エネミーデザインを雑に考える
この記事はログ・ホライズンTRPG(LHTRPG)におけるエネミーたちのデザインについて、ログホラ・ウェンズディ23を前提としたうえで、yu-jin個人がこれまでの経験の中で見聞きしたり考えたりしたところをざらっとまとめたものです。
■エネミー編成のマンネリ化をふせぐために
LHTRPGだけに限ったことではないが、いくつかのTRPGのシステムにおいて戦闘は大きな楽しみのひとつだ。目的のために、交渉不可能な、そして危険な障害を排除しなければならないという体験は、私たちの日常の中ではなかなか味わうことができないものだし、LHTRPGはそのためのデータ量が多いゲームでもある。
エネミーたちは、そんな体験を演出するためには欠かせない重要な要素であり、GMからしてみればプレイヤーたちに次ぐ、もうひとつの主役ともいえる存在だ。LHTRPGにおいてこのエネミーたちは10種のエネミータイプ、小種族、レイド・ノーマル・モブのエネミーランクなどを変数としてデザインされる。
このエネミーをデザインする作業は楽しいものだ。強く、凶悪なエネミーをデザインするためにデザインを先鋭化させ、数値の大きさを求めていく。そうしてスピアーとボマーだらけの戦場を前に正気に戻り、こう自問することになるのだ。「いつも同じ敵、同じ編成で戦闘してない?」と。
■「危険」と「危険の予感」
この問題の根は「危険の予感」ではなく「危険」そのものをデザインしてしまうことにある。大きなダメージというわかりやすい要素でプレイヤーにビビってほしいと考えてしまうと、結果ダメージが大きいこの2タイプばかりを出すことになってしまう。
「危険」と「危険の予感」は別物であり、両者には距離がある、というのは公式からの至言である。運用する上でも、敗北に至らせることが確実なデータより、敗北に至るのではないか?とプレイヤーに予感させるデータの方が、優れている。GMの目的はピンチを体験してもらうことであり、予測不可能の霧の中を歩いてもらうことであり、プレイヤーキャラクター(PC)達を敗北させることではないからだ。運用するGMからしてみれば、事故でPCを全滅させてしまう可能性のあるデータはおっかない。
この「危険の予感」は
「リソースを大きく失う、あるいは失う可能性から、戦闘に敗北するかもしれないと感じる」
ことによって感じることが多いとされている。ここは戦闘遭遇のシチュエーションによって大きく異なるだろう。
たとえばクライマックス戦闘ではプレイヤーは「勝利条件を満たす」ためにリソースを投入するが、ミドル戦闘ではプレイヤーは「勝利条件を満たす」の次に「シナリオn回の特技や因果力、消耗品などのリソースを失わないこと」を目的として戦闘することが多い。「敗北」が頭に浮かぶのはこれらが揺るがされてからだ。
そういった意味では「危険の予感」は段階があるし、戦闘遭遇のシチュエーション、そして勝利条件(敗北条件)にも左右されると考えられる。
まず、GMが目的を提示し、そこからプレイヤーに(不安ながらも)目標を設定させ、それらが揺らぐ可能性を想像させることが「危険の予感」のデザインと言えるだろう。そのためには目標与ダメージをしっかりと設計したうえで、「直観的にビビらせる」こと、「予測を揺らがせる」ことが重要になる。
■エネミーデザインの手順
戦闘遭遇をデザインする際、以下の手順で構築を考えることが多い。
①シナリオから考える戦場のイメージ
シナリオで敵役となる種族をメインに大種族・小種族を設定し、そのデータが載っているセルデシアガゼットとデータベースを読み漁ったうえ、特性を把握したら、同じ戦場に出てきてもあまり違和感がない他の種族を考え、同じ手順を繰り返す。この作業が③と⑤に効いてくるのであまり手が抜けない。
②目標与ダメージの設計
仮想戦士職を組み、そのステータスから1ラウンドあたりに与えるダメージを設計し、それを戦場に登場するエネミー、プロップで分配。
③「直観的にビビらせる」ためのデータ迷彩と分配
「敗北の可能性」として、数値が大きく、かつPC側に対処の余地がある能力をデザインして追加する。
④「予測を揺らがせる」ための能力デザイン
クライマックス戦闘限定。状況把握能力を飽和させ、先の見通しを立たなくさせる能力をデザインして追加する。
⑤「嫌がらせの設計」
攻撃能力の高くない防御系のエネミー(アーマラー、フェンサー、グラップラー、ヒーラー)に嫌がらせ系能力を設計し、プレイヤーからのヘイトを高める。
⑥「弱さの設計」
範囲攻撃能力や射程のある能力に属性を設定したり、[弱点]を設定したり、移動能力や阻止能力に制限を設定する。この辺になると投げやり。
①はまあ、いいとして②以降は説明が必要なので紙幅を割きたいと思う。
■目標与ダメージの設計
ようやくここら辺からエネミーデザインの話に入る。直観的にプレイヤーをビビらせ、危険を予感させるためには「大きな数字」を見せることが有効になる。この条件をふまえるならばエネミーのタイプはスピアーやボマーが採用されやすいのもうなずける。
ただ、このデザインは実際運用する際に「事故」を起こしやすい、という点において優れているとはいい難い面がある。安全に運用するためには、公式が「[追撃:100]」と例示したような、データにプレイヤーが安定的に介入できる余地を持たせる必要があるだろう。むしろ1ラウンドあたりに戦士職に与えるダメージはそこまで大きい必要がない(とはいえ小さすぎると戦士職と回復職の活躍の場を奪いかねないので考え物ではあるのだけど)
実際のところ1ラウンドあたり何点程度のダメージを戦士職に与えるのを目的にするのが適切かはPCのキャラクターランク(CR)やプレイヤーの習熟度にもよるため、一概には言えないが、個人的にはヒューマンの武士あたりのステータスを想定し、(50+CR×8)×ⅹ%くらいで計算するのがわかりやすいかと考えている。
以下はyu-jinがある程度目安にしているCR5くらいまでの目安。この辺はまだいくらでも研究の余地があるので誰かの研究を待つ。
・51~70%
安定した戦場。回復職がしっかりしていればまず落ちることは 無い
・71~100%
手強い戦場。長期戦はPC達の不利に傾きがち。
・101~120%
基本的にはレイド向き。通常戦闘でこのデザインにすると2R目からPC達は防御リソースを積極的に切ることになる。
・121~
競技。レイド以外では一手もミスできないので詰将棋状態が発生しやすい。
目標与ダメージが決まったら、次はそれに向けたエネミーの編成をおこなう。
PCが4人なら4体、5人なら6体、モブは0.5体、ボスは4体として扱うと指針が出ているが、拡張ルールブック出版以降はPCの強化も著しいため、目標与ダメージを大幅に上回らないなら上記の基準に+1くらいしてもばちは当たらないかな、というのが実感だ。
エネミータイプは10種。防御向きのアーマラー、フェンサー、グラップラー、補助向きのサポーター、ヒーラー、攻撃向きのスピアー、アーチャー、シューター、ボマー。
集団戦の場合、大抵は攻撃向きのエネミータイプを2体ほど出しておけば目標与ダメージは充ちるので、それ以上は基本「直観的にビビらせる」ため、もしくは「予測を揺らがせる」ためのパーツとして使う。
単体ボスの場合は目標与ダメージをプロップと分割して設計すればいい。そこまで設計したらようやく本題にうつることができる。つまり、「直観的にビビらせる」「予測を揺らがせる」ために、データに迷彩をかけまくってやるのだ。
■「直観的にビビらせる」
直観は経験にもとづく反射的な予測であるが、しばしば主人を裏切る慌て者である。LHTRPGにおける戦闘が「負かすもの」ではなく「負ける可能性を提示するもの」であるならば、その多くは直観的な把握においては危険でありながら、その実プレイヤーの選択によって未然に防げるものである方が良い。つまり、数字上レベルでのざっとした理解ではPCを危険に陥れつつ「てにをは」レベルの理解にまで及べば、それを防ぐ手立てが設定されている、というデザインが望ましいだろう。
たとえばCR1の時点で
①《絶死の一撃》_[白兵攻撃]_メジャー_対決 (3+3D / 回避)_単体_至近_対象に[25+2D]の物理ダメージを与える。〔対象:放心〕対象に[追撃:30]を与える。
みたいなデータを持ったスピアータイプのエネミーと
②《死への誘い》_[魔法攻撃]_メジャー_対決 (4+2D / 抵抗)_範囲_4Sq_対象に[放心]を与える。
みたいなデータを持ったサポータータイプのエネミーを配置すると、初心者は①を見た時点で身構えるし、慣れたプレイヤーでも②を警戒する。
実際のところはスピアーとサポーターでは行動力に差がある(2と5)ので、その間にPCが行動して[放心]を解除することも多いし、本質的には【因果力】1点で解決される問題でしかない。
さらにこれを分割し、データ的な迷彩を施してみよう。
①《絶命の一撃》_[白兵攻撃]_メジャー_対決 (3+3D / 回避)_単体_至近_対象に[25+2D]の物理ダメージを与える。〔対象:放心〕対象を1Sq即時移動(強制)させる
②《死への誘い》_[魔法攻撃]_メジャー_対決 (4+2D / 抵抗)_範囲_4Sq_対象に[放心]を与える。
③《殺しの心得》_本文_自動成功_単体_2Sq_ラウンド1回_対象が[即時移動]しようとした時に使用する。対象に[衰弱:10]を与える。〔対象:放心〕対象に[追撃:30]を与える。
この場合、やはり②の能力さえ避けておけば①の強制移動も③の[追撃]も(そしておそらく[衰弱]も)発生しない。そして[放心]を防ぐ方法などごまんとあるし、たとえ[放心]をうけても今度は即時移動を受けなければまた③の能力を受けることは無い。しかし、それでいいのだ。
戦闘時におけるプレイヤーの視界は狭い。これらの能力が複数のエネミーやプロップに分割して搭載されると、プレイヤーの検証能力は途端に低下し、追いつかなくなる。こうした分割と迷彩を繰り返し、細かい検証をしなければ危険性を判別できず、数値上はPCを十分に戦闘不能に追い込みかねない、みたいなデータを作れば、プレイヤーの心に「このデータは私のキャラクターを戦闘不能に追い込みうるのでは?」と直観的にビビらせることができる。あとは目標与ダメージの設計をしっかりしておけば、十分に危険な戦場を演出することができる。攻めるべきはPCのHPではない。プレイヤーの心であり、状況把握能力なのである。
■「予測を揺らがせる」
戦闘が始まれば、データにかけた迷彩のタネは時間経過とともに割れていく。そして、プレイヤーは高をくくり始めるのだ。「なんだ、こんなもんか」と。
これはデータの実体が割れたからというより、プレイヤーが勝てる、とおぼろげながらも自信をもったことによるものが大きい。要するに先が予測出来てしまったのだ。
ミドル戦闘の場合は、このままでいいだろう。ひっくり返す必要はあまり感じない。しかし、クライマックス戦闘の時はこれで終わらせるとボスのHPは単なる作業ゲージへと変化してしまう。
なので、クライマックス戦闘ではこのおぼろげな予測をたたせない、もしくは打ち崩すための仕掛けを積んでおく必要があるだろう。これが上手いデザイナーのエネミーは本当に面白い。
この予測を揺らがせる、もしくは持たせないための仕掛けは多岐にわたるし、デザイナーの腕の見せどころなので代表的な発想をいくつか紹介するにとどめたい。
①状況把握能力を飽和させ、予測を立てさせない
セッション中のプレイヤーの状況把握能力はそこまで高くない。特に戦闘という緊張を強いる状況では。
普通は自分、もしくはキャラクターひとりに与えられたダメージを把握する程度が精いっぱいで、複数体へのダメージ状況を把握しその防御リソースまで完璧に把握できるプレイヤーは本当にほんの一握りだ。
《意思無き機構》によりランダムな対象を攻撃するギミックや、複数体のキャラクターを攻撃できる能力は、たとえダメージが低かろうとこの状況把握能力を飽和させ、戦闘の先を読ませることを妨害する。
またラウンド制限や、破壊されると敗北するオブジェクトなどの条件を追加することによって普段通りの戦闘展開を封じることも、この把握能力の飽和という側面が強いように思う。
②「爆弾」でペースを崩す
ボスのHPや配下の数により起動するシーン1回広範囲攻撃などの「爆弾」を持たせることは、この手のデザインでは定石の一つといっても良い。こうした瞬間的な攻撃機能はプレイヤーに防御的なリソースの消費を促すと同時に、感覚的に把握していた展開のペースを崩すことができる。つまり余裕を吐き出させ、「これ、最後までもつかな?」という不安を引き出すための機能であり、①や③と併用することによってプレイヤーに緊張を与えることに向いている。ただし、HPダメージを与える場合は崩壊しきらない程度に与ダメージを慎重に計算しておく必要があるため、個人的には難しく感じる。自信がなければ持たせない、もしくは「直観的にビビらせる」能力にしておくのが無難か。
③性能を変化させ、予測を崩す
②と同様に一定の条件で起動する能力によって、エネミーの能力やPCの能力に変化を与えることは、プレイヤーのその後の戦闘展開の予測を大いに崩す。
プレイヤーの予測は基本的には感覚的な物であることが多いので、ヘイト倍率や基本的なダメージロールをあげて目標与ダメージを少し変化させたり、特技の性能を変化させて迷彩をかけなおしたりするだけでもたやすく崩れ、再度予測を立て直すまでに時間を要する。
LHTRPGの戦闘はクライマックスでも3~4ラウンド程度なので、一回変化させるだけでも戦闘終了まで十分な不安を提供できるだろう。
■「嫌がらせの設計」
ここからはエネミー(もしくはエネミー群)の防御能力の話になる。パーティ単位で見たとき、〈冒険者〉の防御能力は「ヘイトと位置を操作し、最も防御能力の高いキャラクターを殴らせる」ことにあるわけであるが、これをエネミーに当てはめるのがこの「嫌がらせの設計」だ。
つまり防御能力の高いエネミーに「こいつは厄介だから先に倒す必要があるのでは」とおもわせる(プレイヤーの意識を操作する)のである。たとえば公式データベースに掲載されているアーマラー、〈彷徨う鎧〉には以下のような能力が設定されている。
《佇む騎士鎧》_セットアップ_広範囲20(選択)_至近_対象は[軽減:5]を得る。この[軽減]は、このエネミーが[死亡]か[戦闘不能]になると解除される。
つまりこのエネミーがいるだけでパーティは攻撃回数×5点の損失を受けているに等しい。
また攻撃的な能力を乗せるのも面白い。
《殺しの心得》_本文_自動成功_単体_2Sq_ラウンド1回_対象が[即時移動]しようとした時に使用する。対象に[衰弱:10]を与える。[対象:放心]対象に[追撃:30]を与える。
上記は「直観的にビビらせる」の項で例示した(適当な)能力だが、これをフェンサーやグラップラーのエネミーに積んでおくことによって「こいつ生かしておくとヤバいのでは」と思わせ、プレイヤーの対象選択を迷わせることができる。
他にも「(守護戦士が嫌う)ヘイト倍率を上昇させる能力」や、「(武闘家が嫌う)命中をわずかに上昇させる能力」、「(武士が嫌う)移動経路に居た対象をすべて攻撃対象にする移動攻撃」などは、攻撃寄りのエネミーに積むより防御寄りのエネミーに積んだ方が安全に嫌がらせを行うことができる。この際、攻撃寄りのエネミーに積むと火力を出し過ぎたり、すぐ対処されてエネミー群の攻撃能力が失われたりしてしまいやすいので難しい。何度も言うようだが必要なのは実質的な「危険」ではなく「危険の予感」なのだ。
とにかくプレイヤーが嫌がる仕組みを考え、それに防御的なエネミー、もしくはオブジェクトなどを組み込むことによって、エネミー側の耐久性は上昇するし、戦場も混迷を極めさせることができる。
■「弱さの設計」
最後に、[弱点]や、広範囲攻撃の属性タグ、移動能力や阻止能力の制限など、エネミーに弱さを設定する。[弱点]は実質的に機能しなかったとしても、あるだけで魔法攻撃職や吟遊詩人を喜ばせるし、エネミーに「らしさ」を増す。どちらかというと実質的な数値というより物語の強化として機能することが多いように思う。
またこうした明確な弱点が設定されたキャラクターはプレイヤーから納得されやすい。ちょっとやりすぎたかな、というようなビビらせやすいデザインが搭載されまくったエネミーにはこうした弱さを同時に設定しておけば「強いけど」という存在的エクスキューズが効くようになるのだ。
たとえば無属性の広範囲2の攻撃は「おいおいそれ強くない?」と思わせがちだが、これに火炎タグを追加しておくと「対策の余地があった」「《エナジープロテクション》とか持ってきておけばよかった」という感想を抱かれやすい。
それで実際対策されたらどうするの?という疑問に対しては、対策にリソースを払ったプレイヤーが偉いし、その分どこかが犠牲になっているはずだからいいんじゃない?とお答えしておく。
他にも移動や阻止能力に問題を持たせることは配置の多様性を生みやすい。これに関しては何度もあげるようだがログホラ・ウェンズディ23を読み返してほしい。またbaton氏の『戦闘遭遇をデザインする』も素晴らしい記事なので併せて読むことをお勧めする。
繰り返しになるが、こうした弱さを設計することによって、エネミーは単なる数値データから物語性を持った存在になりやすいし、プレイヤーからも納得を得やすい。そういった意味では重要な作業ではあるのだが同時にこの辺になると結構投げやりになってしまうのも何とかしたい。
■まとめ、もしくは不安な時間をデザインする
個人的な見解としては、LHTRPGにおいて戦闘遭遇は不安な時間のデザインであり、数字はそれを表現するための手段のひとつでしかない、と考えている。
次々と襲い来る敗北の可能性を、本当にこれで良かっただろうかと迷いながら読み解き、回避し、時には強引に突破しながら勝利に向かってもがく時間をデザインするには、性能的な強さとは全く違ったアプローチが必要になる。
基本的には「プレイヤーに確信を持たせない」「最後まで敗北の可能性を提示する」ためのデザインは何か、を問うことが大切になってくるだろう。PCを苦しませ、追い込み、同時に勝利へと導く存在として、大切にエネミーをデザインしたいものだ。
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