曜日の仕事終わりにだけ大伯父が住んでいたこの部屋に来る。ここからみる夜景は美しい。
地上にあくせく生きている人間は時として愚かで悪質ではあるけれど、ここからはそんな人間も見えない。
大伯父はどんな思いでここから夜景を眺めていたのだろうか。見もしなかったかもしれない。幼い頃、会った大伯父は空虚な目をしていた。ここでも心は動かされなかったに違いない。
その証拠にこの部屋は無機質だった。星蘭がいくつか絵画や雑貨を並べてやっと人間臭さが出た。
「この部屋、売ろうかしら……」
そんな言葉が出てくる。ここにいても自分の生活領域は地上だ。遺産を相続しても仕事をしている。遺産などなくてもいいのだ。ただ、老後のために、と一応相続している。そんな星蘭の元には怪しい人間や不動産会社からの手紙や訪問が後を絶たない。星蘭は人間不信になりかけていた。
「仕事も辞めようかな」
仕事場の同僚とはあまり話さない。上司の指示に従っているだけだ。月曜日に、運試しに出勤して、何もなく、いつもの通りに無視されていれば辞表を出そう。
この部屋に住む。
星蘭には大伯父の気持ちがなんだかわかるような気がした。金持ちになればなるほど周りに集まってくるのは嫌な人間ばかりで、好きな相手には嫌われてしまう。一人きりで夜景を毎日眺めて生きていけば良いのかもしれない。この部屋には壮大な美しい窓辺の夜景という魔法がかかっている。
月曜日、普通に出勤した。目立たない服装、メガネでボサボサのただまとめただけの髪の毛。それが自分だ。遺産を相続しても身なりは変わらなかった。同僚も遺産を相続したことは知らない。話す時がなかった。仕事上だけの最低限の会話しかなかった。
今日もいつも通りに仕事の時間が過ぎていく。誰も、話かけない。だが、意外な声がかかった。
「ちょっと来てくれないか?」
係長が呼ぶ。着いていくと、ITを扱う部署の係長がいた。
「ちょっと。この画面を見てくれないか。フリーズして困ってるんだ」
プログラム画面でパソコンはフリーズしていた。
「ふーん」
星蘭はプログラムを見ていく。
「ああ、ここのスクリプトが違うんですよ」
星蘭はささっと処理した。
「さすがだね。やっぱりうちの部署に来てくれないか?」
「異動、ですか?」
「断るのも自由だが、うまく行ってないようだからね」
「ええ。まぁ」
「こちらは画面見てれば良いから、楽だよ」
「お世話になります」
辞表どころか、栄転となった星蘭だ。戻って係長が事情を話すと、同僚から意外な祝福を受ける。
こんな人達だったかしら?
信じられない思いで送り出される。結局、夜景は土曜日のみになった。
仕事終わり、もう日付が変わろうとしていた。もう日曜日になる。それでも、夜景は変わらなかった。多少光が減った感じはする。けれど、空を見上げれば月が見える。
今宵もあなたに素敵な星空を……。そして素晴らしい夜景を……。
土曜日の神様はそっと星蘭を見つめていた。
あとがき
眠れない夜に何かショートショートを書こうとして題材を考えても出ないので、ここのAIさんに提案してもらいました。すると「窓辺」と「夜景」という言葉があったので、それをイジってみました。最初はスマホでポチポチやっていたのですが、水槽の濾過器が空回りして(そこまで放っておくのもダメだけど)すごい音を出したので水換えして、パソコンで打ってみました。
だいぶ削ったし、尻すぼみな感じがあるので、後日改稿するかもしれませんが、とりあえず、これで投稿します。
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