見出し画像

夢占い進行【アイドル音楽理論#2】

まず夢占い進行などという言葉は私が勝手に作ったものであり、一般にはマリオ進行と呼ばれているようだ(ステージクリアのファンファーレに使われている)。しかし、今回はアイドル楽曲のみについて言及するためあえて夢占い進行と呼ぶこととする。てへっ。

今回の記事は音楽理論的な知識の無い方でも楽しめるように動画を多めに用いて執筆した。夢占いとは銘打っているがなんキニ!以外のオタクも楽しんでほしい。

夢占い進行とは

そもそも夢占い進行とは何なのかを解説する。「Ⅵ♭→Ⅶ♭→Ⅰ」と書いてわかる人はそのままこの項目は読み飛ばしてもいい。ピカルディ終止としての解釈はここでは省略する。

まず、一般的な西洋音楽が7音の音階で作られているのはイメージできるだろうか。
すなわち、「ド」「レ」「ミ」「ファ」「ソ」「ラ」「シ」の7音である。

1音ずつ間隔でこれらを同時に鳴らすと、良い響きになる。「ド・ミ・ソ」「レ・ファ・ラ」「ミ・ソ・シ」「ファ・ラ・ド」「ソ・シ・レ」などだ。このようにして音階上の音で作られる和音をダイアトニックコードという。

この場合、Ⅵ♭は「ラ♭・ド・ミ♭」、Ⅶ♭は「シ♭・レ・ファ」である。このように音階にない音を使った和音をノンダイアトニックコードという

音階の1番目の音を1番下にして作った和音をローマ数字を用いて「Ⅰ」と表す。2番目の音を1番下にして和音を作ると、どこか暗い響きがするので「Ⅱm」(Ⅱのマイナー)という。(逆に先程のⅠはⅠのメジャー。メジャーになるかマイナーになるかは規則があるが、ここでは本筋に関係がないので省略する)

なので「Ⅵ」というのは、音階の6番目の音1番下にして作った、明るい響きの和音であり、「Ⅵ♭」というのはそれらを半音下げた和音である。「Ⅶ♭」というのは7番目の音で同じことをしているということだ。

長くなったが、音楽理論をよく知らない人にも夢占い進行は、通常の音階に無い音を使っているということだけは覚えて読み進めて欲しい。
また、音楽理論とは音を聴いてどう感じるかを体系的にまとめたものであり、なぜそう感じるかというのは基本的にあまり掘り下げない。自然科学とは異なるので留意すること。

代表例

・夢占い/なんキニ!

サビ終わり、「やっぱ二人で」のところ。

・奇跡≒スターチューン/煌めき☆アンフォレント

サビ終わり、「輝けシューティングスター」のところ。

・La mia Adolescenza./綺星★フィオレナード

サビ終わり、「何ができるの?」のところ。

・Keep on going/littlemore.

サビ終わり、「見に行こう」のところ。

・シグナルエモーション/SPRISE

サビ終わり、「早く触れたい」のところ。

演出効果

このように、夢占い進行は一般的にサビの終わりに使われる。というのも「Ⅰ」の和音を最後にすると終止感がもたらされると知られているためである。

最も一般的な終止は完全終止と呼ばれる「Ⅴ→Ⅰ」である。


例1)exDarling/YURiMental
3回立て続けに「exDarling」と歌うところ、完全終止が3回繰り返されている。


例2)ニコピの方程式/手羽先センセーション
イントロの終わりが完全終止の手前に「Ⅳ」が添えてある、非常に終止感の強い完全終止である。

これらは夢占い進行の終止と比べると、癖がなく通りのよい感じがするはずだ。これが標準的で古典的な終止である。

対して夢占い進行を用いるとどのような効果が見込めるかというと、浮いた感じを演出できる。

前半部の解説の通り、夢占い進行にはノンダイアトニックコードが含まれる。音階上に無い音の和音が催す感覚、すなわち異物感である。

加えて、全音音階のような響きを持つことも要因として考えられる。

鉄腕アトムの最初のフワフワとした部分、これが全音音程である。一般的な西洋音楽の音階は1オクターブ(ドから高いドまでの間)を7つに分けて音階を作っているが、これは等間隔ではない。等間隔に演奏するとアトムの冒頭のこのような具合になる。
※本当は記事内すべてをアイドル楽曲にしたかったが、こればかりは良い例が見つからなかった。

音階のⅥ→Ⅶ→(より高い)ⅠはⅥ→Ⅶが全音程、Ⅶ→Ⅰは短音程であり、Ⅶの音はⅠの音に繋がりやすいことから導音と呼ばれる。

夢占い進行は♭で調整された結果、導音が存在せず、各和音間はすべて全音程となる。そのため、「Ⅴ」の和音の中に導音を含む完全終止と比べて終止感はやや弱まると考えられる。

こういった要因から、夢占い進行は特有の異物感浮遊感を演出してくれることが感覚的・理論的にわかるだろう。

まとめ

・夢占い進行は音階上に無い音を使っている

・夢占い進行はサビ終わりに独特な異物感・浮遊感をもたらす

対バンで知らないグループ出番の際にも、楽曲に耳を傾けてみてほしい。奇妙な異物感や浮遊感がサビの終わりにあれば、それは夢占い進行かもしれない。

知識があれば世界の解像度が上がる。アイドルのライブはとても情報量が多い。楽曲、歌唱、ダンス、衣装、照明演出、いずれも突き詰めればとても奥が深いはずだ。このアイドル音楽理論シリーズが、読者がより楽曲を楽しむ一助となれば幸いである。


いいなと思ったら応援しよう!