【群作群】澄川市物語第二章 二人の四旬節第二節 冬の星
勇二と相席になってから水脈はカフェ・ノスタルジアを避けていた。行けばまた勇二に会いそうで、そこで何かが起きそうで避けていた。ただ、日々の忙し仕事の中、なぜかぽっかりと心に穴が開いている気がしていた。そのたびに勇二の声と顔を思い出す。
「どうせ、恋愛も知らないお嬢さんですよーだ」
「坂木主任?」
「え?」
部下が怪訝そうな顔してみていた。
「ですから、このプロジェクトは……」
「ああ。そうね」
水脈は頭からカフェ・ノスタルジアと勇二を追い出し、仕事に向かった。
勇二と会って何日か空いたある夜、仕事を持ち帰らないと行けなくなった。家で仕事をする気が保てないような気がして、気づけばカフェ・ノスタルジアに足をむけていた。勇二は今日もいるだろうか。不安となんとも言えない感情を持って入ってみる。
勇二はいなかった。
ほっとして、暖炉近くのいつもの席に着く。
「ホットを」
寝る前に飲むのはいけないが、仕事への集中力を発揮するにはホットコーヒーが一番だった。
「眉間のシワを取るコツ、知りたくないですか?」
「別に」
そっけなく返事してパソコンに視線を戻す。勇二を見てほっとした一瞬のあと、イライラが募った。なじみのないイライラだった。仕事上の怒りではない。原因不明のイライラだった。
変ね。生理的に受け付けないのかしら。
素っ気なく応対したが、勇二はこれぐらいではへこたれないらしい。隣の席に陣取り、同じホットコーヒーを頼んだ。
「眠れませんよ」
ポッとでた言葉だった。その言葉を満足そうに受け取って勇二はうなずく。
「それは水脈さんも同じではないですか」
「私は明け方まで仕事しているので大丈夫なんです」
そう。部下の失敗した箇所を訂正してるのだが、ことのほか多い。一つ弄れば全体がゆがむのだ。それをいちいち変えているのだ。長い時間がかかる。
「あなたのように一生懸命な人、尊敬しますよ。でも、それって自分を追い詰めてないですか?」
はっと、水脈は顔を上げた。穏やかな勇二と視線が絡み合った。
「わかりません。仕事を一つ終えるとさみしさを感じます。ただ、それだけです」
そう言って水脈はまたパソコンに視線を落とした。
それから勇二は何も言わずホットコーヒーを飲むばかりだった。
それからたまに勇二と暖炉近くの隣同士の席に座っては一言二言交わすようになった。いつも水脈が会話を打ち切ってしまうのだが。
そんなある日、勇二は詩集を取り出して言葉にした。
「冬の星 寒空の下 君を待つ」
「これ、即興で作ったのですよ」
自慢でない穏やかな声で勇二は言う。
「それって俳句じゃないですか」
五七五で季語を使えば俳句だ。詩ではない。
「いえ、俳句なら寒空の下など重なる言葉は入れませんよ。冬の星で寒くなっています」
「それはそうね。じゃ、俳句もどきと命名させて頂くわ」
ふっと水脈の口角があがった。この変なおじさんはただものではないらしい。自分のかたくなな心に入ってきていた。久しぶりに人間と話した、という気がした。今まで接していた人たちは何だったのだろう。
「ほら。また眉間にしわを寄せている」
「癖でですから放っておいてください」
「癖、ですか。そんな変な癖捨てておしまいなさい」
そう言って笑い飛ばす。その穏やかで低い声が水脈の心に染み渡ってくる。
いつしか水脈は勇二との会話に救いを見いだしていた。
あとがき
なんとか書けました。千字が今は精一杯です。四千字一気書きの日々もあったのですが。リハビリですね。会話する人がいなくてさみしいです。
文字だけでも会話できたらいいのに。メールとかしたいなぁ。インフルエンサー弊害です。現実への視線を戻せばいつしか人恋しい時期になっていました。ほんと一年間応援してきたインフルエンサーの態度には腹が立つ。ここ犠牲にしてたのに。って言い訳か。オフ会したいよー。ドックカフェ行きたいよー。猫でもいいけど。調べていこうかな。つなまよさんとか。せっかく買ったカレンダー無駄になった。写真の腕がやばすぎるカレンダー。下手すぎる。か、印刷の質が悪い。もうちょっとハイクオリティであってほしかった。そーいやエッセイってなんぞや? もう日記になっている。随筆でもない。これはこうこう思うという主旨がない。せめて清少納言を見習いたい。