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【再掲連載小説】恋愛ファンタジー小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (24)再編集版
これまでのお話
前話
「こっちの部屋に運んで!」
私はとっさに叫んでいた。
「ゼルマ。それじゃ、君のあつらえた部屋が・・・」
「そんなもの、人の命の前では何でも無いわ。お兄様を救えるのはウルガー、あなたなのよっ。ほら、さっさと動く!」
私の剣幕に押されながらもウルガーとアウグストお兄様がマティアスお兄様を運ぶ。
「エルノー! ウルガーの道具を!」
「はい。ここに」
「じゃ、運んで。私とお姉様は外で待っているわ。邪魔したくないから」
どうしてすぐ道具が用意できていたのかはわからないけれど、毒慣れした女性とウルガーが言ったときに解っていたのかもしれない。エレナはすでに衛兵に連れ去られていた。ウルガーの助手が必要かと思ったけれど、医術書を読んだだけで技術は無い。アウグストお兄様に託すのが一番と私は泣き出した姪っ子をあやしていた。
「相変わらず、私も楽観的よね」
ぽつん、と自虐の言葉を吐く。姪っ子達の泣き声でそれはお姉様には届かなかったけれど、私の胸は痛かった。
見るとおりにエレナが悪事を働き、マティアスお兄様は死の淵。どうしてこうもお気楽な展開なの。普通、お兄様がウルガーを殺す手はずを整えているでしょ? 性悪説でない自分の意思の通りに物事が運ぶのがいらだつ原因となっていた。それを感じたのか姪っ子がさらに泣く。
「ああ。一番、私に近いあなた達が泣いたら私はどうすればいいの」
幼子ほど無意識に近い存在はいない。その幼子が私の無意識と反応して泣いている。私は気持ちを切り替えるしか無かった。
「ほら。あなた達がなくならおねぇちゃまが泣けないでしょ。大人しくして」
そう言って長い手術が終わるのを待ちながら、アイリをあやす。昔聞いた覚えのある子守歌のメロディーだけ歌う。次第にアイリもクラーラも眠りに落ちていく。
「大丈夫? ゼルマ」
お姉様が心配そうに見ていた。
「当分、キンモクセイの宮は使えないわね。やっぱり宮殿に帰るしか無いのね。アーダの料理楽しみだったのに・・・」
「ゼルマ!」
お母様とお父様がやって来ていた。
「お母様! お父様!」
急いで立ち上がるもんだから、私の腕の中のアイリがまた泣き出す。
「あ~あ。もう。アイリ~。おねむしなさい」
また子守歌を歌って眠らせようとする。が、ギャン泣きだ。
「貸しなさい」
お母様が手を出す。
「すみません」
そっと受け渡す。お母様が抱くだけであっという間に泣き止んだ。
「なんなのよー。私の無意識はー」
「ゼルマ?」
「なんでもありません。今、アウグストお兄様が助手です。私は知識しか無いので助手にはなれなくて」
「それはいいのよ。できなくてあたりまえなのだから。ウルガーが落下したりマティアスが刺されたり、と物騒な一日ね」
「ええ。お父様に保護呪文を着けてもらえるよう頼んだのですが、聞いておられない様子だったので、勝手に大神官様からお札を頂いて貼っていたのです。そして、エレナなのか誰なのかわからない人間によって貼るために使う梯子が壊れたのです。でも、さっきのエレナを見ればエレナが有力視されますね。あの闇は尋常で無かった。エレナにもああなる何かいきさつがあったはずです。ウルガーのように」
「マティアスから聞いた話によると小競り合いで家族全員が虐殺されたようよ。お母様とお姉様はさらにひどい扱いを受けていた、とマティアスから聞いています。おそらく、その恨みもあったのでしょう。そしてマティアスが王太子になればいいのに、と言っている事が度々あったようです。正妃の息子が一人故に、陛下は側室をもたれましたが、子供がある程度大人になった段階でこの宮殿から出て、再婚したり、別の館でくらしているわ。マティアスのお母様は出産時に亡くなられて、私がウルガーと息子同然に育てました。だからウルガーも特に兄上と呼んで仲がいよいのです」
「そうでしたか・・・。この国にも複雑な事があるのですね」
「ええ。女性の心のようにね」
驚いてみると、お母様はすべて解っているという風に、頷かれた。
ぽろ、と涙がでる。お母様はアイリをお姉様に渡すとそっと私を抱きしめる。私はまた涙を流したのだった。
外で待ちながら、なんだか体がふらふらし出した。
「ゼルマ様、椅子に」
アーダがいつの間にか椅子を持ってきていた。
「ああ。ありがとう。アーダ」
ストン、と椅子に座る。そうたいした時間は経っていない。急所を外れていることを祈っていた。ウルガーも辛いだろう。本当の兄の様に慕っている人が刺されて、自分の手に命がかかってるなんて。側に行ってなんとかしたい。でも私にはその力が無い。だけど、ある事に気づいた。私は物語師の娘。あの本に書き込めば、なんとかなるのかもしれない。未来を書いてみる、その可能性に全てを賭けた。
私は立ち上がると宮殿に向かって走り、宮を出る。一人、というのは怖かったけれど、人の命の前にそんな事は言ってられない。猛スピードであてがわれている部屋に行く。あの書き込んでいる本を取り出して。書き出す。エレナと会ってから、そしてウルガーと私の見解が一致した途端起きた出来事、すべてを書き、そして最後にマティアスお兄様が一命とりとめた事を書いて本を閉じると、またその本を持って宮へと急ぐ。その途中でお母様と鉢合わせした。
「ゼルマ。一体、どこへ! と、宮に戻るのですか?」
「マティアスお兄様の命が助かった未来を書きました。これでなんとか未来を変えられれば」
「そう。あなたも物語師の子だったわね。私も同じ事を考えていたのよ。書いたのなら一緒に戻りましょう。ウルガーが怒れば私から言いますから」
「ありがとう。お母様大好き!」
抱きつきたいけれど本が落ちる。私は頬にちゅーしてそのまままた走り出す。お母様も走り出す。
あっという間に宮に戻れた。ウルガーが出ていた。
「ウルガー。マティアスお兄様は?」
「ゼルマ! と。母上が怒るなと言ってるようだね。どこ、行ってたんだい?」
不機嫌な顔でウルガーは聞く。あれだけ一人になるなと言ったのに、と言った具合に。
「この本に、マティアスお兄様の命が助かったことを書き込んだのよ。ウルガーがここにいるなら、もちろん、助かったのね」
「急所をかすっていたけど、なんとか無事大けがにならないですんだ。これも、ゼルマが書いてくれたからかもしれない。ありがとう」
こてん、と私の肩にウルガーが額を乗せる。
「怖かったわね。大好きなお兄様の命を預かったのだもの」
「うん」
ウルガーはまるで小さな子供様な返事をした。気持ちが子供の頃に戻っているのだろう。本をお母様に渡すとウルガーを軽く抱きしめてあやす。
「ゼルマ」
声がかすかに震えていた。
「何も言わないで。カシワの宮で今夜は食事をしましょ。それともお兄様の側に着いていたい?」
「それは母上がなさる。母上も、君と同じ事を考えたからね。俺は君との時間を取り戻したい。二人でろうそくの火だけを見てただ、幼い頃の話をして兄上の話しを聞いて欲しい」
「少しだけ聞いたわ。実の兄のように一緒に育ったって」
「そうだ。そうなんだよ。だから、どっちをとれと言われても困るんだよ」
「解ってる。もう、何も言わない。ウルガーの大切な人達は一杯いるんだから」
「君もその中に入って一番上のランクだよ」
「それも、知ってる。話したい事は今夜聞くわ。久しぶりね。ろうそくの火だけの日は」
「君に闇のことを話した日以来だ」
「ほら。男の子はいつまでも泣かないの。泣いていいのは恋人の前だけ。みんな見てるわよ」
「いつだって、君に甘えていたいんだよ。一人で頑張ることに疲れてる」
「だから無理しなくてもいいから。さ。この椅子に座って」
椅子に座らせると私の手をウルガーはつかんで離さない。
「ウルガー。隣に座るから。それともマティアスお兄様をお母様に託してカシワの宮に行く?」
小さくウルガーが頷く。手を引くととぼとぼと歩き出す。いつもあんなに元気で自信満々の人が打ちひしがれている。それほど大変な手術だったのだろう。私は引いているウルガーの手をぎゅっと、握りしめた。
あとがき
今日は忙しい日でした。やっと落ち着いて更新を……、とファイルを見れば25が二つ。混乱してどれが先か後か見て、番号が一つずれることにショック。最初は手作業で変えていましたが、92までやってられない。一括返還ソフト探してなんとか終わって、やっと更新です。あとは緑しますのでお待ちください。明日エアコンがくるんで、部屋中布で隠す。昨日来たPCが指紋認証があり便利です。これで更新作業もしてます。小説は媒体の中ですからね。でもいろんなところの媒体を変えないと。バックアップするメインも出してこないとずれたまま。疲れた。で、セキュリティとか入れてたりします。フラワーラックを作業のためによけたら広くなりました。ここに水槽を……なんて考えてしまう。少なくともウォウォラェちゃんは入れる。今卵からふかして成長した子が三匹生き残っているのであと少し入れて繁殖をめざそうかと。さて、ポテチ食べてお風呂だ。その後緑の魔法恋の奇跡です。ここまで読んでくださってありがとうございました。
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