【未完小説(完結目指します)】とびっきりの恋をしよう! 第二部 第七話 もう一人の太陽の乙女と王家三兄弟
前話
「なんだってー!!」
こそこそと祖父の緊急の知らせを読んだ、レンは声を上げた。
「どーしたの」
「おわっ。サーコ!」
気づけばサーコがのぞき込んでいた。手紙を持ってレンは転げかけた。
「むぅ。やっぱりこの文字難しい。古代語の方が簡単~」
呑気なのはサーコだけである。レンはどうしたもんだか、と悩んでいる。
「レン?」
サーコは心配そうにまたレンの険しい眉間をなでる。
「サーコ。今から聞くことに驚くなよ」
「何があったの?」
レンの前置きにサーコもいささか不安になる。
「レガーシは異空間の扉は一度しか開いていないと言っているけど、もう一人太陽の乙女がいる、らしい。同時に入ってきたのかも知れない。それなら、レガーシが気づくはずなんだが」
「もう一人?!」
サーコは驚きを隠せない。
「どうやら、サファン兄上が人売りから引き取った少女らしい。兄上は『ユウ』と呼んでると。……太陽は二つあるのか?」
いいえ、とレガーシの声が降ってきた。
「うわぁ!」
またもレンは驚いている。どうも、今、レンは隙だらけのようだ。これは話が終わればからかい甲斐あるとサーコはこっそり見る。ただ、ややこしい話になるような気がする。
「いつの間に」
「サーラが教えてくれたんですよ。皇子が老体の手紙を読んでいると」
「そうか。サーコが伝書鳥見たんだな」
「まぁ。そうだけど。レン、どうしてそんなに驚いてるの? 私だけが太陽の乙女って限らないじゃないの」
「まぁ。そうだな……」
どうも、レンは歯切れが悪い。二人いて悪いのだろうか? サーコの疑問にレガーシが代わりに答える。
「太陽も月も、一つしかないからですよ。育成できる能力のある人間は複数いる可能性があります。ですが、卵は一つだけ。早い者勝ちみたいになってしまうんでしょうね」
「じゃ、あの子たちは太陽と月じゃないの?」
いいえ、と冷静にレガーシが首を振る。
「歴とした太陽と月ですよ。伝承の資料がある私たちの方が早く手に入れられたのです。こちらは資料が山ほどありますから有利なのですよ。サファン皇子は一向に卵が手に入らなくて焦っているんじゃないですか?」
「みたいだな。長く祈れば示されるといって事態をのばしのばしにしているようだ」
「なるほど。考えたものですね。しかし、育成はもう始まってしまいました。サファン皇子側がどうあがこうと、育成には達することはできません。今後を見守りましょう。そのようにご老体にもお返事を。一度、レン皇子も様子を見に戻られてもよいかもしれませんね」
「じゃ、サーコが一人になる。育成を一人でさせるには負担が大きい。今は月もいるんだから」
「では、二人でお訪ねになりますか?」
「二人で?!」
レンとサーコは驚きを隠せない。あれだけ厳重に警戒しているのに炎の中に飛び込むようなことを言うレガーシがよくわからない。
「サーコならユウと呼ばれる太陽の乙女と打ち解けられるかもしれません。そうなれば、サファン皇子も態度を軟化させるかもしれません」
「あの、兄上が軟化なんてするもんか。逆にこっちの寝首をかかれる。ライン兄上を殺したかもしれないんだぞ」
レンの言葉にさすがにレガーシもそうでした、と言わざる得ない。
「その、サファン皇子というお兄さん、どんな人なの?」
不思議そうにサーコは尋ねる。ライン王太子のことはいい風に聞いているがサファン皇子のことはほぼ話にならなかった。
「見た目はきれいだが、粗野で横暴ですべてのものを自分のものにしなければ気が済まないお方だ。ライン兄上の目があるうちは俺にそんなにひどいことはしなかったが、いなくなったらあっという間に掌返しだった。その兄上にサーコを会わせたら奪われそうになるのは必須だな。俺は命を懸けてもサーコを渡さないけど」
「そこまで言い切るほどの人なの? 勘違いということは……」
「サーコは人が良すぎるんだよ。レガーシと一緒で! 一番サーコに会わせたくない人間の筆頭だ! 俺はサーコを連れて戻るつもりはないからな!」
手紙をくしゃっと握るとレンは立ち上がって部屋を出ていく。
「レン……」
寂しそうなサーコの声にレガーシがぽん、と背中を叩く。
「行ってらっしゃい。恋人たちはすれ違いも仲直りもすぐのようなものですよ」
「レガーシ。うん! レンー!!」
ためらうような切ない表情をサーコは浮かべたが、すぐに明るい少女に戻ってレンを追いかけていく。その後ろ姿をレガーシは平安あれ、と祈るように見つめる。
「あなた……」
サーラが不安そうにレガーシを見る。
「女の子の成長は早いですね。もう恋する女性です。あのサーコを見ればサファン皇子に奪われないことぐらいわかりそうなものですけどねぇ。さぁ。サーラ。お茶でもしましょう」
サーラの肩を抱き寄せるとテラスの方に向かったレガーシとサーラであった。
*
一方、レンとサーコである。
「ちょっとレン。一緒に行かなくてもいいから、お城はあなたの実家でしょう? 一度くらいはご両親に顔を見せても……」
「父上しかないさ。あとはじぃちゃんとな。まとわりつく腰ぎんちゃくもいる。あんなところに帰るぐらいならここで一生暮らしてやる」
「レン。心が乱れすぎてる。私はどうすればいいの?」
サーコの泣きそうな声にはっとレンは振り向いた。
「サーコ」
そっとそのサーコを抱きしめる。
「俺にはここが家だ。家族がいる。妻も子供もじいじも」
「でも。あなたは覇王になるのよ。王の居城は城だわ」
「ここも小さいけれど城と一緒だ。覇王の家には小さいかもしれんが、覇王なんて後からついてくる称号だ。俺はサーコたちと平和の道を探りたい。殺し合いなんてしたくない。この乱れた世界でそれはかなうかどうかわからない願いかもしれないけれど……」
「叶う! レンの願い事なら叶うよ。みんなレンの助けになりたいもの。お兄さんがレンのこと嫌いでも私は、サーコはレンが大好き。誰にも奪われたくないほどに……。きっと、お兄さんもそんな風に愛情が欲しいんだよ。ユウという乙女がそれを与えてくれることを祈ってここで育成を進めよう。育成が進めば、状況は変わるかもしれない。勝手に帰りにくいところに帰れば、って言ってごめん。レン」
サーコがレンの肩に額を置く。サーコがレンに甘えていた。口では引っ張っていくようなことを言ったが、レンがいなくなればサーコも怖いのだ。レンが帰ってこなければ、と。
「なんだろう、な」
そんなサーコを抱き留めつつレンは言う。
「昔は三兄弟仲良かったんだ。ちびの俺がいつもピーピー泣いてて二人の兄上はどうにかして泣きやめさそうとしてあの手この手で俺をなだめてくれた。そんな兄上たちの後ろを追っかけていた。なのに、いつしか、サファン兄上だけが兄弟から離れて一人過ごすようになった。何度か俺は無邪気に一緒に遊ぼうと言ったことがある。その時、兄上は悲しそうな眼をしていた。そして、殺されたくなければさっさとライン兄上のもとへ行け、って言ったんだ。その時、サファン兄上の目には狂気の目があった。サファン兄上の中で何かがあったんだ。それを俺は癒してあげたかったけれど、ここまで来てしまった。もう。戻れないのかな?」
「戻れる、って言ってあげたい。でも、私もわからない。どうして狂気の目が居ついてしまったのか。そのことが一番の解決策になると思う。きっと、ユウがお兄さんを癒す。太陽の乙女は対の月の息子と一緒なの。どこまでも。きっと、太陽の乙女になら心を許すはず。待ちましょう。その時を……」
レンの胸に顔をうずめながらサーコは言う。
「ほんとすげーな。太陽の乙女って。甘えてても言うことはしっかり筋が通ってる。どこからそんな賢い言葉が出てくるんだ? 俺のサーコは賢すぎる」
「覇王の夫を持つには賢くなきゃダメなの」
サーコはそっと顔を上げるとレンの頬にキスをする。
「大好きよ。レン」
「俺もだサーコ」
二人は迫りくる脅威が癒されることを祈っていつまでも抱きしめあっていた。
昔々の仲良し兄弟の夢を見ながらレンはサファン皇子の顔を思い出していた。
あとがき
入れ忘れてましたー。ようやくちまちま書いて一篇できました。だんだんサファン皇子が変わっていく。いい人になりつつある兄。おかしい。まぁ、ある事情からなんですけどね。三部が出来たということから。この後もまだ未定。浮かぶまではぐるぐるこね回す。パンのように。その合間に「最後の眠り姫」も書かないと。これもまた山場を越えて次の山に。こっちで全部やってればいいのに四つ目のアカウントとるし。それは違う作品たちの格納庫としてやる予定です。すでに見つけた方もいるみたいですが。でも、フォロワー増やしてない方に(フォロワーとフォローの割合から見てわかる)フォローしてもバックしてくれないだろうし。ちょくちょく来てはもらってるけれど……。な状況です。とりあえず、今日の作品はこれだけで土曜日シリーズ考えます。それではここまで読んでくださってありがとうございました。