第百九十九回 Vo 将|将さんの言葉紡ぎinterview「アリス九號.のターニングポイントを振り返る(後編)」

LAST DANCE ACT.4「Frozen Waterfall」ツアーも終わり、LAST DACE FINAL ACT「Last Galaxy」公演まであと約1か月。
今回は、バンドを軸にアリス九號.のターニグポイントについて語ってもらったインタビューの後編をお届けする。

ーー前編は、日本武道館公演決定後、バンドの意識がプロとして音楽的な方向へとシフトしていく大きなターニングポイントとなった、といった話で終わりました。

将:そうですね。その後僕らは所属事務所から独立しまして。自分達で会社をやるようになってからは、良くも悪くも自分達で自分達のことを把握しちゃっているので、あとはバンドのベクトルが変わるだけで、バンドの根本が変わるような大きなターニングポイントはそんなに無かった気がします。

ーーなるほど。

将:バンドのキャパシティーはある程度はもう決まっていて、そこに重ねていく、さらなるプロ意識や練習するためのプロセスみたいなものも、キャリアを積めば積むほど、大人になればなるほど、ある程度固まってきちゃうんですね。バンドの質量みたいなものは、この辺りからはあまり変わらなくなるんですよ。

ーー逆にいうと、バンドとして安定しているというか。

将:はい。その体積の中で、「今はお客様にはとにかく楽しんでいただいて、幸せな気持ちになっていただくのが大事なんだ」というモードの時は、歌って踊ってみたり舞台をやったり、バンドとして、キャリアなどを気にせず幅広い活動をやってきました。2019年以降は逆にそういったモードではなくてもっとピリついて、「90年代のバンドみたいなカッコよさを、ヴィジュアル系が忘れ去られている今だからこそ、このメンバーでやり切ってみよう」という話になって、ピリついたアリス九號.をやってみせたり。僕達の軸は変わっていないんですけど、やっていくベクトルや方向性を変えてきた、それだけだったという気がしますね。

ーーなるほど。

将:ベクトルは変わっていっているんだけど、バンドの体積はずっと変わっていない。固まってしまったバンドとしての「殻」が、ある意味できてしまっていたんだなと思いますね。それを壊すにはもう活休するしか無いんだなと。決断は辛かったですけど、無期限活動凍結は、バンドとして必然なんだなと今は感じています。バンドの体積、キャパシティを具体的に言うと…2011年に武道館はやったものの、全然満員にはできなかったんですよ。その後、「360度全方向にお客さん入れての武道館を目指そうぜ」とか、「この後東京ドームを目指すために足りないのはこれだよね」とか、死ぬ気でさらなる頂点を目指してバンドをやってきたかって言ったら、できていないんですよね。

ーーもうバンドの器がある程度分かってしまったからこそ、ですか。

将:ええ。バンドの器を大きくしようぜ、というところまでチームとしていけなかった。それ以外に、色々と大人の思惑にも巻き込まれてそれどころじゃなくなっていた時期も実際にあったので、そういった言い訳もできるんですけど。だからこそ、メンバーの中から出て来たものは「休もう」という感じではなかったんですよね。休んだところで、バンドの器自体はそうそう変わらないじゃないですか。

ーー確かにそうですね。

将:ちょっと休んだところで、さらに大きくなって戻れることはないだろうなと。その危機感、感覚を5人とも持っていたからこそ、「凍結」という選択肢になったんだろうなと思いました。

ーーそうでしたか。

将:この器の状態のまま、傷を舐め合うじゃないですけど、形を変え、手を変え品を変え、なんとなく続けることはやろうと思えばできるんでしょうけど。

ーー事実、そういった方法で存続を最優先させてやっている方々もいらっしゃいますし。

将:でも僕らはそれよりも、戻る確率がたとえ数%しか無かったとしても、バンドの器にヒビが入ったり欠けたりしたとしても、それでも器が以前よりもぶ厚くなって戻ってくるかもしれない、そちらに夢を持った方が、バンドとしては健全だと考えたんです。

ーーなんとなく続けていくよりも、そちらの方がバンドとしてスリリングですよね。

将:そうですね。でも一つ言っておきたいのは、器の大きさが変わらなくなったことに気づいても、「しょうがねぇよな」という感じでぬるく適当にやっていたとかでは全然無いんですよ。

ーーはい、それはわかります。

将:自分達なりに必死で、めちゃくちゃ頑張ってやってきたつもりの結果がそういったことだった、というだけなんです。

ーー今振り返って分析すると、ということですもんね。そもそも、「ぬるく適当に続けられたらいいや」という考えでやっていた人達なら、あんな風にわざわざ努力してまで、踊ったりお芝居をしたりしなかったでしょうし。

将:そうですね。

ーー華やかなルックスやキラキラした音楽性が表面を覆っている分、実は必死に頑張っているところが、アリス九號.はなかなか伝わり辛いところがあると思います。そこにもどかしさを感じることは無いですか。

将:いやいやいや。そこは、単純に必死さが足りていないからだと思います。先日、初めてlynch.と2MANした時に感じたんですが、彼らはめちゃくちゃ分かり易いんですよ。「腹減っただろ?フライドチキン食うか?」っていうぐらい、すべてが分かり易いんです。lynch.のファンはチームのように黒づくめ。「どの世代でどういった人達が熱い想いを持ってこの場に集い、どんな音を浴びたいと願っているのか」そこに彼らは全部応えているんですよ。俺達は、誤解を招くかもしれませんが、驕りがあったんだと思うんですよ。「俺ら顔もいいし、ポップな曲もやってるから、ちょっとぐらいなら分かり辛いことをやってもお客様は許してくれるでしょ」って。

ーーファンの方々に対して。

将:ええ。そういったところがあったと思うんです。だけどlynch.にはそんな驕りがまったく無いんです。少なくとも俺はそう感じた。なので、俺らはもっと早く彼らにぶちのめされておけばまた違った未来があったのかもしれません。実際、続くvistlip、DEZERTとの2MANはアリス九號.らしさを存分に発揮できました。なので、凍結直前とはいえ、lynch.と2MANできて本当によかったと俺は思っています。

ーー将さんはここまでバンドを続けてきて、これまでにバンドを辞めようと考えたこと、辞めようと思ったことは過去にあったのでしょうか。

将:初めてヴィジュアル系バンドを組んだ頃、吉祥寺の駐車場で血祭りに上げられた時は「辞めよう」と思いましたけどね。

ーーなんですか、それは。

将:時代的にはよくあったことなんです。レコーディングに対する俺の気合いが足りねぇ、っていう理由でボコられたんですけど(笑)。でも、今ならそれも「みんな熱くていいじゃん!」って思いますけどね。そこから数年経って、その時のメンバーと飲んだら「あの時はごめんね」という話をされて、もう終わった話なのでこういったエピソードも笑い話としてできるんですけど。そんなことがあって「辞めよう」と思っていた時に、虎にネットのDMみたいなものを介して「一緒にバンドやろうよ」と誘われたのが、俺のバンド人生の始まりでもあって、それ以降は「辞めよう」と思ったことは一度も無いですね。

ーー将さんは、一度やると決めたらそれに対して責任感を貫くところが。

将:あります。

ーーですよね。それでは、そんな責任感を貫きながらバンドを続けてきた将さんを、一番支えてくれたものはなんでしょうか。

将:人の役に立つのが好きなんです。学生時代って、授業と授業の間に休み時間があるじゃないですか。あの時に、俺は人気者の机に行く方だったんですね。人気者は周りに勝手に人が集まってくるんですよ。「一度は集まって来られる側になってみてぇな」というのが子供の頃からずっとあったんですね。そうやって、人に求められたり人の役に立つ人間になりたい、と子供の頃から思っていたんですね。なのでそういったところから、メンバーから「これは将くんに任せておけば大丈夫」「将くんなら分かる」と思われたところに対しては、できるだけ期待に応えられる自分で生きてきたし。力になるのはやはり、ファンのみなさんからいただくメッセージ。例えば「歌が生きる力になりました」とか「〇〇の歌詞、すごくよかったです」とか。人に求められたい、役に立ちたいと思っている自分だからこそ、その一つ一つを感謝の気持ちを持って受け止めるセンサー、能力は、自分は人一番高いと思うんです。

ーーそれを実感するような出来事があったんでしょうか。

将:同業者と話している時に「コイツら全然ファンに感謝してねぇじゃん」と正直思うことが多いんですよ。

ーー「ファンには感謝してます」といった発言、同じ字面でも、自分と他の同業者とでは温度感が圧倒的に違うことが分かった訳ですね。

将:ええ、そうです。人に求められたい、役に立ちたい、という気持ちは人一番強いものがあるんですけど、果たしてそれがステージの真ん中に立つ人に絶対的に必要なものなのかといったら。

ーー必要なものはもっと他のものですよね。

将:ええ。多分そうなんです。僕の同級生に、言葉を選ばずに言ってしまうと、顔はイケメンとは一般的にいえない感じで歌もプロみたいにはうまくないんだけど、自分のことが大好きで、自分のことを本当にカッコいいと思っているヤツがいて。ロックのカバーとかをやるんですけど、下北沢のライブハウスに通常ブッキングで自分でお金を払ってライブをやるんですね。俺がデビューした後でも「俺のライブ見せてやるよ」って普通に誘ってくるようなヤツなんですね。

ーープロの将さんを?

将:ええ(微笑)。すっごい自信家なんですよ。それでライブを観に行くと、身を乗り出して観ているのが友達3人ぐらいしかいないんですよ(笑)。でもソイツはそこがアリーナクラスの会場かのごとく「今日は来てくれてどうもありがとう」「みんなの声援を感じて今日はROCKしたいと思います」って。「なんだこの人」っていうぐらい、俺なんかより全然MCとかキマってるんですよ!自己愛というか、自信の持ち方がすごくて、腹が据わってる。

ーー明らかにフロントマンとしての才能が。

将:めちゃくちゃあるんです!だからステージの上に立つと本当にヤバいんです。8ビートでこれでもかと腰をくねらせて、ターンしまくって、被っていたテンガロンハットをポーンと投げたりするんですけど、俺、絶対そんなことできないですから(笑)。

ーーしかも、それをお客さん3人ぐらいしかいない前でできてしまうんですよね?

将:そうそうそう(笑)。友達以外のお客さんもステージ見ないでスマホいじったりしている訳ですよ。そんな中でも、そういったことを平気でやっちゃうから、その自己肯定感の高さに感動しちゃって。才能がある人ってこういう人なんですよ。俺はそこが「自分なんか…」という、謙虚というか奥ゆかしいところから始まってステージに立つようになったので。その友人みたいに、エゴを叩きつける、みたいなことが本当に苦手で。みんなの声援の後押しがあって、始めてステージでなんとか堂々とできている、それが自分なんですよ。

ーーそんなところが将さんらしくて、お客さんにも愛されている部分なんですから、将さんはそこも個性なんですよ。

将:そうなんですかね。だから、先日HYDEさんがライブを観にいらしてくれくれたんですけど、「なんであんなにピリついてるの?将はかわいいんだからもっと出さないとダメだよ」って言われちゃいました(笑)。それを聞いて面白いなと思いましたね。Kenさんがアリス九號.に対して言ってくれていたことと同じだったので。

ーー確か「アリス九號.は音楽も衣装もキラキラしていなきゃダメだよ」みたいなアドバイスをいただいたんですよね。

将:そうです。それに応えた「F+IX=YOU」はすごいパワーですよね。でも、自分にとってメンバーは家族だから、その意見を最優先させてきた。家族の一員が「90年代のカッコいいヴィジュアル系を今一度やってみたい」って言ったら、それに全力で力を貸したいんです。全力でその期待に応えたいんです。そういった選択をしたことについても俺は後悔はしていないし。だから俺にとっては「人の役に立ちたい」というのが最大の原動力なんですよ。それがあるから、凍結した後も、何かしら人を笑顔にできるようなことをやりたいですね。

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限りなく2次元に近い2.5Dロックバンド、アリス九號.のオフィシャルnoteです。 毎週メンバーがリレー形式でオフィシャルnoteだけの…

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