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【長編連載小説】恋愛ファンタジー小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました(86)

前話

 あれから、数日後。朝ご飯を食べ終わって少し二人きりで休憩しているとウルガーは唐突に言った。
「今日は執務はいいよ。衛生法や古物商の資格の法律的なところだからゼルマはクッキーでも焼いていて。お昼からアルポおじいさんのところへ行こう」
「いいの? それじゃ、フローラお姉さまが出仕したら台所を借りて大量のクッキーを焼いてるわ。ウルガーには特別ハート型にしてね」
 途端、ウルガーの頭にお花が咲き乱れた。この後の執務大丈夫かしら。
「大丈夫だよ。俺のゼルマ。仕事とお花は分けてるから」
「流石は王太子ね。年季の入りが違うわ」
「当たり前だろう。はい。行ってきますのちゅー」
 ウルガーは頬にちゅーするとご機嫌で出ていった。私も心が浮き立つ。しばらくすると、華の宮に作られた託児所に娘たちを預けたフローラお姉さまが出仕した。姉を女官扱いするのはいささか気が引けるのだけど、もとから女官として来ていて、次にお姉さまのお父様に養子にしていただいたからこのちぐはぐな関係は今でも続いていた。
「お姉さま。クッキーを大量に作りたいの。手伝ってくださる?」
「大量に?」
「そう。アルポおじいさんの店に集まる子供たちの分なの。ハンカチをこの間もらって、お菓子をお礼に持っていくって約束したの。ウルガー用にハート型のクッキーも作るってさっき約束してしまって。お昼から持っていくわ」
「それじゃ、人海戦術ね。エーヴィーたちも招集しましょう」
「いいの?」
「みんなで作るほうが楽しいに決まってるわ。そうしましょ」
 こうして、王室奥様方が勢ぞろいした。爆弾娘、もとい、奥様のニーナお姉さまには少々怖かったけれど、小麦粉をぶちまけるようなこともなクッキーつくりは順調に進んだ。 おいしいそうなにおいを嗅ぎつけてタピオがさっそくやってくる。
「あら。クルヴァは?」
「スティーナがクルヴァの抱っこをやめるとご機嫌斜めになるんだ。だからクルヴァの分も頂戴」
「ちゃっかりしてること。トビアスやアイラたちにもわけるのよ」
 袋に詰めたクッキーを一袋渡すとタピオはあっという間に消えた。
「流石はウルガーの弟ね。逃げ足の速いこと」
 私が言うと皆、こっそり笑う。
「その逃げ足お早いウルガー様にべったり惚れているのはだぁれ?」
 ハート型に作ったクッキーの袋をもってフローラお姉さまが言う。
「頭にお花の咲いた私よ。誰に何と言われようと、ウルガーだけだもの。私の結婚相手は」
「流石はゼルマね。冗談交じりで返すなんて」
 エーヴィーお姉さまが言う。
「実際に自分でも信じられない時があるもの。あのちゅー魔に惚れてるなんて」
「ちゅーねぇ。ダーウィットは言わないわ。誰の真似をしてるのかしら」
 ウルガーのちゅー論に花が咲く。
「奥様方。そろそろ厨房を返してください。昼食が作れません」
 料理長の嘆きによってクッキーつくりの会は散会したのだった。

 さっき昼食で顔を合わせたのに、城門で待ち合わせて行くことになった。執務が終わりきらなかったとウルガーが謝っていた。私はそんなことで謝る必要はないと言って時間を決めて城門へ行った。すると、すでにウルガーが立っていた。
「ごめんなさい。待たせたわね」
「ゼルマを待つなんて大したことじゃない。じゃ、行こうか」
 差し出された手を握って二人仲良く城下に降りていく。なんだかウルガーの様子が違う。不思議に思いつつも私はにこやかに言う。
「待ち合わせて行くなんてデートみたいね」
「そうだね」
 心なしかウルガーの言葉が少ない。
「待たせすぎたの?」
 え、とウルガーがびっくりして私を見ていた。
「だって。言葉少ないから怒ってるかと」
 そういうとウルガーの頭にまたお花が咲き乱れた。
「俺も、デートみたいな気がしてどきどきしてるんだ。こんな風に待ち合わせてどこかに行くことなんてなかったから」
「これからもデートいっぱいしましょ。デートの思い出もないまま結婚はしたくないわ」
「なんとなくわかる。それ」
 ウルガーがにこっと笑う。こんな初々しいウルガー初めて。
「これからアルポおじいさんのところへ行くときはデートにしよう」
「うれしい。またこんな体験ができるのね。あ、帰りにまた八百屋さんに寄っていいかしら?」
「もちろん。城下町に出た時の楽しみだからね」
「子供たちよろこんでくれるかしら?」
 クッキーの袋を見て私は言う。中には割れたものもある。もったいないから全部持ってきた。
「間違いなく取り合いになるよ。さぁ、行こう」
 こうして今更なデートで下町の本屋さんへ行く私たちだった。


あとがき
今更何でございます。恋愛は。順序逆ですが、常に事件と隣り合わせだった二人には何もない時期は今だけ。この後にも何回かいろいろと。ロイヤルウェディングはやりますがその後にレテ姫が。物語師の話が。その後のエピソードも。一応大往生するんで。中年期は見たくないので書きませんが。そのラストに種明かし。ということなんです。澄川は訂正を求めているのでさっきからなっているスマホを見てきます。なにやらバイブが鳴るので。
それではここまで読んでくださってありがとうございました。

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橘優月/切り替え完了/
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