【連作小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(80)
前話
「じゃぁ、お母様。キアラをよろしくお願いします」
キアラを抱っこしてお母様の手に渡すと不思議な目でキアラは私たちを見ていた。まるでおじい様の先を見通す不思議なまなざしのように。クルトが専用のベッドを渡す。それの可愛さに思わずお母様は目を細めて見られた。帰ろうとする私たちにお母様は私だけついてくるように言う。黙ってついていくと婚礼の夜に着る真っ白な夜着を渡される。
「今日、なのでしょう?」
「はい。今日、です」
普通の花嫁とは違う境遇の私をお母様はそっと抱きしめる。
「かわいそうなエミーリエ。なにも東のために身を犠牲にする必要はないのに……」
「いずれ、来る日でした」
静かに私が言うとお母様はただうなずかれた。クルトの気配がする。さっと私はお母様達の宮殿から出てクルトのもとへ戻った。
なんだかぎこちない。夕食もなんの味だったかわからなかった。残っていた執務をしにクルトが食事の場を出ると、私は寝室へ戻り渡された夜着を着てただ、待っていた。
「それ……。婚礼の時の……」
「お母様はわかってらっしゃるの。だから……」
「そう……」
クルトは私が座っているベッドの反対側のベッドの端に座る。なんとなく目を合わせにくい。ふと、クルトが言う。
「ごめんね。あんな発言してエミーリエに無理を強いている」
「無理じゃないわ。いずれ来る日だし、東がそうとう危険ってわかると怖いもの。クルトにくっついて離れないようにしないとって思ってるのよ」
「トイレは一緒に行けないからね」
「もう。クルトってば。ちゅーよりデリカシーなしよ」
私はけらけら笑う。すっと体のこわばりが解けた気がした。視線が合う。
「大丈夫。俺も初めて。二人で手探りの婚礼の夜だよ」
「まぁ。ひどい。こういう時って男性がリードするんじゃないの? 経験あるはずだし」
「どこからその思い込みが……」
「あなたの好きな恋愛小説よ」
「そんな過激なものまで読んでるの?」
「あら。大人向けの恋愛小説にはつきものよ」
「うわー。耳年増」
「馬鹿にしたわねー。これも社会勉強よー」
クルトに体を近づけるとすいっと抱き寄せられた。クルトの香水の香りが鼻をくすぐる。
「いい夜にしようね」
「ええ」
クルトが頬に手を添える。私はクルトの優しいちゅーを受けて魔法のような夜は始まったのだった。
*
夜があける。ふっと目を覚ますとクルトの腕の中にいた。暖かい。人のぬくもりにほっとする。初めてだらけの初夜は成功したのかしてないのかさっぱりわからない。ただ、処女ではなくなった。これで東の魂胆には乗らない準備にはなった。万が一乱暴されてもわかれば妻にはできない。
「大丈夫。愛しいエミーリエ。そんなことはさせないから」
「クルト。おはよう。まだ夜明け前よ。執務で疲れているんじゃ」
「そんなことこれから言ってられないよ。エミーリエを腕の中に抱きしめて寝るんだから。必然的にこうなる」
そういってクルトは私の脇腹をこちょこちょしだした。くすぐったくて笑いがこみあげる。
「ちょっとクルト。なにするの! こっちがいいんじゃないの?」
悶えながらもクルトの唇に熱いキスを落とす。クルトも応えてくれる。
「夜に逆戻りさせるつもり?」
クルトの目がいたずらっぽくきらめく。
「それは料理長が可愛そうだからやめとく」
「なーんだ」
がっかりした声を出してクルトがゴロンと仰向けになる。その胸板にくっつく。
「だから。エミーリエ! それがだめなの! もう」
「朝食までは時間はあるわよ。一刻ほど」
「このじゃじゃ馬め!」
ふざけあいながら私たちはまた夜に逆戻りしたのだった。
あとがき
はい。一線越えました。さりげなく。そっと。はい。具体的なことは全く書かずに。ここで、人気漫画ならばそのシーンもあるでしょうが、露骨なのは嫌いなのでしません。まぁ、ここがこの程度なので東に行ったときのあの話もあの程度ということです。詳しいことはネタバレになるので書きません。で、今日で年末年始仕様画像は終わります。またもとに明日から戻ります。何かの折に帰るかもしれませんが、また同じ野に戻ります。って、眠い。ミスタッチが多い。寝るべきか? 漢検か? と。ここ更新してさっさと漢検に隣の部屋に行けば自然と目が覚める。隣の部屋にはエアコンが壊れたまま。父が分解したまま。VARSA4充電して漢検してこようっと。
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