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【連載小説:ロマンス・ファンタジー小説(オマージュ)】あなただけを見つめている……。 第二部 次代の姫 第二十話 步夢の決心、当騎の覚悟

前話

「当騎ー。お団子が作れない~」
 ドライヤーの音を響かせながら步夢が叫ぶ。
「俺もできん。当主の技だ。ツインテールでいいか?」
「うん。子供っぽいかな?」
「若いんだからいいんじゃないか?」
 そんな親のやりとりを千輝を抱っこしながら朗らかに見る姫夏である。そのとき、デバイスがなった。
「もう、着いたのか?! むー。急ぐぞ」
 步夢専属スタイリストを名乗る当騎が、ささっと髪を結わえる。と同時に、部屋のチャイムがなった。
「きた! ひめちゃん! おいで!」
 千輝を抱っこしている姫夏ごと步夢はソファに座る。当騎の声がして、男性と女性の声がした。室井の当主夫妻だ。步夢にとっては舅姑になる。緊張でがちがちになっていたのにその当主二人を見ると口をぽかん、と開けてしまった。
 わ、若い。
 まだ、十六歳の息子とその兄を持つには姑は若すぎる。いや、その舅もだ。
「当騎。孫ができるならそうといえばいいのに」
 当騎の母の言葉に耳を疑う。
「言えばいいって勘当されて居候になったんじゃ……」
 步夢は三方をちらちらと見比べる。
「この子が勘当してくれと言ってきたんだ。そうでないと入れてもらえない、と」
「当たり前だわ。行くところがないから屋敷に入れたのに……。当騎! 嘘ついたわね!」
 步夢の頭に鬼の角が見えたのか、平謝りする当騎である。
「その子はいつ産んだの? もう一歳をすぎているわね」
 とうとう来た。この質問が。步夢は深呼吸をして言葉を発した。
「ある方から育ててほしいと預かった子です。それでも私はシングルマザーになってもいいほど、この子を思っています。この子は吉野家でしか育てられないんです。私と当騎以外にはいないんです」
「それは、吉野家の不思議な血筋のことね」
 にっこり笑って義母が言う。步夢が驚きの表情を見せる。
「私も吉野の出なのよ。それこそ、勘当されてお嫁に来たの。当騎はそれを逆手に使ったのね。この子ったら」
「名前は?」
 黙っていた義父が聞く。硬い表情だが、愛情がにじみ出ている。
「姫夏。姫に夏と書いて、ひめか、といいます」
「姫夏か。いい名前だ。ひめちゃん。じぃじとばぁばだよ。お膝に来るかい?」
 義父が手を伸ばすと姫夏ははしゃいでその手を伸ばす。あっという間に義父の膝の上で千輝と遊んでいる。
「ひ、ひめちゃん」
「大丈夫だよ。我々は君たちを引き離すつもりはない。むろん、室井の家に入れとも言わない。当主はそちらのお母さんだが、いずれ、継ぐ立場なのだろう? 無理に八つ墓村みたいな室井に入る必要はない」
「継ぐ、立場ですが、違う土地に行くこともあります」
「彼の地の伝説?」
 義母がそっと言う。
「当主様!」
「義母さんでいいわ。私も一応は吉野家で育ったのよ。それぐらいはしってるわ。そのことに大きく関係してるなら、私たちは深入りしないわ。ただ、ひめちゃんとすごす時間もほしいの。おそらく、そう遠くない時に行ってしまうのでしょう?」
「わかりません。おじいちゃんの話を聞いたら、もう後戻りはできない、そう思ってるだけです。その前に此の地の思い出を作ろうときただけなので。姫夏と夏のプールごっこして行かれますか? さっきまで子供用プールであそんでいたのです。ひめちゃん、ちきちゃんとまたプール入る?」
「あい!」
「あん!」
「ママとパパはもう入らないわよ。外で見てるだけでもいい?」
「じぃじとばぁばとあそぶ!」
「まぁ。じぃじとばぁばと言ってくれるのね。あなた、ひめちゃんとの思い出作りをしていきましょう。当騎の件はしっかり奥さんがどつき回してくれるわ」
「ちょっと! 母さん!」
「嘘をつくからよ。ひめちゃん。水着に着替えましょうねー。義母さん。手伝って頂けますか?」
 步夢がにっこりと笑いかける。その笑みに引き込まれそうになった当騎の母である。この子は賢い子だわ。まかせても安心ね。
「さ、えーと。名前は?」
「步夢です。むーと当騎は呼んでいます」
「じゃ、むーちゃん。行きましょう。あなた、ひめちゃんを借りますよ」
 二人で隣室へ行くと背後からむーは俺だけだったのにー、と嘆く当騎の言葉が聞こえる。
「当騎、むーちゃんにべた惚れね」
「すみません」
「謝る必要はないわ。運命の恋だったんでしょう? 私もよ。あの人にベタ惚れだった。ひめちゃんの運命の人はどこかしらね?」
「う?」
「ちょっと難しい言葉だったね。ひめちゃん。いつかわかるときがくるわ。さぁ、水着に着替えましょう。バンザイしてー」
「あい」
 器用にに姫夏の面倒を見る步夢を見て当騎の母は驚く。
「扱いが上手なのね」
「いろいろ経験してきた結果、こうなっただけです」
 少し切なげに步夢は言う。

 この子は重いものを持たされているのね。当騎が支えになればいいけれど。

「大丈夫ですよ。当騎はいいパパです。理想です。はい。ひめちゃん。お着替え終わったわね。パパとじぃじの所へ行きましょう」
 そのまま抱っこしかけて、步夢は当騎の母を見た。うなずく。当騎の母が姫夏を抱っこした。
「まぁ、重い。こんなに成長したのね。ひめちゃん、いい女性に育つのよ」
「?」
「あらあら。ばぁばは難しい言葉ばかりつかってしまうわね。ひめちゃんみたいな時があのパパにもあったのよ」
「ひーちゃんとぱぱおなじ?」
「そう。みんなひめちゃんと同じ小さい時から育って大きくなるの。パパはばぁばの宝物よ。だからひめちゃんもパパとママの宝物なの」
「たとえ、私はシングルマザーなっても姫夏を育てるつもりです。そのぐらいこの子を愛しています」
「むー! また思い詰めて。俺はこいつと姫夏を守ってみせる」
 そっと步夢の肩を抱き寄せる。そして步夢のにじんだ涙をふいてやる。
「大丈夫だから。けっして一人にはしないから」
「当騎……」
 見つめ合う二人に邪魔な声が入る。
「いちゃいちゃはあとですればいい。姫夏を借りるぞ」
 はっとして見ると義父の腕に姫夏は抱かれ、千輝は足下についていた。
「まぁ。ちきちゃんもわかるのね。いい人だと。もうー。当騎、嘘はダメよ」
「すまん。そうでもしないと絶対に家に帰すと思って……」
「当たり前でしょ。行くとこないから居候になったんだから。帰るところがあれば帰すわよ。大学だってあるし」
「だが、一緒だから姫夏を育てられるんじゃないか」
「だからそれは私が……!」
「シングルマザーだろ? そんなん俺が許すと思うか?」
「思わない」
「ぱぱのかち!」
「え? ひめちゃん、プールは?」
「ぱぱままいっしょ!」
「で、親の痴話げんかを見ていたって? ひめ、末恐ろしい娘だな」
「すえ?」
「ああ。もう。ひめちゃん。ばぁばたち待ってるじゃないの。ちき、行くわよ!」
「びぎ!」
 姫夏のいるところ千輝あり。そして。いつも步夢はいざというときの想いを秘め、当騎も覚悟を決めていた。
「母さん。若い二人だが、なにか確信があって育ててるようだな」
「ええ。当騎が頼もしい子になっていてよかったですわ。勘当してくれと言ってきたときはどうなることかと思いましたけど……。むーちゃんー。当騎ー、プールがさみしがってますよー」
 義母が言うと、はぁいと姫夏と步夢の可愛い声が返ってきた。
 これからもっと楽しい夏休みが待っている。
「え? 次はグランピング?」
「ここは借りたままで、明日一泊二日のドックラン付きキャンプ」
「ええー」
 室井財閥の散財の仕方は恐ろしい。姫夏をプールにいれると当騎が姫夏に水をかける。姫夏は步夢にかける。
「なんでママなのー!」
「ママもプール」
「着替えて来いってさ」
「パパもー」
「俺も?」
「あい」
「しょうがない。娘の頼みと言うことなら着替えるぞ。むーも行くぞ」
「ええー」
 步夢が引きずられていく。
「面白いパパとママね」
「あい!」 
 義母が言うと、誇らしげに姫夏は答えたのだった。


あとがき
今のうちに明日の更新予約しとこ、と思って画像を作成を始めたら、こんな時間に。ここまでくるのに遠かった。まず、年頃の少年少女が水着でプールの傍に居ること自体がタブーらしく、当騎の顔は潰れてるし、姫夏もこんんなんじゃないー。ちきに至っては色が違う。だが、我慢。これ以上やってたらあっちが狂う。なぜか、やり過ぎたのかフリープランになって進まなくなったんです。一応、あの紹介という文言から入り直すと大丈夫でした。高い金払ってまた払わされるのか? と怒ってたのですが、引き落としはあったし。ここしかAI使わないので。ま。步夢の髪の毛で悩みましたが、ツインテールすら規約にひっかかったので、諦めました。步夢だけ納得です。これをもう。投稿しちゃいます。でも、二回目になるのかしら。とびっきりが日付越えてたような。ここまで読んでくださってありがとうございました。第二部あと3話ほどでラストです。がんばります。

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