【連載小説】恋愛ファンタジー小説:正直な王子と正直じゃない姫君(5)急直下! 縁談の元相手出現!
前話
湯浴みが用意されてあたしはバラの浮かんだ風呂に入る。今日一日の事が頭に浮かんでは消える。
「これうっぱらって、一般人として生きていこうかしら?」
「それはいかがなものかな? 姫君」
急にキザな声が聞こえてきた。たしか、コイツはエルンストより人気のない兄達の一人だったわね。と。湯浴みの途中だったことを思い出し、桶に湯を入れるとぶっかける。
「人の入浴見てるんじゃないわよ! とっととお帰りなさい!」
「さすがは姫君お強い。まぁ、今日は挨拶代わりといことで。いつでもあのへたれ弟に愛想が尽きたら私が可愛がってあげるよ」
キザに言うなんちゃら王子にあたしは声を上げる。
「エルンスト以外の男なんて目に入ってないわよ! さっさと出て行って!」
ほう、となんちゃら王子は言う。だが、あたしの桶がとんで行って頭にもろにぶち当たる。
「何をする!」
「その言葉そっくりお返しするわ。レディの湯浴みを見るなんてさいってーね」
ちぃ、となんちゃら王子は部屋から消えていく。入れ替わりに多くの女官がどっと入ってくる。エミリーが真っ先に謝る。
「失礼いたしました。エリアーナ様がお呼びと聞いていたのでまさか・・・」
「あたしが呼んだ? 呼んだ覚えはないわよ」
「あのおこちゃま王子はいつもああなんですのよ。お気をつけ遊ばせ」
偉そうな口調に引っかかったあたしは声のする方を見た。
本物の姫君だー!
あたしの手からもう一つの湯涌が落ちた。
「あたくし。アリアンヌと言いますの。よろしく。エリアーナ様」
にこやかに挨拶をしてるけど、目が笑っていない。
「あたくしとの縁談を断ってまでご所望された姫君、さすがと言いざるを得ませんわ」
縁談ー?
「ちょっと、エルンストの恋人ってあなただったの?」
女官達の間で噂に上がっていた恋人ってこいつなんだ。ふーん、と上から下まで見てしまう。非の打ち所のない姫君の姿だわ。
「別にエルンストなら熨斗(のし)つけてあげるわよ。あんなへたれ王子、こっちから願い下げだわ。で、湯浴みの途中を邪魔してまで来るなんてなんの用?」
「用ならすみましたわ。一番欲しいお言葉を頂きましたもの。エリアーナ様とエルンスト様の縁談は今から破談、ですから」
こいつ、その言葉を引き出しにだけ湯浴みの時間を襲ったのね。女官達がざわざわしている。
「姫、何か騒がしいけど?」
そこへお約束通りに、エルンストがやってくる。あたしは風呂桶に湯を入れてかける用意する。だけど、すっとアリアンヌが出て行く。
「エルンスト様~」
妙に甘い声をアリアンヌが出す。
気持ち悪っ!
あたしは背中がぞぞっとする。あの姫はいつもああなのか?
「やぁ。アリアンヌ。君も来ていたのかい。兄上と結婚するんだって?」
「まぁ。ご冗談を。エリアーナ様からエルンスト様を譲り受けましたわ。あたくしはエルンスト様だけのも・の」
頼むからその甘ったるい恋愛劇場は外でやって。その側からエルンストの謝る声が聞こえる。
「ごめん。俺の奥さんはエリアーナだけなんだ。申し訳悪いけど君との間はもう終わったんだ。元々、親の押しつけた相手と結婚する気はさらさないからね」
少し厳しめの声が聞こえる。あたしは思わず声を上げていた。
「妾はごめんよ! その姫とどことなりと行ったら?」
「そういうわけにはいかないんだよ。奥さん」
まだ奥さんじゃない!
そう言おうとしていた所からエルンストがずかずか入ってくる。
「ちょっと!」
バラに埋もれてあたしの素っ裸は見えない。エルンストはすぐにあたしの手を取ると甲にキスをする。そしてやおら言う。
「隣国との境界線で小競り合いが起きている。俺も招集された。しばらく、この城を留守にするけど。出て行かないで。一般人なんてならないで。城を出て行くときは俺も一緒に。戦から帰ったら正式にプロポーズするから返事を考えておいて」
そう言って妙に切なげな瞳をしたかと思うとあたしの頬に軽くキスをして出て行く。その後をアリアンヌが追いかけていく。声は相変わらず甘ったるい。
「戦・・・。また。この国でもあるのね」
あたしの国も戦ばかりだった。領土を拡大したかったお父様は魔力も使っていろんな領土を得ていた。
「エルンスト」
言い様のしれない気持ちであたしはエルンストの名前をぽつり、と呼んだ。