【記念掲載:連載小説】ファンタジー恋愛小説:絆の騎士知恵の姫 第一話 ちょっとそこまで
ゾフィーとヴァルターはエルフルア王国で暮らすことを決めた。ヴァルターは女王となるフィーネペルルの夫となりこの国を共に治め、ヴァルトが来るきっかけとなったゾフィーも王族の資格を受け、この国の騎士と結婚して終の棲家とすることとなっていた。そんな平和な日々に、フィーネペルルはまた困っていた。
ゾフィーの失われた記憶を戻すためにアムネシア国でミスティック・ローズを手に入れた際に毒で生死の境をさ迷ったフィーネペルルは己の異端の力、治癒力を全て自分に使って助かった。そしてその治癒能力は以来なくなったと思っていた。
だが、最近、何度も同じ夢を見るようになった。美しい聖堂にある泉に触れると治癒能力が戻るという夢を見るのだ。何度も同じ夢を見て、困ったフィーネペルルは遺跡や歴史に詳しいゾフィーに相談していた。もう一人の自分の影。また手に入れるべきなのか、と戸惑い、悩んだ。ヴァルターに話しても、忘れるように言われるだけだ。そんな能力はなくていいんだ、と。後方支援ができないと嘆いた時にそう言われた。同じことを言われると思うと相談しにくかった。
そこでゾフィーに相談するとその聖堂は「エレシアの聖堂」ではないか、と言ってくれた。場所も解っているようで、エルフリア王国内にあり、この城の近くだという。フィーネペルルはゾフィーに頼んで一緒に小さな冒険をしようと計画した。
そして、動きやすい服装を着ていざ、行かんとするとき、ヴァルトに見つかった。
「フィーネ? 姉上? 一体どこへ?」
ヴァルトの顔の半分はもう鬼のようだ。お転婆姉妹の冒険がわかってるのだ。
「ちょっとそこまで」
「ちょっとそこまで行くだけでエルマもエルフィもお留守番かい?」
エルマはヴァルトとフィーネペルルが最初に出会った泉でフィーネペルルが怪我を治した猫だ。その日の午後、再びあったヴァルトがフィーネペルルに世話を頼み、フィーネペルルの愛猫となっている。エルマは愛犬だ。つねに近くに行くときは一緒だ。
「えーと……」
「ヴァルター。フィーネを怒らないで頂戴。毎夜、同じ夢を見て困ってるのよ」
「同じ夢? 相談する相手が違うんじゃないかい?」
最初に相談を受けたのが姉だと知るヴァルターは嫉妬する。
「これぐらいで嫉妬しないで。またあの力が戻る夢を何度も見るのよ。ゾフィーによれば『エレシアの聖堂』じゃないかと。あなたに言ってもそんな力いらない、っていうでしょ? 私自身も戻って欲しい力では無いけれど、気になるのよ。いつかこの力が役立つかと思うと。もう一度、私に影と向き合うように言われている気がして……」
「影、か。よし。私も一緒に行こう。と。そういえば、先ほどヴァレリア王国から幼馴染みの王子達が来たと伝えに来たんだ。彼らも仲間にするかい?」
「エドリックとガレンが? 懐かしいわね」
「フィーネ! 久しぶり! どこかへでかけるのかい?」
ガレン王子が気軽に声をかける。フィーネペルルの幼馴染みで在り、この王子だけはフィーネペルルの異端の力の存在を知っているエルフリア王国以外のの唯一の人間だ。
「噂をすればなんとやら、か」
「もう。あなた以外に夫はいないわよ。なんでもかんでも嫉妬しないで。ガレン、久しぶり。ちょっと混み合ってるから、また後でねって。エドリックどうしたの?」
ガレンの兄王子エドリックがゾフィーを見て固まっている。嵐が来る予感がしたが、とりあえず、問題はあの夢の事だ。
「よし、ガレン様もエドリック様も冒険はお好きですか? この二人の女性に付き合って少し冒険しませんか?」
にこやかに言ってるがその顔の下には嫉妬で狂ってるヴァルターがいるのを見て、フィーネペルルはため息をつく。
「はいはい。じゃ、カタリーナも呼んでくるわよ」
「それは辞めた方がいい。新婚家庭を巻き込むとろくな事が無い」
「そう? なら、この人数で良いの? 随分男性が多いけれど」
「女性を護るのに人数の問題はない。さぁ、さっさと行くぞ」
「ちょっと、ヴァルト!」
「フィーネ!!」
ヴァルターに連れて行かれるフィーネペルルを追ってゾフィーが着いてくる。その後ろから兄弟王子だ。どうもエドリック王子の様子が変だが。
こうして、「ちょっとそこまで」の冒険が大事になっていくのだった。
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