【千字掌編】白靴と夏帽子をかぶって……。(土曜日の夜には……。#13)
ホスピタル。
それは非日常が日常な場所。
みんな何らかの痛みを持っている。
あわただしい毎日。
それでも、土曜日は真由の幸せな1日だ。病院につとめている以上、土曜日が必ず休みではない。
それでも休みになった土曜日は真由のリセット日だ。
今日も近所の中洲にある河川公園に来て河を眺めている。土曜日の昼間は観光客や子どもたちの声が耳に入ってくる。それはそれで心地いいが、夜の静けさに包まれせせらぎの音だけの空間が真由の癒やしの時間だった。
そこでしばらく、佇むと、ここを離れ珈琲ショップ紫陽花に寄る。夜間にカフェインをとって寝不足で出勤出来ないと困るため、オレンシジュースを注文する。マスターは真由のことをよく知っているため、快くオレンシジュースを出してくれる。だが、ここは珈琲専門店だ。常連以外は不思議そうに見ている。
「やぁ。真由ちゃん。明日も勤務?」
常連のひとりが声をかけてくる。はい、と真由は頷く。
そんな常連以外の客の一人が真由をじっと見ている。
「何か?」
患者を虜にする笑顔で客に聞く。
「いや、幼なじみのまゆちゃんにてるなー、と思って。途中で引っ越してしまってそれっきりになっちゃったんだけど……」
「えっと……。まさか、りょうちゃん?」
「そうだけと、ホントにまゆちゃん?」
不思議そうに見ていた亮の表情が嬉しそうに変わっていく。
「うわー、占い通りだ。今朝のテレビの占いで珈琲ショップがラッキープレイスだっんだ」
まぁ、と真由も驚きだ。
「なつかしー」
そう言って手をぶんぶん握って上下に振る。
なんとなく面影が見え隠れする。
「積もる話もあるだろうけど真由さんは明日出勤だからね。また非番の土曜日の夜に……」
マスターがそれとなく遮る。真由は感謝の眼差しをマスターに送る。
「土曜日でなくてもいいなら、明後日空いてるわ。ここで思い出話しましょうか」
「いいの?」
亮は遠慮がちに言う。
「河川公園で待ち合わせましょ。私あの公園にいるのが大好きなの」
「わかった。明後日だね。絶対的行くよ。その後はここだね?」
「もちろん」
そこで会話は終わり、亮と別れて帰る。真由は少しドキドキしていた。
あのちっちゃいりょうちゃんがねー。あんな美形になるなんて。
明後日に何を着ていこうか、と真由は楽しく考えながら眠りについた。
当日、真由は白靴をはいて夏帽子を被っていた。亮がやってくる。
「ごめん。遅れた」
「りょうちゃんならやりそうなことよ」
「そんなに俺評価低いの?」
「少しだけ上がってるわよ」
「ホント」
子犬が尻尾振ってるような表情だ。真由は笑いを堪えるので必死だ。
二人の物語が始まる。
白靴に夏帽子。夏の季語は何を運んでくるのか。
幸せの足音が聞こえるような夏のある日の出来事だった。
眠れず、昨夜ポチポチスマホで打っていたものを完成させました。やっぱり季語から離れられない。困った。もう季語シリーズミニバージョンに別収録するか? 季語を使ったものだけのマガジン作った方がよさそう。両方に入るけれど。しかも、今日は火曜日。土曜日の鉄則日ではない。たまたま打っていてできあがっただけ。暇だし、あげちゃおうと今、来てます。表紙画像貼って投稿しておこう。