UNIDOL選曲傾向に見る地下アイドルの下剋上

本稿は地下アイドルAdvent Calendar 2023の企画に寄稿するのである。

日本で最も人気な(女性の)アイドルとは。AKB48であろうか、乃木坂46であろうか。ビルボードのチャートなど、アーティストの人気を定量的に測る手段は様々取られきた。本稿ではUNIDOLでの選曲率という観点から女性アイドルグループの人気を論じていくこととする。


1.UNIDOLとは

序文にて唐突に現れたUNIDOLという固有名詞について、馴染のない方に向けて説明する。知っているという方は読み飛ばしていただいて問題ない。

UNIDOLとはアイドルコピーダンスの大会の女子大学生の部であり、各大学のチームが7分半のパフォーマンスを行い、審査・投票を経て順位が決定する。

順位の決定は審査員による審査と観客による投票の2つからなる得点により決まる。審査項目は「ダンス」「表現力」「個性」「演出」「魅了度」の5つであり、3人の審査員はこれに沿って各100点の審査を行う。観客はチケット1枚あたり2票を持ち、これを2つのチームへ投票を行い、各チームは得票数の順位によって最大100点を得る。
要するに、審査員100点×3人と観客投票順位100点の400点満点の点数で順位が決定する。

審査項目に「演出」とあるが、たとえば関東予選の会場は新宿Renyでありスクリーンの映像も各チームが制作したものを流すことができる。(2023年現在、各地の予選も同様である)この他、衣装チェンジや小道具など様々な工夫が為される。

例)2022年夏大会決勝 早稲田大学「Prismile」
3曲目のStar Divineにて模擬刀による殺陣を行う

例)2023年夏大会 立教大学「立教アイドル研究会」
全曲衣装を変えながらパフォーマンス

この大会では声優アイドル、地上アイドルから地下アイドルまで多種多様なアイドルソングが用いられる。本稿ではこの使用率の集計から地下アイドルの人気を論じていく。

2.集計

2-1.集計方法

SNSの書き込み、YouTubeの動画などから確認したセットリストをMySQLに記録。COUNT関数を用いたクエリによって集計を行った。また、名義が異なるが明らかに同じアーティストや、派生ユニットの類はは同一のものとして集計している。

例1)モーニング娘。の数字違い
例2)天晴れ!原宿とAppare!
例3)AKB48と渡り廊下走り隊

なお、現場行ってばかりで集計が間に合わず思いの外集計に時間がかかり、全大会は集計できておらず歯抜けが存在する。(夏大会が少なく、夏曲が少なく、冬曲が多めに集計されている。12月のカンガルーとか)これについてもそこまで大きな影響は無いと思うのでご容赦願いたい。

集計したデータは以下からすべてを閲覧・検索できる

UD Database

2-2.2017年〜2019年

上から見ていくと
AKB48、モーニング娘。、アンジュルム、Cheeky Parade、SKE48、℃-ute、乃木坂46、ももいろクローバーZ、NMB48、私立恵比寿中学、SUPER☆GiRLS、=LOVE、ベイビーレイズJAPAN、わーすた、HKT48、でんぱ組.inc、BiSH、櫻坂46、愛乙女☆DOLL、手羽先センセーション、虹のコンキスタドール、FES☆TIVEと続く

ハロプロと48系を足し合わせておよそ39%。大正義地上コンテンツが環境を支配していたと言っても過言ではない。

筆者は当時のアイドル業界の事情に疎く、当時のチキパ、スパガ、ベビレ、わーすた、虹コンあたりが"地上"と認識されていたかはよくわからないのだが、おそらく現代から誰がどう見ても地下といえるものは愛乙女☆DOLL(1.4%)や、それが属するArcJewel(約3.4%)が採用実績最多となるだろう。

2-3.2020年〜2023年

王者陥落。AKB48がトップから落ちモーニング娘。と≠MEの後塵を拝する形となった。ハロプロ48の2大巨頭は合計で約24%、全体の1/4を切る次第となった。さらになんと採用率8位(2.71%)に手羽先センセーションの名を見ることができる。

他にも台頭したグループにはLiella!(ラブライブ!スーパースター!!)、Appare!、群青の世界、高嶺のなでしこ、chuLa、JamsCollection、iLiFE!などが見られ、全体で見ても地下アイドルの採用率がぐっと上がっていることが見て取れる。℃-uteやCheeky Parade、ベイビーレイズJAPANは解散の影響や、コロナ禍での声出し不可もあってか大きく数を落している。大手が軒並み減少傾向にある中で、地下アイドル達が採用率を伸ばし、新時代を築き上げているのだ。
※台頭したグループとして列挙したものすべてを地下と言っているわけではなく、台頭したグループの中に地下が多いの意。誤解を招きそうなので捕捉。高嶺のなでしこが地下かと言うと筆者の見解では地下では無いと考えている。(平時から対バンで特典会をするか否かが筆者的なボーダー)

余談

令和のUNIDOL環境で絶大な存在感を放つ手羽先センセーションであるが、メンバーの日南遥はUNIDOL出身である。(南山大学/苺一枝/当時の名前は"はる")
※インカレなので南山大生というわけではなかったらしい。

ぼく「明日(12/4)もスターバーストエンパシー見るんですよ。UNIDOL関東予選で」

2-4.直近1年

2023年度の冬大会はまさに今やっている最中であるので、2022年度冬大会、2023年度夏大会、2023年度秋季新人戦の3大会の結果をまとめた。2023年度冬大会については以下に速報セットリストを載せている。随時更新するので気になれば確認して欲しい。

ハロプロ48は21%、直近1年のトップは≠ME、先述の手羽先センセーションは5位で3.13%となっていた。

高嶺のなでしこは2022年夏デビューであり、音源リリースなどのタイミング、Dance Practice Videoの公開タイミングなどもあってか2023年度秋季新人戦で爆発的な増加を見せた。

3.総括

結論として、UNIDOL環境において地下アイドルの影響力は年を追うごとに増しており、大手ほど顕著に減少傾向にあると考えられる。上位層の顔ぶれはさほど変わりは無いものの、採用率については、時代を追うごとにその勾配が緩やかになっているように見える。(本当は統計学的な処理で評価すべきなのだろうが、執筆時間が足りなかった。気が向けば追加する)

UNIDOLは「アイドルとかよくわからないけど、なんか知り合いに来てほしいって言われたんで……」「アイドルとかよくわからないけど、なんか娘or妹or姉が出るって聞いたので……」といった様子が見受けられる客層も多く、こういった層にはAKB48の知らない楽曲も、地下の知らない楽曲も見え方に大した違いは無いのではないだろうか。おそらく、そのように考える演者が増加し、近年ではより表現したいステージのコンセプトに合致した楽曲を広い範囲から探している傾向が生まれているのではないかと筆者は考える。
アイドル達が無数に存在することに、大いなる意義が生まれているのである。地下アイドルが、地下であることに、価値が生まれているのである。

4.余談

4-1.余談①:UNIDOL出身アイドルについて

UNIDOL演者とはアイドルではない。だが、2-3.で述べたように、UNIDOL出身のアイドルというのも存在し、それは日南遥だけでない。

Glim Assemblerの華乃井かほ、I'mewの中澤莉佳子、Luce Twinkle Wink☆の南雲芽依、ルーチェ研究生の一ノ瀬天音、限りなく白くの斉藤心春、Wenusの神楽あやか、シュユノトキの立花みか、アポストロフィの赤羽美妃、Tri-sphereの安堂珠莉、夢幻のプリュームの百瀬ありさ、ハープスターの春川あみ……など。

既存グループに入った者の中には、かつて自分が踊った曲の本家になった者もいるかもしれないし、そうでなくても自分が本家となった曲が、いつか大会で使われるかもしれない。たとえば、今回集計できていない大会だが、I'mewは使われている。あるいは、本職アイドルに例えるならば、愛乙女★DOLLの研究生でしかなかった者達がLuce Twinkle Wink☆やStella☆Beatsとして、アイドルにカバーされる側や、UNIDOLでコピーされる側に回ったように。そんなシチュエーションは胸が熱くなると思うのは 果たして筆者だけだろうか。

UNIDOLの世界を追うことはそんなドラマティックな瞬間を目撃することにも繋がるのである。

4-2.余談②:UNIDOLの客層

3.にてUNIDOLの客層について言及したが、その客層はアイドル現場とは一部重なるものの、多くはそうではない。ここを掘り下げる前に一つ、前提となる知識について記述する。

まず、UNIDOLとは大会で、夏大会、冬大会、および秋季の新人戦の年3回開催である。
だが、この手の演者達が踊る機会は年中存在する。アイドルコピーダンスの対バンが新宿のグラムシュタインやら下北沢の251やら浅草VAMPKINやらで開催されている。(これにはUNIDOL大会運営が関わらないものもある)

大会とこれらのイベントではセットリストの傾向も客層も変わってくるということをまず意識した上で読み進めてほしい。

大会は集客、もとい得票が結果に影響してくることもあり、普段はこういったアイドルコピーダンスとも縁がない人を含めて演者が全力で人をかき集めるため、先述のように「アイドルよくわからないけど……」な人たちが大量発生する。(たぶんそういう経緯だと思う)
これらの人はとうぜん、アイドル現場にはいない。

それらに加えて存在するのはアイドルコピーダンスのオタクである。これはアイドル現場のオタクとは別の生き物であり、アキシブウェイも幻影★ギャラクティカもアイドルライフスターターパックもわたしのいちばん可愛いところも振りコピはお手の物であるが、本家のメンバーの名前なんてだいたい知らない。ごく稀にUNIDOL出身アイドルの元に現れることがあるくらいだ。

思うにこれは、二次創作の同人誌は読むけど原作には触れないオタクみたいなものではないかと、筆者は時折なんだかなぁと思ってしまうのである。

もちろん、本職アイドルもアイドルコピーダンスも両方好きだぜ!(筆者はコレ)とか、好きな本職アイドルが解散しちゃったけどなんかアイドルコピーダンスの現場でなら拾えるぜ!みたいなノリの人もいるが、これらはだいぶ少数派に感じる。

この隔絶を、もう少し緩和できないだろうかと、過ぎたことを思う次第である。

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