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【共同マガジン・連載・民俗学お遊び系恋愛小説】神様ご光臨! 第八話 運命の大会

前話

「先生~」

 ひょろひょろと関口が手を上げた。今は表の部活動、文芸部である。

「今年の文化祭はどうするんですか~?」

「そうだな。三島由紀夫でもしたまえ」

 そこへしっかりとした松島の声の突込みが入った。

「三島は今、センシティブすぎます。今取り上げるのはいかがかと・・・」

 そうか、と安易に子松は納得する。

「では無難なところで、夏目漱石あたりでもしたまえ。では散会」

 げーっとしのぶ子はゆいるにぼやく。

「知ってた? 吾輩は猫であるのネコ、最後は自殺するんだよ。酔っ払ってさ~。あんなの研究発表するのやー」

「しのぶ「子」君、何か言ったかね?」

「いえ、何も」

 あっさりとしのぶ子はにっこり笑って答える。この二人が想いあっているのを知っているのはゆいるだけである。夏の殺生石ツアーで想いを確かめ合った二人だが、いつものじゃれあいはなくならなかった。というよりも増えたといった調子である。部員たちは散会を合図に俗称、依童室へと向う。

「あのう。文化祭の準備しなくいいんですか?」

 ゆいるが松島に尋ねる。そこへ田中のおねぇ言葉が入る。

「ゆいるちゃん。イチに依童、ニに依童、サンシがなくてゴに依童よ」

 うっふん、とまた気味の悪い語尾をつけて言う。

「はぁ・・・」

 納得がいかないゆいるに丈が、助け舟を出す。

「大丈夫。当日は部長がしっかりフォローしてくれるよ」

「でも・・・」

 いくらなんでも一人でするには大変だ。

「それにね。先輩方にはこの文化祭の後にある依童大会が大切なんだよ」

「大会?」

「そう。毎年秋になると依童をする全国の高校からこの町に依童をしに集まるんだよ」

「そっか」

 うわさには聞いているが御伽高校は優勝候補だ。それに恥じるまねはできない。もっとも自分はタマをじゃらすことしかないが。

「それに今年は禁断の外典が開かれた年だからねぇ」

 田中が言う。

「先輩。僕を食べてもいいですが、ゆいるちゃんだけはだめですからね!」

 丈の力強い言葉にゆいるは真っ赤になりながら頼もしく想う。

 まぁ、と田中は口を押さえる。

「美しい初恋愛ね。あたし感動しちゃったわ」

 そう言って田中ちゃめっけたっぷりにいうと依童室へと階段を下りていった。

「もう先輩ったら」

 ゆいるが顔を赤らめて憤慨していると丈がゆいるの手を優しく握る。

「大丈夫だよ。依童じゃうちの部強いから」

 手を握ってくれているのはありがたいが、何か話題がずれている。笑えばいいのか苦笑いすればいいのか。ゆいるは戸惑った。

 

 文化祭当日である。田中や丈が言ったとおり松島がほとんど手配していた。もっとも手伝ったことは手伝ったが研究自体は松島一人でやり遂げられていた。感嘆するしかない。

「松島先輩すごい」

「だろう? あとは依童に専念すればいいだけだよ。僕たちは」

「うん。そだね。あ、私の発表みたい。行ってくるね」

 ゆいるは丈に軽く手を振ると発表壇へと向った。

 でも緊張する・・・。

 ゆいるは転校した高校でまともな部活動にも文化祭にも参加したことはない。緊張が高まる。そっと丈や松島を見ると大丈夫といった視線で見てくれている。ゆいるは安心して用意された原稿を読み始めた。

 

「終わった~。文化祭」

 ゆいるは床にちらばったごみをひろいながらしのぶ子に告げる。

「うんうん。発表もうまくいったことだし。子松のおごりのお好み焼きもおいしかったし。言うことなしね」

「あとは・・・」

「あとは・・・」

 二人は顔を見合わす。

「依童大会」

 声がはもる。その状態に二人はおかしくなってくすくす、笑った。そこへ子松のこぶしがしのぶ子にあたった。

「笑っている場合じゃないぞ。お前たちの未来を左右するんだからな」

「左右って?」

 ぞんざいな口調でしのぶ子がたずねる。

「さぁな。依童師としてこの学校へ戻ってくるか普通の人間として生きてくかそれなりの方向性が出てくるはずだ」

「それぐらいじゃ一生の左右にならないじゃないの?」

「そうだな」

 珍しく子松は憂いた声で返事した。しのぶ子が心配そうに子松を見る。

「子松。熱でもあるんじゃないの?」

「いや、あ。今年もがんばれよ」

 付け足しのように言って子松はひょこひょこと愛嬌のある足取りで去っていった。

「依童大会ってそんなにすごいの?」

 ゆいるは不安になってしのぶ子に問いかける。

「さぁ?」

「さぁ、って」

「あたしは言うほどすごいとは思わない。だけど子松は特に今年に関してはぴりぴりしてるみたい」

 さすがは長年子松を見続けていたしのぶ子である。その辺はしっかりと見ていた。

「何があるんだろう?」

「そうね・・・」

 二人とも考えて込んでいたがすぐにしのぶ子はごみ拾いを再開した。

「考えても意味のないことは考えない~」

「そうね」

 ゆいるも微笑むとごみ拾いに専念し始めた。

 

 それからの数日間の松島たちの依童は凄みをましていた。松島のマングースはいつしか九尾の狐と化しており、田中も関口もそれなりにパワーアップしていた。

「依童って何のためにあるんだろう?」

 そんな松島たちを見ていて、ゆいるはぽつり、と言った。

「そうだね。何のためにあるんだろう?」

 迷いながら丈は肩にヤタガラスを乗せながら同意する。

「何か目的があるはずよね?」

 しのぶ子も中に入ってくる。そこへまた子松がつっこんでくる。

「おらおら。下級生ども。術に専念しないか」

「っていわれても何もできません」

 相変わらずタマをじゃらしながらゆいるが反抗する。

「お? ゆいる君の反撃かい。これはおもしろい。まぁ、指導して何かできるものではないからな。自らの鍛錬でなんとかしてみなさい」

「してみなさいって・・・」

 不満そうにゆいるが言う。

「まぁ。たまにはタマをメタモルフォーゼでもしておきなさい。いざと言うときに役に立つだろう」

「はぁ・・・」

 なす術のない、ゆいるは子松に従うしかなかった。と同時に子松は心配していた。

 

 お前たちの時代にさせたくはなかったのだが・・・。時間が戻るなら自分のときに・・・。

 

子松の苦しい声は、ゆいるたちには届かなかった。

 

 そして依童大会当日である。子松はぴりぴりしていた。あのしのぶ子が近づけないほどである。松島も首をかしげていた。

「あんな先生始めてみたわ」

「そうなんですか?」

 松島にゆいるは尋ねる。

「ええ。いつもはてきとーにやってこいって感じだもの。でも今回は違う。何か気にかかるのね」

「ま、僕らは僕らの力を出したら大丈夫だよ」

 珍しく関口が頼りがいのある言葉を発言する。そうね、と松島はうれしそうに関口に答えた。

 大会は三人一組で行われる。御伽高校は松島、田中、関口の上級者コースを。ゆいる、しのぶ子、丈は初級者コースを行くことになっていた。ゆいるがタマをライオンにメタモルフォーゼできることや無敵のヤタガラスを扱う丈がいるためゆいるたちは順々に勝ち進んで行った。そして決勝戦。

「あららー」

 しのぶ子がのほほんとした声を発した。

「何?」

 ゆいるは早く終わってほしいと思いながらしのぶ子に尋ねる。

「道上高校に当たったわ。やっぱり強いわね」

 以前、疫病神事件でやってきたあの三人組である。

「嫌よね。うらみが入ってそうで」

 そういってしのぶ子は肩をすくめる。

 うん、とゆいるが答える。

「まだネコじゃらしぐらいしかできないのになぁ」

「ってゆいるちゃん。今日は大活躍じゃないか。ライオンになってるし」

「うん。でもタマもそろそろ限界だと思うし・・・」

「そうだね。まだ初めて三ヶ月ぐらいしかたってないんだっけ。すごい上達だよ」

「そうかな?」

 丈にほめられてゆいるはえへっ、と笑う。見てられないわ、としのぶ子はそっぽを向く。

 三人の名前が呼ばれる。

 ゆいる、丈、しのぶ子は試合場にたった。

 佐保子が、ゆいるをにらみつけている。それだけで、ゆいるは心が縮み上がった。そっと丈が手を触れる。優しい感触だった。

 勝ち誇ったような佐保子は真っ先に、ゆいるにしかけてきた。シャムネコが飛んでくる。

「世迷言は聞かへんで!」

 佐保子の声とともにシャムネコの鋭いつめがゆいるを、傷つけようとしていた。そこへしのぶ子がやっきになってむじなを繰り出す。タマの目の前でシャムネコがとどまる。

「あんたには用はあらへん」

「そうですかって引き取るわけには行かないのよっ」

 けーん、と鳴いてむじなが、佐保子に踊りかかる。そこへ荒又の御先使いが防御する。橘は隠し道具のつもりなのかまだ動かない。

「しのぶ子落ち着いて」

 ゆいるは自分の心配を忘れてしのぶ子の好戦的な態度を抑えることに必死になった。すでに依童はしている。小さな本の神様が自分に降りているのがわかる。だが、しのぶ子のようにも丈のようにも動く気配はない。

 しかたがない。とりあえずメタモルフォーゼだ。

「タマ、メタモルフォーゼ!」

 ことん、とタマは三味線に変わる。

「もう。こんなときにかぎってどうしてなるのよーっっ」

 ゆいるの泣き言もタマには通用しない。

「解除!」

 タマは一足飛びにゆいるの元へ帰ってきた。

“ゆいるちゃん、こわかったよぉ”

「ごめん。ごめん」

「そんなことしかできへんのか?!」

 逆上した佐保子から御先使いが飛んでくる。それを丈のヤガタガラスが飛んできて防いだ。

「ゆいるちゃんには指一本触れさせないっ」

 その言葉に感動していたいがそんな暇はない。即、ゆいるは念じなおす。

「タマ・・・。百獣の王になるのよ。メタモルフォーゼ!」

 今度は失敗することなくライオンへとタマは変化した。口をくわっ、とあけて炎がとびでる。シャムネコが炎のに包まれる。だが、すでのところで佐保子はシャムネコを逃していた。

「やるようなやな。しゃーけど、うちはこれぐらいでまけへんで!」

 シャムネコは巨大なネコに早変わりした。猫又とでも言おうか。今度は佐保子の猫又の口から黒い煙が出てくる。

「ゆいる!」

 しのぶ子のむじなが飛んでいく。ぱしっと煙は何か見えないガラスのようなものではじきとばされた。

「ゆいるあれには気をつけなよ。毒ガスだからね」

「うん」

 ゆいるはなぜ、こんなむなしい戦いをしているのかと戦いながら思った。それは突然天啓が下ったように思われた。この世の悪意をなくしたい。勝ちたいだけで相手を陥れるのは嫌だった。もっと優しい心で話し合えたらいいのに。甘すぎる考えなのはわかっている。でも戦いは嫌だ。ゆいるは願った。タマの力で世界を、いや、この場だけでも癒したい。

“そうだね。やっと気づいてくれたね”

「あ」

 ゆいるの頭に響いてきた声に、ゆいるは反応した。

「ゆいるちゃん?」

 丈が気遣わしげに問いかける。

「本の神様が・・・」

「禁断の外典の・・・?」

 しのぶ子が佐保子の毒ガスを防ぎながらたずねる。その顔には脂汗が浮いている。一刻も早く収拾をつけねばならない。

“依童はある悪意を封印するために出来上がったんだよ。ゆいるちゃんのその気持ちが必要だった。今はもう大丈夫だね。さぁ。気持ちを世界にぶつけてごらん”

「私の気持ち・・・」

 ゆいるは反復する。

「なに? なにやってるんや?」

 あせった佐保子が御先使いを送るがしのぶ子がガードしている。

「どうか。どうか。ここから悪意を消して・・・」

 消え入りそうな声でゆいるは願った。そして閉じたまぶたをそっとあける。目の前にいる佐保子たちを見据える。

「タマ・・・。メタモルフォーゼ!」

 タマの小さな体は大きくなり真っ白な翼がついた。その様相も変わっている。

「グリフォン!」

 しのぶ子が驚愕する。佐保子も手をだらりと下げて驚いている。

「幻のグリフォン・・・。禁断の外典にいたのか・・・」

 丈も驚く。

「どうかこの会場から悪意をなくして・・・」

 小さな願いだろうが、それが、ゆいるの願いだった。

 ふわり、と小さな泡のような光が会場全体に舞い降りた。御先使いはその主の下で幸せそうにたたずんでいる。静かな柔らかな時間が生まれた。グリフォンとゆいるの力であった。

「これが外典の力・・・」

 しのぶ子がつぶやく。しのぶ子の手のひらでハムスターが寝転んでいる。

 

 決まってしまったか・・・。

 

 子松は一人会場の中でその光景を見守っていた。外典が開かれたときに決まっていたこととはいえ今このときに決まってほしくはなかった。しのぶ子のいるときに。

せめて自分たちの時代に決着をつけることができればよかったのだが・・・。

 

 だが、まだわからない。このまま平和に暮らせるかもしれない。一縷の望みで子松はゆいると同じく依童師の幸せを願っていた。そしてしのぶ子の幸せも・・・。

 


あとがき
子松がえらいイケメンになってしまった。タマがグリフォンに化けるとこをイラストにしてもらった方がいいのかしら。恋愛からすこしそれてシリアスなお話です。これから民俗から考古学、神話学と変わってくるのですが、民俗学お遊び系恋愛小説と貫き通します(笑)。
古事記カムバーックなんですよね。あと二冊そろえないと。今日は、コリで散財をしたので次です。依童大会の模様をチャットGPTさんで描くには無理なので子松先生にアルマーニを着てもらいました。それにサングラスしないといけないのですが、悩んでる様子がでないので外しました。それでは、今日の創作物の掲載は終わり。あとは日記とかエッセイ。書ければまたきます。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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