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【改稿連載小説】恋愛ファンタジー小説:正直王子と正直じゃない姫君の物語 第一話 正直王子

前話

一見、情けなそうな人物がエリアーナの基準に達することはまずないだろうと皆、一様に思った。
 青年はエルンストという。正直者という意味だ。その名前が表すとおりまったく裏表のない人間のようだ。あっけらかんとしたところが彼の特徴であった。また、天才と馬鹿は紙一重という。正直者も愚か者と紙一重であろう。
「ま、はいっちゃえー」
 さらに軽いのりでエルンストは歩を進めた。そこには最初の罠がある。三つの古びた扉。正解は一つだけ。あとはお化け屋敷直行である。
「うーん。これにしよ」
 エルンストは迷わず真ん中を開けた。普通は裏を読んで真ん中はあけない。迷いのない判断は考え尽くされたのかただ単純に選ばれたのかわからない。
 そして入るとまたホラーバージョンの精霊が脅しにかかる。この辺で結構男は脱落する。力にものを言わせる英雄型は精神攻撃には弱い。さらに魔法使いはわけわからない魔法で姫君を起こすのは面倒なので来ない。
 そしてこのエルンストは今までにない行動をとった。
「俺、エルンスト。仲良くしてね」
 エルンストはそう言って手を出し出す。担当精霊がおまえは男だろーとその乙女チックな言葉につっこみたかったが、もしかしてという期待を持って何も言わない。そしてずっと出している手を見ていると握手しなくてはいけないという気にさせてくる。敵意を好意に変える能力とでもいおうか。エルンストは不思議な男だった。握手をする。
「あ、俺方向音痴だから姫の場所おしえて♪」
 方向音痴で来るなーっ。その模様を連携能力でつながっている精霊たちは声なき声でつっこむ。眠っていたエリアーナも思わず起きあがってしまったぐらいだ。
「え? 誰か何か言った?」
 なんとも言えない、すっとけぶりにまたもや、がっくりくる精霊たち。もう相手にするのもいやだと思った担当者は、見取り図のようなものを渡した。罠をすべて制覇したときにもらえる地図だ。精霊製であるだけに現在位置と姫君のあるところがわかる。どういう仕組みかはわからないが、ぴこぴこ点滅している。
エルンストはふむふむと地図を見ていたが、急に歩き出す。
 そして担当者はエルンストの首根っこを捕まえて動きを止めさせた。開いた片手で反対方向を教える。エルンストはまさに反対側に行こうとしていた。
 あまりの方向音痴によくここまで来たものだ、と誰もが思う。
「ありがと」
 にぱっと歯を見せて人なつっこい笑顔を見せた。その笑顔は女性性質の精霊がころっと転ばせた。子供っぽくひとなつっこい笑顔はどこでも母性をくすぐるようだ。
 出会う精霊をほとんど笑顔とひとなつっこさでクリアしてきたエルンストは最後の扉の前に来た。が、扉を開けたとたん深い落とし穴に首切り機、蜃気楼の罠が待っている。それらをエルンストは軽々と攻略した。
 大物かもしれない・・・。すべての精霊たちはしみじみと思ったものだ。
「お? かわいい女の子みーっっけ。どうしたら起きてくれるのかなー」
 エルンストは軽く独り言をつぶやく。
「やっぱここは最後まで・・・」
 ぼかっ。
「なんでそこまでしなきゃならないのっ! キスでしょうが。キス!」
「あら。もうお目覚め? せっかく楽しみにここまで来たのにね」
 どうしてなの、とエリアーナは心中で叫ぶ。
「いい男は脱落で、あんたみたいなしょぼい男が攻略できるなんてどうなっているのよっ。仕事なまけたんじゃないの⁈」
 エリアーナはそこらに浮いている精霊たちにつっこむ。申し訳なさそうに年長精霊が言う。
「こういうわけなんであたしたちはもう使役から解放されたのよ。あとはエリアーナと彼とで話を付けて」
 そういって精霊たちはふわーっと消えていった。
「うそっ。ちょっと一人にしないよーっ」
 姫君? とエルンストが尋ねる。
「俺と一緒のほかに誰がいるのかい?」
「いたわよ。いい男を全部追い返してあんたみたいな頭に花が咲いているような男を攻略させるような精霊たちがね。あんたのおかげで皆、お役ご免で帰っていったわよ。一人でどうすればいいのよー!」
 半泣きになりそうになりながらエリアーナは言う。
「俺がいるから安心なさい」
 エルンストが言って胸をたたく。が、その端からむせる。
「軽いやつなんか相手にできますか。あたしはもう寝るわ!」
 またエリアーナはベッドに横になりに向かう。ふっと振り返る。
「あんた、私を取りに来たんじゃないの?」
 いっこうに引き留める気配もないエルンストに不思議そうに尋ねる。
「いや、俺は修行してこいって言われただけだから」
 エリアーナの頭の上から湯気のようなものがでてきそうな雰囲気にエルンストもさすがに申し訳なさそうな表情をする。
「修行ぐらいでくるなー! あたしの人生を返せー! 二千年眠っていたあたしはどうなるのよっ」
「二千年? それはご苦労様。この際、俺と結婚しない?」
 何やら女の子を引っかけるような口調にエリアーナはエルンストをまたなぐりたくなる。
「うちの国、女の子の数が少ないんだよ。だからつりあう女性もかなりいないし、おばさんばっかりでさー。そのうちの誰かと結婚するぐらいなら姫君の方が断然いい。って俺名前とか言った? 俺はエルンスト。姫君は?」
 にこにこと笑いながらエルンストは言う。エリアーナはこめかみをおさえながらめまいにたえる。
「エリアーナよ。少しは勉強してきてもらいたいわね」
「ごめん。悪かったね。でも一人は寂しい。よかったら一緒に来ない? すくなくとも人並みの人生歩けるよ。俺がいやだったらほかの男に乗り換えてもいいしさ。男だけはあふれてるからね」
 どこか寂しげな声にエリアーナはふっとエルンストを見る。彼に何があるのか。あれだけあっけらかんとしているのに。エルンストの本当の心が見えた気がしてエリアーナはじっとエルンストを見つめてしまった。エリアーナはふぅとため息をつける。
「試用期間を設けもいいっていうならいいわよ。だけどだめだったらほかの男にのりかるかここに戻ってくるわよ」
「じゃ、早速行こう」
 エルンストが手を握ろうとするのをエリアーナはさける。
「試用期間っていたでしょ。あたしにふれないで落とすのね」
 ふふっと意地悪な微笑みをエリアーナが浮かべる。さしずめ小悪魔の微笑みと言うところか。
「行くわよ」
  エリアーナはさっさと歩き始める。この屋敷の罠などもうない。契約が終了した途端、ただの屋敷に変わった。古ぼけた屋敷に。

 バイバイ。あたしの二千年間。

 エリアーナはエルンストを放り出して屋敷の外に出たのだった。


あとがき
ここだけ三人称です。あとはエリアーナの一人称のままです。ちょっと、ここはいろいろな視点が必要だったのでこうなりました。エルンストってドイツ語で正直と本当に言うんです。それを知った時の衝撃。ある乙女げーに出ているキャラの名前なんです。なので、その方面の方目をつむってください。限りなく別人物です。訳あり101話書いてましたが、閃かないので更新に、きました。緑と交互ですかね。訳あり、このあと、更新作業です。呼んでいる人はいるのか? と思うのですが、一応続けることに。今日で90日目らしいです。毎日更新。めでたい。101日目まであともう少し。がんばろう。でも背中が痛い。なぜか筋肉が痛い。姿勢が悪かったのでしょうか。ネイルに行って同じ姿勢を一時間続けたので余計かも。このイメチェンばかりでどうするの? と母に言われています。アプリで近所のサロンとか知れて便利なんですよね。アプリがなかったらしてなかった。さて、訳ありしてきます。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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