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【過去連作】恋愛ファンタジー小説:星降る国物語4 第三話 急変

 週に一度の逢瀬は当然のごとく次もやってきた。今度はアンテもいた。本当に剣を持ってる。
「約束通り持って来たぞ」
大きな剣を振り振り振って見せる。
「兄上。ありがとー」
ジェトが軽い乗りで剣を受け取ろうとする。
「おっと。まだ私と一戦交えてないぞ」
ええー、とジェトから声が上がる。
「まずは私から一本とってみろ」
ぽいっとジェトの剣を放り投げる。ジェトは受け取ると剣を抜いた。
まっすぐアンテに向かっていく。
カン!
剣戟の音が鋭く鳴る。
力任せのジェトと受け流すアンテ。アンテのほうに余裕がありありと見れた。
「勢いのいい末弟だ。将来有望だな」
そう言って簡単に押し返す。何度も向かっていくが押されてしまう。
「くそー。こんなことで時間とってる暇はねー!」
ガン。
思いっきりジェトはアンテの剣を押し切った。アンテの剣が飛んでいく。
「ここまでだな。ほら。約束通りシェリティの剣をやる。好きなだけやってこい」
アンテは涼しい顔で言うがジェトは悔しそうな表情をしていた。
「いつか本気で勝ってやる。偽りの勝利なんていらない! 来い。シェリティ」
剣とシェリティの手を握って部屋を出ていく。
「どこ行くのかしら?」
ミズキが独り言のように言うとアンテは安心させるように言う。
「手加減を加えたのが気に入らないようだ。それがわかるならそこそこだな。どこかの人気のない宮の庭で対戦するんだろう。今は人馬宮しか人はおらんからな」
そう言って娘のエムシェレを抱き上げてあやし始めた。

「シェリティ。兄上みたいに手加減するなよ。俺も本気で向かう」
「わかった」
シェリティはうなずく。互いに剣を構える。同時に踏み出した。
カンと甲高い音がひびく。剣と剣がかち合う音だけが聞こえる。庭は相変わらずきれいだが愛でている余裕はない。二人とも容赦ない戦いを繰り広げる。何刻同じことをしていただろうか。アンテの鋭い声がかかるまで二人は汗をぬぐうこともなく剣を交えていた。
「兄上! 次は絶対負けないからな」
怒り心頭でくってかかるジェトの肩にシェリティが手を置く。
「またここで稽古すればいい。付き合うから」
「ありがとう。シェリティ。お前だけは本当の・・・」
本当のと言いかけてジェトはとまどった。本当のライバル? 友? それとも?
照れ隠しに、にかっと笑うとジェトは一人で星の宮をずかずか歩いて去って行った。
「本当の・・・何だったの?」
シェリティの独り言は誰の耳にも入ってなかった。一人だけ思っている言葉だった。
次の週もそのまた週も二人は戦っていた。まるで言葉を交わすように。しかしいつまでもアンテが見ているわけにはいかない。いいかげん剣から離れろと言われてそのあとからは
お見合いのような庭の散歩に切り替わった。そうなると困るのがシェリティである。言葉の選び方に惑いがあった。男の子のように話してしまったり逆に女女したような口調になったり。ミズキやシュリンのように普通に出ればと悔しい思いをするのをジェトはただ優しく見守っていた。どんな言葉使いをしようともジェトは変わらなかった。
「おかしいと思わないのか? ころころ言葉が変わって」
いや、とジェトは首を振る。
「どんなシェリティもシェリティだから気にしない」
臆面なく言われては照れもできない。
「女の子のシェリティもかわいいしな」
「ジェト・・・」
てらいのない言葉に赤面するシェリティである。
「髪、少し伸びたか?」
そっと髪の毛にふれてジェトが尋ねる。
「と思う。いつかはミズキやシュリンみたいになったらいいかなと思って」
もじもじしながら答えるシェリティの頭をジェトはぐりぐりなでる。
「きっと似合うよ。武術を扱う人間が髪の毛伸ばしてはいけないなんて法律ないしな。邪魔だったらまとめておけばいいんだから」
「ジェト。髪の毛がはねる」
撫でる手から逃れて文句を言う。
「伸ばしかけであちこち飛び跳ねるんだからな」
「そうだな。一個要望だしていいか?」
珍しくシェリティにねだる。
「伸びたらミズキ様みたいに結わえてくれないか? きっとかわいい」
「いいけど。ジェトはかわいいしかいわないな。最近」
「だってほんとだろ。かわいい姿を見るのは好きだ」
「色ボケ」
ぼそっとシェリティがつぶやく。なにかとジェトはかわいいを連発する。本人は意識してないが。最近ジェトはシェリティを猫かわいがりするようになった。やたらとほめる。頭をぐりぐりなでる。髪もだいぶ伸びてきている。少女らしい姿にも生活にも慣れてきた。武骨な部分が少しずつ滑らかになってきた。最後の壁は言葉なのだが。
「ジェトは私のことをどう思っている?」
あえて直球を投げてみる。
「可愛い女の子。ライバル。友達」
そこで不意にジェトの顔が真っ赤になった。
「ジェト?」
「それから婚約者!!」
大声で叫ぶと異変に気付いたミズキたちの間を通り抜けてあっという間に帰ってしまった。
「シェリティ? 何かあったの?」
心配げなシュリンにいいえと答えるとうわの空のシェリティも星の宮をあとにした。
婚約者。それは星降りを起こしたのだから恋人とみなされてもしかたがない。自分の父親も傷物にされたと言っている。
星降りは幸せな恋人の間で起こる伝説の出来事なのだ。アンテが起こして以来ここ数年星降りが多発している。どうも市民の中にはいないようだが王家の中で頻発しているらしい。はじめはアンテとミズキだった。それからシュリンとユリアス。そしてカエムとアフェラ。あと妹君のネフェルが起こしたらしい。これは公になっていないらしいが。自分もその中に入っているかと思うと信じられなかった。恋人と思うとやや信じられないのだがしっくりくるのも事実だった。どこかの馬の骨よりジェトのほうがもっともふさわしいと思えた。
王家と考えると畏れ多いがジェトはずっと一緒に武術を学んできた仲間。ともにいるのは悪くなかった。それに自分の中で何かが芽生え始めているのも事実だった。ジェトのことを乙女の宮で考えているとときどきしてどうしたらいいのかわからないほどどきどきする。
ミズキに相談したほうがいいのか? 何夜も迷った末昼間に星の宮にいくことにした。
入り口で身分を伝えるとあわただしくシュリンがやってきた。
「どうしたの? 今日は逢瀬の日じゃないわよ」
「実はミズキ様とシュリンに聞きたいことがあって」
ほほを染めながら言うシェリティにシュリンはすぐに思い当たったが口には出さずミズキのもとへ案内した。
ミズキはちょうど寝静まったエムシェレにやれやれと休んでした。
「すみません。邪魔ならすぐに戻ります」
疲れているミズキを見てシェリティが言う。
いいのよ、と手で振ってミズキは答える。
「で。どうしたの?」
優しいミズキにシェリティは悩ましげな表情で質問した。
「乙女の宮でジェトのことを考えるとすごくどきどきするのです。何かが起こってるとはわかりますが。なぜどきどきするのでしょう? 」
「あら。どきどきするようになったのね。それはまだ小さな芽。正体を知るより大事に育てる気持ちでいるといいわ。いつかわかる時が来るから」
「いつかっていつですか?」
「いつかはいつかよ。誰かに教えられて知るものではないの。私だって知らなかったのよ。そのドキドキの正体を」
「ミズキ様も経験なさってるのですか?!」
反射的に驚いてミズキを見る。
「そうよ。あなたたちみたいにゆっくりではなかったし、もう後悔もしたし。アンテと離れて初めてわかったのよ」
そしてここに戻ってきた。ミズキは心の中でそっとつぶやく。
「あなたも離れてみてジェトの大事さをかんじているのではないかしら?」
「そうかもしれません。ありがとございました。すっきりした気がします。このどきどきをゆっくり育てていきます」
一礼するとシェリティは星の宮を後にした。
シェリティがぼーっと乙女の宮で心のときめきを感じていたころジェトはもどかしい思いでいっぱいだった。
いつまでたっても子ども扱い。末弟扱い。アンテに本当にかなわない。武術訓練場にいる兄を見たことはないが自分と同じころいたのだろう。そして強くなっていたのだろう。それを追い越せない。年が追い越せないのと同じで力も追い越せない。政治の手腕にしても同じ。本当に同じ親から生まれたのかと思う。少なくとも片親は一緒だ。なのにこの差。悔しかった。
そこへシェリティの件だ。シェリティを大事にしたかった。誰にも渡したくなかった。
アンテがミズキに思うもののような気持ちかどうかはわからなかったが、星降りまで起こした相手をみすみす渡したくはない。まだジェトにも芽生えたばかりなのだ。これは。恋なのかもしれない。愛とは言えないが。

部屋で悔しい思いを振り切るように竹刀で腕をふるっていたジェトの扉を激しく叩く音がした。
「ジェト様!! ウルが国境を越えてきました。召集です。剣を持って戦の準備を」
ユリアスが入ってきて開口一番言った。信じられないことが起きていた。
「ウルが?! しばらくは安泰と兄上は言っていたのに」
「時間がありません。王もご出立なさいます。初陣ですがよく兄君の言葉を聞いて出陣を」
「わかった。武具をそろえてくれ。俺がいくとはシェリティには言わないでくれよ。一緒に行くとわがまま言いだすから」
「わかっております。ただ訓練場で知られた場合はわかりません。すくなくともエムシェレ様の摂政をミズキ様がなさいます。シェリティ君が出陣することはあり得ません」
きっぱりユリアスが言うのを聞いてジェトも納得する。
「わかった。すぐに行く」
武具を付けて剣を携える。馬に乗り城門へと急ぐ。
ミズキと別れを済ませてきたアンテが最前線にいた。
「今から国境警備の補強を行う。ウルからこの星降る国を守れ!」
時の声があがりアンテ達は城を久方ぶりに出た。
これがジェトの姿を目撃された最後の時だった。


あとがき
見出し画像が変なフォルダに入ってました。混乱してます。あとで収納しなおさないと。番号うちもして。HDDにもSDDにも入ってなかったので。というかフォルダが独立していているところに入っていた。あれはどこの領域だろう。ジェトもシェリティも幼いなりに恋してます。ま。年齢はそこそこ行ってますが。さて、ジェトはどこから帰ってくるのか? ハッピーエンドで終わらせるのが好きな書き手としては当然そうなりますが、シェリティの苦悩は続きます。がんば。シェリティ。

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