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【連載小説】恋愛ファンタジー小説:緑の魔法と恋の奇跡 第十九話 新しい森のアミュレット

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 その夜、弟子達が帰ったレイナルドの工房にそっと二人はやって来た。エレナ・シルヴィアは禁忌とされる区域に入るという事で緊張している。いつもはあんなに大胆に事を運ぶくせに。ライヴァンは文句を言いたい。自分を叱りつけるときのエレナ・シルヴィアとくれば、こんなおびえた子猫のようじゃない。獅子もどきだ。
「どうしたの? ライ。そんなに恨みがましく見て」
「あ。いや、日頃の恨みが……いや、なんでもないってば」
 エレナ・シルヴィアはもう水を得た魚のようにライヴァンをにらみつけている。
「悪かった。だから機嫌を直してくれ」
「機嫌なんて損ねてないわ」
 にっこり微笑むとエレナ・シルヴィアはライヴァンに抱きつく。今までにない行動にドギマギするライヴァンである。
「これこれ。ふざけあうなら帰ってもらうぞ。さっさと来い」
「はぁい」
 楽しそうなエレナ・シルヴィアの声にライヴァンもこれからの作業に期待がたかまる。
 どんな、森のアミュレットができるのだろうか。ほんの少し先の未来を楽しみにする二人である。
「さぁ。ライヴァンは先にこの大方の磨きをしてくれ。わしとエレナ・シルヴィアは装飾に使うビーズを繋げておく」
「えらく軽い作業だな」
「お前が言い出したのだから、責任を持て」
「はいはい。水研ぎでいいのか」
「ああ。そこの機械を使ってくれ」
 ライヴァンは使ったことがあるのか器用に磨いている。エレナ・シルヴィアはぼーっと見つめてビーズを落としてしまった。
「ごめんなさい!」
「いいさ。何かあったんだね」
「え、ええ。私にも秘密ができたのよ」
「なるほど。それは追求されぬよう上手く隠しておくことだ」
「そうね」
 二人でこそこそ話しているとライヴァンがドでかい声でレイナルドを呼ぶ。
「どれどれ。おお、綺麗に光っておる。これをカットしてまた磨けば良い。俺は土台の最終工程を進めよう。エレナ・シルヴィアはまたビーズを通しておいてくれ」
「わかったわ。今度はこぼさないんだから」
 腕まくりをして作業に取り組むエレナ・シルヴィアの瞳がキラキラ光っていてライヴァンは虜にされそうになる。エレナ・シルヴィアはエレナ・シルヴィアでライヴァンのたくましい筋肉に見惚れる。
 相思相愛だが、その間に渡っている河と自明の理は恐ろしいものだった。
 ひと晩掛けて森のアミュレットが完成した。銀の台座にエレナ・シルヴィアがあしらったビーズの中に素晴らしい翡翠がある。それをレイナルドが装備に埋め込もうとするとエレナ・シルヴィアが待って、と言う。 
 何やら手をかざしていたが、それは不意に終わった。
「森の加護を与えたわ。これでもライヴァンも森の仲間ね。あら。その前にもっと身分の高い人だったわね」
「シルヴィ! 種明かしするならこっちもするぞ!」
 身分のことは命取りにもなる。エレナ・シルヴィアはライヴァンの真剣な声にしゅん、となる。ああ、とライヴァンはうなる。
「そんなにめげることじゃない。ただ、我々は慎重に事を運ばねば。シルヴィには眠りが必要だな。睡眠不足で情緒が不安定になってるのだろう。そろそろ弟子達も来る。先に帰った方がいい」
「ライは?」
「まだ、仕事がある。終わったら必ず迎えに行くから待っていてほしい」
「迎えにってすぐそこよ」
「ああ。わかった。言葉遊びはお終い。さぁ。睡眠を取るんだ」
「もう。もうちょっと見ていたかったのに」
「いつでも見れるさ」
「まぁ。そうね。レイナルドお世話になったわ。良い経験だったわ」
「またな。嬢ちゃんや」
「お嬢ちゃん扱いは止めてよ」
「はいはい。お姫様なんだからしずしず帰るんだ」
「えらく早く返したがるのね」
「いいからいいから」
 レイナルドとライヴァンの二人がかりで追い出されるとエレナ・シルヴィアは部屋に帰って身支度をするとすぐに眠ってしまった。その夢の中では切ない恋の夢を見ていたエレナ・シルヴィアだった。


あとがき
今日は買い食いせず、まっすぐ駅へ。持ってる間に更新。消えたかと思った設定ありました。バックアップは大事。痛感した昨日今日でした。それでは行ってきまーす。

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