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【連載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(50)

前話

 薔薇園でひとしきり泣くと、クルトは月明かりが奇麗だから、と言って園内の散歩に誘う。私は泣いて真っ赤になった鼻頭を見られたくなくて後ろについてそぞろ歩く。クルトは知っているのか、隣に並ぶこともなくただ手をやさしく引いて散歩する。
「この薔薇園のね……」
「え?」
 クルトのそっとささやくような声に聞き返す。
「この薔薇園のどこかにエミーリエの時代とつながっている扉があるという伝説が伝わっているんだ。もしあったら帰りたい?」
 クルトの寂しそうな声だった。とっさに首を振りながら、いいえ、と答えていた。
「クルトのいない世界なんていやよ」
「でも、そうすれば、今夜みたいに孤独に震えて泣く夜はなくなるよ?」
「無茶言わないでよ。未来に来てまだ一年ちょっとよ。そりゃ、家が恋しいわよ。でもクルトとの人生を棒に振るほど馬鹿じゃないわ。クルトのいくところが私のいくところよ」
「エミーリエ!」
 クルトが腕を引っ張って私を抱き寄せた。そっと唇が触れ合う。クルトは辛そうだった。
「心配しないで。旦那様。私は眠る前に過ごした十六年よりも長くあなたと連れ添うのよ。いずれ忘れる感情よ」
 クルトがぎゅっと私を抱きしめる。恐れが伝わってくる。失うのかもしれないという恐れは心の声でなくてもわかった。
「大丈夫。無事、花嫁にして」
「ああ」
 そうして情熱的なちゅーを交わす。ヴィルヘルム顔負けの。こっちの方が大人だわ。そこでふと気になったのは、私の屋敷でも施錠されてなかったかというあの無防備な扉のことだった。
「その扉、鍵はついているの?」
「もちろん。その鍵はどこにあると思う?」
「え? クルトが持っているんじゃないの?」
「残念。あの入り組んだ宮殿のどこかにあるんだ。毎回増改築したのは目覚めたエミーリエが帰ってしまわないように、鍵を隠すためだったんだ。今じゃ、開かずの間が山程あるよ」
「そりゃ、帰したくないわね。なんたって幻の血筋なんだから」
 でもね、とクルトは言う。
「この王室の血もアリアーナ姫の血筋なんだよ。なぜかエミーリエの血が神聖視されてる。あの声が手掛かりじゃないかな?」
「あの声?」
「原始の海……」
「ああ。そんな声もあったわね」
「わね、ってつい最近だよ。もう忘れたの?」
「だって。よくわからないんだもの。無視よ、無視。私には花嫁修業が山ほど待ってるんだからってフリーデのことも進めないとね」
「近いうちに使いがやってくるよ。二人に」
「ほんと、形式にこだわるんだから」
「だから王室なんだろ?」
「はい。そうでした」
 そう言って小さく笑いあうとお互いの額をくっつけあう。
「俺たちは二人だけで十分なのにね」
「ええ」
「かといってオオカミになってはいけないから、そろそろ帰ろう。ヴィーは明日二日酔いで使い物にならないから遠出でもしよう」
「素敵! 早起きしなきゃ。こんな夜中歩いている場合じゃないわ。ランチも作ってもらわなきゃ。料理長寝ちゃったかしら」
「エミーリエは笑顔が一番だよ。さ。男を試すような夜は終わり。お休み。俺の姫、エミーリエ」
「一緒に住んでるんだもの。ここでサヨナラするようなことは言わないで。一緒に帰りましょ」
「エミーリエはほんと意地悪だよね」
「え?」
「何でもない。帰るよ」
 クルトは手を引くと薔薇園を引き返す。さっさと歩いて小走りでないとついていけなかった。何かがクルトの中で起こっていた。それを振り切るようにクルトは私の手を引いて宮殿に向かう。
 なんとなくよそよそしかったけれど、それもほんの少しのことだった。私は追求せず、おとなしくついていった。クルト然り、ヴィルヘルム然り、男性には男性の事情があるのだと、ぼんやり思ったのだった。


あとがき
勝った~~~~!! ここにこの記事があるということは無事日本シリーズ第四戦に阪神が勝利したからです。延長になったらどうしようかと思ってました。最大延長110分だったので。他は試合終了まで放映してくれてるのに。とにかくサヨナラ勝ちで助かった。夜十時ごろまでこの日本シリーズはかかっているので、それ以上超えたら精神崩壊するところでした。心臓に悪い。五時間ほどあったようで、六時間とかになってたら気をもみすぎて倒れてました。明日は休みなのでゆっくりします。明日もあるんだよね。日本シリーズ。気力がなくなりそう。とにかく負けたらどうしようと気をもむので。そして、編集を続けていた「氷晶の森の舞姫と灼熱の大地の王子」はなんと前中後と分かれることが判明。後編を編集してから文字数を見れば四万字。これは読みにくい。前編を三万字ほどで切ったので、それで一万字多いと読みにくかろうとあえて三つに分けました。先程表紙のイラストを作成しました。表紙は明日作ります。もう疲れた~~~~~~。でも、野球を見ながら晩酌をする習慣が出来てしまいました。ノンアルで。つまみにいろいろ買ってリバウンド中。もしや、この疲れは血糖値の上がり具合で?? 目も疲れてるんですけど。アリナミンがいるのか?? QPヒーリングでは副作用が出るので飲めなくなりました。ビタミンー。とにかく小説はいちゃいちゃの話なのですが、書き手はそれどころではないです。勝手にしてちょうだい。と放り出します。明日も勝ったらまた更新しますね。勝て! と念を送る不届きな阪神ファンでした。

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