【新連載・ロマンス・和風ファンタジー小説(オマージュ)】あなただけをみつめている……。 第二部 次代の姫 第六話 步夢の闇
前話
朝食時、步夢と当騎はげっそりしていた。幾分か步夢のほうが食欲があったが。
「そんなにきついの? 夜泣き」
暖が聞く。
「お前らも一度や二度は親になってるんだから覚えてるだろうが」
「さぁ。それがまったく覚えてないんだよね」
離れで寝ている日史は事もなげに言って二人の恨みを買う。
「当騎。夜だけ日史にひめちゃんあずけよっか?」
「いいな。それ」
結託する二人に日史は恐怖を覚える。
「やめてよ。うちはおとなしい一人娘が一番なんだから」
「なんだ。覚えているじゃないか」
「う」
仲間内のやりとりを見て沙夜が笑う。
「母に任せればいいのに」
「って。緋影と一緒の時間を?」
二人は顔を見合わす。その言外の意味に沙夜は動揺する。
「母と緋影の間に何があるというのですかっ」
緋影も真っ赤だ。
「そりゃ。大人の時間という大きな河が流れてるでしょ? こっちは処女受胎なんで」
「步夢! ふざけてばかり居るんじゃありません!!」
沙夜が鬼の形相だ。步夢は甘えたいのも何もかも緋影に遠慮しているのが沙夜には見えないのだろうか。当騎は前世であれほど絆の深い姉妹だったのに、と思う。
「步夢は、母の一番大事な娘ですよ。その娘が苦労しているときに何をするんですか」
「おか……さん?」
当の步夢はその言葉が信じられないらしい。その根拠は次の言葉でわかった。
「步夢は拾い子でしょ。本当の娘は優衣よ」
「あゆっ……む! それをどうして」
沙夜が動揺している。顔色が悪い。本当の事のようだ。
「お母さんが眠っている間に、家系図を復元したの。そしたら、お父さんともお母さんとも血がつながってなかった。吉野筋のただの子供だった。私には……」
「むー!!」
席を立って步夢が裏庭に向かう。当騎の心に響いたのは極度の孤独だった。血もつながっていないのに当主。沙夜が力なく座り込む。
「俺が行っていいんですか? 親子の絆取りこぼしますよ」
「当騎君……」
「当騎でいいですよ。婿養子ですから。でも步夢のことだけは解決してください。俺たちはもう、この世界から行ってしまうつもりですから」
沙夜の顔色がさらに悪くなる。緋影が文句を言おうとするのを沙夜は制する。
「行きます。娘です。誰がなんと言っても步夢は私の娘です! 優衣、少し待ってて」
「母様。姉様を助けて。このままじゃ、死んでしまう」
「優衣も感じたんだな。あのひどい孤独を」
「ええ。あんな深い闇の心があるなんて……。ああ。ひめちゃん。ちーちゃん。ママはかえってきますわ。何もかも犠牲にしてでも」
自分の心が壊れても。
火が付いたようになく姫夏を優衣があやす。千輝はまっすぐ步夢を追う。それをきっかけに沙夜が飛び出ていく。
二人はすぐに戻ってきたが、步夢はぐったりと意識がなかった。
「強烈な闇に步夢が耐えられなかったよう。当騎。寝かせてあげて」
「いいんですか? 親子の会話は」
「したくとも、倒れていたのですから。起きるまでは母が姫夏と千輝とみています。さすがに母にあの二階へ運ぶ力はないの。悪いけれど」
「そーいう事なら進んで手を貸しますよ。お母さん。步夢は今一番幸せなんです。大好きなお母さんが幸せで。そして、俺と育てる子供、妹、仲間。あんなに虚無だった世界が色づき始めたんです。それをどこからか闇の力が流れていたんでしょう。それは俺が封じておきますから。あとで抱きしめてやってください。いつも愛情に飢えていたんです。步夢は。親の愛情に。ずっと。初代から」
「ええ。そうね。そうだったわね。步夢の事は私が一番よく知っているはずなのに。こんなに追い詰めてしまって」
「沙夜。まだそなたは目覚めたばかり。無理をするでない」
「あなたは黙ってて。今、步夢を捕まえないと一生手放すのよ。そんな事望んでいません。あなただってあの子達を娘と迎えることを喜んでたんじゃありませんか。ようやく、と」
「そうか……」
征一がぼそっと言う。
「ならば、二人でそばにいるのがよかろう。手を握ってやってほしい。步夢の闇は光の反映だ。まぶしい光ほど深い闇を持つ。光の巫の宿命だ。これを乗り越えなければ彼の地に行っても無駄だ」
「そう……だな。步夢、疲れたな。いつも突っ走って。ゆっくり寝ろ。ひめも千輝も傍に居るぞ」
「とう……き?」
步夢がうっすら意識を戻した。
「少し寝てろ。ひめもおねんねだからな」
「ミルク……まだ」
「わかった。パパがやってやるからゆっくり寝てろ。今日はお母さんに甘える日だ。新しいお父さんにもな」
「そんな……わけ」
無理して体を起こそうとする步夢を当騎は制する。まだ、闇の力が悪影響を起こしている。姫夏は日史の腕の中でぎゃんぎゃん泣いている。
「ひめちゃん。ママここよ……。ごめんね、いま……から……」
「大丈夫だ。たまには娘をパパに貸せ。さみしいぞ。父親は。ミルクさえやったら連れて行くから」
「当騎。パパありがとう。大好きよ」
また意識が遠のく。
「步夢!」
沙夜がまた真っ青になる。
「大丈夫ですよ。意識を失っただけです。闇の中和は任せてください。お母さんと緋影は先に主寝室へ行っていてください。優衣も行けるか?」
「はい。姉様より大事な事はありませんっ」
優衣は泣いていた。まばゆいほど皆を照らす光を持つ步夢。だけど、その裏には深い闇を持っている。それをうまく天秤にかけてバランスよく保っていた。だが、智也が逝き、沙夜が戻り、緋影がきて、闇の行き場がなくなった。優衣自身にも心当たりがある。
それは、智也の優しい思い出で薄らいでいる。だが、步夢にはそんな思い出がない。あの安らかな時間には間に合わなかった。そして、気を遣ってばかりで。わがままだったのは当騎に逢いに行ったときだけ。
「姉様、いろんなことをしょいこみすぎですわよ」
步夢の額にそっと口づけすると優衣は沙夜と緋影を促して二階の部屋へと上がった。千輝が当騎の周りをうろついている。
「わかった。ぴぎぴぎ言うなって。今から行くから。ちょっと行ってくるわ」
「ああ。こけないようにね」
日史が優しい笑顔で言う。こういうとき一番優しさを持てるのが日史だ。涙を笑みに変える強さを持っている。
「やだなぁ。僕、そんなにやさしくないよ」
「優しいの。步夢の断定だから。これ」
「そうなんだ。いってらっしゃい」
「ああ」
吉野家に根付いているあうんの呼吸で当騎は答えると二階へと上がった。
步夢の闇はいつ溶けるだろうか。できるだけのことはしてやりたい。当騎はしばらく主寝室で闇の中和を行うと家族だらけにしてやった。恐らく、その意図は步夢にすぐ伝わるだろう。優しい子だから。飛び出してきたら受け止めてやる。出てこい。步夢。
そう心に言うと当騎は家族でいっぱいの世界から去った。
あとがき
今宵もこれだけの更新です。ちょっと眠り病になっていて、その隙間にやってます。毎回違う画像生成で少し困ってます。かといって定番の画像が出来ているわけでもなく……。第二部は苦労します。20話で終われなかった。これこそ、三行日記。体調悪しでこのまま逃げます! ここまで読んでくださってありがとうございました。