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【過去連作】恋愛ファンタジー小説:星降る国物語4 第五話 再び始まる逢瀬

前話

 全員がそろったところでシェリティはジェトの顔をじっと見つめながら剣を渡す。本当に覚えていないのかと問いただしたいがカエムから渡す以外口を閉ざすようにいわれている。
アンテが星の石を渡す。
カエムが何事か古代語をとなると星の石が輝き始める。やがてその光がジェトを包む。そしてどれぐらいたったかジェトの周りから光が消えた。
「忘れ去られた魂を呼び戻した。ジェト、記憶はもどったか?」
問題の本人は黙って首をふる。
「俺。こんな畏れ多い家の方の息子じゃない。一座に戻ります」
動こうとしたジェトの背中を抱きしめたのはシェリティだった。
「行かないで。私をひとりにしないで」
今にも泣き崩れそうなシェリティに振り向いて受け止める。
「シェリティ?」
「ジェト? 思い出したの?」
突然名前を呼ばれてシェリティは驚く。
「なんとなくそう名前が浮かんだ。君は知ってる気がする。でも本当に何も思い出せないんだ。ごめん」
ずりずりと座り込んでジェトの足元に泣きつく。
「ジェト。思い出して。せめて私だけでも!!」
シェリティの悲痛な叫びが星読みの宮に響く。だが少年は動けなかった。抱きしめて涙を拭いてやりたい気がするが期待を持たせたくなかった。
「ごめん」
精一杯の謝罪であった。
「ジェトは私たちが買い取ったから今日からしばらくの間は皇子用の宮に住んでもらうわ。急なことで思い出すことも思い出せないのだと思うわ。また週に一度の逢瀬から始めましょう」
アフェラが仕切る。
「そうね。今夜は宴があるわ。私たちはジェトとともにいるからアンテとカエム達ででて。もちろんアンテがエムシェレを連れて行くなら早めにお開きにしてもらわないとこまるけど」
とにっこり夫に笑いかける。
「そうだな。ミズキの舞がみれないがエムシェレと一緒に宴を出るのもいいかもしれない。むずかっても知らないからな」
承諾しつつもミズキが出ないことに不満を抱きながらアンテが言う。
「お家の一大事じゃないの。つまらないことで不機嫌にならないで」
ミズキが反論するとアンテは星読みの部屋から出ていく。
「ミズキ。エムシェレを借りるぞ」
「いいわよ」
そういうとアンテが出ていき、泣いているシェリティの肩をたたくとカエムも出て行った。
残るは女三人とジェトである。
「今日はあなたの宮にいくわよ」
「俺の?」
「狼の宮がそうよ。部屋も前のまま。何か思い出すかもしれないわ。シェリティも一緒に。いつまでも泣かないの。ジェトがもどってきただけでもいいじゃない。ね?」
涙を拭いてシェリティが立ち上がる。痛々しいその姿にジェトは胸が締め付けられる。
「シェリティ。ごめんな。一生懸命思い出すから」
うん、とシェリティがうなずく。そしてにぎやかな宴が催しされている宮殿を横目に見ながら狼の宮へと向かった。部屋にもどってもジェトは何も思い出せなかった。やっと思い出したのがシェリティの名前だけ。いろいろこの一年の話を四人でしているとエムシェレを抱いたアンテがもどってきた。
「どうやらおしめの時間らしい」
ジェトは困った様子のアンテにふっと笑みが浮かぶ。
「おしめくらい替えられないんですか?」
「兄に向って生意気な」
「俺はできますよ。一座には小さな子供もいるから。一座はどうでしたか?」
王宮以外の体験をしてきたジェトには成長のあかしがあった。それをアンテは頼もしく思う。記憶さえ戻れば。
「以前と同じでよい興だった。里心がついたか? だがお前の家はここだ。ゆっくり思い出せばいい」
「はい」
「さて。エムシェレのおむつ替えもあるし私たちはこの辺で失礼するわ。兄弟の話でもしてて。シェリティも乙女の宮に帰るわよ」
不満げなシェリティをミズキとアフェラが引っ張っていく。
「また会えばいいから」
「わかったわ。また会えるよね? ジェト」
不安げな視線にジェトは微笑みかける。
「また会えるよ。当分ここから出られないらしいから」
観念したジェトに満足して女性たちはそれぞれの宮に帰って行った。

そして始まるまた週に一度の逢瀬。
シェリティは伸びた髪をばっさりと切った。まるで出会った時のように。
その姿を見たミズキたちは驚いたがジェトは何も思わなかった。むしろかわいいといって頭をぐりぐりなでた。その撫でるのにまたシェリティが思い出して涙するという困ったことも起きたが。
だが、シェリティはそのジェトの言葉に思い切った言葉をかけた。
「ありがとう。かわいいと言ってくれて。これで吹っ切れた。これから新しいジェトとして接するわ。皇子様のジェトじゃない。一座の用心棒だったあなたとして。また始めましょう。出会いを最初から」
その言葉にジェトは胸が熱くなった。
「ありがとう。シェリティ。君の前だけは素直な俺でいられる。そうだな。これからまた一から始めよう。一つ一つ積み上げていくよ。君との思い出を」
うんうん、とうなずくシェリティ。今にも涙がこぼれそうなのを必死で抑える。
半年も過ぎた頃だろうか。たまにシェリティとジェトは剣を交えたり庭先で会話を楽しんだ。シェリティも以前のように言葉で詰まることなく自然な二人でいられた。そんな中アンテの実妹のネフェルが花嫁修業からもどってきた。
シェリティはミズキの取り計らいで星の宮に居を移すことになった。ネフェルの式が終わりそしてまた花が咲くころジェトの記憶はまだ思い出せなかったがジェトはシェリティに式の申し込みをした。アンテの許可済みである。ジェトはもう十八才になっていた。シェリティは十九才になっていた。シェリティは左大臣家の娘ではあるが左大臣は傷物になったと言ってシェリティを家から放り出した。見かねてアンテとジェトがシェリティに王族の身分を与えて姫となっていた。実質アンテが抱えていた左大臣家の娘であるという政治的問題は回避されたが。
人馬宮の庭先でジェトは申し込みをした。
「俺。家族のことも何も思い出せないままでいるけどシェリティの名前だけは思い出せた。変わった俺をいつも同じと言って接してくれた。俺が君に言ったことと同じと言ってたけどこれで対等になれたと思う。記憶を失ってなお大事にしてくれた君が好きになった。記憶がない前も好きだったと思うけど今も好きだ。どうか妻になってください。星降りがなくても俺の相棒は君しかいない」
「ジェト・・・」
感激して涙がこぼれそうになるのを押さえたシェリティは了承のあかしの手の甲をさしだした。その手の甲にジェトが軽く口づけをする。
すると周りが輝き始めた。
「なに?」
空を見上げれば星が降ってきた。時を経て新たに結ばれた絆の祝福の星降りだった。
「もう。離なさないで」
シェリティがジェトの肩に顔をうずめる。ジェトは背中に手を置いて抱きしめる。
が、すぐにシェリティを離した。
「ジェト?」
「思い出した!! 何もかも。あの初陣で初めて人を殺した俺は自分を見失って隊から離れたんだ。そして行き倒れて一座に拾われた。時を経てまたお前に出会えた。前から好きだった。今も。そう愛している。お前を愛してる!!」
そう叫ぶとまたシェリティを強く抱きしめた。
「ジェト・・・。ジェト・・・。思い出したの? でも関係ないわ。私もあなたを愛してる。ずっと好きだった。あなたしかいない。ともに生きる人は」
ジェトの叫び声と星降りに集まったアンテたちだがやっと結ばれた二人に遠慮して見守るだけにしていた。
ただ一人星降りに惹かれて出た子供がいた。エムシェレである。よちよち歩くと抱き合っているジェトとシェリティの足につかまる。
「エムシェレ!!」
小さな声で呼ぶも構わず、エムシェレは星降りがおもしろいのかよちよち歩きまわる。
「エムシェレ。星降りが面白いの?」
感激の涙を拭きながらシェリティが問う。
あー、とエムシェレが言う。
「いつかエムシェレも星降りが起きるよ。父上はなかなか許さないだろうけどね」
ジェトの言葉に眉をあげたアンテであるが運命の二人がようやくまとまってほっとしていた。
長い星降りの完結だった。
幸せの欠片が次々とふってくる。
祝福の星降りは一晩続いたのであった。


あとがき
やっと目覚めました。テレビでお目覚め。久しぶりに池上さん見てます。拭けたなー。と。4はやっとここで終わりです。次はラストの5です。画像作らないと。また、兄弟が出てきます。何人いるの? です。私もしらない。エムシェレが結婚すればいいのになぁと途中の話をぶっ飛ばして思っている私。続きが出るかは神のみぞ知る。では、また~。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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