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アントニオ・カルロス・ダ・フォントウラ『デビルクイーン』「ぐちゃぐちゃじゃない、探せば見つかる」

ブラジル映画史の中で最も抑圧的だった時代の検閲をくぐり抜け、世界中の映画祭で観客を熱狂の渦に巻き込むも、日本では知られざる存在だった異端にして伝説のクィア・ギャング映画。とのこと。色彩が色鮮やかで、観ていて楽しい一作だった。

デビルクイーンと呼ばれるその人は、ヴィヴィッドな色のアイシャドウを塗ったまぶたから鋭く光る視線でリオデジャネイロの裏社会を支配している。売春宿の奥の部屋から、部下のギャングたちに恐怖を、自分の王国の “ドールズ” にキャンディをバラまき、愛用のジャックナイフで脚をシェーブし、裏切り者を切り裂く。ある日ハンサムなお気に入りが警察に追われていることを知ると、右腕であるカチトゥに、キャバレーシンガーのイザのヒモ、世間知らずのべレコをスケープゴートとして警察に差し出すよう指示する。しかし、クイーンの恐怖政治も安泰ではなく、事態は思わぬ方向に動きはじめ……。

https://alfazbetmovie.com/devilqueen/

主人公デビルクイーンは1900年代を生きたブラジルの伝説的ドラァグクイーン、マダム・サタンがモデルとなっており、彼女に敬意を示した作品だということ。マダム・サタンの人生を投影し、ギャングの女王を描くことで、ギャング=男性的なものというジェンダーの期待に逆らい、社会のルールを覆そうとしているように思える。社会の底辺に生きる人びとが騙し合う三つ巴の麻薬抗争のなか、唯一救いがあるのは、クイーンが開催したパーティシーンで、部下たちの反乱に勘づいているクイーンが悲しみに暮れるとき、同性愛者やトランスヴェスタイトなど彼女のコミュニティの人間たちは、クイーンのために団結する。利害のために団結する部下たちや、自分の恋人を利用してのしあがりたいベレコとは違う絆があることが描かれる。家父長の根強い軍事政権の時代に、元奴隷の家系出身で、同性愛者であり、ギャングであった幾重にも重なるインターセクショナルな人物をボスとして描き、無秩序と遊び心に満ちた抵抗の映画だ。また観たい。


A RAINHA DIABA|1973|ブラジル|100分|カラー|
監督・脚本:アントニオ・カルロス・ダ・フォントウラ
撮影:ジョゼ・メデイロス
出演:ミルトン・ゴンサルヴェス、オデッチ・ララ、ステパン・ネルセシアン、ネルソン・シャヴィエル


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